以前、違法駐停車車両が直接事故を起こしたわけではなくても、違法駐停車が事故の一因になっていたと認められる場合には損害賠償請求が認められる場合があると書きましたが、
以前取り上げたこれ。
定期的にネット上に上がる事故動画ですが、
【悲報】横断歩行を通過する自転車が真横からのスクーター直撃に勢いよく押し倒される
ゼブラゾーンは侵入可能で過失割合が増える部分だが、自転車も軽車両扱いなので優先権はなく、譲る義務はないという。
自転車降りてればなぁ。#自転車pic.twitter.com/G6NRM2B2kN https://t.co/HZVIC0V6XN
— 爆サイ.com【公式】ツイッター (@bakusai_com) October 30, 2023
例えばこのような事故態様だったと仮定した場合。
38条2項により一時停止義務があるので、自転車が横断歩道で優先権を持つかどうか以前の話だと書きました。
これについて「交差点内で停止していたクルマにも過失がつくのか?」という質問を頂いていたのですが、過失がつくかは何とも言いがたいところ。
それに関係して。
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違法駐停車車両の責任
上の動画のようなケースで、被害者が停止車両を巻き込んで裁判することは現実的ではありません。
裁判の争点が複雑化してややこしくなるし、メリットもない。
メリットがないというのは、被害者的には受けとる額が変わらないだろうと考えられるからです。
ここで一つ判例を。
このような事故です。
見通しが悪い交差点に「C」が違法駐車してました。
自転車(A)と加害者(B)が交差点で衝突して自転車が死亡。
直接的には自転車Aと加害者Bの事故になりますが、違法駐車していたCが損害賠償責任を負うか?という判例です。
流れはこう。
違法駐車Cに対して被害者Aが損害賠償請求したわけではなくて、被害者Aは加害者Bの保険会社から損害賠償として支払いを受けている。
Bが契約していた保険会社が、被害者Aに支払った分のうち違法駐車Cにも責任があるから支払えと裁判を起こしています(代位取得)。
つまり被害者Aとしては、裁判の結果がどうだろうと関係ないんですね。
既に支払いを受けているので。
Bの保険会社とCの争いでしかない。
本件交通事故の態様からすると、本件交通事故は、本件交差点において、(1)Bが右方交差道路(本件自転車が走行して来た道路)の安全確認を十分にしなかつたこと、(2)被害者Aが左方交差道路(B車が走行して来た道路)の安全確認を十分にしなかつたこと、(3)Cが、本件交差点の角にC車を駐車させたため、B車の右方交差道路ないし本件自転車の左方交差道路の見通しを悪くしたこと、によるものである。
したがつて、本件交通事故における、被害者Aの過失割合は40パーセント、B及びCの過失割合は60パーセントであり、Cの負担割合は、右60パーセントのうちの20パーセント、すなわち、被害者Aの受けた損害のうち12パーセントとするのが相当である。
東京地裁 平成9年1月29日
被害者Aと加害者Bの間では既に40:60で話がついていて、「60%」のうち加害者Bと違法駐車Cの関係は80:20。
なので違法駐車Cは60%のうちの20%に当たる12%をBに支払う。
被害者A | 加害者B | 違法駐車C |
40% | 48% | 12% |
イメージ的には本来違法駐車Cが支払うべき分を、加害者Bが建て替えていたみたいな感じですかね。
被害者が直接BとCを巻き込んで裁判することは可能ですが、先にBから必要な分の支払いを受けているなら、あとはBとCの間の問題でしかない。
加害者に支払い能力がないとかなら別ですが、被害者的には争点が複雑化する裁判をするメリットもない。
違法駐車車両を巻き込んだところで被害者が受け取る額が増えるわけでもないし、現実的には被害者は直接的な加害者に請求するだけなんじゃないですかね。
なのでこれ。
【悲報】横断歩行を通過する自転車が真横からのスクーター直撃に勢いよく押し倒される
ゼブラゾーンは侵入可能で過失割合が増える部分だが、自転車も軽車両扱いなので優先権はなく、譲る義務はないという。
自転車降りてればなぁ。#自転車pic.twitter.com/G6NRM2B2kN https://t.co/HZVIC0V6XN
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交差点内に停止した車両に過失責任が生じるかはビミョーですが、被害者は直接的な加害者に請求して支払ってもらえば済むし、加害者が「交差点停止車両にも責任がある!」と思うなら加害者vs停止車両で争ってくださいという話になります。
例えば被害自転車と加害スクーター間で10:90になると仮定して、「交差点内停止車両」を巻き込んだとしても10:80:10とかになるだけ(ただし巻き込むことで被害者の過失が下がる場合もあります)。
そうすると論点が複雑化してややこしくなったわりには、受け取る額は変わらない。
しかも「交差点内停止車両」を過失扱いするかすらビミョー。
被害者がいきなり加害者と停止車両を巻き込んで話をすると、話が複雑化してまとまらないわけで。
被害者的には加害者が払ってくれるならそれでいい。
なかなかややこしくなる
損害賠償責任関係はまあまあややこしいのですが、古い判例解説なんかを読むと例えばこれ。
これ、警察関係の解説書に載っていた判例ですが、警察が民事判例をわざわざ取り上げた理由は「違法駐停車に対し、損害賠償責任を負うというアピールをして違法駐停車を減らそうとした」みたいなんです。
取締りでは追い付かない面があるので、「違法駐停車って思わぬところから損害賠償責任を負うよ?だから違法駐停車はやめてな」とアピールしたかった模様。
けど、違法駐停車が誘因になって損害賠償責任を負うなんてさほど知られていない気がします。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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