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右直事故で「信頼の原則」を否定する特別な事情。

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ちょっと前になりますが、直進バイクが赤信号無視で死角から交差点に進入したにもかかわらず、右折車の運転者を過失運転致傷で起訴し、結局無罪になった事件がありました(福岡地裁 令和5年10月27日)。

福岡県古賀市で車を運転中、赤信号で交差点に進入してきたバイクに衝突して運転者にけがをさせたなどとして、自動車運転処罰法違反(過失致傷)と道路交通法違反(不申告)に問われたナイジェリア国籍の男性被告(53)に対し、福岡地裁(今泉裕登裁判長)は27日、無罪(求刑・罰金10万円)を言い渡した。

(中略)

事故を巡っては検察側の「捜査不足」が浮き彫りになった。

検察側はバイクが赤信号を無視していた事実を見落としたまま、22年3月に「対向車線に渋滞停止車両があって見通しが困難なのに、安全を十分確認しないまま右折した」などとして男性を略式起訴。同月に福岡簡裁は罰金30万円の略式命令を出したが、男性が不服を申し立て、正式裁判になった。

その後、弁護側の指摘を受け、検察側が現場近くの防犯カメラ映像を再解析するなどした結果、バイクは第1車線と第2車線の間を走っており、▽信号が赤になった時点で停止線の約20メートル手前にいた▽その1・2秒後までに第1、第2車線の車を追い抜き、1・8秒後までに停止線を越えて交差点に進入した――と推定。バイクの赤信号無視が明らかになったが、検察側は起訴を取り消さず、22年6月の初公判から約1年1カ月後の今年7月に起訴状の内容を変更(訴因変更)した。

弁護側は公判で「赤信号を無視して交差点に進入してくるバイクまで予測する義務はない。事故の不申告も処罰するほどの違法性はない」などと無罪を主張。一方の検察側は「赤信号になったとしても、『(急には)安全に停止できない』と判断した対向車両が交差点に進入してくる可能性がある。車の男性はそれを予測できたし、予測する義務もあった」などとしていた。

 

衝突したバイクは赤信号無視 右折車の運転手に無罪判決 福岡地裁 | 毎日新聞
福岡県古賀市で車を運転中、赤信号で交差点に進入してきたバイクに衝突して運転者にけがをさせたなどとして、自動車運転処罰法違反(過失致傷)と道路交通法違反(不申告)に問われたナイジェリア国籍の男性被告(53)に対し、福岡地裁(今泉裕登裁判長)は...

直進バイクの赤信号無視に気がつかないまま起訴したことが非難されてましたが、判決は無罪。

このような状況において、被告人が、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の、被告人車両に近い中央寄りの2つの車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止しようとする状況を確認したのであれば、別の対向車両が赤色信号に従わずに本件交差点内に進入しようとするのを現認するなど、相手方が交通上適切な行動をとることを期待できないことを認識し、あるいは認識すべきであったときのような特別の事情のない限り、もはや赤色信号に従わないで本件交差点内に進入してくる対向車両はないと信頼することは許されるというべきである

(中略)

被告人において、対向車線の第2車両通行帯を走行する車両の左側方の見通しが困難であったからといって、道路の状況等から見て、その付近に赤色信号を無視し、停止しようとする先行車両を追い越して本件交差点内に進入してくる車両が存在することを具体的に予測すべき根拠は見当たらないのであって、後続車両を含めもはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと信頼してよい状況に変わりない。検察官の主張は、信頼の原則の適用を否定すべき特別の事情に当たらない。

 

福岡地裁  令和5年10月27日

赤信号無視の直進バイクを予見すべき注意義務があるとされるのはどういう場面なのでしょうか?

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赤信号無視の直進バイクを予見すべき特別な事情

簡単にいうと、こういう場面です。

赤信号無視して交差点に進入するオートバイが悪いのですが、赤信号で停止しない(停止できない)速度であることも見てとれる。

 

こういう場合は「信頼の原則を否定する特別な事情」となり得ます。

 

実際、動画の概要欄を見ると右折車は過失運転致傷と書いてありますが、起訴(略式含む)されたのかはよくわかりません。

 

民事責任上も、赤信号無視だから必ず信号無視したほうが100%になるわけではないです。

要は冒頭の福岡地裁判決の件は、二車線の対向車両が信号に従って停止しようとしていて、二車線の対向車の間をすり抜けて信号無視している。
つまり右折車からすれば視認できない状況。

 

日本の法律上、赤信号無視したほうが「原則として」全面的に悪い形になりますが、必ずそうなるわけではありません。

 

結構勘違いしている人が多い気がしますが、道路交通法の義務違反がないことと、過失がないことはイコールにはならない。
「原則としては」赤信号無視して交差点に進入する車両がないと信頼してよいのですが、赤信号で止まらないことが容易に予見可能な場合は別。

 

福岡地裁判決の件は、このような事実認定です。

⑵ 本件事故(令和3年10月7日午後7時3分頃発生。以下、時刻のみの記載は、同日のことである。)当時、被告人車両は、本件道路を福津市方面から走行して、本件交差点の停止線手前の右折専用レーンに入って、駅東方面に右折しようとし、対面信号機が青色表示のうちに本件交差点内に進入し、対向直進車両の流れが途切れるまでの間、本件交差点内で一時停止して右折待ちをしていた。その後、被告人車両の対面信号機が赤色表示に変わった時点では、本件交差点内を2台の対向直進車両が通行していた。被告人は、対面信号機が赤色表示に変わったことを確認し、上記対向直進車両2台が本件交差点を通過し、後記⑶のとおり、対向車線の第2車両通行帯及び第3車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止線手前で停止しかけているのを確認し、もはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと判断して、右折のために発進した(甲30、被告人の公判供述)。
⑶ 他方、B車両は、本件道路の対向車線を進行して、本件交差点を直進しようとし、本件交差点の対面信号機が赤色表示に変わった時点で、停止線から約20.7ないし21.1m手前、第1車両通行帯と第2車両通行帯の間の区分線上付近を走行していた。この時、第1車両通行帯ではB車両の左前方、停止線から約18.8m手前の位置を先行車両が走行しており、第2車両通行帯と第3車両通行帯でも、それぞれ先行車両が、B車両の前方、停止線から順に約11.5m、約10.4m手前の位置を走行していた(甲29、Bの証言)。その後も、B車両は同区分線上付近を走行し続け、対面信号機が赤色表示になってから約0.6秒後に第1車両通行帯の先行車両を右側から追い抜き、赤色表示から約1.2秒後までには第2車両通行帯の先行車両を左側から追い抜いて、時速約40ないし43kmで本件交差点内に進入した(甲21)。B車両が停止線を通過したのは、対面信号機が赤色表示になってから約1.6ないし1.8秒が経過した時点であった。なお、第1車両通行帯ないし第3車両通行帯を走行していた3台の先行車両は、いずれも赤色信号に従って本件交差点の手前で減速し、停止した(甲31)。
⑷ B車両が本件交差点の停止線を通過した直後、本件交差点を右折していた被告人車両の左側前方部分と、左にハンドルを切ったB車両の右側部分が衝突する本件事故が発生した。被告人は、B車両を衝突の直前まで視認していなかった。

そして検察官の主張と裁判所の判断。

⑴ 上記のとおり、被告人は、本件交差点内で一時停止の上、右折待ちをしていた際、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の第2車両通行帯及び第3車両通行帯の各走行車両が減速するのを確認して、もはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと判断して右折を開始した。その当時、本件交差点の信号機は、3秒間全て赤色表示となる、いわゆるクリアランス時間内であり、被告人車両は、対向直進車両の進行を妨害しないよう、その動静を注視すべき一方、その後青色表示となる交差道路の交通を妨害しないために、速やかに右折を完了して本件交差点外に出るべき状況にあった。
このような状況において、被告人が、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の、被告人車両に近い中央寄りの2つの車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止しようとする状況を確認したのであれば、別の対向車両が赤色信号に従わずに本件交差点内に進入しようとするのを現認するなど、相手方が交通上適切な行動をとることを期待できないことを認識し、あるいは認識すべきであったときのような特別の事情のない限り、もはや赤色信号に従わないで本件交差点内に進入してくる対向車両はないと信頼することは許されるというべきである。そして、被告人は、本件事故の直前まで、普通自動二輪車であるB車両を認識していなかった上、道路の状況等から、B車両が、赤色信号に従って停止のため減速する先行車両を追い越して本件交差点内に進入しようとする状況を認識すべきであったともいえないから、上記特別の事情も認められず、検察官主張の注意義務はないというべきである。
⑵ これに対し、検察官は、被告人が右折を開始した時点で、少なくとも対向車線の第2車両通行帯を走行する車両(B車両の先行車両)は停止しておらず、そのために同車両の左側方(被告人車両から見て右側方)の見通しが困難であったから、同車両の左側方から、停止線手前で安全に停止しきれないと判断して本件交差点を通過しようとする対向直進車両があることを予見すべきであったとして、被告人は、第2車両通行帯の走行車両の前面で一時停止するなどして、同車両の左側方を確認する注意義務を負っていたと主張する。
しかしながら、被告人において、対向車線の第2車両通行帯を走行する車両の左側方の見通しが困難であったからといって、道路の状況等から見て、その付近に赤色信号を無視し、停止しようとする先行車両を追い越して本件交差点内に進入してくる車両が存在することを具体的に予測すべき根拠は見当たらないのであって、後続車両を含めもはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと信頼してよい状況に変わりない。検察官の主張は、信頼の原則の適用を否定すべき特別の事情に当たらない。

 

福岡地裁  令和5年10月27日

日本の過失制度においては、相手が赤信号無視だから無条件に無罪になる…というわけではなくて、信頼の原則を否定する「特別な事情」がある場合は別。
動画のケースは「特別な事情」にあたる可能性が高くなります。

違う国の制度

国によっては過失の考え方も違うし、民事責任なんかはそもそも過失相殺の規定がないところからスタートしている国もあるので、同じような事故でも国によって過失割合は違います。

 

他国の制度のほうがいいのか?というと必ずしもそうは言えないのでトータルで考えないといけませんが、例えば国によっては慰謝料がない。
純粋な損害部分に対する補填のみのケースも。

 

日本の制度が「過失の有無」に重きを置いている以上、世間の考え方が過失の有無に偏るのは当然な気がします。

 

ところで若干気になるのは、動画のケースについて直進バイクの行政処分を「赤信号無視」ではなく「黄色信号通過」で処理したという点。

 

警察もテキトーだからなあ…
後々になって不利益を被る可能性もあるので、そこはきちんとしたほうが良いと思う。
警察さんがいい加減なのは今に始まった話ではないのですが…


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