ちょっと前に書いたこちら。

時速194キロ事故が危険運転致死罪(進行制御困難高速度、通行妨害目的)に該当するか否かを最高裁に上告したわけですが、その舞台裏が書いてある。
危険運転致死罪を認定しなかった控訴審の福岡高裁判決から1週間後の1月29日、長さんは福岡高検にいた。
「ここで終わるわけにはいきません」。インターネット上で集めた約7万人分の署名を高検の鵜野沢亮刑事部長と山本保慶検事に渡し、最高裁に上告するように求めた。
長さんの隣には大分市の代理人弁護士のほか、被害者支援で有名な高橋正人弁護士(69)=第二東京弁護士会=と、元鹿児島地検検事正の内藤秀男弁護士(65)=群馬弁護士会=がいた。2人とも「国民の常識と乖離(かいり)した判決だ」と支援を名乗り出て、遺族の代理人に加わった。刑事訴訟法は原則、上告の理由を憲法違反と判例違反に限っている。被害者側が要望しても、検察が断念するケースは珍しくない。
関係者によると、この日の面談では判決が抵触している判例について意見が交わされ、高橋、内藤両弁護士は危険運転致死罪の成立に向けて最高裁の最終判断を仰ぐべきだ―と強く進言した。
1時間に及んだ面談。鵜野沢刑事部長は「安心してください」と長さんに声をかけたという。申し立て期限の2月5日、高検は「判例違反」を理由に上告に踏み切った。 【問う 時速194km交通死亡事故】発生から5年「この道さえ通っていなければ…」 現場で手を合わせる遺族、むなしさが胸締め付ける(大分合同新聞) - Yahoo!ニュース2021年2月に大分市大在の一般道で時速194キロの車が引き起こした死亡事故は9日深夜、発生から5年となった。加害ドライバーの男(24)=同市=を危険運転致死罪で処罰するかどうかの刑事裁判は終結せ
交通事故ではお馴染みの高橋正人弁護士と、元検事正の内藤秀男弁護士というプロ中のプロが被害者遺族の代理人に加わり、福岡高検と判例違反について意見交換したのだと。
交通事故関係のプロ、裁判のプロである高検検事が意見交換した結果、「安心してください」と言ったそうなので自信があるのかと思われる。
問題になるのは、今回の判決が何の判例に違反すると考えているのかなのですが、ここについてはちょっとわかりません。
個人的には、福岡高裁が一審で採用された証拠価値を否定したあたりに判例違反がありそうな気がしますが、ちょっとわかりません。
で。
前回記事にも書いたけど、最高裁に上告するには憲法違反か判例違反に事実上限定される。
運転レベル向上委員会は、危険運転致死傷罪の成立を否定した名古屋高裁判決を上告しなかった理由は、「前例ができるのを嫌がった」みたいなことを言ってましたが、

適法な上告理由が見つからなかっただけなのよね。
名古屋高裁判決は対処困難性を含むかが論点になってましたが、あの判決には憲法違反や判例違反の要素は見当たらない。
けど上告理由が憲法違反と判例違反に事実上限定されることを知らないと、「前例が…」などと陰謀論に走るしかないのよね。
前例は名古屋高裁判決というものが出来てしまったのだから、前例を嫌がるという発想自体が不合理だし、そもそも名古屋高裁判決と大分地裁判決の論点の差を見誤っている運転レベル向上委員会に理解できるわけもない。
ところで本題。
そもそも「判例とは何か?」という点ですが、元最高裁判事の藤田宙靖氏の講演録がある。
https://ynu.repo.nii.ac.jp/record/3435/files/22-3-11.pdf
興味深いのは、「最高裁判例」と「学説」の違いという観点。
裁判の目的は、あくまでも当事者のどちらかに軍配を上げることなのだから、全ての判例は厳密には事例判例であると。
これはいわゆる「判例違反」の考え方にも現れている。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
ここでいう判例違反とはどういうことなのかについて、元最高裁判事の鬼丸氏が語っている。
■最高裁における弁護士の活動で気になった点
⑨ 「判例違反」の判例を広く捉えすぎているケースが多い(最高裁が考える判例というのは,事案の概要がまったく同じである,それなのに,判決の結果が違うという場合にしか判例違反と言わない)。https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2020_09/p18-23.pdf
判例違反を主張した場合、ほとんどが「事案を異にする判例だから適切ではない」となる。
福岡高裁判決がどの判例に違反すると考えているのか気になりますが、多くの場合、判例違反の主張により「事案を異にする判例だから適切ではない」と言われてしまうことも想定内で、実質的には「破棄しなければ著しく正義に反する(刑訴法411条)」を期待することになる。
上の講演録に挙げられた事例も興味深いので是非。
ただまあ、これだけはわりと重要なので知っておいたほうがいいのは、最高裁は「判決が不服」という理由では上告できず、憲法違反か判例違反に事実上限定されている。
だから上告したくても断念せざるを得ない場合も多い。
ブレスケアひき逃げ事件にしても、最高裁への上告理由は判例違反。
検察官の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら、所論に鑑み、職権をもって調査すると、原判決は、刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は、以下のとおりである。最高裁判所第二小法廷 令和7年2月7日
ちょっとでも事案が違うと、最高裁は「事案を異にする判例」だとして適法な上告理由ではないとする。
最初から判例違反も憲法違反も主張しない場合は門前払いされかねないから、こうやって判例違反を主張しながら、実質的には職権破棄を期待することになるのよね。
適法な上告理由が見つからなかったとして上告断念せざるを得ない場合も多くありますが、上告理由が限定されることすら知らないと、陰謀論に走るだけになるから知っておいたほうがいいかと。
今回のケースは専門分野の弁護士と高検検事が意見交換した結果らしいので、その論点は気になる。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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