路外に右折しようとしているクルマに対し、スクーター(?)がセンターラインをはみ出して追い越しして事故に至ってますが、
想像力の欠如というか、センターラインを越えて逆走する心理がわからない。
なお「はみ出し追い越し禁止」のイエローラインがあります。
これについてちょっと考えてみようと思う。
刑事責任
報道によると双方ともに軽症とのこと。
刑事責任上、適切な右折体制に入っているのに交通法規をガン無視して無謀な追い越しをする車両があることを予見する注意義務は「特別な事情がない限り」存在しないとされている。
◯適切な右折体制に入っているのに交通法規を無視して無謀な追い越しをする車両を予見する注意義務はないとした判例
交差点 | 交差点以外 |
・最高裁判所第二小法廷 昭和42年10月13日
・最高裁判所第一小法廷 昭和45年9月24日 |
最高裁判所第一小法廷 昭和46年10月14日 |
ただし問題なのは、右折車が右折を開始した時点でほぼ並走のような至近距離にバイクがいること。
なのでこれについては最高裁判例とは事案が違うようにも思えるので右折車が刑事責任を問われるかはビミョー。
そしてバイクについては、逆走追い越しして右折車ドライバーをケガさせたことになるので、こちらについては過失運転致傷罪が成立すると思われますが、
「軽症事案は5条但し書きにより不起訴濃厚」
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
どちらも過失運転致傷容疑で書類送検されますが、軽症事案は起訴しても「主文 被告人の刑を免除する」となりかねないので不起訴が一般的。
民事責任
民事過失割合を考えるとしたら、「はみ出し追い越し禁止場所」を考慮してバイク80%、右折車20%とかでしょうか(判タ223)。
とはいえ、右折車とバイクの位置関係からすると、右折車は逆走バイクの発見が容易だったのではないか?という疑問が。
そうするとバイクに有利に10%修正してバイク70%、右折車30%になるかもしれません。
ちなみに判例でみると、さいたま地裁 平成30年4月23日判決は似たようなニュアンスで後続バイク70%としている(同事案は追い越し禁止場所、見通し良好)。
行政処分
双方ともに軽症ということで加療15日以上30日未満と仮定しますが、今回のケースで右折車が「点数登録免除」に当てはまるかはややビミョー。
双方加点するとしたらこうなる。
バイク | 右折車 | |
通行区分違反 | 2 | – |
安全運転義務違反 | – | 2 |
付加点数 | 4 | 4 |
計 | 6 | 6 |
まあ、右折車については加点しない可能性もなくはないのですが、もし右折開始時点で後続バイクがそこそこ後方に離れていたのであれば、いわゆる信頼の原則が適用されるパターンになる。
しかし映像を見る限り、右折開始する時点では並走に近いレベルに迫っていたように見えるため、事案が違うように考えられる。
そうすると双方ともに非がある事故として処理される可能性もあります。
最近「行政処分は第一当事者のみ」という珍説を流す人がいるけど、


それは正しくない。
要は付加点数については「他人を死傷させた場合」だと施行令で規定しているので、違反があっても他人を死傷させなければ付加点数についてはつかない。
しかし双方ともに負傷する事案は現実にあるわけで、予見可能性も回避可能性もなければ点数はつかないけど、そうじゃなければ双方ともに加点される。
一例として以前挙げたこちら。
信号無視した直進バイクと右折車の衝突ですが、双方ともにケガをしたらしい。
なので双方ともに過失運転致傷罪の被疑者になる。
そして右折車については、何ら加点されずにゴールド免許のままだそうですが、要は「信号無視する車両を予見する注意義務はない」という信頼の原則が適用されたから、予見可能性も回避可能性もないとなったのかと。
バイク側はおそらく「信号無視」+「専ら運転者の不注意」として加点されていると思われますが…
冒頭の件については、信頼の原則が適用される典型例なのかはやや怪しい。
まあ、はみ出し追い越し禁止場所で逆走する心理については正直なところ理解不能です。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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