時々こんな意見を見掛けます。
それをすると事故多発します。
そもそも、横断歩道における安全と円滑とは何を意味するのでしょうか。
Contents
横断歩道における「円滑」とは
まず現在の道路交通法のおさらい。
横断歩道や付近における義務を確認します。
歩行者の義務 | 車両の義務 |
付近に横断歩道がある場合、横断歩道を使う義務(12条1項) | 横断しようとする歩行者を優先させる義務(38条1項) |
付近に横断歩道がない場合、車両の直前直後横断禁止(13条1項) | 信号に従う義務 |
信号に従う義務 |
※他にも義務はありますが割愛。
これをイメージにするとこう。
横断歩道の付近とは、おおよそ横断歩道から30~50mの範囲。
なので事実上、この領域は横断禁止と言えます。
さて。
横断歩道を横断しようとする歩行者には、信号を守る義務以外はありません。
いい・悪いは別にして、横断歩道を横断する際は車両の直前直後横断すら禁止されていない。
つまりは「きわめて強い優先権」を歩行者に与えている。
もしもですが、「横断歩道は車が優先」と決めたとします。
何が起きると思います?
横断歩道に行っても優先されないなら、みんな好き勝手に横断し出すのは目に見えています。
だって、横断歩道で横断することと、それ以外の場所で横断することに「差」がないのだから。
わざわざ横断歩道に行く理由がない。
つまりは乱横断の嵐になる。
「横断歩道は歩行者優先」と決めてしまい、横断歩道以外の場所と「差」をつけるとする。
そうすれば、横断歩道を使う人が増えて、歩行者が横断する「位置」が一定になるでしょ。
乱横断しまくりな状態から、歩行者の横断する位置を一定にする。
これが「円滑」ですよ。
歩行者がいつどこで横断するかわからないなら、車両の運転者はその都度停止して事故を回避しなくちゃいけなくなり、「円滑」とは程遠い。
なので歩行者が横断する位置を、横断歩道の付近(両側合わせて60~100m程度)では「ここ」と定めて「円滑」と「安全」を両立させたわけ。
横断歩道は車優先にすると、まともに運転できなくなると思いますよ。
いつ歩行者が横断するのかさっぱりわからなくなるし。
しかも、歩行者が横断したために、いきなり先行車がワケわからない位置で停止したら、後続車もビビるでしょ。
つまり、車両側からしても停止する位置を決めることにより「円滑」と「安全」を両立する。
同じ商品を買うのに、40m先のスーパーだと200円、目の前にあるスーパーだと1000円するなら40m先のスーパーまで行くでしょ。
横断歩道における歩行者の特典を増やして、歩行者を横断歩道に集客したのが今の道路交通法。
交通整理の行なわれていない横断歩道においては、横断歩行者はきわめて強い優先権を有し、いつ横断を開始してもよいと同時に、その横断のしかたに関しても、必ずしも通常の速度でのみ歩行しなければならないものではなく、走る方法で横断することも―それが現在の交通の実態からみて当該歩行者にとり危険なときもあることは別として―別に禁ぜられているところではなく、現にそのような横断も往々にして行なわれているのであるし、ことに小児の場合、走つて横断することの多いことは、好むと好まざるとにかかわらずわれわれの経験上明らかなところである。そして、このように横断歩道上における歩行者の自由な横断を許し、歩行者にきわめて強い優先権を認めることは、そもそも横断歩道なるものが歩行者の安全かつ自由な横断と車両の円滑な交通との調節点として案出されたものであつて、横断歩道が設けられた場合には法はその附近で歩行者の横断を禁止する反面、横断歩道によつて横断する場合には車両の直前または直後で横断してもよいこととし、その他横断の方法につきなんら制限を規定せず、他方横断歩道を通過しようとする車両等に対しては前記の一時停止義務のほか諸種の制限を設けていることに徴しても明らかだというべきである。
東京高裁 昭和46年5月31日
歴史をみれば明らか
道路交通法以前の道路交通取締法時代は、車両が横断歩道で一時停止する義務すらなく、歩行者は横断歩道だろうと車両の直前直後横断は禁止されてました。
昭和35年に道路交通法が成立し、やっとこういう規定になった。
昭和35年(71条3号)
第七十一条
三 歩行者が横断歩道を通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。
昭和35年時点では一時停止又は徐行の二者択一。
しかも「横断している歩行者」に対してのみ。
乱横断が減らないので、さらに歩行者の特典を増やしたのが昭和38年。
第七十一条
三 歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。
対象 | 義務内容 | |
昭和35年 | 横断している歩行者 | 一時停止又は徐行 |
昭和38年 | 横断している歩行者と、横断しようとする歩行者 | 一時停止し、かつ、妨害禁止 |
昭和42年 | 38条に移行 | 38条に移行 |
どんどん歩行者特典を増やしていった歴史がありますが、理由はシンプルで
「乱横断が減らないから」
横断歩道を車優先にしたら、昭和35年以前に戻るだけです。
横断歩道における「円滑」って、要は歩行者の横断する位置を一定にして、車両が停止する位置も一定にすること。
みんな好き勝手に横断してその度に車両が停止していたら、円滑とは程遠い世界が来るよ。
しかも車間距離を開けてない車が後ろから突っ込んできたり、空気読めなくて停止車両を追い抜きして事故りまくりとか。
だから、歩行者が横断する位置と車両が停止する位置を決めたほうがはるかに円滑。
現行法では以下の規定がありますが、
せっかく横断歩道直前という停止位置を決めたのに、空気読めない方々が多かったことから昭和42年に新設された規定。
もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。
警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月
ルールって、一応は意味があって規定されているわけなので、どういう歴史や背景からできたのか考えたほうがいいと思う。
歩行者特典を増やして、歩行者の横断位置を一定にしたかったワケなので。
歩行者の横断位置が一定になれば、車両の停止位置も一定になるでしょ。
これが円滑と安全の調和点。
クルマは急に止まれないというけど、止まる位置を最初から明確にしておけば停止に備えることができます。
いつどこで歩行者が横断するかわからないなら、まともに運転なんてできないでしょ。
つまり、円滑にはならないのです。
車両が停止する位置と、歩行者が横断する位置を一定にして円滑と安全を達成したいのにね。
なお、自転車もちゃんと横断歩行者を優先させましょう。
鼻歌まじりに自転車漕いでいて、いきなり歩行者が横断開始したらびっくりするでしょ。
停止する位置は先に決めてあるのですよ。
しかも、横断歩行者がいないなら止まらなくてもいいルールにして「円滑」もあるのだし。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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