道路交通法には元々、「早い者勝ちルール」「交差点先入車優先ルール」がありました。
第三十五条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、既に他の道路から当該交差点に入つている車両等があるときは、当該車両等の進行を妨げてはならない。
2 車両は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、他の道路から同時に当該交差点に入ろうとしている路面電車又は優先順位が先である車両があるときは、当該車両等の進行を妨げて はならない。
3 車両は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、左方の道路から同時に当該交差点に入ろうとしている優先順位が同じである車両があるときは、当該車両の進行を妨げてはならない。路面電車が交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、左方の道路から同時に当該交差点に入ろうとしている路面電車があるときも、同様とする。
この規定は昭和46年に滅亡しています。
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交差点先入ルールと弊害
交差点先入ルールには弊害が多く、昭和46年に削除。
理由はいくつかありますが、主な問題点は2つ。
②交差点の範囲が不透明で揉める
①は簡単です。
スーパーでワゴンセールみたいにすると、オバチャンたちが殺到しているでしょう。
「我、先に」と。
交差点も同じで、「我、先に」と交差点手前で高速化が進む原因となります。
野球でもリクエスト検証が可能になりましたが、セーフかアウトかの判定は揉める原因。
まさか交差点にカメラを設置して、トラブル時にはリクエスト検証します?笑
事前に優先がわからないと事故多発します。
②ですが、昭和40年代に「交差点の範囲」についての判決がいくつかあります。
交差点の範囲が不透明な場合、単に揉める原因にしかならない。
交差点の範囲について争った判例の中にはまさに「交差点先入ルール」の先入がどっちなのかを争ったものがあり、ろくなことがない。
一例:大阪高裁 昭和44年8月7日
こちらでも触れた事例です。
交差点先入ルールの適用について争われた判例ですが、そもそも
交差点の範囲が不明なら、揉めるのは当然。
なぜか一塁ベースが二個あったら、どっちの一塁ベースが正しいのか揉めるでしょう笑。
被告人運転の自動車が本件交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとした際には、既に被害者運転の自動二輪車が旧国道から交差点内にはいつて横断しかけていたことがうかがわれるから、道路交通法35条1項により、被告人としては被害者運転の自動二輪車の進行を妨げてはならないのであり、したがつて、このような場合、本件交差点の特殊性をも考慮すると、自動車運転者としては、減速徐行して、自動二輪車が前記別紙図面リ点の手前で停止するのか、または、そのまま横断してくるのか、その進行状況を注視し、停止する気配がなければ同車が交差点を横断し終るのを待つて進行すべき業務上の注意義務があつたといわなければならない。しかるに、被告人は約54メートル前方に交差点を横断しかけている被害者運転の自動二輪車を認めた際、同女が被告人運転の自動車に気づいていないのを認めながら、同女の方で進路を譲つてくれるものと軽信し、直ちに減速徐行してその進行状況を見きわめることなく、単にクラクシヨンを鳴らしただけで時速約50キロメートルのまま進行し、同女がなおも気がつかないで進行して来るので、約17メートルに迫つて衝突の危険を感じ、急制動の措置をとつたというのであるから、右の注意義務を尽したということはできず、この点において被告人に過失があつたと認めざるをえない。なお、ここで、被害者の過失の有無について付言するに、被害者は交差点への先入車両として、道路交通法35条1項により、交差点を通行するについて優先権があることは前記のとおりであるが、もともと同法条は、交通整理の行なわれていない交差点における車両等の優先順位を一般的に規定して、交差点における車両等の交通の円滑を図ることを目的としているのであつて、車両等を運転する者がこれを遵守しなければならないことはいうまでもないけれども、そうだからといつて、先入車両等の運転者にすべての注意義務を免除し、衝突事故を起こしてもすべて責任がないとまで規定した趣旨とは考えられない。ことに、本件交差点は、その東側線の長さが68.6メートルもあるという変型Y字型交差点であるから、いずれの車両が交差点への先入車両であるか、相互に判明しにくいことが考えられ、また、交差点の北端線については何の標示もなく、どこから交差点になるのか一般にはわかりにくく、かつまた、新国道は幅員が明らかに広い優先道路であるという事情もあつて、当審証人の証言によれば、旧国道から北進し、交差点を進行して新国道の北行車線にはいろうとする車両は、新国道を南進または北進する車両があれば右交差点の中心(別紙図面リ点の手前)付近で停止して(先入車両に停止すべき法規上の義務はない)その通過を待つて北行車線に向け進行しているのが実情であることが認められることなどに徴すると、被害者としては、交差点にはいつてからのちも、新国道を南北進する車両の交通に注意を払い、その安全を確認したうえで新国道の北行車線に向け進行し危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるものといわなければならない。しかるに、被害者は交差点にはいる前に被告人運転の自動車を認めて十分交差点を横断できると軽信し、交差点内に進入後は被告人運転の自動車に対する注視を全く欠いてそのまま横断中衝突したというのであるから、右の注意義務を尽したものとはいえず、この点、被害者にも過失があつたといわなければならない。
大阪高裁 昭和44年8月7日
交差点事故多発につき、昭和46年に大改正。
・交差点については「進行妨害」という言葉に統一
・「進行妨害」の定義を明確化
・交差点安全進行義務(36条4項)の新設
道路交通法の優先
日本の道路交通法は絶対的な優先権を認めておらず、譲歩する側に「進行妨害してはならない」とか「通行を妨げてはならない」と規定し、反射的効果から優先権を得るとしています。
38条1項を「極めて強い優先権」と評価した東京高裁判決がありますが、「一時停止かつ妨害禁止」のダブル義務の反射的効果として歩行者が「極めて強い優先権」を得る。
ところで。
先日書いた判例ですが、
優先道路と非優先道路の事故について、非優先道路側車両に過失100%にしています。
控訴人車は、優先道路を進行していたのであるから、本件交差点を進行するに当たり徐行義務(道路交通法36条3項,42条)は課されておらず、問題となるのは前方注視義務(同法36条4項)違反である。前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等・・・に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい。すなわち、交通整理の行われていない交差点(本件交差点もこれに当たる。)において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(同法36条2項)、控訴人は、被控訴人車が控訴人車の進行妨害をする方法で本件交差点に進入してこないことを前提として進行してよく、前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。そうすると、優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。本件においては、前示の事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。
名古屋高裁 平成22年3月31日
一方、こちらも優先道路と非優先道路の事故ですが、
こちらの判例については、優先道路でも36条4項を理由に過失50%としています。
なぜこのような差が出るかというと、
被害者が子供だからという点もありますが、職業ドライバーでこのあたりの地理を知っていて、学校や住宅があることからすれば、死角から子供が飛び出すのは予見可能という判断です。
両者が矛盾するのでは?と質問されたのですが、要は「前提」が違う。
「飛び出しが予見される状況を知っていた」なら信頼の原則は適用されませんから。
ちなみに先日、歩車分離信号についてコメント頂いたのですが、あれも必ずしも優れているとは言い難い面があって、歩行者の信号待ち時間が増えるので信号無視が多発します。
実際、ある交差点ではまあまあ信号無視する歩行者を見かけますが、幹線道路なら信号無視が起きない(無視して進行することが事実上不可能。爆死します)。
片側一車線道路だと信号無視はまあまあ見かけますが、ルールを守る前提なら安全、ルールを守らない人が増えたら無法地帯化。
必ずしも安全につながるわけではない気がします。
やってみないとわからない面があるのです。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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