以前、自転車運転中のイヤホン等の使用について、警察庁が通達を出したと書いてますが、
一つの通達を読んだ場合に、解釈の仕方って人それぞれ違うんだなあ…と思うことがありまして。
そしてそれが、インターネット上でなんだかよくわからない道路交通法もどきが横行する理由なんだろうな。
自転車イヤホン等使用についての規定
自転車運転中のイヤホン等の使用については、道路交通法71条6号(公安委員会遵守事項)に定めがあります。
第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項
都道府県によって表現に差はありますが、全都道府県の内容は同じです。
一例として東京都。
第8条 法第71条第6号の規定により、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
(5) 高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。
この規定を分解するとこうなります。
違反になる内容 | 安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転 |
違反になる例示 | 高音でカーラジオ等を聴く、イヤホーン等を使用してラジオ等を聴くなど |
除外事由 | 難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するとき |
あくまでも違反になるのは「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転すること」で、その具体的事例として「高音でカーラジオ等を聴く、イヤホーン等を使用してラジオ等を聴くなど」を挙げてます。
法律、というよりも日本語って漠然と読んでも意味を取り違えるのがオチ。
違反になるのは「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転すること」なんだというのはきちんと読めばわかると思います。
そして警察庁の通達。
警察庁の通達
1 指導取締り上の留意事項
法第71条第6号の委任を受け、公安委員会規則において定めている規定の趣旨は、自転車利用時のイヤホン等の使用そのものを禁止することではなく、イヤホン等を使用して安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で自転車を運転する行為を禁止することであると承知している。
この点、イヤホン等を片耳のみに装着している場合や、両耳に装着している場合であっても極めて低い音量で使用している場合等には、周囲の音又は声が聞こえている可能性があるほか、最近普及しているオープンイヤー型イヤホンや骨伝導型イヤホンについては、装着時に利用者の耳を完全には塞がず、その性能や音量等によってはこれを使用中にも周囲の音又は声を聞くことが可能であり、必ずしも自転車の安全な運転に支障を及ぼすとは限らないと考えられる。
これらを踏まえ、イヤホン等を使用した自転車利用者に対する指導取締りに当たっては、イヤホン等の使用という外形的事実のみに着目して画一的に違反の成否を判断するのではなく、例えば、警察官が声掛けをした際の運転者の反応を確認したり、運転者にイヤホン等の提示を求め、その形状や音量等から、これを使用して自転車を運転する場合に周囲の音又は声が聞こえない状態となるかどうかを確認したりすることにより、個別具体の事実関係に即して違反の成否を判断すること。2 指導取締りに従事する警察官に対する指導教養の徹底
自転車利用者に対する指導取締りは、地域に密着した活動の一つであり、交通部門だけでなく地域部門の警察官も従事することが多いことから、部門を問わず、自転車利用者と接する機会のある警察官に対して幅広く、前記1の留意事項に関する指導教養を徹底し、誤った理解に基づく指導取締りが行われることがないようにすること。
3 広報啓発活動等の実施
自転車利用時のイヤホン等の使用について、SNSやウェブサイト等の各種広報媒体や現場における警察官の説明等を通じて、広報啓発活動や交通安全教育を行う際には、規定の趣旨が国民に正確に伝わるよう留意すること。その際、周囲の音又は声が聞こえない状態で自転車を運転することの危険性についても併せて周知するなどして、規定に違反するような自転車の利用が行われないように留意すること。
4 規定の趣旨の周知徹底に向けた規定の見直し
前記1から3までに掲げる取組を推進してもなお、規定の趣旨の周知徹底に当たって支障があり、各地域の自転車の利用実態等を踏まえて必要性が認められる場合には、規定からイヤホン等を例示する文言を削除することも含めて、所要の見直しを検討すること。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/shidou/iyahonryuuijikou.pdf
これを読んで「オープンイヤー型や骨伝導は違反じゃない!」と読む人がいたら、だいぶ心配になる。
この通達は「公安委員会遵守事項に規定した条文通りに運用しろよ」という内容。
だからこのように表現している。
最近普及しているオープンイヤー型イヤホンや骨伝導型イヤホンについては、装着時に利用者の耳を完全には塞がず、その性能や音量等によってはこれを使用中にも周囲の音又は声を聞くことが可能であり、必ずしも自転車の安全な運転に支障を及ぼすとは限らないと考えられる。
オープンイヤー型や骨伝導なら無条件にOK…ではなくて、「その性能や音量等によっては」という条件がつく。
これって普通のイヤホンでも全く同じこと。
条文上はあくまでも安全な運転に必要な音が聞こえるかどうか?を問題にしているのだから、イヤホン等の形状に関係なく条文通りに運用しろよというのが警察庁の通達ですよね。
法第71条第6号の委任を受け、公安委員会規則において定めている規定の趣旨は、自転車利用時のイヤホン等の使用そのものを禁止することではなく、イヤホン等を使用して安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で自転車を運転する行為を禁止することであると承知している。
イヤホン等を使用した自転車利用者に対する指導取締りに当たっては、イヤホン等の使用という外形的事実のみに着目して画一的に違反の成否を判断するのではなく、例えば、警察官が声掛けをした際の運転者の反応を確認したり、運転者にイヤホン等の提示を求め、その形状や音量等から、これを使用して自転車を運転する場合に周囲の音又は声が聞こえない状態となるかどうかを確認したりすることにより、個別具体の事実関係に即して違反の成否を判断すること。
けどきちんと読み取れないと「オープンイヤー型や骨伝導は違反じゃないと警察庁が通達を出した!」などと意味を変えて発信してしまう。
意味が違う話にすり替えられちゃうのよね。
骨伝導だろうと関係なくて、違反の成否は「周囲の音又は声が聞こえない状態なのか?」だけなのだから。
結局、この人が違反かどうか?については、画像を見てわかるわけもない。
声をかけて反応するかどうかの問題。
骨伝導だろうと全く同じこと。
本当に不思議
例えばこれ。
自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。
法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。
道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい
これを読めば、「横断歩道を横断しようとする自転車に優先権はない」と読み取れますが、なぜかこれを読んで「自転車も横断歩道で優先だと道路交通法ハンドブックに書いてある」と脳内解釈する人すらいる。
えっ笑。
どういう日本語の読み方をしたんだ?と心配になりますが、ホンキでそう読み取る人がいるからビックリします。
一つの通達や解説書に書いてあることを、読む人によっては全く違う意味として捉えることは不思議でしょうがないのですが、それこそ先日の報道もそう。
追い抜きに関する規定は、「自動車が自転車の右側を通過する場合、十分な間隔がない時、自動車は間隔に応じた安全な速度で進行する」よう義務づける。同じ状況で自転車には「できる限り道路の左側端に寄って通行する」義務を課す。
「十分な間隔」や「安全な速度」の具体的数値は法令では規定せず、今後検討して目安を定めて示す。間隔は1~1・5メートルが基本になるという。速度については、自転車は通常時速20キロくらいで走ることが多く、追い抜く車はそれを5~10キロ上回る速度が目安になるという。
自転車追い抜き時、車に罰則付き義務 ながら運転禁止 道交法改正へ:朝日新聞デジタル警察庁は21日、道路交通法の改正原案をまとめた。車が自転車を追い抜く際、「間隔に応じた安全な速度」で進行する義務を車の運転者に罰則付きで課す新たな規定を盛り込む。自転車の交通違反に、青切符を受けて反…
何回読んでも「側方間隔を義務付け」したのではなく、十分な側方間隔が取れない場合は「減速して通過することを義務付け」したものとしか読み取れません。
しかし世間の反応は「1.5m開けないと違反になる!」。
このルールの新設は、要は至近距離通過でも減速して通過すれば問題ないと解釈できてしまうので、むしろヤバい話にしか思えないのですが、ヤバさに気がついている人はなぜか少ない気がする。
一つの記事、一つの通達、一つの解説書を読んでも全く違う捉え方になるのはなかなか不思議なんですが、なかなか理解し難い点でもある。
それこそこれ。
第十七条
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
普通に読めば2つの義務を並列的に課しているので、どちらかを怠れば違反なんだとわかります。
「かつ」
②歩行者の通行を妨げないようにしなければならない
しかし世の中には恐ろしい読み方をする人がいて、「①と②の両方を怠れば初めて違反になる」と信じる人すらいる。
つまり、一時停止しなくても歩行者妨害しなければ違反にならないとホンキで信じる人がいたりします。
そりゃ事故るよ…
最終確認させるために強制一時停止にしたのに、「①と②の両方を怠れば初めて違反になる」と信じる人がいるのだから…
歩行者の通行を妨げないとは、たとえば歩道を通行しまたは通行しようとしている歩行者をして一時立ち止まらせるとか、後戻りを余儀なくさせるようなことのないことをいう。
なお、車両の運転者は、歩道等に入る直前で一時停止し発進したとしても、その後において、歩行者の通行を妨害することになるときは、再び一時停止するか、または徐行しなければならない。
「歩道等の直前での一時停止」「歩行者の通行を妨げないこと」このいずれかの要件を欠いても法第17条第2項の違反となる。
警察庁交通企画課、道路交通法ハンドブック、p1070、ぎょうせい
一時停止の義務と歩行者の通行を妨げてはならない義務をともに要求されるので、そのいずれかの義務を欠いても違反となる(同旨 法総研75ページ)。
東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
一時停止の義務と歩行者の通行を妨げてはならない義務とは、ともに要求されるから、その一方を欠いても違反となる。
久保哲男、「実務道路交通法」、立花書房、1986
2項の「歩道等に入る直前で一時停止し」とは、(中略)この場合、進路上の歩道等を歩行者が通行していると否とを問わない。
木宮高彦、岩井重一、「詳解道路交通法」、有斐閣ブックス、1977
一つの条文を読んでも全く違う意味に捉える人が普通にいるわけで、そりゃ事故が起きるわと呆れることが多いですが、世の中不思議ですね。
それこそ「できる限り」の解釈も同じか…
全然違う意味に捉えればトラブルが起きるのは当然の話。
ホッコリするのとモッ○リするのでは天と地ほどの差がありますが、とりあえずイヤホン関係についてはイヤホンの形状などは関係なく、「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転」することを禁じただけで、警察庁は「条文の通りに解釈して適正に運用しろよ」と指示を出しただけになります。
まあ、通達は現場には届いてない模様ですが笑。
そしてこの問題って、都道府県警察本部に「骨伝導イヤホンは違反か?」という質問をしたら、そもそも質問自体が的外れなのでややこしくなる。
「警察に聞いてきました」みたいな話って、そもそも質問内容がおかしいから噛み合わない回答になっているケースが多いのではなかろうか?
ちなみに京都府と千葉県については、道路交通法とは関係ない独自の自転車条例により、自転車運転中のイヤホンは全面的に禁止されていますが罰則はありません。
ややこしいですよね。
右側歩道を自転車で通行しても道路交通法違反にはなりませんが、愛媛県は自転車条例でダメですし笑。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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