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検察官が「追突事故+ひき逃げ」に無罪の主張をせざるを得なくなった理由。

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追突事故による致傷とひき逃げを起こした事件について、検察官は異例となる「無罪の論告」をしたそうな。

追突事故 検察「異例の無罪論告」 てんかん発作と医師 長崎地裁佐世保支部(長崎新聞) - Yahoo!ニュース
車で追突事故を起こし、ひき逃げなどの罪に問われた佐世保市の男性被告の論告求刑公判が26日、長崎地裁佐世保支部(岩田光生裁判長)であり、検察側は「立証証拠がない」として、無罪を求める論告をした。来年

さてこの事件をどう見るか。
報道から読み取れるのは、てんかん持ちであることの自覚がない被告人が、てんかん発作による意識障害を起こし結果的に救護義務にも違反したというもの。
これは刑法39条1項でいう心身喪失者にあたり、救護義務違反については故意もないため刑法38条1項により犯罪にはならない。

(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない。
(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

さて。
今回の事案は被告人が「てんかん持ちであることの自覚がない」と考えれますが、仮にてんかん持ちであることの自覚があり、運転に影響がありうることを自覚していたなら心身喪失者に当たるのか?という話になる。

 

これは以前書いたんだけど、

被告人が有罪を希望すれば、有罪になるか?
交通事故報道は毎日のようにありますが、原則として弁護人は被告人の利益になるような主張をします。しかし、一審で無罪判決後に弁護人が「有罪希望」の主張をした珍しい事例があります。一審無罪判決後に有罪希望一審は前橋地裁 令和2年3月5日、二審は東...

刑法には「原因において自由な行為」という考え方があり、事故を起こした時の心身状態ではなく、運転を開始した時点で「てんかんにより運転に影響する可能性があるのに運転したこと」を非難できる。
運転避止義務違反と呼ばれますが、要は運転しちゃいけない状態になりうるのに運転開始したことを過失(不注意)として、過失運転致死傷罪は成立しうる。

 

酒酔い運転なんかもそう。
酒酔いなんだから心身喪失状態とも言えますが、事故を起こした時点ではなく、酒酔いなのに運転を開始したことが刑事的に非難の対象になるわけでして。

 

ちなみに行政処分を考えると、おそらく「安全運転義務違反(2点)」に付加点数、さらに救護義務違反の35点が加算されていたのかと。
しかしこれら全てが否定されてしまうので、行政処分は取消にならざるを得ない。

 

しかしてんかんの件があるので、結局運転免許は取消になるのかと(原処分を取消後、新たに行政処分かと)。

 

さて民事について。
民法713条によると、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わないとする。

(責任能力)
第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

一方、人身損害について規定する自賠法によると、加害した側が無過失の立証をしない限りは賠償責任を負うとする。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

さらに自賠法4条では自賠法に規定がないことは民法に従うとする。

(民法の適用)
第四条 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。

これらの関係をどう整理すべきか。
これは下級審に実例がある。

自賠法3条は、自動車の運行に伴う危険性等に鑑み、被害者の保護及び運行の利益を得る運行供用者との損害の公平な分担を図るため、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償責任に関し、過失責任主義を修正して、運行を支配する運行供用者に対し、人的損害に係る損害賠償義務を負わせるなどして、民法709条の特則を定めたものであるから、このような同条の趣旨に照らすと、行為者の保護を目的とする民法713条は、自賠法3条の運行供用者責任には適用されないものと解するのが相当である。

東京地裁 平成25年3月7日

物損については自賠法ではなく民法になりますが、そもそもこういう事案は保険会社が支払うと考えられ、被害者が泣き寝入りするようなことにはなりにくいと思われる。
そして本題なんですが、

 

刑事責任、行政処分、民事責任は全く別物。
今回のケースは刑事責任を問えないと判断せざるを得なくなり、起訴した検察官ですら無罪の論告に至った。

 

しかしだからと言って行政処分や民事責任まで無くなるわけではない。
この三者はリンクしていない部分も多いので、「刑事無罪、民事の過失割合は80%」なんてこともあるし、今回のケースは追突とのことなので、刑事が無罪でも過失割合は100%になるのかと。

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