ちょっと前に、タイヤを脱落させ小学生にタイヤが激突して植物状態にさせた事故がありましたが、

札幌地裁令和7年4月24日判決は、運転者について過失運転致傷罪の成立を認めたものの執行猶予判決。
その人が無免許運転で逮捕されたと。

さて。
当然、前回の過失運転致傷罪に係る執行猶予が取り消されるか気になるところ。
刑法では執行猶予の取消について、必要的取消(26条)と裁量的取消(26条の2)を定めている。
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。
どちらも2号と3号は今回関係ないと思われるので、ざっくり言えば今回の無免許運転罪が「拘禁刑以上で執行猶予つかず」であれば、過失運転致傷罪の執行猶予が自動的に取り消される。
罰金刑であれば、執行猶予を取消するかは裁量の問題になる。
さて、過失運転致傷罪について執行猶予を付した理由はこのようになっている。
2 検討を要するのは、被告人Aの量刑である。
⑴ 判示第1において、被告人Aは、車の整備の豊富な知識・経験を見込まれて被告人Bから改造の依頼を受けたものではあるが、同犯行の際に被告人Aがした作業として認定できるのはタイヤをホイールに装着して被告人Bに渡したことまでであって、タイヤ突出の中核を担ったとはいい難い。
⑵ 次に、判示第2についてみると、被告人Aは、判示のとおり被告人Bから本件車両の足回りに異常があると聞かされていただけでなく、一般にワイドトレッドスペーサーを装着した車両は部品の影響でホイールナットが緩みやすいとの認識も有していたのであり、かつ、本件車両のワイドトレッドスペーサーは自らが装着したのであるから、本件事故当日、ホイールナットに不具合がある可能性に思い至り、運転を控えた上で、その点検義務を果たすことは容易であったはずである。かつ、被告人Aは、被告人Bと共に本件車両に種々改造を施したことによって、異常に気付きづらい車両となっているとの認識も有していたのであるから、走行に当たって十分な安全性を担保すべく、上記点検をすべき高い注意義務を負っていたといえ、以上を怠り漫然と運転した過失は悪質である。
その結果、いまだ幼く未来ある被害者が受けた判示の傷害は非常に重大で、全く落ち度のない被害者が、意識が戻る見込みがないと診断され、意思疎通できないという理不尽な状況にあり、父親の意見陳述等で明らかなように、被害者家族が峻烈な処罰感情を有することも当然である。
もっとも、広く本件事故の原因をみると、そもそも被告人Aが判示第2の運転をする前に、本件車両左前輪タイヤのホイールナット(以下「本件ホイールナット」という。)の締付けが緩んでいたことに根本的な原因があった。そして、検察官も同タイヤを取り付けてホイールナットの締付けを行ったのが被告人Aであるとは主張しておらず、その立証に照らしてもそれが同被告人であったとは認定し難い。すなわち、本件事故直後に保全された本件車両を検証した結果等に照らすと、本件車両は後輪のホイールナットが過剰に締め付けられ、他方、前輪のそれは締め付けが甘かったものと認められるところ、被告人Aは、自分がホイールナットを締める場合、過去に自動車整備の仕事もしていた長年の経験から、まずナットとボルトに損傷がないか感覚で確認するとともにナットを締め過ぎて損傷しないよう、手でナットを回せるところまで回し、その後インパクトレンチを使って締め、更に規定トルク値まできちんと締まるようにトルクレンチを使って締めるように必ずしており、本件車両のホイールナットのような締め方になるはずがない旨、自己が本件ホイールナットの締付けを行っていないことにつき一定の具体的かつ合理的な根拠をもって述べている。これに対し、被告人Bは、本件不正改造時に自己が果たした役割について捜査段階から小出しに供述を変遷させていること等からすると、前輪の取付けはしていない旨の同被告人の供述はにわかに信用できず、被告人Bが本件ホイールナットを付けた可能性は排斥できない。さらに、判示第1から第2までの間、被告人Bが数回にわたり悪路を含む場所で本件車両を走行させたことも認められ、この運転が本件ホイールナットの緩みを助長した可能性も否定できない。そして、本件ホイールナットの緩みは、一次的には同車両の所有者である被告人Bの責任で点検すべきものであることからすれば、被告人Bが被告人Aに本件車両の点検を依頼したことを考慮しても、本件事故時における本件ホイールナットの緩みにつき、最後にこれを看過して運転した被告人Aばかりを大きく責めることは難しい(なお、各検証結果等によれば、本件事故時にタイヤが脱落したのは本件ホイールナットの緩みが原因であって、判示第1の改造やそれ以前に被告人Aが行ったワイドトレッドスペーサー等の取付け自体は直接的な原因ではない。)。
加えて、被告人Aは、被告人Bから前記異常を伝えられた後、直前に自己が改造を施したフロントロアアームやステアリングダンパー等の確認はしており、点検に対して無関心だったわけではない上、これまでに判示第1と同様の改造をした際にホイールナットが緩んだ経験がなかったこと等からすれば、自身がした上記改造に異常の原因があるのではないかと思い込んで本件ホイールナットの点検をしなかったという懈怠が、厳しく非難されてしかるべきとまではいえない。
なお、検察官は、被告人Aが整備業経験者で知識を有することを指摘するが、被告人Aは本件車両の点検に業務として応じていたのではないから、本件において同被告人に特別に高度な注意義務があったというのは相当ではない。以上から、被告人Aの過失を重大とまで評価することにはいささか躊躇を覚える。
また、本件車両は任意保険がかけられていないため、十分な被害弁償は現時点では見込まれていないが、これも本来責められるべきは同車両の所有者たる被告人Bである上、被告人Aは入院費用等の実費のうち約200万円を支払っている。
⑶ 以上からすると、同種事案の量刑傾向を踏まえても、被告人Aに係る犯情が実刑が避けられないようなものとまではいえない。
⑷ さらに、被告人Aは交通事犯の前科4犯を有し、とりわけ本件の五、六年前に無免許運転等を繰り返した点は、自動車運転に対する規範を軽視する姿勢として無視できないが、その処罰は罰金刑にとどまっているし、本件につき自己の過ちを認め、今後自動車の運転をしないと誓うなど、自らの行動を反省する態度が認められる。
そうすると、被告人Aに対して実刑を科すほかないとまではいえないから、主文のとおりの刑を量定した上で、法が定める最長期間、その刑の執行を猶予することとする。札幌地裁 令和7年4月24日
交通事犯の前科4犯を有し、とりわけ本件の五、六年前に無免許運転等を繰り返した上に過失運転致傷罪を重ねた。
当然今回の無免許運転罪については裁判所は厳しく見るのは当然で、「今後自動車の運転をしないと誓う」とした公判供述も結果的にウソだったことになるから当然。
執行猶予中の無免許運転について、再度執行猶予を獲得すれば「自動的執行猶予取消(26条1号)」に該当しないことになりますが、執行猶予中の無免許運転についていくつかみていきましょう。
◯神戸地裁姫路支部 平成8年10月11日
この事件は執行猶予中に無免許運転罪(道路交通法違反)を起こしたものですが、偶発的な事情による無免許運転に過ぎず常習性はないとして再度の執行猶予判決を得た。
被告人の判示行為は、道路交通法118条1項1号、64条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で犯情を考慮すると、本件は、30年以上前に運転免許取消処分を受け、その後昭和52年に無免許運転罪を含む事犯により罰金刑に処せられ、昭和56年には、無免許、業務上過失傷害、報告義務違反の事犯により懲役4月に処せられ、さらに平成4年12月28日、神戸地方裁判所竜野支部において、自動車窃盗、無免許、信号無視の事犯により懲役1年2月・4年間刑執行猶予に処せられた被告人が、親戚の者の運転で海釣りに行く約束をし、餌を買うなどして準備していたところ、当日急に都合が悪くなったとの連絡が入り、長男にも代わりの運転を断られたため、自宅にあった長男の車両を運転して釣りに行きその帰途に交通検問により発覚した、という事案である。
前記のように度重なる注意を受け、かつ執行猶予期間中に、単なる釣りに行くためと称して平然と運転を開始した被告人の交通法規軽視の態度は目に余るものがある。
たしかに、猶予期間を約3年経過した時点での違反であり、被告人が反省していることなどの被告人のための酌むべき諸情状もあるが、被告人のこれまでの前科と今回の違反の動機があまりにも安易であることに照らして、再度刑の執行を猶予するのは一般的に相当とは考えられない。
しかしながら、本件は、被告人の常習的無免許運転の一端が発覚したというより前述のようにいささか偶発性のある事犯といわざるを得ないこと、被告人はこれまであまり定職に就いたことがなく生活態度が乱れ、交通違反や窃盗等の前科が少なくなかったが、最近は長男とともに同じ会社に真面目に勤務し、ようやく生活に落ち着きが認められるようになってきたこと、無免許運転に対する社会的非難の根拠は、交通ルールを乱し、事故の危険を高めるという点にあるところ、そのようなルールに違反した責任に、ある程度見合うような社会的貢献をすることによって右非難感情はいささか緩和されると考えられるところ、裁判所の指示によるものとはいえ、被告人は公判中に、住居地の新宮町からボランティア活動の紹介を受け、平成8年6月から週1回の手話通訳の夜間講習に通い、また同町主催の会合の準備、会場設営をするイベントボランティアに2回参加し、さらに8月からは、姫路市内の震災被災者仮設住宅の訪問や引っ越し、バザーの手伝い等をするボランティアグループに参加して毎週1回休日に仮設住宅を訪問しているのであり、右実績によれば、被告人に対する社会的非難はそれなりに減弱して評価するのが相当であること、被告人がボランティア活動に参加してこれまでの自分の考え方のいいかげんさや身勝手さを思い知らされたと述べていること、妻が当公判廷に出頭して今後の厳重な監督を誓約したこと等の諸事実を考慮すると、被告人に対し、再度刑の執行を猶予し社会内で更生させることも可能と考えられる。
そこで、被告人を懲役3月に処するとともに刑法25条2項、25条の2第1項後段により、この裁判確定の日から2年間右刑の執行を猶予するとともに、右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
神戸地裁姫路支部 平成8年10月11日
この事案の原則は「執行猶予つかず実刑判決」が相当だとしながらも、偶発的な事情による無免許運転で常習性がなく、ボランティア活動に従事していて生活態度も改められていることを考慮して再度執行猶予付き判決とした。
したがって前回の執行猶予は取消されないことになる。
◯福岡高裁 令和4年11月30日
この判例は以前取り上げました。

なぜ原付の無免許運転で執行猶予つかず実刑判決なのかというと、無免許運転で検挙されたのは3回目で、しかも執行猶予中。
これらから見えるのは、執行猶予中の無免許運転罪、しかも前科が複数の場合の原則は「執行猶予つかず=前回の執行猶予は取消される」。
偶発的事情や特別な事情が認められない限り、再度執行猶予付き判決を得るのは困難だということ。
ところで、神戸地裁姫路支部の事例は無免許運転したのが平成7年10月であり、ボランティアによる活動に着手したのは平成8年。
つまり、再度の執行猶予判決を得るための行動だと見られても不自然ではない。
そうすると、ボランティア云々は一事情として考慮されるものの、メインとなるのは無免許運転の常習性になると考えられる。
冒頭の無免許運転については、無免許運転していることのタレコミによる捜査であり、複数回の無免許運転が立証されているならば、再度執行猶予付き判決を得るのはきわめて困難。
まさしく常習性といえる。
執行猶予を無罪と勘違いする人もいるけど、そうではないのよね。
よほど特殊な事情がない限りは、無免許運転罪について執行猶予つかず実刑判決になり、前回の過失運転致傷罪の執行猶予が取り消されることになるかと…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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