今回取り上げるのはこちら。

札幌で起きたタイヤ脱落事故について、被害者側はクルマの所有者、クルマの運転者、運転者の元妻(事故当時は婚姻感激)が契約していた保険会社を相手に訴訟提起するそうな。
なぜ元妻の「保険会社」が含まれるか?
これは元妻が契約していた任意保険には他車運転特約がついていたから。
以下、損保ジャパンの約款から引用する(基本的にはどの会社も同じ)。
他車運転特約における「記名被保険者等」はこのように定義されている。
① 記名被保険者
② 記名被保険者の配偶者
③ 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
④ 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子
⑤ 記名被保険者の業務(注)に従事中の使用人
(注)業務 家事を除きます。
つまり元妻の任意保険は、配偶者である運転者が「他車」を運転中に起こした事故の損害賠償について支払うことになる。
ところが元妻の任意保険会社は支払いを留保した。
その理由はこちら。
当会社は、普通保険約款、無保険車傷害特約および自損事故傷害特約の規定による場合のほか、次のいずれかに該当する間に生じた事故により被保険者が被った損害もしくは傷害または他の運転自動車に生じた損害(注1)に対しては、保険金を支払いません。
① 記名被保険者等が、その使用者の業務(注2)のために、その使用者の所有する自動車(注3)を運転している間
③ 記名被保険者等が、自動車の修理、保管、給油、洗車、売買、陸送、賃貸、運転代行等自動車を取り扱う業務として受託した自動車を運転している間
報道によると、業務該当性を理由に支払いを留保したらしい。
問題なのは、業務とはどういう概念なのかになる。
法律用語における「業務」とは、社会生活上、反復継続して行われる事務又は事業とされ、営利目的であるかを問わない。
古くは自動車事故を「業務」上過失致死傷罪として裁いてきたように、自動車を運転することも業務にあたる。
だから約款上も「家事を除く」として業務の範囲に制限を掛けてますが、問題なのは「保険約款上の」業務の範囲になるわけ。
そしてこの事故の刑事訴訟においては「業務ではない」と認定されてます。
2 検討を要するのは、被告人Aの量刑である。
⑴ 判示第1において、被告人Aは、車の整備の豊富な知識・経験を見込まれて被告人Bから改造の依頼を受けたものではあるが、同犯行の際に被告人Aがした作業として認定できるのはタイヤをホイールに装着して被告人Bに渡したことまでであって、タイヤ突出の中核を担ったとはいい難い。
⑵ 次に、判示第2についてみると、被告人Aは、判示のとおり被告人Bから本件車両の足回りに異常があると聞かされていただけでなく、一般にワイドトレッドスペーサーを装着した車両は部品の影響でホイールナットが緩みやすいとの認識も有していたのであり、かつ、本件車両のワイドトレッドスペーサーは自らが装着したのであるから、本件事故当日、ホイールナットに不具合がある可能性に思い至り、運転を控えた上で、その点検義務を果たすことは容易であったはずである。かつ、被告人Aは、被告人Bと共に本件車両に種々改造を施したことによって、異常に気付きづらい車両となっているとの認識も有していたのであるから、走行に当たって十分な安全性を担保すべく、上記点検をすべき高い注意義務を負っていたといえ、以上を怠り漫然と運転した過失は悪質である。
その結果、いまだ幼く未来ある被害者が受けた判示の傷害は非常に重大で、全く落ち度のない被害者が、意識が戻る見込みがないと診断され、意思疎通できないという理不尽な状況にあり、父親の意見陳述等で明らかなように、被害者家族が峻烈な処罰感情を有することも当然である。
もっとも、広く本件事故の原因をみると、そもそも被告人Aが判示第2の運転をする前に、本件車両左前輪タイヤのホイールナット(以下「本件ホイールナット」という。)の締付けが緩んでいたことに根本的な原因があった。そして、検察官も同タイヤを取り付けてホイールナットの締付けを行ったのが被告人Aであるとは主張しておらず、その立証に照らしてもそれが同被告人であったとは認定し難い。すなわち、本件事故直後に保全された本件車両を検証した結果等に照らすと、本件車両は後輪のホイールナットが過剰に締め付けられ、他方、前輪のそれは締め付けが甘かったものと認められるところ、被告人Aは、自分がホイールナットを締める場合、過去に自動車整備の仕事もしていた長年の経験から、まずナットとボルトに損傷がないか感覚で確認するとともにナットを締め過ぎて損傷しないよう、手でナットを回せるところまで回し、その後インパクトレンチを使って締め、更に規定トルク値まできちんと締まるようにトルクレンチを使って締めるように必ずしており、本件車両のホイールナットのような締め方になるはずがない旨、自己が本件ホイールナットの締付けを行っていないことにつき一定の具体的かつ合理的な根拠をもって述べている。これに対し、被告人Bは、本件不正改造時に自己が果たした役割について捜査段階から小出しに供述を変遷させていること等からすると、前輪の取付けはしていない旨の同被告人の供述はにわかに信用できず、被告人Bが本件ホイールナットを付けた可能性は排斥できない。さらに、判示第1から第2までの間、被告人Bが数回にわたり悪路を含む場所で本件車両を走行させたことも認められ、この運転が本件ホイールナットの緩みを助長した可能性も否定できない。そして、本件ホイールナットの緩みは、一次的には同車両の所有者である被告人Bの責任で点検すべきものであることからすれば、被告人Bが被告人Aに本件車両の点検を依頼したことを考慮しても、本件事故時における本件ホイールナットの緩みにつき、最後にこれを看過して運転した被告人Aばかりを大きく責めることは難しい(なお、各検証結果等によれば、本件事故時にタイヤが脱落したのは本件ホイールナットの緩みが原因であって、判示第1の改造やそれ以前に被告人Aが行ったワイドトレッドスペーサー等の取付け自体は直接的な原因ではない。)。
加えて、被告人Aは、被告人Bから前記異常を伝えられた後、直前に自己が改造を施したフロントロアアームやステアリングダンパー等の確認はしており、点検に対して無関心だったわけではない上、これまでに判示第1と同様の改造をした際にホイールナットが緩んだ経験がなかったこと等からすれば、自身がした上記改造に異常の原因があるのではないかと思い込んで本件ホイールナットの点検をしなかったという懈怠が、厳しく非難されてしかるべきとまではいえない。
なお、検察官は、被告人Aが整備業経験者で知識を有することを指摘するが、被告人Aは本件車両の点検に業務として応じていたのではないから、本件において同被告人に特別に高度な注意義務があったというのは相当ではない。以上から、被告人Aの過失を重大とまで評価することにはいささか躊躇を覚える。
また、本件車両は任意保険がかけられていないため、十分な被害弁償は現時点では見込まれていないが、これも本来責められるべきは同車両の所有者たる被告人Bである上、被告人Aは入院費用等の実費のうち約200万円を支払っている。
⑶ 以上からすると、同種事案の量刑傾向を踏まえても、被告人Aに係る犯情が実刑が避けられないようなものとまではいえない。
⑷ さらに、被告人Aは交通事犯の前科4犯を有し、とりわけ本件の五、六年前に無免許運転等を繰り返した点は、自動車運転に対する規範を軽視する姿勢として無視できないが、その処罰は罰金刑にとどまっているし、本件につき自己の過ちを認め、今後自動車の運転をしないと誓うなど、自らの行動を反省する態度が認められる。
そうすると、被告人Aに対して実刑を科すほかないとまではいえないから、主文のとおりの刑を量定した上で、法が定める最長期間、その刑の執行を猶予することとする。札幌地裁 令和7年4月24日

業務該当性を争ったわけではないだろうし、そもそも刑事訴訟での事実認定と民事訴訟での事実認定は同じとは限らない。
むしろ刑事訴訟においていうところの業務とは、有償か否かの話にも取れるので、刑事訴訟における認定は民事において大要素にはならないと思われる。
ただし反復継続性がないという点では、結局業務該当性は否定できると思われる。
ところで、保険会社ってわりとこういうところは支払い拒絶するんだなと思った。
刑事判決文を見る限り、自動車整備業をしていたのは過去のことで今回は業務ではないとしたわけですが、保険会社からすれば何億という支払いになる高額事案は可能性があるなら「裁判で決めてくれ」というスタンスなのよね。
これは以前取り上げた人身傷害保険における重過失免責とも通じるところがあり、

「運転者が酒気帯びだと知りながら同乗した」ことについて、同乗者の重過失とみなして人身傷害保険金の支払いを拒絶した。
そして裁判所は、保険会社の主張を支持し重過失免責だとした。
保険会社から提訴することはないので、「支払いは拒絶します。不満があるなら裁判してください」というスタンスにならざるを得ないでしょうけど、
保険約款上の「業務」の範囲についてが争点の裁判ということでしょう。
所有者と運転者自身の過失は明らかなので、そこはメインの争点ではない。
そして元妻の任意保険会社の主張が認められた場合、所有者と運転者に支払い能力があるわけではないため、メインになるのは保険会社のほう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。

コメント