道交法では、【道路の左側端に寄って】というほか、【できる限り道路の左側端に寄って】というのがあります。
これは両者で区別されるものですが、自転車についてはちょっと意味合いを間違いやすいように感じてまして。
左側端とできる限り左側端
第十八条 車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。
この【できる限り左側端】の意味を考えていきます。
まず18条1項の車は左側、自転車は左側端に寄ってというところは、自転車の通行分を空けた上で車が左に寄ることとされます。
この目的は、仮想の通行帯のようにして、交通の安全と円滑な進行を促している。
速度が遅い自転車を左側端に固定しているわけです。
34条の左折前に【できる限り左側端に寄る】というのは、二輪車の左折巻き込みを防ぐもの。
※車が【できる限り左側端に寄った図】
まとめます。
条文 | 意味 |
18条の左側端(自転車) | 自転車を左側端にすることで、追越しする車両は右から抜いていく |
34条のできる限り左側端 | 左折巻き込みを防ぐために、二輪車のすり抜けをブロックする |
ここは異論ないですね。
ここからが問題。
自転車は左側端通行だけど、左折前には【できる限り左側端】となる。
両者は違う位置を意味するのでしょうか?
自転車の場合、通常走行しているときには「左側端に寄って」で、左折する前には「できる限り左側端に寄って」になる。
こういう形で、左折前にさらに左側端に寄れという意味なのか?
いやいや、普段の左側端はもっと内側で、左折前だけさらに寄ればいい??
いやいや、こんな感じじゃね??と思う人も出てくるかも。
もはや左側端とは言えない位置にいるのは、一般的な感覚を持っている人なら理解できること。
念のため書いておきますが、ここは車道通行帯ではない複数車線道路をイメージしてます。
歩道アリ、路肩あり。
複数車線だから車両通行帯ではないので、そこがわかってない方は先にこちらを。

さて、どれが正解なのか?の前に、もう一度意味を考えます。
18条1項の左側端通行義務は、自転車を左側端にすることで、車などは右から追い越していくことを促すルール。
間違ってもこんな位置を通行していたら、
邪魔ですね。
確かツイッターの人も、ブロックするためにこんな位置を通行していると公言していたはずですが、法の趣旨に反する行動だと公言しているのと同じ。
追越しを右側から促すためのルールでもあるので、自転車が左から追い抜き出来る程度の幅が空いているなら、左側端まで寄っているとは言えないかと。
本来のルール。
左側端まで寄れていないので、左から容易に追い抜きされる状態。
34条1項のできる限り左側端に寄るのは、左折巻き込み防止のため。
二輪車が進入するのを防ぐわけです。
ちょっと話が変わりますが、歩道がなく路側帯がある道路の場合、自転車は路側帯も通行できますよね。
歩行者優先ですが。
ロードバイクで路側帯を通行する奴がいるとは思えないので、現実的には路側帯を除いた上で左側端というとこんなあたりでしょうか。
さて左折前の規定。
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。
「左側端に寄って」と「できる限り左側端に寄って」は違う位置を指定しているのか?という疑問がありますが、そもそも「できる限り」とした意味はなんでしょうか?
これについては、駐停車の規定から意味を理解することができます。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
停車 | 駐車 |
できる限り左側端 | 左側端 |
なぜこのような規定にしているのでしょうか?
道路交通法が制定されてすぐの昭和36年の条解道路交通法(宮崎清文氏、警察庁)によるとこのような説明。
停車の説明
なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車の説明
本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
左折前に「できる限り左側端」としている理由なんですが、「左側端に寄って」にすると曲がれない大型車や交差点があるからです。
例えばこういう交差点。
・「左側端に寄って」の場合
・「できる限り左側端に寄って」の場合
「できる限り」と規定しないと、大型車は全て左折方法違反に問われてしまう。
左側端に寄っていたら曲がれない場合もあるから。
これが「左側端に寄って」と「できる限り左側端に寄って」の違い。
自転車の場合、左折するために大回りしなければ曲がれない交差点はまずあり得ない。
あくまでも左折方法として「できる限り左側端」としている理由は、左側から2輪車が追い抜きすることを防ぐ意味合いでしかない。
なので自転車にとっては、これらは全く同じ位置なんだと理解できます。
18条1項 | 34条1項 |
左側端に寄って…道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない | できる限り左側端に寄って |
わざわざ「できる限り」としている理由は、違法駐停車車両がいたり、道路工事や事故などで左側端に寄れないことを考慮したもの。
なので「左側端に寄って…道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」(18条1項)と「できる限り左側端に寄って」(34条1項)は同じ意味だと理解できます。
歩道と車道の区別がある道路の場合なんですが、現実的な話として、【左側端】と【できる限り左側端】は一致する場所になることが多いのではないでしょうか?
18条1項は左側端に寄せることで、右側からの追越しを促すルール。
34条1項は左折巻き込みを防ぐために、二輪車が進入する余地をなくすルール。
自転車の場合はどちらも同じ位置になる可能性がある道路、それなりに多いと思います。
判例を一つ。
できる限りとは道路や交通の状況等をかんがみ支障のない範囲における可能な限度を意味すると解され、単に運転者の主観において可能な限度を持って足りると解すべきではない(s46・9・14名古屋簡裁)
意訳すると、
トコトンやれ。
けど状況次第で柔軟に対応しろ。
こういうことですかね。
なのでまとめると、
普通車の場合はほぼ確実に違う場所になりますが、大型車なんかだとそもそも同じになる可能性もありますし。
左側端とできる限り左側端は違う定義とは言え、実質的には同じになることもあり得る、ということ。
なお、自転車については路側帯を通行できるため、路側帯まで寄せる義務があるのか?という疑問がありますが、以下の判例があります。
路側帯から追い抜きした自転車と、車道左側端から左折した自転車の事故。
路側帯まで寄せるか、左折前に左後方を確認するかどちらかになりますね。

自転車は左側端以外は実質走れない
実質的に車両通行帯があるのは、交差点付近の指定通行区分がある場所か、専用通行帯(自転車・バスなど)がある場所に限定されます。
私も1年弱前までは、複数車線=車両通行帯だと思ってました。
この一年くらいでいろいろ調べた結果としてですが、そもそも車両通行帯なんてほとんどないんですよ。
車両通行帯だから第一通行帯の中ならどこでもOK理論なんですが、実質的に言うとほぼ成り立ちません。
警察に注意された人もいるようですが、なんで左側端と言われたのか、その意味を考え直したほうがいいですね。
車の強引な追い越し
車の強引な追い越しについて危険だから、ブロックするという人もいるわけですが、本来であればそれは車のドライバーの責任。
追越し時の側方距離は道交法では定められていません。
第二十八条 車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
2 車両は、他の車両を追い越そうとする場合において、前車が第二十五条第二項又は第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、前項の規定にかかわらず、その左側を通行しなければならない。
3 車両は、路面電車を追い越そうとするときは、当該車両が追いついた路面電車の左側を通行しなければならない。ただし、軌道が道路の左側端に寄つて設けられているときは、この限りでない。
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
できる限り安全な速度と方法とあります。
目安はこんな感じです。

ちょっと思ったのですが、最近って電動キックボードの実証実験のために臨時特例を設けたり、オリンピック専用レーンのために一時的に法改正(施行令)してますよね。
つまりやろうと思えば、期間限定の特例措置は作れる。
例えば半年限定とかで、追越し時の側方距離を決めて取り締まる、ということも出来なくはないんじゃないですかね。
例えばの例ですよ。
1、普通自転車の側方を通過して前方に出るときは(以下、追越し等と呼ぶ)、車両は下記の側方間隔を保って追越し等しなければならない。
2,普通自転車と追越し等車両の速度差が10キロ以上あるときは、側方間隔1.5m。
3,普通自転車と追越し等車両の速度差が10キロ未満のときは、側方間隔0.90m
4,普通自転車は車両通行帯がある道路の場合を除き、路肩を除いた車道の左端から1.5mの範囲をはみ出してはならない。ただし追越しするとき、道路状況その他の理由がある場合はこの限りではない。
5,期間限定の措置のため、どの車両も一度目の違反では警告カード、二回目の違反で罰則とする。
※数字はテキトーです。
どうやって側方間隔を計測するんだ?という問題もあるでしょうけど、例えば都内限定で実験してみて、追越し時の側方間隔の変化があるか、自転車の通行位置の変化があるか、渋滞の悪化、事故率などを調査する。
その結果を踏まえて、正式に法整備するか、廃案にするかみたいな。
そういうことってできないんですかね。
自転車もなるべく左端に寄るから、車も追越し時は側方間隔をきっちり取ってもらうという。
おかしな人たちが騒いでメチャクチャにして、車と自転車の対立構造を煽っているとしか思えないのですが、それをした結果何が生まれるんでしょうね。
どうせならお互いに協力して、お互いにとって好ましい法整備を検討していったほうが建設的だと思うのですが。
車のドライバー目線で、自転車が邪魔だという意見もわかりますし、自転車乗りの立場で、車が危ないと思う意見も当然理解できる。
ただまあ、法律解釈を捻じ曲げてみたり、判例解釈を捻じ曲げてでも正当化する人もいるので、そういうことよりも法整備を何とかしたほうが良さそうな。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
自転車の走行位置は白線の上なのでしょうか?左側端は走行車両の左タイヤ跡の辺だと考えてます。
歩道と車道の区別がある道路の場合の図ですが、現実で白線を出ずに追い越しする車両がいるので手直ししてもらえると嬉しいです。第一車線の幅は歩道から3.5m弱なことが多いですが、車両2m、自転車1m取ると間隔が0.5mしありません。
すみません、たぶん根本的なところの理解を欠いているように思うので、
「お書きになった全てについて、ケースバイケース」としか言えません。
>現実で白線を出ずに追い越しする車両がいるので手直ししてもらえると嬉しいです
白線を出ずに追い越しすることは何ら違反ではありません。
たぶん根本的な理解を欠いているように思うのですが、車両通行帯の話ですか?
違反ではありませんね。白線を出ずに安全に追い越すことはできるのでしょうか。車線はそんなに広くないと思います。
恐れ入りますが、質問の趣旨と意味がわからないため、きちんと質問するなら質問して頂きたく。
その上でですが、追い越しと追い抜きの違いをご理解頂いているのか、それぞれについてどのような条文が適用されるのか、さらに実運用上の問題点などを把握された上でのお話なのかよくわかりません。
「◯✕だから何条に違反する、根拠としては…」みたいな具体的なお話でしたら答えられますが、あまりにも漠然とし過ぎていて何を質問されているのかよくわかりません。
参考までに。
https://roadbike-navi.xyz/archives/30551/
https://roadbike-navi.xyz/archives/31493/
https://roadbike-navi.xyz/archives/25377/