昭和の判例ってなかなか不思議な事故が多い気がしますが、若干この記事にも関係します。
道路交通法54条2項は危険を防止するためにやむを得ないときにはクラクションを使っていいルール。
業務上過失致死傷(過失運転致死傷)の判例では、警音器を使わなかったことを過失として有罪にした判例はいくつもありますが、こんな判例があります。
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3車並走に
判例は東京高裁 昭和41年5月23日。
業務上過失致死傷の判例です。
事故現場。
片側7.55mの道路で、都電の軌道敷があるみたいですが正確な位置はわかりません。
先のほうに工事現場のバリケードがあります。
被告人車(青)は時速30キロで進行中、2人乗りの原付が左折してきました。
被告人は警音器を鳴らし、1mの側方間隔をおいて追い抜きしようとしました。
ところがここで、さらに後続車が被告人車を追い越ししようとしたため、3車が並走状態に。
さらにこのタイミングで対向から都電が迫ってきたため、追い越し中の緑車がハンドルを左に切った。
(たぶん都電の位置はもうちょい左側だと思うけど)
そのため被告人車(青)も左にハンドルを切ったわけですが、2人乗りの原付に衝突したという判例です。
もう、なんちゅう事故なんでしょうね。
一審は被告人(青車)に無罪としてますが、東京高裁は有罪判決。
有罪の理由は、「何ら警音器を鳴らさず且つ減速の措置を取らなかったこと」。
要は前方にバリケードがあり2人乗り原付が右に進出することは予見可能だし、3車が並走状態を認識していたし都電の関係から緑車が左に戻ることも予見可能。
原付が避譲すると軽信せずに警音器で警告し減速すべきだったとの判断です。
27条2項の趣旨からすると「先に原付を行かせる義務」(検察官の主張)は無いとし、緑車については二重追い越し(29条)の過失があるとして、三者の過失が競合して発生した事故としています。
業務上の警音器吹鳴義務違反を認めた判断の一つと言えますが、現実問題としては3車並走状態に陥った以上、前方のバリケード、対向の都電を考えると真ん中にいる被告人車が減速して原付を先に行かせるくらいじゃないと事故は回避できない。
まあ、そもそも緑車がこのタイミングで追い越しした点に大問題がありますが…
このあたり、昭和の雰囲気を感じさせる事故とも言えます。
原付は2人乗りな上、最初の追い抜き前にクラクション鳴らしても何ら反応を示してないわけで、この時点で警戒度を高めるべきだったとも言えます。
警音器を吹鳴する注意義務違反を過失とした判例(業務上過失致死傷)はいくつかありますが、警音器吹鳴義務違反のみを過失認定した判例は…たぶん無い。
前方不注視+警音器吹鳴義務違反、減速する義務+警音器吹鳴義務違反みたいな過失認定になるのかな。
警音器吹鳴義務違反
ほかにも警音器吹鳴義務違反として有罪にした判例はいくつかありますが、
業務上過失致死傷(過失運転致死傷)は、
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
道路交通法違反のみを指すわけではなく、必要な注意を怠り死傷事故を起こすことを犯罪としてます。
なので警音器を鳴らせば防げた事故だと判断された場合には、警音器吹鳴義務違反による過失となる。
まあ、何ら動揺性がない自転車を追い越しするときに鳴らすのは違反ですが、明らかな動揺性が見られる自転車を追い越しする際には警音器吹鳴義務があったとしている判例もあるわけですが(東京高裁 昭和55年6月12日)、今の時代はトラブルになるだけだし、「追い越しを控えて様子見」のほうが賢明だと思う。
警音器を使うことがすぐに違反にはならなくても、違反にならないことが必ずしもベストなプレイにはならないことは言うまでもなく。
冒頭の判例にしても、2人乗り原付という時点でなるべく関わらないように追従するほうがマシなんでしょうね。
こういう事故が発生した場合、民事の過失割合がどうなるのかもわかりませんが、緑車が最も過失が大きい…のか?
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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