先日の記事。
この中で引用した、東京高裁 昭和50年10月8日判決について質問がありましたので。
Contents
東京高裁 昭和50年10月8日判決
この判例は道路外に左折する大型車と、後続直進車の衝突事故。
若干特殊な事情があります。
まず事故態様。
大型車は道路外に左折するために、車道左側端から1.5mの位置で停止してました。
対向右折車を先に行かせてから左折しようとしたようです。
後続直進オートバイは車道左側端から1mの位置を時速45キロ(制限速度40キロ)で進行。
この際、オートバイは運転免許条件のメガネを掛けておらず、先行左折車を100m手前で現認していた。
大型車が左折を開始した時点でのオートバイとの間隔は約30m。
オートバイは時速45キロ程度のまま減速なし。
何を問題にしているかというと、この規定の解釈。
第二十五条
3 道路外に出るため左折又は右折をしようとする車両が、前二項の規定により、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。
要は先行左折車が左折合図を出して停止していた時点でオートバイは100m後方にいたわけなので、25条3項が適用されオートバイは左折車を妨害してはいけないはずなので、信頼の原則から後続オートバイを予測して注意する義務はないのでは?と控訴したわけです。
25条3項は「合図をした時点」での後続車の注意義務になる。
100m後方で左折合図を現認したなら、左折車が優先のように読めるからです。
控訴する際、交差点での左折に信頼の原則を適用した最高裁判所第三小法廷 昭和45年3月31日判決を引き合いに出してます。
そして、本件のように、技術的に道路左端に寄つて進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路左端との中間に入りこむおそれがある場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路の左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、たとえば、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、その側窓から首を出す等して左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務があるとは解せられない
最高裁判所第三小法廷 昭和45年3月31日
まず、大型車が左折する前に「できる限り左側端に寄り」(25条1項)を果たしていたか?
これについては違反ではないとしています。
被告人車が道路外に出るため左折しようとして、被告人車の左側と道路左側端との間に約1.5メートルの間隔を置いてその準備態勢に入つたことは、前記入口付近の道路状況と被告人車の車体の構造からみて、これ以上道路の左側端に寄つたうえ左折することに技術上の困難が伴うため、やむを得ない措置であつて、道路交通法25条1項に違反するものではないといわなければならない
東京高裁 昭和50年10月8日
次に問題になるのは、左折合図を出した時点で100m後方にいたオートバイとの関係。
25条3項が適用なのか、25条の2第1項が適用なのか?
第二十五条
3 道路外に出るため左折又は右折をしようとする車両が、前二項の規定により、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
これについては、
②10秒間停止していたこと
2つの特殊性から、合図を出していたから左折車が優先とはできないとしています。
本件のように、被告人車の左側に後方から来る二輪車が進路を変更することなく進入可能な間隔を残しており、しかも対向車の右折を待つため約10秒間停止したのちに左折を開始しようとする場合には、あらかじめ左折の合図をし、これを続けていても、右合図の趣旨や一時停止の理由が後進車両に徹底しないおそれがあるから、被告人車と後進車との優先関係を判断するにあたつては、当初の左折合図の時を基準として判断すべきではなく、被告人車が一時停止後左折を開始しようとする時点において、一時停止中に生じた後進車の進行状況をも含め、あらためて道路交通法25条3項と同法25条の2第1項とのいずれが優先的に適用されるべき場合であるかを決するのが相当である。この見地からみると、前記事実によれば、被告人車が左折を開始しようとした時点では、すでにA車はその左後方約30メートルないしそれ以下(被告人車の前部から)の近距離にあつたものと推認されるから、被告人車が左折を開始すればA車は衝突を避けるためその進路又は速度を急に変更しなければならなくなる(それでも衝突はほとんど不可避である)ことが明らかであり、したがつて本件は、同法25条の2第1項が優先的に適用されるべき場合であると認められる。即ち、被告人車がこの時点で左折を開始することは「他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがある」ことになるから、被告人車はA車の通過を待つたうえでなければ発進が許されなかつたといわなければならない。
東京高裁 昭和50年10月8日
25条3項をそのまま読めば、左折合図を出していた大型車と100m後方のオートバイでは大型車が優先になるものの、2つの特殊性から
被告人車と後進車との優先関係を判断するにあたつては、当初の左折合図の時を基準として判断すべきではなく、被告人車が一時停止後左折を開始しようとする時点において、一時停止中に生じた後進車の進行状況をも含め、あらためて道路交通法25条3項と同法25条の2第1項とのいずれが優先的に適用されるべき場合であるかを決するのが相当
としたワケ。
ほぼ同様に判示した判例に東京高裁 昭和46年2月8日判決があります。
こちらは交差点での左折車と直進車の事故です。
交差点で左折前に30秒ほど信号待ちをしていた大型車と、信号待ちしている間に自転車が左側に進入していた事故。
30秒間停止していたことと、左側端1.0m空けていた特殊性から以下のようにしています。
道路交通法34条によつて運転者に要求されているあらかじめ左折の前からできるかぎり道路の左側に寄らなければならないということにも運転技術上の限界があるため、被告人は自車の左側が道路の左側端から約1mの地点まで車を寄せるにとどめて進行し、赤信号によつて交差点の手前で約30秒の間一時停止したものであること、この運転方法は技術的にやむをえないところであるけれども、車幅は2.46mであるから、これによつて車両はかろうじて道路の中央線内に保持できるわけであるとともに、自車の左側1mの間に軽車両や原動機付自転車が進入してくる余地を残していたものであること、右位置において左折に入る場合においても一旦ハンドルをやや右にきりついでハンドルを左にきりかえして道路一杯になつて大曲りしなければ左折できない状況であつたことを認めることができる。そして、本件の足踏自転車が何時交差点の手前に進入してきたか、被告人車両との先後関係は記録上必ずしも明確でないところであるけれども、被告人が交差点の手前で一時停止するまでには先行車両を認めていないことに徴すると足踏自転車は被告人の車両が一時停止してから発進するまで約30秒の間に後ろから進入してきたものと推認されるところ、被告人は平素の運転経験から自車前部の左側部分に相当大きな死角(その状況は当裁判所の事実の取調としての検証調書のとおりである。)が存することは熟知していたのであり、しかもその停止時間が約30秒に及んでいるのであるから、その間に後ろから軽車両等が被告人車両の左側に進入しその死角にかくれることは十分予想されるところで、運転助手を同乗させていない本件のような場合は、右一時停止中は絶えず左側のバツクミラーを注視するなどして後ろから進入してくる軽車両等が死角にかくれる以前においてこれを捕捉し、これとの接触・衝突を回避するため適宜の措置をとりつつ発進、左折する業務上の注意義務があるのであつて、単に方向指示器をもつて自車の進路を示し、発進直前においてバツクミラーを一瞥するだけでは足らないものと解すべきである。
なぜならば、左折の方向指示をしたからといつて、後ろから進入してくる直進車両や左折車両が交差点に進入するのを防ぐことができないばかりでなく、後進してきた軽車両等か被告人車両の左側から進めの信号に従つて直進しもしくは左折することは交通法規上なんらさまたげないところであり、この場合はむしろ被告人車両のほうでまず左側の車両に道を譲るべきものと解されるからである。
昭和46年2月8日 東京高裁
適切な左折動作に入った後に信頼の原則を適用した最高裁判例との整合性が問題になりますが、以下のようにしています。
この点に関しては、昭和43年(あ)第483号同45年3月31日最高裁判所第三小法廷判決が、本件ときわめて類似した事案において、「本件のように技術的に道路左端に寄つて進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路左端との中間に入りこむおそれがある場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路の左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、たとえば、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、その側窓から首を出す等して左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務があるとは解せられない」として一、二審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しているところである。そこで右判例の事案における事実関係と本件の事実関係と対比検討してみると、前者は車幅1.65mの普通貨物自動車であるのに対し、後者は2.46mの車幅を有する前記のような長大かつ車高の高い大型貨物自動車であるから、したがつて死角の大きさにも著しい相違があると推測されること、前者は信号まちのため瞬時停止したに過ぎないのに対し、後者は信号まちのため約30秒間停止したものであるから、その間に後進の軽車両等が進入してくる可能性はより大きいといえること、したがつてバツクミラーによつて後ろから進入してくる軽車両等を死角に達するまでに発見して適切な措置をとる必要性がより大きいことにおいて事実関係に差異があると認められる。そして、以上の諸点と、本件のような長大な車両と軽車両とが同じ路面を通行する場合において、両者が接触すれば被害を被むるのは必らず軽車両側であることに思いをいたせば、本件の場合長大かつ死角の大きい車両の運転者に死角に入る以前において他の車両を発見する業務上の注意義務を課することは、公平の観念に照らしても均衡を失するものとはいえず、所論いわゆる信頼の原則に副わないものではなく、また前記第三小法廷の判例に反するものでもないと判断される。したがつて、原判決が安全確認の義務を怠つたとする判断は結局正当であるから、この点の論旨は理由がない。
昭和46年2月8日 東京高裁
②左側端1.0m開けていたこと
一定時間停止してから左折する&左側端を空けていたなら合図した時点で優先が決まるわけではないという話になる。
Twitterの件は
これについては、
左折直前の追い抜きをするクルマに問題があるのは当然のこと。
ただまあ、クルマもヤバいと思ったのか左側端を空けたまま一時停止して自転車を先に行かせようとした。
けどまともな自転車なら、左折直前に追い抜きするクルマを信用するわけもなくて、任意で一時停止せざるを得ない。
双方が一時停止した以上は優先関係がなくなるとは言え、そもそも左折直前に追い抜きしなければ双方が安全かつ円滑だったことは明らかな事例と言えます。
「クルマが自転車の進路を開けていたのだから、そのまま進めばいいじゃん」と言う人もいますが、
しかも自転車がそのまま進んで事故ったら、チャリカス扱いするんでしょ?
結果論で語るなよ…
似たような状況になったときに、左折車に謝られたことがあるのですが(窓が開いていた)、初心者マーク付けたクルマだったので単純に下手なんでしょう。
Twitterの状況についても、左折車が自転車の進路を開けて一時停止していた面だけはまだ評価できます。
アホならそのまま一時停止無しで歩道に上がるし。
双方停止状態に陥った以上、一言掛ければ済む話にもなりますが、根本的なところでいうなら
距離感をミスって追い抜きしたなら自転車の進路を開けて一時停止することになるとは言え、その前段階の問題でしかないと思う。
まあ、自転車のほうも何が問題なのか的確に指摘できてないし、わざわざネットに晒す問題なのかは疑問ですが。
「被せ左折」は二輪車殺しです。
クルマ同士でも、被せ左折されたらキレるでしょ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント