優先道路を通行していて、非優先側が一時不停止のままアタックとかさ…
【※危険映像注意】
死んでてもおかしくないと言われた事故から約2ヶ月が経ちましたが9:1の過失に納得がいかないのでこの場を借りてドライブレコーダーの映像を公開します………
法律上、走行中のことなので過失0はありえないのはわかってるのですが… pic.twitter.com/qBMqVqgUjB— アカツキ千夏📷新規依頼△ (@chinatsu_a_c) January 11, 2023
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0:100は不可能ではない
この場合、優先道路 対 一時不停止(非優先)なので基本過失割合は10:90なんですが、基本過失割合って優先側にも何らかの過失があることを前提になっていたりする。
実際のところ、優先側の無過失を認めた判例ってまあまああるのよね。
以前も書いたこちら。

控訴人車は、優先道路を進行していたのであるから、本件交差点を進行するに当たり徐行義務(道路交通法36条3項,42条)は課されておらず、問題となるのは前方注視義務(同法36条4項)違反である。前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等・・・に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい。すなわち、交通整理の行われていない交差点(本件交差点もこれに当たる。)において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(同法36条2項)、控訴人は、被控訴人車が控訴人車の進行妨害をする方法で本件交差点に進入してこないことを前提として進行してよく、前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。そうすると、優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。本件においては、前示の事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。
名古屋高裁 平成22年3月31日
一審(名古屋地裁 平成21年12月16日)は10:90ですが、控訴審は0:100。
そのほか、こちらでも書いた判例ですが、一時不停止の原付 対 優先道路の普通貨物車の衝突について、優先道路側の無過失を認めていたりする。

静岡地裁 昭和52年7月20日
原付(一時停止非優先道路) | 普通貨物車(優先道路) |
100 | 0 |
(一) 被告車の運転者である亡Bは、優先道路である県道を進行していたのであるから、交通整理の行われていない本件交差点の右側の見とおしが悪くとも、道路交通法第42条による徐行義務を負わない(最判昭和45年1月27日民集24巻1号56頁)ものと解すべく、しかも本件交差点の交通量が閑散であつた(前掲二第1号証の1によりこれを認める)ことを考慮すれば、同人が時速約36キロメートルで本件交差点に進入しようとしたことは、そのこと自体同人に過失があつたとすることはできない。
又、同人が原告車を発見したときの双方の位置及び交差点右側の見とおし状況を合せ考えると、同人は、原告車を発見しうる最初の時点においてこれを発見したものと認められるので、前方不注視の過失もなく、衝突を回避すべく急制動をかけた措置も適切と認められ、結局、同人には本件事故の発生につき過失がなかつたものとするのが相当である。
(二) 一方、原告車の運転者である亡Aは、交差点の手前に一時停止の標識が設けられていたのであるから、交差点直前の一時停止線において停止すべき義務(道路交通法第43条)があり、又交差道路が優先道路であるから、被告車の進行を妨げてはならない義務(道路交通法第36条第2項)があるにもかかわらず、そのいずれの義務も尽さず、本件交差点に進入した過失があり、本件事故はもつぱら同女の右過失によつて惹起されたものということができる。
4 なお、被告車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたとの抗弁事実は、原告らにおいて明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。
静岡地裁 昭和52年7月20日
そもそもよく言われる交差点安全進行義務。
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
「当該交差点の状況に応じ」なので、違反車両を予見して注意しろという話ではない。
優先道路側は徐行義務がないのだから、その前提において前方注視を果たし、交差道路から車両が進行妨害してきた際に急ブレーキを掛ければ事故を回避できた場合なのに回避しなかった(ちゃんと見ていればブレーキングで事故を回避できた)ようなものを「交差点安全進行義務違反(過失)」とみなすわけ。
もしくは、「何らかの特別な理由」により交差道路から違反車両が飛び出してくることが予見されたのに漠然進行した(信頼の原則が働かない特別な理由)場合を「過失」とする。
何の理由もなく、「動いていたから」とか「違反車両を予見して注意する」みたいな話ではない。
なんのために「当該交差点の状況に応じ」と条件付けしているのか理解してない人が多いですしね。
優先道路側は優先道路であることを前提に行動していいはずで、明らかに回避可能なケース以外は過失責任を求めるほうがおかしい。
36条4項(交差点安全進行義務)は昭和46年道路交通法改正時に新設された規定ですが、内容としては70条(安全運転義務)と同じです。
事故が起きたら必ず安全運転義務違反(交差点安全進行義務違反)が成立するわけじゃなくて、目に見えた状況に合わせて安全な速度と方法で進行しなかったことを違反とする。
優先道路 対 非優先(一時不停止)で0:100にした判例は他にもさいたま地裁 平成29年12月27日などいくつかありますが、本来はそうなるべきなんだよね。
ただし、無過失にするには無過失の証明がないと認めないという規定(自賠法3条)があることに注意。
無駄に細かく過失相殺する理由
やたら細かく過失相殺する理由は、民法709条と722条が理由。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
過失とは「予見可能な結果について、結果回避義務の違反があったこと」を意味するので、道路交通法違反を争うわけじゃないからです。
実際のところ、信号がない横断歩道でクルマと歩行者の事故が起きた場合、「基本」過失割合は100:0。
道路交通法上でも歩行者側に義務は規定されていませんが、民事上では歩行者にも過失を認めることがあります。
過失=予見可能なことを回避しなかったことなので、道路交通法違反の有無とは必ずしも関係しないからこうなる。

国によっては、交通事故の場合には「著しい過失」のみを過失とみなす特別法があったりするのですが、日本の交通事故で過失割合を「刻む」理由は、民法の規定そのまんま適用しているから。
道路交通法上に優先権が規定されてないから、みたいな話をやたらしたがる人もいますが、基本的に別問題です。
国によっては、人身部分(治療費)については基本的に全額カバーされ、物損についてのみ過失相殺するようなシステムもあるみたいですが、そういう国は道路交通法の優先規定そのまんまで過失割合が決まるようなシステムだったりするらしい。
民事法の概念がその国の道路交通に関する概念を決めるような側面がありますが、優先道路 対 非優先道路の事故でも0:100を認める判例はまあまああるのよね。
けど、示談交渉で0:100にまとまる可能性はかなり低いでしょう。
裁判って無駄に時間と手間が掛かりますし、「裁判するよりも10:90で折れたほうがラクなんじゃね?」みたいな雰囲気に持ち込むこともある種の交渉術なんでしょうし、裁判したから必ず0:100になる保証もない。
下記判例なんかも、示談交渉で提示された過失割合に不満があって裁判に持ち込んだら、なんとびっくり。
被害者過失100%の判決になってしまったわけで、示談でまとめていたほうが良かった話と言えますし。


2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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