ちょっと前にもあったような気がしますが…
27日午後、富山市の県道で、歩道を走っていた自転車が駐車場から出ようとした車にはねられ、自転車に乗っていた高齢の女性が死亡しました。
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歴史は繰り返される。
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歩道を横切り車道に出る際の注意義務
歩道を横切り車道に出るときには、歩道の手前で一時停止する義務がありますが、
第十七条
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
報道に出ている映像をみると、歩道左側の視認性が悪い。
そうなると、もう何度か取り上げてますが、この判例と似たケースになりますね。

判例は広島高裁 令和3年9月16日。
道路外のガソリンスタンドから進出する際に、歩道左側には高さ2.5mの壁があり左側が見えないにもかかわらず、徐行進行した。
そこに歩道通行する自転車(時速39.6キロ)が衝突した事故になります。
この判例は一審の「一時停止を怠った過失」として有罪にしたものに対し、広島高裁が「一時停止しても見えないのだから、一審の判断は是認できない」として破棄。
その上で以下を認定して有罪にしています。
本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。
広島高裁 令和3年9月16日
そういやこの判例。
具体的な図面がないのですが、「P地点」まで進出すると歩道左側が約54.9mまで視認可能になるとして、「一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務」を認定しています。
そこで検討すると,被告人は,左方が見通せるⓅ地点に至るまでの間,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして左右等に注意を払いながら進行し,Ⓟ地点において一旦停止した状態で左右等の安全を十分に確認する注意義務を負っていたのであり,このような注意義務を尽くしていれば,Ⓟ地点において一旦停止した状態で左方から進行して来る自転車等を発見することが可能であり,このような自転車を発見,視認した場合には,そのまま発進せずに同自転車が通り過ぎるのを待つことにより,衝突を回避することが十分に可能であったものと認められる。
(中略)
路外施設から歩道を横断して車道に進出するという高度の慎重さを求められる場面において注意義務を尽くさなかったことを考慮すれば,被告人の過失は大きなものといわざるを得ない。
広島高裁 令和3年9月16日
ちょっとでも歩道の見通しを遮るものがある場合には「一時停止では足りず」、「小刻みに停止・発進を繰り返すなどして左右等に注意を払いながら進行」する義務があるとの判断。
歩道を横切る前に一時停止義務(道路交通法17条2項)を怠る運転者は残念ながら多いですが、法はさらにそこから高度な注意義務を課しているのだと考えて行動するしかありません。
冒頭の件については一時停止したのかよくわかりませんが、仮に一時停止したとしても「それだけでは足りんわ」となるので、一時停止とは最低限の義務でしかないくらいに考えたほうがよいでしょう。
なお、広島高裁が一審判決を破棄した理由の一部はこちら。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。
一時停止(17条2項)したとしても歩道左側が見えないのだから偶然事故を回避できたに過ぎないし、一時停止義務を課している目的が違うだろが!としています。
ところで
ちょっと前にも逆パターンになりますが、そんな事故がありましたね。
歩道手前に一時停止標識を立てるべきだ!などという解決にはなり得ない論評があった気がしますが…
ところで、「最低限の」道路交通法17条2項の解釈。
第十七条
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
普通に読めば、「かつ」なので2つの義務を並列的に課しているわけで、
②歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
①または②のどちらかを怠れば違反になる、ということは読み取れると思います。
道路交通法ハンドブック(警察庁交通企画課)や執務資料道路交通法解説(東京法令出版)にも「2つの義務を並列的に課しているから、片方を怠れば違反になる」と書いてありますが、最近話題の「法律解釈を間違いまくるYouTuber」の方に読ませると、下記のようなトンデモ論を発表しているとか。
もちろん間違いで、片方を怠れば違反です。
意味不明な法律解釈を広めるの、マジでなんとかして欲しいのね。
強制一時停止義務を課している理由は、歩道のように構造物で遮るものがある場合も多いのだから、停止して確認させたいからでしょう。
「かつ」なので両方の義務を並列的に課しているわけで、どちらかを欠いたら違反。
屁理屈使って一時停止しないことを正当化しようとするのはやめて欲しいのですが、こちらにしても、

「誰の件」なのか、わかる人にはわかるみたいですね…
とりあえず話を戻しますが、一時停止とは最低限の義務でしかなくて、十分に視認可能な位置に進出するまでは「小刻みに停止・発進を繰り返すなどして、歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務」があるという話です。
広島高裁判決は裁判所ホームページにあるのでどうぞ。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
歩道走行する自転車側の注意義務には一切触れられていないのは何故?
コメントありがとうございます。
当該判例については記事冒頭で「もう何度か取り上げてますが」と書いたように、自転車に課された義務は何度も別記事で書いているからですよ。
一例↓
https://roadbike-navi.xyz/archives/30255/
そもそも、記事冒頭で紹介した事故報道との兼ね合いから「車両に課された、道路外から車道に進出する際の注意義務」の一例として広島高裁判決を引用しましたが、死角で見えない位置がある場合の注意義務なわけで、道路外から車道に進出する車両に課された義務と歩道進行自転車の速度は無関係。
全て情報が出揃った結果論での話をしているのではなく、死角がある(=何が出てくるか不明)な場合の注意義務についての話をしていますが、何か勘違いしていませんか?
結果論の話ではないのですよ。
すいません、間違えました。
前の投稿は削除してくださいますようお願いします。
本記事で紹介された判例は、自転車(時速39.6キロ)で歩道を走行していた、ということですよね?
爆走すごいな・・・
コメントありがとうございます。
その通りで普通に徐行義務違反になりますが、死角があるのに安全確認しないまま歩道を横切って進行したことが問題になっているので、死角から何が出てくるかわからないという点を考えると判例が示した意味を理解しやすいのではないでしょうか。
もちろん、自転車の速度が容認されるわけではありませんし、死角については自転車からしても同じなので、仮に歩行者がガソリンスタンドから出てきたなら加害者になるでしょう。
記事冒頭に挙げた報道について、死角進行の注意点を示した判例を挙げただけなので、そこに着目しても意味がないと思いますが。
>記事冒頭に挙げた報道について、死角進行の注意点を示した判例を挙げただけなので、そこに着目しても意味がないと思いますが。
そうですね。
車も自転車も運転する際は気をつけよう、と思った記事で勉強になりました。
もちろん、自転車もこんなスピードで歩道を走ることは厳に慎むべきですが、広島高裁は時速40キロの自転車を予見可能だそうですから、クルマに課された注意義務の大きさは…
難しいですよね。
理不尽といえば理不尽な気もしなくはないけど、リアルに有罪になるので注意しないと前科持ちになるので…
時速40㌔はもう車のスピードですね
こんなんで交差点にノーブレーキで突っ込んでくるんだから(この件は違いますが、もちろん歩道でその速度は…)そしてぶつかったら被害者顔。右側通行、無灯火も当たり前。
車側が当たり屋の被害者感
コメントありがとうございます。
もちろん歩道では自転車の徐行義務がありますし全く容認できませんが、そこが問題ではないと思いますよ。
死角があるのに無確認で進行したことは事実なので、たまたまジョギング中のオッサンと衝突するか、小走りの子供と衝突するか、時速15キロの自転車と衝突するか、何も起きないかは単なる結果論ですから。
なぜ結果に着目するのかは理解しがたいです。
連投すみません。車側は一旦停止、安全確認しっかりしても1秒でオーバー10㍍で突っ込んでくる歩行者なんて想定外って主張できないですか?
コメントありがとうございます。
当該判例は裁判所のホームページにありますが、そちらを読んでますでしょうか?
この件ですがこちらでも書いたように、
https://roadbike-navi.xyz/archives/38531/#i-2
一審が「一時停止を怠った過失」として有罪にしたことについて、一時停止しても高速度の自転車は見えないし予見不可能だと主張した被告人側の意見を元に、原判決を破棄。
一時停止した後に小刻みに発進と停止を繰り返すなど安全確認を怠った過失として改めて有罪にしたものです。
大変失礼ながら、あなたが言っているのは結果論の話。
死角があるのに安全確認しなかったこと自体は事実なので、たまたまあり得ない高速度自転車と衝突したけど、安全確認しなかったのだから歩行者と衝突していたかもしれないし、高速度自転車については結果論でしかないと思いますよ。
逆に言えば、判示されたような注意義務を果たしたけど回避できなかったと認められれば無罪になるわけですし。
結果論の話ではなくて、死角、つまり何が出てくるかわからない前提での注意義務についての話をしていることをご理解頂きたいのですが。
高速度自転車が車が出てくるのを分かりながら先に行けると歩道を原付バイクの制限速度以上出して減速せず突っ込んで後遺症の残す重症になったのが自転車側にも落ち度が有って罰金10万円減らしてますよ。
民事がどうなったかは分からないが相手の車の修理費請求されて多分徐行してたら障害残る怪我してないと後遺症のリハビリは自腹になるかもしれませんよ。保険会社って傷害無制限でも色々言って出さんよ。
コメントありがとうございます。
過去の記事でも自転車の義務違反については散々指摘していますが、本記事冒頭に挙げた事故報道との兼ね合いで挙げた判例だという意味がわからないのでしょうか。。。
また「高速度自転車が車が出てくるのを分かりながら」とありますが、そのような認定は見当たりませんしデマはやめましょう。
自転車に重大な違反があることは誰でもわかる話です。
そして自転車に違反があることは、歩道を横切る車両の注意義務を無くす効果はありません。
過失運転傷害罪の成立要件を理解されているのでしょうか。。。
結果に着目というか…昔の事故なんですけどかなり大きな幹線道路で夜中に優先側がスピード違反、幹線道路に入る方の車が信号無視での事故で、スピード違反側の方が亡くなった(と思う)んですけどスピード違反側に過失が多くなって…
あまり納得出来なかったんですけど、それくらいスピードというものは危険に直結するのだと思われるので…自転車はあくまで車両ですし…
安全走行違反をかばうわけではないですけどね。なんどもすみませんでした
いえいえ、お気持ちはよくわかりますし、他の記事でも書いたのですが歩道を時速40キロとかバカなんじゃないかと思っています。
路外ガソリンスタンドから出てきたのがクルマだったから自転車が被害者になりますが、仮に歩行者が出てきたら自転車は加害者です。
https://roadbike-navi.xyz/archives/30255/
なので、「死角進行している」という意味ではクルマも自転車も同じことだし、たまたま被害者になったけどたまたま加害者になったかもしれない話です。
それを「たまたま」で済ませてはいけないと思っていますが、私の意見としては「みんなやるべきことはやれ」でしかないんですね。
あなたが挙げた事例の具体的内容はわかりませんが、例えば右直事故にしても、直進側が異常な高速度のときには優先権がないとしています。
https://roadbike-navi.xyz/archives/33621/
優先より事故起こさないためどうすればのコメントが重要。
この自転車乗りは車出てくるのを知りながら減速せず先に行こうとして事故ってる。相手がこっちを認識してないのは良くある事。オートバイ乗ってる時は相手の顔見てるしこっち見てなかったら突っ込んでくると警戒する。
自転車よりスピード出るリッターバイクても相手の顔見えるのに何でスピード出ない自転車が気付かないのか理解出来無い。
スピード出しすぎて足に血液行って脳の酸素足りず判断力が低下してるのかな?
自転車の法定速度決めた方が良いと思います。
多分15キロ位になると思うけど。
>この自転車乗りは車出てくるのを知りながら減速せず先に行こうとして事故ってる
どこにそんな認定が書いてあるのですかね。。。
なお、自転車が歩道通行する際には徐行義務(63条の4第2項)で、目安は6~8キロです。
事実認定のみを評価することが裁判の大前提ですよ。
本件に関係ない話をしたいだけなら打ち切りますが。
コピーしかしながら,本件においては,道路交通法上,徐行義務のある歩道上で,時速
約39.6kmという高速度で自転車を運転し,被告人車両が歩道上に進出して来て
いるのを認識しながら,あえて停止等の措置を執ることなくその前を通り過ぎよう
としたという点で,被害者の行為が本件事故の一因を形成し,あるいは,本件傷害
の結果の重さに影響した側面があることは否定できない
だから意味を変えちゃってるでしょ。。。
あなたの言い分は「この自転車乗りは車出てくるのを知りながら減速せず先に行こうとして事故ってる」、つまり予見していた話になっているけど、判決文は「見えてから回避行動を取らなかった」。
意味が違うことを理解できますかね。
「来ているのを認識しながら」(現状認知)なのに、あなたの話だと「出てくるのを知りながら」(予見していた)に変えちゃってますよ…
こちらが指摘している意味をご理解いただけなかったようで驚いてますが、書いてない内容に意味をすり替えるのはやめましょう。
何度も本当にすみません、一時停止が捕まらないためのパフォーマンスでないことは重々承知してます。
道路は安全確認を怠らず利用したいと思います。歩道クロス時の安全確認、自分は守っていると思います
本音で言えば、理不尽といえば理不尽な判決です。
ただまあ、現実として有罪になる実例がある以上、やるしかないんですよね。
あなたはきちんとやっているのだろうと思いますが、ここまで確認しない限りは有罪になるという実例なので…
もちろん、先に書いたようにガソリンスタンドから出てきたのがクルマではなく歩行者だったら、自転車が重過失致死傷罪で有罪確実な話。
なので双方ともにやるべきことはやるしかないですね。