こちらについてご意見を頂いたのですが、

それと関係して情報との向き合い方について。
過失運転致傷罪が不起訴になる理由を説明してますが、
運転レベル向上委員会より引用
検察官向けの解説書をみるとわかるんだけど、運転レベル向上委員会が説明する「これが一般的」としている内容は「俗説として言われている程度の話」に過ぎず、一般的というのは誤り。
「被害者に大きな過失がある」は量刑に反映されるものだから過失運転致傷の成立とは関係なく、加害者に過失があることが立証されたら普通に起訴。
ただしこれに近いことを解説している法律事務所のサイトもある。
「他の罪で十分な処罰が見込まれる」については、そのような発想で動いていない。
こちらについては明確に誤りですが、いったい何をまとめるとこういう考え方が出てくるのかは謎。
検察官向けの解説書を読んだほうがいいと思う。
運転レベル向上委員会はそもそも過失運転致死傷罪の成立要件を理解してないことが根底にある。
過失運転「致傷」については、自動車運転処罰法5条但し書きがあるため、軽症事案は原則不起訴。
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
軽症事案を起訴しても5条但し書きを適用して「主文 被告人の刑を免除する」となりかねないので不起訴が一般的。
運転レベル向上委員会は5条但し書きを執行猶予と勘違いしていたけど、5条但し書きは執行猶予ではなく刑の免除。
有罪だけど刑を免除するという規定です。

そしてひき逃げや飲酒運転、無免許運転など悪質な違反を伴うときには軽症事案でも「併合罪」として過失運転致傷も起訴するのでして、ひき逃げや飲酒運転、無免許運転などのみで処罰できるから不起訴という考え方はしてないのよね。
こういうのもインターネット上にある俗説を拾ってきてまとめたのか、AIにお任せしたのかは知りませんが、検察官向けの解説書を読んでいれば違うことが理解できるのでして。
俗説として言われていることが真実とは限らないのはよくあることですが、俗説を広めて世間の誤認識を高めたところで意味はない。
この人が過失運転致死傷罪を理解してないなと感じるのは、例えば「苫小牧白バイ事故」にも表れている。
時速118キロの白バイと右折車の事故で右折車ドライバーが過失運転致死に問われた事件ですが、控訴審のポイントを「白バイの速度が違反かを立証できるか」と解説している。

過失運転致死傷罪は「被告人が運転上の注意を怠り死傷させたか?」なのだから、被害者の過失は量刑に反映される程度で被告人の過失の有無は別問題。
この期に及んで「どっちが悪いか」の裁判だと解説しているのをみると、間違い解説をして世間の誤認識を高めて何をしたいのか謎なのよね。
「どっちが悪いか?」の裁判だと誤認識させたら、「白バイのほうが悪いのに裁判官が忖度した」みたいな陰謀論に繋がるだけのこと。
「白バイのほうが悪い」が仮に正しいとしても、過失運転致死傷罪の成立要件とは何の関係もないのだから誤認識による陰謀論はいかがなものかと…
そもそも「白バイの速度は北海道道路交通法施行細則により違反ではありません」と誤った解説を繰り返してきた人の手のひら返しも凄いなと思うけど、

根底にあるのは、過失運転致死傷罪の成立要件を知らないまま解説している点にある。
ほかには「過失運転致死」の事案について、「過失運転致死傷」の起訴率を挙げてほとんど起訴されないと力説していたけど、

検察官向けの解説書をみればわかるんだけど、過失運転致死は原則起訴。
立証が困難な場合には不起訴もあるだろうけど、過失運転致死傷のうちほとんどが軽症事案だから不起訴率が高くなるという数字のマジックに気づかないのは、基本を理解しないまま解説しているからなのよ。
ところで、過失運転致死は原則起訴ですが、不起訴になる事例もある。
要は過失の立証が困難な場合には起訴しても無罪になるのだから不起訴にするわけですが、過失運転致死傷罪の立証とはどういうレベルなのか?について考えてみましょう。
北海道苫小牧市で2019年3月、道路を横断中の女性(当時75歳)をはねて死亡させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)に問われた男性被告(63)の控訴審で、札幌高裁(青沼潔裁判長)は18日、禁錮10月、執行猶予2年とした1審・札幌地裁判決を破棄し、逆転無罪の判決を言い渡した。衝突時の速度などを巡る検察側の主張が二転三転した結果、事故発生から2審判決までに6年を要することになった。
事故は19年3月30日午後7時31分、同市東開町の住宅街で発生。被告は当初から「現場は見通しが悪く、衝突するまで女性に気づけなかった」と主張していたが、札幌地検は21年11月、「前方を注視せずに時速約45キロで衝突した」とする内容で在宅起訴した。
1度目の主張の変更は、第4回公判が終わった後の23年1月。地検は事故解析を依頼した専門家の見解を踏まえ、衝突速度を「時速60~65キロ」に改めた。ところが、24年3月の1審判決は、解析結果に疑義を呈して速度を「時速約45キロ」と認定。ただ、解析の手法自体は採用し、「衝突地点の35メートル手前で女性を発見できたはずだから、事故は回避可能だった」と判断した。
検察側の主張変更は控訴審でも続いた。別の専門家にも意見を求めた札幌高検は「1人目の解析結果は誤り」と自ら認め、「衝突速度は時速40~45キロ」「被告が女性を発見できたのは衝突の23メートル手前だった」と説明。高裁はこの主張と新たに示された計算式を前提に過失の有無を再検討し、「事故を回避するのは困難だった」と結論づけた。
「被告の車が時速45キロ(秒速12・5メートル)で走っていた場合、停止するのに必要な距離は20・77メートル。被告は自車が2・23メートル進む間に急ブレーキをかけなければならないことになるが、その時間は約0・17秒しかない」。これが高裁の導き出した計算結果だった。
被告の弁護人は判決後、「途中で起訴を取り下げるという選択肢もあったのではないか」と検察側の対応を批判。札幌高検の上本哲司次席検事は「判決内容を精査し、適切に対応したい」とコメントした。
検察側の主張が二転三転、6年前の死亡事故に逆転無罪判決…札幌高裁「事故の回避は困難だった」【読売新聞】 北海道苫小牧市で2019年3月、道路を横断中の女性(当時75歳)をはねて死亡させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)に問われた男性被告(63)の控訴審で、札幌高裁(青沼潔裁判長)は18日、禁錮10月、
控訴審判決は札幌高裁 令和7年3月18日。
横断歩行者と被告人車の衝突事故(夜間)ですが、被告人の速度を巡り検察の主張は二転三転した。
つまり立証が不十分、確証がないともいえる。
検察は被告人の速度を時速45キロだとして起訴した後、「時速60~65キロ」に変更。
しかし一審においても「時速60~65キロ」は採用されていない。
2 原判決の判断の概要
本件衝突時の被告人車両の速度につき、E鑑定は時速60ないし65キロメートルであったとするのに対し、被告人は、速度計を見ていたわけではないのではっきりとは答えられないものの、時速40キロメートル以上は出ており、時速45キロメートルくらいかと思うなどと供述する。
Eは、長年自動車事故等の解析に従事してきたものであるが、E鑑定が上記のとおり判断した根拠は、Eがこれまで走行中の自動車でダミー人形を跳ね飛ばす実験を200回近く行った結果、衝突時の自動車の速度とフロントガラスの損傷状況に相関関係があることが判明したことから、本件においてもこの相関関係を適用し、被告人車両のフロントガラスの損傷状況に照らして、衝突時の被告人車両の速度は時速60ないし65キロメートルであったと判断したというのである。
しかし、そもそも、Eが述べる相関関係に関する知見は、個人的に行った実験の積み重ねであって、論文として発表したこともないというのであるから、同じ専門領域に属する専門家らの批判や検討にさらされておらず、客観的に確立された法則とはいい難い。また、Eが述べる相関関係は、要するに衝突時の自動車の速度が速いほどフロントガラスの損傷の程度は大きく、かつ深くなるというのであって、時速40キロメートルで衝突したのでは人の頭はフロントガラスに届かないというのである。しかし、被告人車両のようにボンネットが短い自動車が人と衝突した場合には、時速40キロメートルであっても人の頭が直接フロントガラスに当たることがあるように思われるにもかかわらず、そのような可能性を否定して、被告人車両にも上記相関関係を適用できるとする根拠が明らかではない。この点、E自身も、証人尋問の当初は、自己の経験ではボンネットの長短によって上記相関関係に大きな差異はなかったと述べていたのが、弁護人からの尋問に対しては、極端にボンネットが短ければ頭部がフロントガラスに届くと思うと述べ、さらに、別の機会には、ボンネットが短い車両は直接フロントガラスに頭が当たることがあると述べるに至っているが、いずれについても納得できる根拠は示されていない。
以上からすると、Eが述べる相関関係を本件に適用することには疑義があるといわざるを得ないので、衝突時の被告人車両の速度が時速60ないし65キロメートルであったと認定することはできず、被告人が述べるとおり時速約45キロメートルであったと認められる。
その他「衝突地点」がどこなのか?についても争いがありますが、札幌高裁は以下を前提に判断。
| 被告人車の速度 | 被告人車の停止距離 | 衝突地点までの視認可能距離 |
| 45キロ | 20.77m | 23m |
被害者の着衣の色により視認可能距離が短くなってますが、上記認定によれば被告人が前方注視していたなら被害者の2.33m手前(23-20.77)で停止できたから有罪…という話にはならない。
なぜなら指定最高速度が50キロの道路だったのだから、被告人が50キロで通行していたなら上記計算が崩れるわけだし、視認可能距離の実験にしても必ず正確であるとは言えないのだから、たった2.33mの差は前提条件がわずかに変わるだけでも変わってしまう。
被告人車両の走行速度については、争いはあるが、仮に、検察官主張(当審新訴因)の最大速度である時速約45キロメートルを前提にすると、被告人車両の停止距離(㋐空走距離+㋑制動距離)については、G鑑定も用いた一般的な計算式によれば、㋑制動距離は、乾燥したアスファルト路面である本件道路の摩擦係数0.7を前提に約11.39メートルと確定できるのに対し、㋐空走距離については、時速45キロメートル(秒速12.5メートル)に反応時間(空走時間)を乗じたものとなるため、個々の対象者の反応時間により、相応の差異が生じ得る。この点について、検察官は、本件における反応時間について、一般人を基準に0.75秒とした上で空走距離を9.38mと算定しており、㋐と㋑を合計した停止距離を20.77メートルと主張している。この判断は、一般人を基準とする一般的な検討結果という限りにおいては合理的なものといえる。しかしながら、前記のとおり本件当時被告人が57歳であったことや、夜間に前照灯をつけながら進行していたところ、突然、反対車線側(右側)から進行方向前方に被害者が現れたという本件事故当時の被告人の具体的状況に照らせば、これらの状況下でも、被告人について上記反応時間が直ちに妥当するのか、プラス0.1ないし0.3秒程度の差異が生じる可能性を合理的疑いなく否定できるかは疑問が残る。
そして、前記の原判示のように最長1.8秒もの空走時間を設定すべきかはともかくとしても、仮に空走時間を0.25秒ほど長めに1.0秒と仮定すると、空走距離は12.5メートルとなり、㋑制動距離と合計した停止距離は、23.89メートルとなることから、上記⑵で検討したA地点の視認可能距離を仮に検察官主張の23メートルとしても、結果回避可能性の存在に合理的疑いが生じることは明らかである。
さらに、これまでの検討は、争点①の被告人車両の進行速度について、検察官の主張(時速約40ないし45キロメートル)に鑑み、最大時速45キロメートルを前提とするものであるが、検察官が上記主張の根拠とするG鑑定の内容に照らしても、最大時速を45キロメートルと明確に認定できるのか、弁護人主張のとおり最大時速50キロメートル程度であった可能性を合理的疑いなく排斥できるか、本件の証拠関係に照らしても疑問を否定することは容易ではない。そして、空走(反応)時間を検察官主張の0.75秒としても、被告人車両の走行速度を時速50キロメートル(秒速13.89メートル)とすると、停止距離は24.48メートル(空走距離10.42メートル+一般的な計算方式により算定できる制動距離14.06メートル)となり、仮に視認可能距離を23メートルとしても、結果回避可能性があったとは認められないことになる(さらに、空走(反応)時間を前記のとおり1.0秒と仮定した場合、一層、結果回避可能性の存在は疑わしくなり、また、上記空走時間を前提にすると、時速50キロメートル未満であったとしても、結果回避可能性の存在に疑念が生じ得る。)。
加えて、上記⑵のとおり、視認可能距離が23メートルを下回ると認定されれば、結果回避可能性の存在に対する疑いは一層強くなる。以上によれば、被告人が、被害者との衝突場所であるA地点よりも、結果回避が可能な手前の地点で、被害者を視認可能であったとするには合理的な疑いが残る。したがって、当審新訴因にかかる検察官主張の結果回避可能性、過失は認められず、当審新訴因にかかる過失運転致死の事実を認定することはできない。
弁護人からすれば、「全然立証できてなくて主張が二転三転するくらいなら不起訴もしくは起訴取り下げすべきだろ。しかも6年も掛けて。」と言いたくなるのはわかるんだけど、刑事事件の立証ってかなり厳格。
これらを立証できなかった事案は「原則起訴」の死亡事故でも不起訴にするわけですが、不起訴にしたらこういう報道になるでしょ。
横断歩行者をはねて死亡させた事故について、地検は不起訴処分としました。地検は不起訴理由を明らかにしていません。
内部では「立証が困難」な事故だったとしても、その理由を明らかにするのは問題が生じうるから明らかにしない。
しかしこういう報道を見た人は「死亡させたのに不起訴は忖度だろ!」という陰謀論に走るのもよくある話。
①過失運転致死傷罪の成立要件と、②不起訴にする理由、③刑事事件における立証の程度を理解していればそのような陰謀論には至らないのでして。
わかっている人は「あー、立証が困難な事故だったんだな」と思うところ、わかってない人は陰謀論へ…
だから誤認識を招く解説はダメなのよ。
で、本題。

頂いた意見は要約すると「運転レベル向上委員会の間違いは些細な間違いで、そこを間違っていても社会に影響はないのでは?」。
危険運転致死傷罪についてはかなりの人が「危険な運転なら成立」と勘違いしているので、こういう間違い解説の結果として「危険運転致死傷罪を適用しなかったのは検察や裁判所が忖度したからだ」という陰謀論に繋がるだけなのね。
陰謀論が横行するのは社会の悪化。
だからこういう間違いはダメなのよ。
運転レベル向上委員会は陰謀論が好きなんだろうけど、

これにしても逮捕要件を理解して事実のみに着目すれば、現行犯逮捕しなかった理由は「被疑者が救急搬送されたから」だとわかる。
しかし逮捕要件を理解せず事実よりも憶測を優先させると「中国人に対する忖度」とか「神奈川県警の忖度」と陰謀論に走ることになる。
そうやって世間を煽ってアクセス数を増やすことが正しいと思うなら別ですが、単なる偏見に過ぎないと思いますよ。
日本人だろうと警視庁だろうと、救急搬送されたなら現行犯逮捕しないのは当たり前としか言いようがないのに…陰謀論の根底にあるのは無理解と無知、事実より推測優先の姿勢。
本来批判されるべき危険な運転行為「のみ」に批判が集まるなら当たり前だけど、ついでにありもしない陰謀論で叩く姿勢のどこが健全と言えるのやら。
他人がまとめたものは便利かもしれないけど、正確なのかは別なのよね。
そしてそれを見抜くのはそれなりに知識かないと難しいわけで、だから情報発信者にモラルが問われるのだと思いますが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。




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