こちらの続きです。
これって自転車の立場でシンプルにいえば、
これが重要。
既に左側端寄り通行している自転車は、さらに何かをしろという話ではない。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
第二十条
3 車両は、追越しをするとき、第十八条第四項、第二十五条第一項若しくは第二項、第三十四条第一項から第五項まで若しくは第三十五条の二の規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。
至近距離&速度差が小さい追い抜きが許容される
至近距離&速度差が小さい追い抜きが許容されるというのは、あくまでも道路交通法違反になるかならないかという視点でしかありません。
事故が起きた場合には、至近距離通過が過失運転致死傷罪の注意義務違反として問われます。
勘違いする人が多いけど、道路交通法違反がなくても過失運転致死傷罪では注意義務違反として有罪になる。
道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。
東京高裁 昭和32年3月26日
所論は、道路交通法上の義務と自動車運転過失致死罪における注意義務を同一のものと理解している点で相当でない。すなわち、信頼の原則が働くような場合はともかく、前者がないからといって、直ちに後者までないということにはならない。
平成22年5月22日 東京高裁
なので「至近距離&速度差が小さい追い抜きが許容される」というのも、あくまでも道路交通法違反になるかならないかの観点でしかない。
一例として最高裁S60.4.30。
大型車がクラクションを鳴らし自転車に避譲を求めた。
高齢者(自転車)は有蓋側溝上に避譲し、低速で追い抜き。
自転車は不安定な有蓋側溝上で、左側の壁、右側の大型車に挟まれる形でバランスを崩し転倒。
これに対し「追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」として有罪。
なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走行中、先行する被害者運転の自転車を追い抜こうとして警笛を吹鳴したのに対し被害者が道路左側の有蓋側溝上に避譲して走行したので、同人を追い抜くことができるものと思つて追い抜きを始め、自車左側端と被害者の自転車の右ハンドルグリツプとの間に60ないし70センチメートルの間隔をあけて、その右側を徐行し、かつ、被害者の動向をサイドミラー等で確認しつつ、右自転車と並進したところ、被害者は、自転車走行の安定を失い自転車もろとも転倒して、被告人車左後輪に轢圧されたというのであるが、本件道路は大型貨物自動車の通行が禁止されている幅員4m弱の狭隘な道路であり、被害者走行の有蓋側溝に接して民家のブロツク塀が設置されていて、道路左端からブロツク塀までは約90センチメートルの間隔しかなかつたこと、側溝上は、蓋と蓋の間や側溝縁と蓋の間に隙間や高低差があつて自転車の安全走行に適さない状況であつたこと、被害者は72歳の老人であつたことなど原判決の判示する本件の状況下においては、被告人車が追い抜く際に被害者が走行の安定を失い転倒して事故に至る危険が大きいと認められるのであるから、たとえ、同人が被告人車の警笛に応じ避譲して走行していた場合であつても、大型貨物自動車の運転者たる被告人としては、被害者転倒による事故発生の危険を予測して、その追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつたというべきであり、これと同旨の見解に立つて被告人の過失を肯認した原判断は正当である。
昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷
道路交通法違反が成立しなくても、注意義務違反としてはケースバイケースで追い抜きを差し控えるべきことになるのは当然なので、「許容される」というのはあくまでも道路交通法上の話に過ぎません。
その意味では、従来は取締りできなかった「至近距離&速度差が大きい追い抜き」を道路交通法上で規制することになるのはマシなのかもしれませんが…
自転車が違反になるケース
元から左側端寄り通行している自転車にはそもそも関係ない話ですが、自転車が改正18条4項の違反になりうるのはこういうケース。
インターネットの消したら増えるの大原則をあなたは理解していますか❓ pic.twitter.com/BzJmBVcXkH
— 快速SLグンマー (@SL61385790) December 11, 2020
そもそも、悪質な違反以外は注意指導をメインにし、悪質な場合のみ青切符という運用になるので、よほどの場合以外は18条4項の問題になるとは思えませんが。
逆にこれは18条4項の義務を履行した状態(それ以前が18条1項の違反ですが笑)。
こちらについてはそもそも18条1項の範疇ですし、18条4項の問題にもならないでしょう。
自転車の立場からすると
普通に法律に従って通行している自転車は新たに何かをする義務が発生するわけではないので、個人的にはさほど気にする問題とは思いませんが、要はちゃんと法律を理解してない人がいちゃもんつける材料になるくらいの話かと。
道路交通法の義務の問題と、注意義務の問題はまた別ですし、結局は事故らないように走るという原則は何も変わらないかと。
なお、ドラレコで撮影して警察に持ち込んでも基本的には相手にされません。
ドラレコを使って警察に受理してもらうには注意点がありますが、正直なところ労力と見合わないのであまりオススメしません。
少なくとも前後のカメラがないとムリなので、そこは気をつけたほうがいいですが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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