以前もチラっと書いた件。
こんな報道があったのでちょっと続き。
この事故は去年6月、福山市霞町の交差点で右折中の軽自動車と直進中のスポーツカーが衝突し、軽自動車に乗っていた当時9歳の小学生の女の子が死亡したものです。
軽自動車を運転していた祖父(63)と付近を歩いていた60代の男性も大ケガを負いましたが、スポーツカーを運転していた36歳の男性医師にケガはありませんでした。
警察が防犯カメラを解析するなどしたところ、男性医師が速度100キロ以上で車を走行させていたことが分かり、軽自動車の右折を妨害した危険運転致死傷の疑いで13日、男性医師を書類送検しました。
任意の調べに対し男性は容疑を認めているということです。
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警察は、周辺の防犯カメラやドライブレコーダーを確認するなど、捜査をした結果、福山市の医師の男性(36)が、推定速度100キロ以上の、進行を制御することが困難な速度で車を走行させるなどし、事故を起こした疑いがあるとして、危険運転致死傷の疑いで書類送検しました。
9歳の女の子が死亡 一般道を速度100キロ超で走行か… スポーツカーの医師(36)を危険運転致死傷の疑いで書類送検【動画ニュース】 | TBS NEWS DIG (1ページ)去年6月、福山市で軽乗用車とスポーツカーが衝突し、軽乗用車に乗っていた9歳の女の子が死亡した事故で、警察は、スポーツカーを運転していた医師の男性を危険運転致死傷の疑いで、書類送検しました。この事故は、… (1ページ)
Contents
進行制御困難な高速度
自動車運転処罰法の「その進行を制御することが困難な高速度」。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
以前もチラっと書いたように、「その進行を制御することが困難な高速度」とはコースの逸脱、つまりコーナーの限界旋回速度が目安とされます。
なので、まっすぐの道路をまっすぐ走っていただけならば成立しない。
これについては批判が多いですが、そもそも、立法時にそのように意図して規定した犯罪です。
(参考までに下記の名古屋高裁 令和3年2月12日判決参照)
ただし、限界旋回速度以下でも危険運転致死傷の成立を認めた判例ってあるにはあって、限界旋回速度に「近い」というところで有罪にしたのは以下。
・東京高裁 平成22年12月10日
・福岡高裁 平成21年10月20日
・福岡高裁 平成25年12月24日
・広島高裁 令和2年3月17日
地裁レベルだともうちょいあります。
一方、限界旋回速度を理由に危険運転致死傷の成立を認めなかった判例もある。
そんな中、こちらでも書いたように、
限界旋回速度から20キロ下でも危険運転致死の成立を認め、「限界旋回速度と進行制御困難な高速度は別の概念」としたのが東京高裁R4.4.18判決。
この判例、
限界旋回速度と「進行を制御することが困難な高速度」は異なる概念
とした上で以下の説示をしてます。
「進行を制御することが困難な高速度」とは、法的評価を要する規範的構成要件要素であるから、運転者において、このような評価を基礎付ける事実、すなわち、道路の状況及び「進行を制御することが困難な高速度」に該当する速度で走行していることの認識があれば、進行を制御することが困難であるとの認識がなくても、同号の罪の故意犯としての非難が可能である(その評価を誤ったとしても、故意は阻却されないというべきである。)。また、「進行を制御することが困難な高速度」に該当する速度で走行している認識があるというために、その速度について具体的な数値の認識まで必要とするものではないことは当然であり、自車の走行状況を概括的に認識していることをもって足りる。
限界旋回速度から20キロ下でも「制御困難な高速度」として危険運転致死の成立を認めた判例も出ていますが、冒頭の報道の件ってたぶん、コーナーリングの話ではなく対向右折車を避けきれなかった話ですよね。
あまりにバカな高速度だから避けきれなかった話だと思いますが、いまだにそのようなものは2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度」の対象にしていない。
これは立法時の説明からも明らか。
法制審議会刑事法部会第1回から第3回までの議事録を通読すると,その第2回会議では,立法担当者側から進行制御困難な高速度とはどのような場合かとの説明がされた際「したがいまして,このような制御困難な高速度に達していない場合であれば,例えば住宅街をそこそこの速い速度で走行いたしまして,速度違反が原因で路地から出てきた歩行者を避けられずに事故を起こしたような場合でありましても本罪には当たらない」旨の説明がされたこと,また,参加委員からの「道路が真っすぐであるか,幅がどの程度であるか,舗装が砂利なのかアスファルトなのかコンクリートなのか,あとはどの程度のアールで曲がっているのかということは具体的に勘案しなければ,あと,走っているのがポルシェなのかサニーなのかということは具体的に考えなければいけないことなんですが,他に歩行者がいるかどうか,それから他に車がいるかどうかこれは考えないという前提でなければ,私はいけないと思う」との発言に続けて,立法担当者側が「基本的には今おっしゃったことを念頭に置いて考えている」旨述べていること,さらに参加委員の意見としてではあるが「道路の客観的状況のほかに他の歩行者の在り方,それから他の車の在り方,それまで道路状況に含める含めないで相当変わってくるわけですね。そうすると,仮に歩行者,他の車まで具体的な道路状況の中に入れ込んで考えるというところまできて更に脇見をしたとしても,それは脇見との因果関係は認めませんとなると,際限なくこの条文が適用される範囲が広がってくるのではないかということになってこれは大変なことであるという感じをもっている」旨の発言があったこと,これもまた参加委員の意見として「法文にそんな言葉は使えないというご意見もあるかもしれませんが,例えば『制御することが物理的に困難な著しい高速度』と。『物理的』というのは,多分法文にはなじまないとは思うのですが,こういうような趣旨で,要するに今ここで議論になっているように,他の通行人の存在だとか,そういうものは基本的に含まない,客観的に車の性能,あとは客観的な道路状況との関係において制御困難であるということが明確に読み取れるような修飾語をどこかに付けていただけないかというふうに思います」旨の発言があったこと,その後に開催された第3回会議では,参加委員からの「確認になるのかもしれませんが,真っすぐな道を想定していただきたいと思うのですが,いわゆる何らかの対象を発見した後,その手前で正しく止まれないような速度で走っていたような場合には進行制御困難高速度には当たらないというふうな前回までのご説明だと思いますが,その点について変更がないか」との質問に対して立法担当者側は「その点は,変わりはございません。個々の歩行者であるとか通行車両があるということとは関係のない話でございます」と答えていることが認められる。この最後のやりとりについては,個々の歩行者や通行車両との関係で停止できなかったことをもって進行制御困難高速度に当たるわけではないことを述べたに過ぎず,「道路の状況」という要素に歩行者や他の走行車両を含まないという趣旨ではないとみる向きもあるが,要するに,立法担当者側は進行制御困難高速度に当たるかどうかの判断に際し,個々の歩行者や通行車両は考慮に入れないと述べているのであるから,それは「道路の状況」という要素に個々の歩行者や通行車両は含めないという議論と実質的に同じことを述べていると読むのが自然である。
そうすると,第3回会議までの立法担当者側の説明及び参加委員からの意見や疑問といった議論状況も踏まえ,かつ,立法担当者側は,一方で駐車車両もある意味で道路のカーブと同視できると述べていることとの対比からすれば,個々の歩行者や通行車両は進行制御困難性判断の考慮対象としては想定していない,すなわち,「道路の状況」という要素の中に歩行者や走行車両は含まれないとの考えに立っていると理解するのが自然である。したがって,立法担当者の発言の一部を踏まえて,「道路の状況」という要素に,駐車車両のみならず他の走行車両も含むとすることが立法者の意思であるとする所論には賛同できない。
名古屋高裁 令和3年2月12日
あまりに高速度過ぎて対向右折車を避けきれなかったような話を含まない前提で法制化したものなので、そろそろ法律自体を改正するか新設しない限りはやはり無理があると思う。
なお、冒頭の報道によると右折車側も「過失運転致死傷の疑いで書類送検」とあります。
一般論としてよく言われる道路交通法37条(右折車劣後、直進優先)については、直進側があまりの高速度の場合には適用されないので、書類送検といっても単なる形式的なものかと。
制限速度を大幅に越えた直進車は優先権がない。
あくまでも適法に通行する車両を優先する規定。
なお、東京高裁R4.4.18判決はこのような経緯で確定しています。
年月日 | 判決 | |
一審 | 宇都宮地裁H30.2.16 | 危険運転致死傷(有罪) |
二審 | 東京高裁H30.12.18 | 一審手続きの違法で差戻し |
差戻し後一審 | 宇都宮地裁R3.3.22 | 過失運転致死傷(有罪) |
差戻し後二審 | 東京高裁R4.4.18 | 危険運転致死傷(有罪) |
上告審 | R4.10.7 | 上告棄却(決定) |
滅多に成立しないザル法
「進行制御困難な高速度」についても毎回のように争いがあり、妨害運転罪にもある「通行妨害目的」にしても、やはり立証で苦しい。
このように立証が困難な理由は、そもそもザル法だからとしかいいようがないと思う。
「通行妨害目的」についても、こんな感じで争いがあるし、「通行妨害目的」については妨害運転罪でも同様の解釈なので、自動的に妨害運転罪までザル法扱いになっている。
市民感覚の「危険運転」と法律上の「危険運転」にはだいぶ隔たりがありますが、先日も書いたように煽り運転をした人の半分以上は「後悔してない」なんて言い放つ始末ですし、この国はどこに向かっているのでしょうか。
もうみんな、特定小型原付のように「強制MAX20キロ」にしたほうがいいのではなかろうか。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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