うーむ。
「ながら運転やフラフラ運転の自転車を追い抜く際、クラクション使用せず追い抜きで事故になった場合、義務違反の警音器吹鳴義務違反で過失が加算される」という意見について「警察に聞きました!」との内容。
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裁判所に聞きました
実際のところでいうと、ながら運転やフラフラ自転車を追い抜きする際には警音器を吹鳴する義務があるとした業務上過失致死傷の判例(今でいう過失運転致死傷)はそれなりにあるのが実情。
○50センチ幅でフラフラ運転する自転車を追い抜きする際には警音器吹鳴義務があるとした判例。
所論一、は、本件被害者の自転車が、被告人車の前方で、急に1.5m右方に曲つて被告人車の進路に進出してくるようなことは、被告人にとつて予測しえないできごとに属し、したがつて、右被害者の無謀な走行を事前に予測して、被告人車がそのまま進行した場合における事故の発生を予見することは不可能であるとともに、被告人としては、右自転車が直進するものと信頼して自車を運転すれば足りたわけであつて、右のような事態を予見すべき義務もなかつたものであり、また、原判決が判示する警音器の吹鳴は、危険を防止するためにやむをえないとき以外はこれを禁止している法の趣旨に照らして、本件の場合その吹鳴義務はなく、さらに、予見可能性がなければ当然減速の義務もないことになつて、結局、本件については被告人に過失が存在しなかつたにもかかわらず、その過失を認めた原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認と法令の解釈適用の誤りがあるというものである。
(中略)
被告人は、所論のいう被害者の自転車が急に右方に曲つた地点までこれに近接するより以前に、これと約62メートルの距離をおいた時点において、すでに自転車に乗つた被害者を発見し、しかもその自転車が約50センチメートル幅で左右に動揺しながら走行する自転車を追尾する自動車運転者として、減速その他何らかの措置もとることなく進行を続けるときは、やがて同自転車に近接し、これを追い抜くまでの間に相手方がどのような不測の操作をとるかも知れず、そのために自車との衝突事故を招く結果も起こりうることは当然予見されるところであるから、予見可能性の存在は疑うべくもなく、また、右のような相手方における自転車の操法が不相当なものであり、時に交通法規に違反する場面を現出したとしても、すでに外形にあらわれているその現象を被告人において確認した以上は、その確認した現象を前提として、その後に発生すべき事態としての事故の結果を予見すべき義務ももとより存在したものといわなければならない。所論信頼の原則なるものは、相手方の法規違反の状態が発現するより以前の段階において、その違法状態の発現まで事前に予見すべき義務があるかどうかにかかわる問題であつて、本件のごとく、被害者の自転車による走行状態が違法なものであつたかどうかは暫くおくとして、その不安定で道路の交通に危険を生じ易い状態は、所論のいう地点まで近接するより前にすでに実現していて、しかもこれが被告人の認識するところとなつていたのであるから、それ以後の段階においては、もはや信頼の原則を論ずることによつて被告人の責任を否定する余地は全く存しないものというほかない。そして、被告人は、右のように、被害者の自転車を最初に発見し、その不安定な走行の状態を認識したさいには、これとの間に十分事故を回避するための措置をとりうるだけの距離的余裕を残していたのであるから、原判決判示にかかる減速、相手方の動静注視、警音器吹鳴等の措置をとることにより結果の回避が可能であつたことも明白であり、所論警音器吹鳴の点も、法規はむしろ本件のような場合にこそその効用を認めて許容している趣旨と解される。
東京高裁 昭和55年6月12日
○傘さし運転(ながら運転)で不安定な自転車を追い抜きする際には、側方間隔1mは問題ないが警音器吹鳴義務や徐行義務があるとした判例。
被害者は、不安定な状態で自転車を片手運転しており、しかも、前記のような坂道を登つていたのであるから、よろけたり、蛇行したりして、他の近接して走行する車両の進行を妨げ、接触事故を起したりする危険性が充分推認でき、現に蛇行するなど不安定な走行状態がみられたのであるうえ、被告人が本件事故現場に至る以前に前記(三)のように自車を道路中央部に寄せていても、(なお、被告人は、センターラインを越えた付近まで自車を寄せて走行し、道路南端と約2.8mの距離を保つていたことを考えると、被害者との間隔保持の点では被告人に注意義務違背があつたものとは解し得ない。)そのまま進行すると被害者を追い越す際の被害者との間隔は約1mしかないことになるのであるから、追い越す以前に警音器を吹鳴し、被害者に後続車のあることを知らしめ、道路左側にできるだけ避譲させるなどして、安全な状態で追い越しができるような態勢をとらしめると共に、自らも減速徐行し、被害者の走行状態に注意して臨機の措置をとり得るよう注意すべき業務上の義務があるものというべきところ、被告人は、前記のように警音器を吹鳴せず、減速徐行しなかったし、前記(三)のように同方向に進行する被害者を前方に発見しながら、前方道路を横断する警察官に気をとられ、再び被害者に目を向けた直後に、被害者が前記(四)のように急に右のハンドルを切つて道路中央に進出して来たためその衝突を避け得なかつたものである以上、被告人の右各業務上の注意義務違背にもとづく本件業務上過失致死の公訴事実は優に肯認できるといわなければならない。
昭和42年12月22日 高松高裁
道路交通法54条の内容は今と変わりません。
こういう判例について「古い判例だから」などと理由にならない理由を語る人もいますが、法改正又はこの見解を覆す判例(高裁判例以上)がない限りは理由にならない。
というよりも、平成になってからも警音器吹鳴義務違反とした判例はいくつもあるので、先行自転車がフラフラ運転しているなどの事情があるなら、クラクションを使うことが違反と捉えることは無理でしょう。
自転車がクラクションに気がついたにも関わらず、執拗に鳴らす等の事情があるなら別ですが。
これらの判例は、後続車が追い越し、追い抜きする際に先行自転車が「ノールック横断や進路変更、右折」をしたことにより追い抜き中の後車と接触や衝突した判例ですが、先行自転車の挙動が不安定=後続車の接近に気づいていないというところから警音器を吹鳴する注意義務を怠った過失だと導いています。
なお、民事責任については判例で警音器吹鳴義務違反として過失にしている判例はまあまああるのが実情。
しかし
クラクションを使うことが違反にならないにしても警察的には「鳴らすな」になります。
理由はシンプルで、
トラブルが大きくなるから。
無駄な揉め事を増やすなという程度の話ですが、人間が生きていく上では大事ですよね。
「追い抜きしない」という選択肢を使い、しばらくナマ温かく見守るほうがマシ。
違反にはならないけど必ずしも推奨できないプレイなんていくらでもありますが、そういう話になるかと。
なお、クラクションを使って自転車が左側端に避譲しても十分な側方間隔が取れない、もしくは自転車が側溝上等不安定な位置に避譲した場合には追い抜きを差し控えるべき注意義務があるとした判例があります(昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷)。
「警察に聞きました」
「警察に聞きました」系について思うのですが、根拠の「ごく一部」にはなり得ます。
ただしそれが全てだと思っているとたいがい間違います。
38条2項の解釈を警察本部に聞いたら、全員不正確ですよ笑。
こちらなんてズタボロ。
法解釈について検討するとき、解説書(複数)、判例(複数)、立法当時の資料等をまず見ていくべきで、警察本部については参考程度に考えたほうがよい。
なお、「警察庁」については道路交通法解釈の質問には回答しません。
フラフラ運転の自転車を追い抜きする際にはクラクションを使う義務を認めた判例なんて普通にある。
執拗な使い方じゃなければ問題にはなりませんが、あくまでも法律上違反にならないだけで、人間関係はトラブルになるリスクがあるんですね。
法律を守っていりゃ全て問題なしではないし、その後何が起きるか考えた場合には「使わないほうがよい」となるだけ。
しかしまあ、警察に聞きました系ってなんでこんなに回答がおかしくなりがちなのかも不明です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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