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追い越しを控えるべき注意義務を認めなかった判例。

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こちらの続きです。

 

自転車の追い越しや追い抜きを「差し控えるべき注意義務」。
以前こちらで書いた内容についてなんですが、 昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷決定では、「追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつた」としています。  なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走...

 

「自転車を追い越し、追い抜きすることを差し控えるべき注意義務違反」はいかなるときに認定されたか。
以前書いた内容の続きです。 昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷決定では、「追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつた」としています。 刑法上、「追い越し、追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」を認定した判例がどれくらいあるのか...

 

自転車を追い越し、追い抜きする際には側方間隔が重要になりますが、ちょっと思うところがあり「ふらつき自転車」を「側方間隔1m」、「時速30キロで追い越しして無罪にした判例を。

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金沢地裁 昭和41年12月16日判決

まずは事故の態様と公訴事実から。

被告人は普通自動車第一種の運転免許を有し、高岡市清水町に在る木材株式会社に勤務し、自動車運転の業務に従事しているのであるが、昭和40年5月17日午後7時15分頃、普通貨物自動車を運転し、金沢市鳴和町(略)を金沢方面から富山方面に向け時速約30キロで進行中、前方約18.5m、歩道から約2.7m附近に、自転車に乗ってふらふらしながら先行する被害者(当38年)を認め追い越そうとしたのであるが、斯る場合自動車運転者は同人の態度、動きに注意するとともに、交通の状況を勘案し、一時追越しを断念するか、或いは予め警音器を吹鳴して警告を与え、同人が避譲するのを待って、同人と十分な間隔を置いて追越すようにし、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにも拘らず、これを怠り警音器を一回吹鳴したのみで、不注意にも同人が避譲する気配も示さず、むしろ道路の中央よりに進行する様な乗り方で先行するのに、同人の右側僅か1m位のところを漫然進行し追越しにかかった過失により、自車左側面をふらついた同人に接触させて転倒せしめたうえ、倒れた同人の頭部を左後輪で轢き、よって同人をその場で左前額陥没骨折、頭蓋底骨折、右鎖骨々折により即死させたものである。

先行する自転車が歩道から約2.7mの位置をふらつきながら進行していた。
被告人はクラクションを一度吹鳴したものの、避譲を確認しないまま時速30キロ、側方間隔1mで追い越し。
追い越し中に被害者がふらついて被告人車に接触した事故について、検察は下記注意義務違反があったとして業務上過失致死罪が成立すると主張しています。

・一時追越しを断念する
・或いは予め警音器を吹鳴して警告を与え、同人が避譲するのを待って、同人と十分な間隔を置いて追越す

これについて、金沢地裁は無罪。

検察官は、本件のような場合一時追越しを断念するか、或いは予め警音器を吹鳴して警告を与え、笠井善次が避譲するのを待って同人と十分な間隔を置いて追い越す業務上の注意義務があると主張しているが、前に認定した様に国道8号線は北陸の幹線自動車道路である上に、事故現場は電車軌道もあるので、一時追越しを断念したり自転車が避譲するのを待っていたのでは、交通が麻痺し主要自動車道路の意味がなくなり、ひいては他の事故の発生を惹起しないでもない。今日においては高速性、迅速性が要求され、自動車の社会的有用性が重視される一方人命に対する危険度も高くなっているのであるから、自動車運転者に対しては過重とさえいい得るような注意義務が要求されるようになったのである。しかし、その注意義務の懈怠がないならば過失なしとしなければならない。検察官が主張する如き注意義務を本件被告人に要求するのは苛酷に失するものがあるといわなければならない。
すなわち、自動車運転者が、自動車を追越すに際しては、自動車運転者が、合理的な間隔をおき、かつ警笛吹鳴、徐行等の措置をとりながら、慎重に追越しをする態度をとった以上は、接触による事故防止の責任は主として自転車運転者の側にあるというべきである

(中略)

自転車運転者である被害者の姿勢、態度については、(証拠略)を総合すると、被害者は、うつむいて前かがみになり、交通量の多い道路の中央を比較的ゆっくり進行していたため、前記の供述者はいずれも危いと感じていたが、被害者が倒れるかもしれないという危険を感じた者はいないのである。自転車に乗っていた同人の肩が左右に動いて若干ジグザグに進行していたが、決して倒れかかる様な不安定な乗り方ではなかったといわなければならない。したがって追い越し後に同人が右側に転倒することについての予見可能性はない。

 

金沢地裁 昭和41年12月16日

要はふらつきといっても「若干ジグザグ」で倒れそうな雰囲気ではないし、警音器吹鳴、側方間隔1m、時速30キロの追い越しは問題ないとの判断です。

 

さて、「あれ?」と思う人もいるかもしれません。

蛇行していたら「1m」じゃアカンという判決があるよね?

先日挙げたばかりですが、

 

蛇行する二輪車を追い越しする際に、1mの側方間隔では足りないとした判例。
二輪車を追い越し、追い抜きする際には十分な側方間隔と減速、注視義務があると考えられますが、二輪車を追い越し、追い抜きする際の後続車の注意義務について検討された判例はまあまああります。 今回は蛇行する二輪車を追い越しする際に起きた事故判例です...

 

蛇行する自動二輪車を現認していた以上、側方間隔1mは足りないわとして有罪(大阪高裁 昭和44年10月9日)にした判例もあるわけ。

 

そしてふらつきが見られた自転車を追い越しする際に側方間隔約1.30mは足りないとした判例(仙台高裁 昭和29年4月15日)もある。
どちらの判例も上リンク先に書いておきました。

 

さらにいえば、左右に50センチ幅で動揺する自転車を追い抜きする際には警音器吹鳴義務や減速義務を認めた東京高裁判決も。

被告人は、所論のいう被害者の自転車が急に右方に曲つた地点までこれに近接するより以前に、これと約62メートルの距離をおいた時点において、すでに自転車に乗つた被害者を発見し、しかもその自転車が約50センチメートル幅で左右に動揺しながら走行する自転車を追尾する自動車運転者として、減速その他何らかの措置もとることなく進行を続けるときは、やがて同自転車に近接し、これを追い抜くまでの間に相手方がどのような不測の操作をとるかも知れず、そのために自車との衝突事故を招く結果も起こりうることは当然予見されるところであるから、予見可能性の存在は疑うべくもなく、また、右のような相手方における自転車の操法が不相当なものであり、時に交通法規に違反する場面を現出したとしても、すでに外形にあらわれているその現象を被告人において確認した以上は、その確認した現象を前提として、その後に発生すべき事態としての事故の結果を予見すべき義務ももとより存在したものといわなければならない。所論信頼の原則なるものは、相手方の法規違反の状態が発現するより以前の段階において、その違法状態の発現まで事前に予見すべき義務があるかどうかにかかわる問題であつて、本件のごとく、被害者の自転車による走行状態が違法なものであつたかどうかは暫くおくとして、その不安定で道路の交通に危険を生じ易い状態は、所論のいう地点まで近接するより前にすでに実現していて、しかもこれが被告人の認識するところとなつていたのであるから、それ以後の段階においては、もはや信頼の原則を論ずることによつて被告人の責任を否定する余地は全く存しないものというほかない。そして、被告人は、右のように、被害者の自転車を最初に発見し、その不安定な走行の状態を認識したさいには、これとの間に十分事故を回避するための措置をとりうるだけの距離的余裕を残していたのであるから、原判決判示にかかる減速、相手方の動静注視、警音器吹鳴等の措置をとることにより結果の回避が可能であつたことも明白であり、所論警音器吹鳴の点も、法規はむしろ本件のような場合にこそその効用を認めて許容している趣旨と解される。

 

東京高裁 昭和55年6月12日

とりあえず4つほど「似たような」判例を挙げましたが、共通点もあれば違う点もあり、必ずしも同一に論じるものではないのですが、金沢地裁判決の内容を大阪高裁判決の趣旨からみるとビミョー感が残るし、仙台高裁判決はまた状況が違うとはいえ1.3mでは足りないとしている。

 

要は紙一重の判断とも言えますが、ギリギリで有罪無罪を争うことになるよりも、そもそも「事故が起きないような側方間隔」もしくは「追い越しを一時差し控えて安全に追い越し可能になるまで待つ」ほうが賢明。

 

この手の判例って似たようなものはいくつかありますが、一つの判例にこだわるのはアホだし、いくつかの判例を検討したり、さらには民事責任まで考えて行動する方がいいのよね。

 

何も起きなければ、刑事民事ともに責任問題になることはないのだから。
なお、側方間隔1.2mの非接触事故について、クルマの過失を認めた民事判例があります。

 

自転車追い抜き時に非接触事故の判例。
自転車を追い越し、追い抜きする際には側方間隔が問題になりますが、接触してないものの事故になった判例を。 非接触事故の判例 非接触事故の判例としてますが、事故態様には争いがあります。 判例は東京地裁 平成27年10月6日。 まずは大雑把に状況...

 

この判例はある意味では興味深いですが、こういうのは行政処分として安全運転義務違反をつけるのか疑問。

 

金沢地裁判決にしても、控訴していたら判断が違う可能性もありますが、令和に改めてこの判例を見るとしたら他の類似判例と比較しながら考えないと意味がない。
クラクションにしても、吹鳴義務違反を認めなかった判例も普通にあるわけで、

 

車が自転車を追い越すときに、クラクション(警音器)を鳴らすのは違反なのか?
先日書いた記事で紹介した判例。 自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左...

 

一つの判例だけみて「追い越し時はクラクションがー」みたいな安易な発想をするのもダメ。


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