これが38条の2に違反することについて、異論がある人はいないと思う。
第三十八条の二 車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。
横断歩道の場合とは異なり、歩行者には「直前直後横断禁止」があり、一方、車両には減速接近義務(38条1項前段)がない。
ところで仮に、この歩行者がタイミングを誤って直前横断した場合にはどのように考えるかについて検討してみます。
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仮に「直前横断」した場合
38条の2は優先規定の一種ですが、優先規定はあくまでも適法に通行する者を対象にするという考え方なので、仮に直前横断の場合には38条の2の義務があるとは解釈されません。
ただし、過失運転致死傷罪は有罪になります。
「過失」って道路交通法の義務とは必ずしも関係なくて、予見可能な事故を回避しなかったことを意味します。
歩道上で高齢者が車道に向かってキョロキョロしていたら、「横断すること」は「予見可能」。
そして高齢者が判断を誤って横断開始することも「予見可能」。
以上、直前横断する可能性が予見可能な以上、事故を回避する義務があるので減速すべき注意義務があるとなります。
では判例を。
業務上過失致死(今でいう過失運転致死)の判例で、仙台高裁 昭和46年12月7日判決。
交差点の判例ではありませんが、同じ趣旨として解釈できます。
自車の前方約17.4mの右軌道敷の左側端付近に被害者(当時62歳)が道路を南側から北側に横断するため北方を向いて佇立しているのを発見したので、警告を与えるため、警音器を一回吹鳴したところ、同人が被告人車の方を振り向いたので、自車の接近を認識したものと思い、そのまま進行した。ところが同人と約8.4mの距離に接近した際、突然同人が北方へ1、2歩歩きだしたので、危険を感じ急制動の措置をとったが、自車がほとんど停止しようとした際、自車の前バンパーが同人に接触したため、その反動で同人が転倒した。
(中略)
同所は横断歩行を禁止されてはいないものの、車両の交通が頻繁であって、同所を横断することは危険な状態であるから、同所を横断しようとした被害者には重大な過失があり、無謀な行為であるといわなければならないことは論をまたないところである。
(中略)
被告人としては、被害者発見時において直ちに減速徐行し、同人の動静を十分注視し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があったものといなければならないのに、これを怠り、警音器を一回吹鳴したのみで漠然同一速度で進行した点において過失があったものというべきである。
仙台高裁 昭和46年12月7日
次の判例。
こちらは中央分離帯の切れ目から横断待ちして立っていた歩行者が、被告人車の2.8m前方から直前横断した事故。
被害者は当時69歳の老人でありその年齢の正確な認識はともかく被告人も老人であることに気付いていたのであり、そして老人は多少の例外はあるとしても車両の進行状況に対する判断力及び行動能力が通常の成人に比して相当劣っており、不測の行動に出ることのあることは経験上明らかであり、被害者が中央分離帯の切れ目に立ち止まって被告人車のほうをみていたのも横断歩行中一時停止したにすぎず依然として横断を続行する態勢にあったものであるから、右のように被告人車両の進行状況に気づかずあるいはこれを失念ないし判断を誤って進路に出てくることもあり得ることは通常予測しうるところであり、(中略)直ちに減速し、被害者の動静に注意を払って進行すべき注意義務があると認めるのが相当である。
(中略)
所論は(中略)被告人には減速義務はないというのであるが、本件の場合所論のように被害者との衝突の危険を感じた地点における注意義務を問題とするものではなく、その以前の被害者を発見した時点における注意義務を問題にするのであるから、所論はその前提においてすでに誤りがありしかもその時点における前記の状況下において被告人が前記注意義務を尽くして進行しておれば被害者の横断開始をより早期に発見し、的確なハンドル操作と制動操作により被害者との衝突を回避できたことは明白であり、所論は採用し得ない。
大阪高裁 昭和48年10月30日
そのほか、歩道上で歩行者が車道に向いて佇立していた時点から減速注意義務を認めた判例なんていくらでもあるので、この場合「仮に直前横断したと仮定」しても、注意義務自体はそれ以前、つまりは歩行者が歩道上で車道に向いて佇立していることを発見した地点からになります。
道路交通法の義務のみではなく
道路交通法の具体的義務って「最低限」の話でしかなくて、業務上過失致死傷(過失運転致死傷)における注意義務はいくらでもあります。
道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。
東京高裁 昭和32年3月26日
なのでTwitter動画については、道路交通法38条の2により歩行者を優先する義務があることはもちろんだし、仮にタイミングを誤って直前横断したとしても衝突を回避できるように減速すべき注意義務を負っていたとなるわけです。
注意義務の発生点は「歩行者が横断しようとして車道に向いて佇立しているのを発見したとき」でしょう。
道路交通法の具体的義務なんて、最低限の話なんだと理解したほうがいい。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
この場合、歩行者は道交法13条1項違反に該当すると思います。
動画のケースですか?
直前直後横断にはなりませんよ。