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福岡高裁が「操縦不能ではなかった」との主張を退け、時速74キロのバック走行事故を「進行制御困難な高速度」と認めた理由。

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ちょっと前に、時速70キロ超の高速度でバックし進路逸脱して歩道にいた人をはねた事故を危険運転致死傷罪(進行制御困難高速度)と認め(熊本地裁)、福岡高裁は一審判決を支持し控訴棄却した報道がありましたが、

控訴審では、1審と同様にバック走行が危険運転の適用要件の一つである「進行を制御することが困難な高速度」に該当するかどうかが主な争点だった。判決は、女性らとの衝突直前にも車が歩道に乗り上げていた点などから「ハンドル操作のわずかなミスで事故を発生させる危険性がある速度」と指摘し、制御困難な高速度と認定した1審判決を支持した。「操縦不能の状態ではなかった」とする弁護側の主張を退けた。

飲酒運転で時速70km以上の高速バック、女性2人死傷させた被告の控訴棄却…懲役12年の1審判決を支持
【読売新聞】 熊本市で昨年、飲酒運転のうえ、バックで高速走行して女性2人を死傷させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)などに問われた元ホストクラブ従業員の被告(25)の控訴審判決が22日、福岡高裁であった。岡部豪

報道ベースだとイマイチ何の主張をしたのか読み取れない。
なぜなら同罪は「操縦不能な状態」であることを求めておらず、「進行制御困難な高速度」、つまりわずかな操作ミスで進路を逸脱しかねない高速度であれば足りる(その意味では進路逸脱も要件ではない)。

 

判決文をみてみました。

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控訴の趣旨と裁判所の判断

まずは一審判決のまとめ。

(1) 原判決の説示
原判決は、「事実認定の補足説明」において、被告人の運転行為が、危険運転致死傷罪にいう「その進行を制御することが困難な高速度」に達したかどうかの点について、おおむね次のように説示している。

ア 前提となる事実関係
被告人が後退運転を開始した地点から本件事故現場までは、南北に通じる片側一車線の直線道路である。被告人は、追突事故を発生させたが、飲酒運転などが発覚するのを免れるべく逃走しようと考え、アクセルペダルを目いっぱい踏んで、自車線上(西側車線上)の後退進行を開始し、約242m後退走行した時点で時速約70.6kmに達し、その頃、センターラインを越えて反対車線(東側車線)にやや逸脱したものの、自車線内に戻り、さらに左側車輪を西側歩道上に乗り上げた。その後、被告人車両は、東側に進路を転じ、後退進行の状態で本件道路を滑走・横断した上、東側歩道上に進入し、まもなく同歩道上に設置されていた変圧器に左側前部が衝突するなどした。なお、被告人車両の速度は、西側歩道上から本件道路上に戻った時点で時速約74.2kmであった。

イ 検討
被告人車両は、西側歩道への逸走後、東側に進路を転じ、後退進行で本件道路を横断していることから、西側歩道への逸走後、ハンドルは右回り(時計回り)に操作されたと考えるほかない。被告人は、ハンドルを両手で握ったままであり、ハンドルを切った覚えはないと述べているから、ハンドルの操作量はわずかであったと推認できるにもかかわらず、被告人車両が内側に大きく切れ込んで東側に進路を転じた原因は、オーバーステアが生じたことによると認められる。このことは、被告人車両がハンドル操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性がある速度であったことを基礎付けるものである。本件道路の状況や被告人車両の構造にも鑑み、後退進行の場合であっても、一定程度の速度であれば車線を保持することは十分可能と考えられるが被告人車両が自車線内に戻って間もなく西側歩道への逸走が生じたことは、その段階では速度が速すぎて車線を逸脱してしまったものとみざるを得ない。
そうすると、本件において被告人が本件道路を後退走行させた時速約70ないし74kmという速度は、速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度であり、「進行を制御することが困難な高速度」と認められる

これが一審判決の趣旨。
福岡高裁は以下の通り判断。

(2) 当裁判所の判断
原判決の上記判断に誤りはない。
所論は、被告人車両は、西側歩道に逸走する直前にはセンターラインを越えた後に自車線内に戻っていること、西側歩道上に逸走したといっても左側車輪が若干はみ出ているだけで右側車輪は車道上にとどまった状態であってその間1秒足らずの僅かな時間のことにすぎないこと、西側歩道上の縦滑りタイヤ痕からもタイヤはロックすることなくABS(アンチロックブレーキシステム)が作動していたと考えられること、原審の専門家証人であるA証人が、被告人車両が東側歩道上に乗り上げた状況につき、被告人車両がスピンをしておらず、制御ができなかったわけではない旨を証言したこと(A証言23、24頁)などを指摘し、被告人車両は、西側歩道上に逸走した時点では、進路を保持することが困難な状態、すなわち、操縦不能の状態に陥っていたとは認められず、被告人車両が操縦不能になったのは、速度ではなく、ハンドルを切り過ぎた過失によってオーバーステアが生じたことによるもので、その時期は東側歩道上に逸走した時点である、というのである。
しかし、原判決は、「進路を保持することが困難な状態に陥っ」て西側歩道に逸走したと認定しているが、これは、操縦不能の状態とは異なるものであり、「操縦不能の状態」だったと認定したのは東側歩道に逸走させた時点である。そもそも、原判決も説示するとおり、危険運転致死傷罪にいう「その進行を制御することが困難な高速度」とは、自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な高速度のことをいい、道路の形状その他の客観的な状況やハンドル又はブレーキの操作の僅かなミスにより、自車を進路から逸脱させ、事故を発生させる実質的危険がある速度に至っていれば足り、所論がいうように、タイヤがロックして車両がスピンするなど完全に操縦ができない状態にまで陥ることまでは要しないものと解される。そして、本件においては、既に西側歩道に逸走させた時点で、被告人車両の走行状態等に照らし、被告人車両がハンドル操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸走させて事故を発生させる実質的危険性がある速度に至っていたといえることは、原判決が適切に認定説示するとおりである。A証人も、所論の指摘部分に先立ち、時速約70から74kmで後進した場合、自動車を制御して運転することはほぼ不可能と思う旨を述べる(同13、14頁)とともに、被告人車両が東側歩道上に逸走した原因については、被告人のハンドルやブレーキ操作の誤りというより、速度を出したことが要因として一番大きい旨も証言している(同18頁)。なお、原判決が被告人車両は東側歩道上に滑走した段階で「操縦不能」の状態にあった旨を認定しているのは、若干誤解を招く表現ではあるが、原判決の判文全体に照らせば、被告人車両が上記のような実質的危険がある速度のため操縦が困難な状態になっていたことをいうものにすぎず、A証言と矛盾するものではないと理解できる。所論は、進路保持困難状態と操縦不能状態を同一視する立論に依拠するものであり、採用できない。

2 被告人の故意について
所論は、危険運転致死傷罪の要件に関する上記の立論を前提に、被告人は、本件とを認識してはいなかった、前記のとおり、被告人車両が操縦不能に陥ったのは、被告人の過失によってオーバーステアが発生したためであるから、危険運転行為によって人身事故が発生することの認識を欠いていた、にもかかわらず、被告人に危険運転致死傷罪の故意があると認定した原判決には論理則経験則違反の事実誤認がある、というのである。
しかし、危険運転致死傷罪の要件が、操縦不能状態に陥ることではなく「その進行を制御することが困難な高速度」での運転であること被告人車両が西側及び東側の歩道に乗り上げた原因についても速度が一番大きく関係していることは既に述べたとおりであり、過失で操縦不能に陥ったことを前提とする所論は前提を誤ったものというべきである。進行を制御することが困難な高速度で運転していたことを被告人が十分認識していたことは、原審公判供述から優に認められる。そうすると、危険運転致死傷罪の故意を認めた原判決に論理則経験則違反はない。所論は採用できない。

福岡高裁 令和7年12月22日

さて。
以下報道をみると、[「操縦不能の状態ではなかった」とする弁護側の主張を退けた]とある。
それを素直に読むと、「操縦不能な状態であったと裁判所が認めた」となりそうですが、

控訴審では、1審と同様にバック走行が危険運転の適用要件の一つである「進行を制御することが困難な高速度」に該当するかどうかが主な争点だった。判決は、女性らとの衝突直前にも車が歩道に乗り上げていた点などから「ハンドル操作のわずかなミスで事故を発生させる危険性がある速度」と指摘し、制御困難な高速度と認定した1審判決を支持した。「操縦不能の状態ではなかった」とする弁護側の主張を退けた。

飲酒運転で時速70km以上の高速バック、女性2人死傷させた被告の控訴棄却…懲役12年の1審判決を支持
【読売新聞】 熊本市で昨年、飲酒運転のうえ、バックで高速走行して女性2人を死傷させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)などに問われた元ホストクラブ従業員の被告(25)の控訴審判決が22日、福岡高裁であった。岡部豪

判決文を見る限り、[「操縦不能の状態ではなかった」とする弁護側の主張]は「論点が違うだろ」としたことになる。
あくまでも条文は「進行を制御することが困難な高速度で運転し、よって他人を死傷させたこと」を犯罪としているのだから、操縦不能状態である必要はない。
裁判所は「進路保持困難状態と操縦不能状態を同一視する立論に依拠するものであり、採用できない」としているように進路保持困難性が認められる高速度であれば足り、操縦不能状態である必要はない。

賠償と量刑

一審判決は、任意保険により賠償される見通しだが、その任意保険は被告人が加入したものではないとして被告人に有利な事情とは見なさなかった。

 

そういう事情から、賠償が達成されたことは被告人に有利に働かないとする。

第3 職権判断(原判決後の情状について)
職権により調査すると、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人車両の所有者と被告人、死亡被害者の遺族らとの間で示談が成立し、人身損害につき賠償金の支払がされたことが認められる。しかし、原判決の時点で、任意保険による死亡被害者の遺族らに対する損害賠償は見込まれており、同保険は被告人が契約したものでないことから被告人に酌むべき事情とはいえないと評価されていた。加えて、死亡被害者の遺族らが、上記支払を受けた後も、被告人に対し厳重処罰を求める気持ちは全く変わっていない旨を明らかにしていることからすれば、上記原判決後の情状によって、原判決の量刑を変更すべきものとは認められない。

まあ、一審判決からすれば示談成立は被告人に有利な事情にならないのは当然かと。

報道と判決の差

残念ながら、報道ベースだと判決文とはだいぶ隔たりがある場合がありますが、この判決はわりとシンプルなのでそうではない。
しかし報道ベースだと被告人側の主張趣旨がイマイチわからなく、裁判所の判断も同様。

 

報道にあった[「操縦不能の状態ではなかった」とする弁護側の主張を退けた]の意味がイマイチわからなかったけど、この類型は操縦不能であるか否か?を要件にはしていない。
なぜそのような主張をしたのか疑問に思っていて、しかも「退けた=操縦不能だったと認めた」かのようにも読める報道。

 

「退けた」というのは、「操縦不能だったと認めた」のではなくて、「進路保持困難状態な高速度かどうかを判断基準にするのだから、操縦不能かは関係ないですね」という意味で「退けた」なのか。

 

個人的には、「操縦不能ではなかったとの主張は、論点が違うとして一蹴された」くらいにまとめてもらったほうが分かりやすい気もする。

 

ところでちょっと前に、なかなか興味深い記事が配信されてました(どの記事だったかは覚えていないw)。
安倍元総理の銃撃事件の裁判についてマスコミから解説を求められた弁護士が、断ったというものです。

 

その理由は、あれだけ複雑な背景を抱えた事件を正確に語ろうとするには、公判を傍聴し公判記録も精査しないと誤解を生むというもの。
そして裁判には「報道に現れないこと」がたくさんあり、省いて語ろうとすると誤解や陰謀論に繋がるリスクがあるとしてまして。

 

確かに交通事故裁判をみても、良くも悪くもマスコミが「まとめすぎ」な部分があると思う。
苫小牧白バイ事故なんかは典型例で、

「苫小牧白バイ118キロ事故」について、札幌高裁が原判決を支持した理由。
いろいろ話題になった「時速118キロ白バイ」と「内小回り右折車」の事故。過失運転致死罪に問われた右折車ドライバーに対し、一審(札幌地裁  令和6年8月29日)は有罪判決、二審は原判決を支持し控訴棄却。そもそもこの判決の意味するところを報道が...

被告人が右折を開始した時点での「白バイと被告人車の距離」を報じないから、謎の陰謀論が渦巻く原因になる。
あの事故は「ほぼノールックで右折したら、至近距離に迫っていた白バイがたまたま異常な高速度だった」という話であって、「十分安全確認して右折したところ、想定外な高速度で白バイが突っ込んできた」ではない。

 

この差を理解しないと、なぜ有罪になったのか評価が狂う。
ひどいのになると高知白バイ事故(冤罪疑惑)と結びつけて語る人すらいますが、両者の共通点は「白バイ」というだけでしかなく、事故の本質は全く違う。

 

報道「だけ」であれこれ憶測するのではなく、判決文もきちんと確認することが大事なのよね。

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