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自転車ヘルメットの「努力義務化」は、事故時の過失割合に影響するか?判例から検討。

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自転車ヘルメットの「努力義務化」によって、事故に遭った際にノーヘルが過失になる可能性があるという報道がいくつか出ています。
実際のところ既にいくつかの自治体では「ヘルメットの努力義務」が定められていますが、判例から検討してみます。

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ノーヘルを過失とする根拠

事故に遭った際の過失とは「注意義務違反」全般を指しますが、「損害拡大防止義務違反」という考え方があります。
要は「ヘルメットを被っていたら、もっと被害は少なかったよね?」というところを過失にする考え方。

 

今は原付は「ヘルメットの着用義務」になっていますが、昔は努力義務でした。
原付のヘルメットが「努力義務」だった時代にこのような判例があります。

 

判例は大阪高裁 昭和63年9月30日。
直進普通貨物自動車(被控訴人)と右折オートバイ(控訴人)の事故ですが、オートバイはノーヘル。

控訴人は右折を完了するまでの間、道路交通法(以下「法」という)37条に基づき、当該交差点において直進しようとする車両の進行妨害をしてはならない義務を負い、本件加害車両が右直進しようとする車両にあたることは明らかであつて、右『進行妨害』とは相手車両がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、進行を継続し、又は始めることをいうところ、右事故時の状況によれば、加害車両の進行方向(西行)の信号機が青であり、かつ優先道路であるから、青の間は直進車両が右折車に優先すると考えて速度を減ずることなく(法36条4項の一般的注意義務に反し)進行してくることは当然予測されるところであり、しかも、加害車と控訴人がその通過を待つた先行車の間隔がわずか約10メートルであり、その手前の第二車線には停滞車があり第一車線左側の見通しが十分でなかつたにも拘らず、控訴人は右先行車通過後を漫然車間をぬけるような態様で右折しようとし、後続加害車両をして急制動をやむなくせしめたが、間にあわず、本件衝突に至つたというのであるから、控訴人の法37条違反の程度は著しいというほかなく、さらに法71条の3、2項に反してヘルメツトを着用していなかつたため前認定の頭部の傷害の程度が着用の場合より大きくなつたことは容易に推認されるところであるから、控訴人の本件事故原因と損害発生についての注意義務違反は著しいというべきである。他方、被控訴人の方にも前記の一般的前方注視、安全運転義務違反があつたところ、もともと直進車両は法37条の反射的効果として先行順位を与えられているから、同法に著しく違反して右折して来る右折車を常に予測して右先行順位を放棄するに等しい行動を求めることは相当でなく、前認定のハンドル操作と急制動の始期に照らせば、右義務違反は極めて軽微というべきである。以上のところとその他本件にあらわれた諸般の事情によれば、加害車両が被害車両より、一般的にみて危険度の高い普通貨物自動車であることを考慮しても、過失割合は、人損につき控訴人70パーセント、被控訴人30パーセント、物損につき控訴人60パーセント、被控訴人40パーセントと認めるのが相当である。

 

大阪高裁 昭和63年9月30日

この事故は昭和59年。
昭和59年当時の71条の3第2項って、原付ヘルメットの「努力義務」なんですね。

2 原動機付自転車の運転者は、乗車用へルメットをかぶつて原動機付自転車を運転するように努めなければならない

原付ヘルメットが義務化されたのは、昭和60年改正道路交通法。

 

なので努力義務の時代からノーヘルを過失にする考え方はあったと言えます。
人損と物損で過失割合を変えていますが、ノーヘル分は10%と捉えていると理解できます。

自転車のノーヘルは過失割合に影響するか?

現状(令和4年改正道路交通法施行前)では、児童と幼児にヘルメットの努力義務があり(道路交通法63条の11)、その他は自治体の条例でヘルメットの努力義務があるのみ。

(児童又は幼児を保護する責任のある者の遵守事項)
第六十三条の十一 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児を自転車に乗車させるときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない

神戸地裁 平成31年3月27日

自転車年齢 努力義務の有無
12歳 道路交通法63条の11により努力義務

児童・幼児の保護責任者に対し、なお、道路交通法63条の11(本件事故当時は平成25年法律43号による改正前の同法63条の10)は、努力義務として、当該児童・幼児のヘルメットの着用を定めているにすぎないし、本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、ヘルメットを着用していなかったことを不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない

 

神戸地裁 平成31年3月27日

児童のヘルメット努力義務の存在は認めつつも、一般的していないとして過失とはしていません。
なお、神戸地裁 平成31年3月18日判決についても同様の判断(被害者は3歳)。

大阪地裁 令和元年10月31日

自転車年齢 努力義務の有無
8歳 道路交通法63条の11により努力義務

本件においては、双方に過失が認められるが、本件事故が横断歩道上の四輪自動車と自転車の事故であること、原告が本件事故当時8歳であったこと、原告が横断歩道の横断を開始する時点で被告自動車が同横断歩道に入っていたと考えられること等の事情を考慮し、原告の過失を10%とするのが相当である。なお、原告は、本件事故当時ヘルメットを装着していなかったと認められるが、児童のヘルメット装着が定着しているとはいえない情勢に照らすと、この事情は過失割合の認定においては影響を及ぼさない。

 

大阪地裁 令和元年10月31日

東京地裁 令和4年8月22日

自転車年齢 努力義務の有無
成人(ロードバイク) 東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例19条により努力義務
第十九条 自転車利用者は、反射材、乗車用ヘルメットその他の交通事故を防止し、又は交通事故の被害を軽減する器具を利用するよう努めるものとする

原告は、自転車横断帯を走行していたとはいえ、本件交差点を左折して自転車横断帯に進行してくる車両の有無、動静に注意して進行すべき義務があり、被告車両の動静を注視していれば、減速ないし停止することで本件事故を回避できたといえるから、これを怠った過失があるといえる。そして、ヘルメット着用の有無についても、条例上は努力義務に留まるものの、原告が、本件事故によって実際に頭部を負傷したことを踏まえると、ヘルメットを着用していれば、被害を軽減できた可能性も否定できず、原告の過失を考慮する際の事情といえる

 

東京地裁 令和4年8月22日

自転車横断帯事故の基本過失割合は5:95なので、ノーヘル分は5%なのかと推測します。
判決文では自転車の過失が10%なので。

ヘルメットを正しく着用していなかった場合

若干変わり種かもしれませんが、オートバイ(ヘルメット着用義務)についてヘルメットを被っていたものの、紐がきちんとしてなかった場合の判例があります。

 

広島高裁平成17年6月16日判決は、オートバイに乗る被害者のヘルメットの顎紐の扱いが不適切だったため、事故で頭部を損傷した際にヘルメットが脱げた形になりました。
ヘルメットとして機能していないわけで、過失としています。

ヘルメットのあごひもの装着が十分であれば、経験則上、傷害を相当程度軽減できたと認められるから、控訴人の過失が損害の発生・拡大に寄与したものとして、10%の過失相殺を認めるのが相当である。

 

広島高裁 平成17年6月16日

自転車のノーヘルは過失になるか?

今のところ自転車が被害者で頭部を損傷した事例について、ノーヘルを過失にした判例はほとんどありません。
児童については道路交通法上で既に努力義務になっていますが、「児童のヘルメット装着が定着しているとはいえない情勢」や「一般的ではない」などの理由から過失とは捉えていない。
ノーヘルを過失にした判例についても、判決文には書いていないものの「ロードバイクだから」という事情を考慮した可能性もあるので、今のところ自転車のノーヘルが必ず過失になるとも言い難い気がします。

 

なので現時点では、こんな感じ。

改正道路交通法により「努力義務」になっても、裁判官次第っす。
今までの傾向から見ると、たぶんノーヘルは過失にはならない、もしくは5%程度?

まあ、ヘルメットが過失になるかどうか?についてなんですが、私の考え方では「そこが大要素ではない」と思ってまして、事故らないように交通法規を遵守するほうがはるかに大要素。
信号無視して事故に遭い、ノーヘルで頭部を損傷して「なぜノーヘルが過失になるんだ!」と騒ぐなら、そもそも信号を守れば何も起きない話でしかない。

 

自爆転倒でノーヘル分が減算される…とも正直考えにくい。

 

あとは様々な情報を検討して、ヘルメットを被るかどうかは自分で判断するものでしかないと思っていますが、正確な情報もないまま検討するのと、正確な情報を元に検討するのもやはり違う話。
例えばこちらでは、ノーヘルが職務質問の対象だとしていますが、

 

ヘルメット→警察利権まで考える。
なかなか凄いよね。交通行政はそもそも警察の巨大利権である。運転免許証の更新や交通標識の設置などに投入される巨額予算は警察に群がる業者を潤わせ、警察官の天下り先を拡大させている。自転車用ヘルメットの義務化も、実際に着用する人が少ないとしても、...

 

ヘルメットの啓蒙活動の一環としてビラ配りで止められることはあっても、自転車のノーヘルは犯罪ではないので職務質問の対象にはできません。
まあ、利権だの話がぶっ飛んでいるので、そのまま受けとる人は少ないでしょうけど。
私が全力で妄想した結果、ヘルメットの利権争いにより東京都町田市が神奈川県に占領されピーポくんが多摩川の橋を爆破するところまではわかりましたが、そこから先は無理でした笑。

 

ヘルメットを被ることについて「むしろ危険になる」という説もありますが、仮にそうだとして「自転車全体の危険」と「各個人の転倒時における衝撃緩和度」はそもそも別問題ですし、論点が違う問題を同列に扱うほうが不自然だと感じます。
全体の事故数が減ることと、自分が頭部を打ち付けた場合の緩和度は別問題。

 

怪しい理論も多々登場していますが、結局は自己責任でしかない努力義務。
自分で考えて決めるしかないよね。

 

とりあえず言えることとしては、事故った後のことも大切といえば大切ですが、事故らないように法規を遵守することのほうが先なんじゃないかと。
赤信号無視してもヘルメットさえあれば無敵…なわけもないし、逆走してもヘルメットさえあれば無敵…になるわけじゃないので。

 

まあ、ネット上では「努力義務」が「義務」だと勘違いしている人がまあまあいることに驚きます。
私としては「努力義務化」は必要性を各自考えるきっかけ作りなんだと考えていますが、他人がどうとかではなく自分で考えましょう。


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