中古車販売店からクルマを盗み、事故を起こした報道が出てますが、
運転レベル向上委員会は昭和48年最高裁判決を理由に、中古車販売店は運行供用者責任を負わないとする。
この人は判決文を読み理解してから解説したのか疑問ですが、判決文の重要ポイントを切り取りしている点と、裁判の論点を考えると理解度は50点と言わざるを得ない。
昭和48年最高裁判決
昭和48年最高裁判決の内容は、タクシー会社の車庫に鍵つき無施錠で駐車していたクルマが盗まれ、そのクルマが事故を起こした。
これについて、タクシー会社が事故被害者に対する賠償責任を負うかが論点。
クルマを盗んで事故を起こした運転手に過失があるのは当然としても、タクシー会社が賠償責任を負うか?
そもそもこの裁判は2つの請求趣旨がある。
①自賠法による運行供用者責任
クルマの所有者であるタクシー会社は運行供用者になりうるが、最高裁は運行供用者であることを否定した。
右事実関係のもとにおいては、本件事故の原因となつた本件自動車の運行は、訴外X(注、クルマを盗み事故を起こした運転手)が支配していたものであり、被上告人はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかであるから、本件事故につき被上告人が自動車損害賠償保障法三条所定の運行供用者責任を負うものでないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
最高裁判所第一小法廷 昭和48年12月20日
②民法715条による使用者責任
自賠法による賠償請求は「運行供用者ではない」として否定したため、「運行供用者は賠償責任がある」とする自賠法3条に該当しない。
しかし民法上の責任は別で、車両の管理責任による不法行為責任の問題が残る。
前示のように、本件自動車は、原判示の状況にある被上告人の車庫に駐車されていたものであり、右車庫は、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められるから、被上告人が本件自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させていたことと上告人が本件交通事故によつて被つた損害との間に、相当因果関係があるものということはできない。
最高裁判所第一小法廷 昭和48年12月20日
客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められることを理由にしている。
つまり、これらが認められない場合には当てはまらない。
では原判決が適法に確定した事実とは何なのか?(最高裁は下級審が適法に確定した事実に拘束される。民訴法321条1項)
第一審被告は、肩書地の東西約43メートル、南北約58.5メートルの土地のうち、東側約三分の二の部分を、事務所兼車庫の敷地として使用し(西側約三分の一は社宅建設予定地)、周囲を高さ約2メートルのブロック塀で囲み、北側の幅員約15メートルの道路に面して正門を、南側の幅員約6メートルの道路に面して、中央部と西端の二箇所に、裏門を設けていた。正門は事務所の斜め前にあり、扉はないが、裏門は、いずれも事務所内部からの見とおしがきかず、ともに鉄製の扉が取り付けられていた。構内への自動車の出入りは、道路工事等のため正門からの出入りに支障があるような場合を除いて、正門が使用され、裏門は、通常、昼夜を問わず、扉が閉じられていて、ただ施錠はされていなかつた。構内には右事務所(建物の一部は運転手の休養室に使用)のほか、有蓋車庫兼洗車場や無蓋車庫その他の附属施設があり、その配置の機略は、原判決末尾添付見取図(既略図)記載のとおりである。右有蓋車庫兼洗車場は、トタン屋根を鉄骨で支持しているだけで、隔壁や扉は設けられていない。
大阪高裁 昭和46年11月18日
最高裁は「右車庫は、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められるから」としてますが、これはブロック塀で囲み門を設けている構造が「第三者が自由な立ち入りを禁止している」とみなしているわけでして。
現にこの最高裁判決以降も、「客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められない駐車場」から盗まれた場合には賠償責任を認めたものがある。
一般に、自動車の所有者(及びその利用者も含む)が自動車を駐車させる場合、右駐車すべき場所が、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあると認めうるときには、自動車の所有者に管理責任が認められ、かつ、これとの間に条件関係の認められる事故が発生し、その事故により第三者に損害が発生したとしても、管理責任と損害発生との間には相当因果関係を認めることはできない(参照最判昭48年12月20日民集27巻11号1611頁)。しかしながら、客観的に第三者の立入を排除しているものとは認められない構造管理状況にある駐車場所で、管理責任を問われる方法により、自動車を駐車させたままこれを長時間放置しているものと認められるなど管理責任の違法性、有責性が強く認められ、かつ、放置された自動車の発進運行と、発生した事故とが場所的、時間的に近接していることが認められるときには、条件関係にある管理責任と事故発生による損害との間には相当因果関係を認めることができるものと解するのが相当である。管理責任の態様に違法性、有責性が強く認められるときには、事故に至るような運転を誘発したものと認められ、これとの間に場所的、時間的に近接していることによつて、これを客観的にみれば、当該運転者の独自性が排除され自動車の所有者(及び利用者)の運転がなお継続しているものと認められるからである。
大阪地裁 昭和61年3月27日
ただし同判例にしても、「管理責任の態様に違法性、有責性が強く認められるときには」とし、軽度の不注意ではなく重過失に近い態様をイメージしているともいえる。
最高裁 令和2年1月21日
ところで、以下判例がある。
1 .株式会社Y(第1事件および第2事件被告,被控訴人,上告人。以下,Y会社という)は,川崎市内に独身の従業員のための寮(以下,本件独身寮という)を有し,そこに居住する従業員がY会社の事業所へ通勤するためのものとして,普通貨物自動車(以下,本件自動車という)を含む3台の自動車(以下,本件各自動車という)を用意していた。
本件各自動車は,普段,本件独身寮の敷地内にある駐車場(以下,本件駐車場という)に駐車されていた。本件駐車場の北側には本件独身寮の建物があり,東側及び西側には塀があったが,南側は公道に面しており,公道との間に塀や柵は設けられていなかった。
Y会社は,本件独身寮内の食堂に,本件各自動車のエンジンキーを掛けるためのフックを設け,従業員が本件各自動車を本件駐車場に駐車する際は,ドアを施錠した上で,エンジンキーを上記フックに掛けて保管する旨の決まり(以下,本件内規という)を定めていた。
2 .Y会社の従業員であるA(訴外)は,平成29年1月17日午後5時頃,本件自動車を運転してY会社の事業所から本件独身寮に帰った際,本件自動車を公道に後部を向ける形で本件駐車場に駐車し,エンジンキーを運転席上部の日よけに挟み,ドアを施錠しないまま外出した。Aは,同日午後7時30分頃に本件独身寮に戻った際,本件自動車が本件駐車場に駐車されていることを確認したものの,エンジンキーを取り出さず,ドアを施錠しなかった。
Aは,以前にも,ドアを施錠せず,エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で本件自動車を本件駐車場に駐車したことが何度かあった。
3 .B(訴外)は,平成29年1月18日午前0時35分頃,窃取して乗り捨てるための自動車を探していたところ,無施錠の本件自動車を発見し,車内を物色してエンジンキーを見付け,本件自動車を窃取した。
Bは,本件自動車の運転を続け,同日午前 5 時 39 分頃,横浜市内の道路の第一車線を走行中,居眠り運転により,進路前方に駐車中の大型貨物自動車に衝突し(以下,先行事故という),その衝撃で本件自動車が反転して,第二車線を走行していた X2 株式会社(第 1 事件被告兼第 2 事件原告,第 1 事件被控訴人兼第 2 事件控訴人,被上告人)所有の大型貨物自動車(以下,X2 車という)に衝突し,これにより X2 車がさらに第三車線を走行していた株式会社 X1(第 1 事件原告,第 1 事件控訴人,被上告人)使用の普通貨物自動車(以下,X1 車という)に接触するという交通事故(以下,本件事故という)を起こした。
昭和48年最高裁判決からみると、確実に第三者の立ち入りを禁止していたと解釈できるかビミョーな事案。
最高裁は以下の判断をした。
前記事実関係等によれば,Y 会社は,本件自動車を本件独身寮に居住する従業員の通勤のために使用させていたものであるが,第三者の自由な立入りが予定されていない本件独身寮内の食堂にエンジンキーを保管する場所を設けた上,従業員が本件自動車を本件駐車場に駐車する際はドアを施錠し,エンジンキーを上記の保管場所に保管する旨の本件内規を定めていた。そして,本件駐車場は第三者が公道から出入りすることが可能な状態であったものの,近隣において自動車窃盗が発生していたなどの事情も認められないのであって,Y 会社は,本件内規を定めることにより,本件自動車が窃取されることを防止するための措置を講じていたといえる。
Aは,以前にも,ドアを施錠せず,エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で本件自動車を本件駐車場に駐車したことが何度かあったものの,Y 会社がそのことを把握していたとの事情も認められない。
以上によれば,本件事故について,Y 会社に自動車保管上の過失があるということはできない。
ところでこの裁判、Y会社の「民法709条の不法行為責任」しか判断されていないため、Y会社に過失があったか否かのみが判断されている。
従業員Aの過失や、従業員の不法行為に対する使用者責任は裁判の対象ではないと明解にされている。
民法715条1項に基づく損害賠償責任がある旨主張するところ、これは請求の原因を追加するものとして訴えの変更に当たり、当審におけるこのような訴えの変更は不適法であるから、その変更を許さない。
要は最高裁になってから民法715条の請求を追加したことから、不適法な訴えの変更だとし論点から排除された。
最初から民法715条も主張していたならどうなるかはわからない。
ところで、この判例では運行供用者責任(自賠法3条)も論点にはなっていない。
これは単純な理由で、この事故は物損事故だから運行供用者責任が関係しない。
あくまでも所有者である会社に民法709条の過失責任が認められなかっただけなことに注意が必要。
これらを踏まえて
これらを踏まえて、報道にあった事故について中古車販売店の「運行供用者責任(自賠法3条)」や民法上の責任(709条、715条)が認められるのか?という話になりますが、
そもそも勘違いしやすいのは、昭和48年最高裁判決は泥棒運転なら所有者の運行供用者性を否定するという判例ではない。
あくまでも「右事実関係において」の話になる。
例えば昭和48年最高裁判決以降も、駐車場から泥棒運転して事故を起こした事案について、運行供用者責任を認めた判例がある。
◯京都地裁 昭和56年9月7日
被告会社は昭和54年8月ころから京都市東山区大和大路通四条下る四丁目小松町一部五九二番地建仁寺山内霊洞院の改修(左官)工事を請負い、X及びYはいずれも被告会社の従業員として右工事に従事し、その間Yは右仕事のため被告会社所有の加害車両を運転していた。
霊洞院玄関口の南東及び西側にそれぞれ門があり従来いずれも普段は鍵がかかつているため人は通れるが車は通れない状態であつたのでYらは鍵を借りてきて門を開け車を入れて門を閉め鍵を返えしに行つていたが、昭和54年9月3日ころから西側の門付近の石畳を敷き替える工事が始められそれ以来この門は常時開かれていて車も自由に通行しうる状態になつていた。
昭和54年9月10日YとXはこれまでと同様右改修工事のため加害車両で開かれたままの西側の門を通つて霊洞院玄関前に駐車させ加害車両から離れて作業をしていた。Yが加害車両を最後に確認したのは午後3時ころであり、盗難にあつたのを知つたのは連絡を受けた同日午後5時15分ころであつた。
建仁寺境内は付近に京都で唯一の中央競馬場外馬券売場が存在していることもあつて、参詣者、通行人、遊び人などの出入りが多く、また車の通行もある。加害車両が駐車してあつた場所は霊洞院境内のやや奥まつたところではあるが本件事故当日も人通りがあつた。
この状態でクルマが盗まれ、挙げ句事故に至った。
なお盗んだ人は免許は失効しており、事故当時酒気帯び運転であった。
これについて京都地裁は運行供用者責任、使用者責任のいずれも認めた。
1 運行供用者責任
前記事実によると、被告は加害車両の所有者であり、Y及びXはいずれも被告の従業員であること、Y及びXが加害車両を駐車しておいた場所は建仁寺境内であつて二つの門によつて仕切られているとはいえ一方の門は工事のために常に開放されている状態にあり常に人の出入りがあつて一般通路と同視しうるところで定められた駐車場ではなく、Y及びXが仕事をしている間は十分に監視することもできない状態にあつたこと、かような状態にあるにもかかわらず、Yは加害車両のドアロツクをせずエンジンキーも差し込んだまま午前8時15分ころから午後4時30分ころまでの長時間にわたつて駐車し放置していたこと、Aは偶々右境内を通行していて駐車中の加害車両を容易に盗取しその後15分足らずで事故を起こしたこと、が認められ、直接にはAが本件事故を惹起したものとは言え被告が第三者による無断運転を容認したと同様にみられ、このような状況の下においてAが加害車両を運転し事故を起こしたのであつて、被告はAによる加害車両の盗取によつて運行供用者たる地位を離脱したものとはいえず運行供用者としての責任を負うと解するのが相当である。
従つて、被告は原告らに対し自賠法3条により身体の傷害に伴う損害を賠償すべき責任がある。
2 不法行為責任
自動車を所有・管理する者はその保管を厳重にし運転技術、運転能力、運転適性等に欠ける者が運転する場合交通事故の発生することも容易に予見できるところであるから、このようなことのないよう十分注意して未然に危険発生を防止すべき注意義務があるところ、前記のとおり被告会社の従業員Y及びXは第三者が容易に出入りすることが可能な場所に十分な監視もなしえない状態で長時間加害車両を駐車しエンジンキーを抜きドアロツクをなす等の措置を講ずることもなく放置したのであるから、その措置とこれに基づく盗難及びそれに引続いて起つた交通事故との間には相当因果関係があり、かつ重大な過失があるものというべきである。そして、右Yらの行為は被告会社の事業の執行に関するものであるから、被告会社はその使用者として原告らに生じた身体の傷害によるもの以外の損害について賠償すべき責任がある。
京都地裁 昭和56年9月7日
様々な学説がありますが、クルマの管理に不備があったか?や盗難か事故発生までの時間が短いかなどを判断材料にしている。
これ以外にも「泥棒運転」について運行供用者責任を認めた判例はいくつもありますし、逆に否定した判例もある。
そしてこれらを踏まえてですが、報道の事故については中古車販売店の管理がどうだったのか全くわからず、それこそ昭和48年最高裁判決のように「第三者の立ち入りを禁止していた構造」と言えるかビミョーな上(中古車販売店の構内を客が自由に見て回ることは普通)、店内から駐車場を見渡せる状況や管理体制だったか次第では、鍵の管理体制が問題になりうる。
そして令和2年最高裁判決のように「内規で管理を定めていたか」すらわからない(なお上で書いたように、当該判例は民法715条の使用者責任を全く検討してないことに注意が必要)。
結局中古車販売店が賠償責任を負うかは「わかりません」でしかない(そのハードルが高めなのは言うまでもない)。
ちょっとの事実の差で変わるわけよ。
さて。
運転レベル向上委員会が昭和48年最高裁判決を「運行供用者責任」と捉えている点は50点(当該判例は運行供用者責任と使用者責任である)。
そして泥棒運転なら直ちに運行供用者ではないという論調も不正確である。
現実的に報道の事案は、加害運転者に賠償能力がなければ運行供用者責任/使用者責任として中古車販売店に求めるしかないと思われますが、詳しい事情がわからないものを解説している様子をみると、なぜこの人はきちんと学説や判例を調べないまま語るのか疑問。
とはいえ、この人のゴールは「人身傷害車外型に入ろう!」でしかない。
運行供用者責任が認められないという前提にしたほうが、運転レベル向上委員会の持論に繋げやすいからなんだと思われますが、中古車販売店に賠償責任が生じるかは「わからない」から人身傷害車外型があるほうがいいのはわかるけど、そもそも運行供用者責任と使用者責任は別なのよね。
ところで運転レベル向上委員会はこの報道について被疑者の名前を報道してない点について、「逮捕してないから」としてますが、精神疾患が強く疑われる場合には犯罪が成立しない可能性があり(刑法39条1項)、そのような場合には実名報道しないのが通常。
法律や実務がどのようになっているか知らないと、見当違いになる。
警視庁は、刑事責任を問えるかどうかを慎重に判断する必要があるとして、容疑者の名前を明らかにしていない
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ところで、クルマのカギの管理問題は盗まれて事故に至った際に賠償責任問題になりうる。
その意味では、きちんと管理することが大事なんだと言えるので一般人にとっても全くの他人事ではないことになる。
状況次第では賠償責任を負うことになるのは様々な判例から明らかなところ、この事故についての一般人に対する注意喚起のポイントはその一点だけなのよね。
それを「盗まれたなら運行供用者責任を負わない」と解説すると、全く意味がない。
けど思うんだけど、運転レベル向上委員会の人は過去さんざん判例解説を間違えてきたのだし、せめて判例解説論文くらいはみたほうがいいのではなかろうか。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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