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昼夜で法定速度が違っていた時代。

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ちょっと前に書いた記事にご意見を頂いたのですが、

速度標識がない生活道路は、法定速度60キロまで認められているか?
道路交通法22条1項によると、速度標識がある道路ではそれが最高速度になり、速度標識がない道路では法定速度(60キロ)が最高速度になります。 歩車道の区別がない生活道路って速度標識がないほうが多いと思うのですが、それこそ生活道路に入る前の道路...
読者様
読者様
昭和の時代には法定速度を昼夜で変えていたそうですね。昼に比べ夜間は法定速度を下げていたそうです。

なかなかマニアックな話ですが、確かに昭和22~33年までは昼夜で法定最高速度が違ってました。

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昼夜で法定最高速度が違っていた時代

昭和22~33年までは自動車の法定最高速度が昼は60キロ、夜間は50キロです。

 

ただし若干意味合いが違うかなと思うのは、「夜間を下げた」ではなく「昼間を上げた」
自動車取締令時代は法定最高速度が50キロだったところ、道路交通取締法(昭和22年)に昼間を60キロに引き上げ、夜間は据え置きにした形です。

 

理由はこちら。

餘り最高速度が高いのは、その車自軆が不安定になるほか、交通の流れも追従距離を大きくせねばならないから却って一定時間に流しうる車の臺数が減ずるということになり、また現在の前照燈の光度では不十分であり危険である。また餘りに最高速度が低いのは、安全ではあっても交通の流れが迅速ではなく運轉者に不便險であり、屢々違反を生じしめるもとである。こういう譯で夜間速度は従前の通りとし晝間速度を若干引き上げた。

今井義一、道路交通取締法解説、立花書房、1948

なのでこんな感じ。

昼間 夜間
昭和22年まで 50キロ 50キロ
昭和22年道路交通取締令 60キロ 50キロ
昭和33年道路交通取締法施行令改正 60キロ 60キロ

実質10年くらいは確かに昼間と夜間で法定最高速度が違ってます。
夜間を下げたというよりも、昼間を引き上げて夜間を据え置きにしたというのが真相で、その理由としてはフロントライトの性能です。

で。
そもそも道路交通取締法で昼間の速度を引き上げた理由なんですが、真相は不明ですがアメリカの影響が強かったんじゃないかと推測。
というのも「スピードを尊ぶアメリカの」という表現があるので、戦後GHQが要望したとかそんな流れなんじゃないかと…(単なる推測です)

 

あと、若干気になる点。

第28回国会 衆議院 地方行政委員会 第13号 昭和33年3月7日

○中井委員 早く一つ配って下さい。
それから先般の質疑の御答弁の中にあったのでありますが、都道府県が違いまするごとに、標識その他交通関係で異なった標識があるという御説明でありましたが、実際私ども研究いたしてみますると、ほとんどそんなものはない、全国ほとんど一律である、実際運転の経験を持っております人たちの回答でありましたが、どういう点が違っておるのでしょうか。具体的に私は説明してもらいたい。

○坂井政府委員 ただいまの御質問でありますが、各府県にまたがりました国道のうち、特に一級国道等で問題になるのでございますが、第一に最高速度が県によって違っておる。これは具体的な事例を前の委員会でも御説明申し上げたところでございますが、相当スピードが違っておるのでございます。それからまた諸車の通行区分というのがございます。その内容は、乗用車と貨物車の区分と高速車と低速車、いわゆるスピードの早いものとスピードのおそいものとその車の運転の区分があるのでありますが、これが県によって異なっておるために、県境で非常に混乱を来たしておるといった事例もあるわけでございます。

都道府県ごとに主に一級国道の最高速度が違っている点を問題にしてますが、これは法定最高速度ではなく標識による指定最高速度。


標識最高速度の場合は昼夜で変えることは事実上不可能なので、標識で速度制限していた道路が多く、法定最高速度をさほど重視していなかったのではないかとも考えられます。
昭和33年改正では法定最高速度の昼夜の区別を無くし、国家公安委員会が都道府県公安委員会が設置する速度標識に関して指示をできるようにしている。

道路交通取締法は穴だらけ

道路交通取締法(昭和22~35年)はまあまあ穴だらけでして、例えば以前書いたように、追い越しする車両はクラクションを鳴らすことが義務でした。

道路交通法27条「追いつかれた車両の義務」は「徐行や一時停止義務」を負うのか?
ちょっと前の続きです。 27条2項「追いつかれた車両の義務」は徐行や一時停止義務を負うのか?という話がありますが、ちょっとこれについて掘り下げてみます。 なお、話は長いので興味がない人はスルー推奨。 (他の車両に追いつかれた車両の義務) 第...
第24条(追越の方法)
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない

合図を受けた前車は左側端に寄る義務があった。

24条
3 前項の合図があったことを知った場合において、前車が後車よりも法第16条第1項および第2項の規定による順位が後順位のものであるときは、前車は、後車に進路を譲るために道路の左側によらなければならず、その他のときは、追越を妨げるだけの目的をもって後車の進路を妨げる行為をしてはならない。

イメージはこう。

追い越し時にクラクションを鳴らす義務が廃止された理由は、
①騒音問題
②「鳴らせばいいんだろ!」みたいな感じで安全確認を怠り、前車が避譲したのを確認しないまま雑な追い越しをする車両が増えた

 

以上二点。
道路交通取締法では横断歩道を通過する前に必ずクラクションを鳴らす義務があったり、横断歩道での一時停止義務がなかったりなど今では考えられないほど穴だらけです。

 

ちなみに昼間の速度を引き上げた理由の推測として「アメリカの影響」と書きましたが、以前私自身が別件で行政訴訟した際。
「そもそもなんでこういう法律なんだ?」と起源を調べたら、戦後GHQの影響が色濃く反映されていたということがありまして。
道路交通取締法の解説書にも「スピードを尊ぶアメリカ」とか書いてあるので、たぶん法定速度の引き上げに影響したんじゃないかと思いますが、詳しくはわかりません。

 

ちなみにですが、そもそも。
速度標識がない道路を夜間通行する際には法定最高速度60キロまでになりますが、60キロ以下なら必ず合法という法律ではないんですね。
単に22条(最高速度)違反が成立しないだけで、フロントライトの照射範囲に応じた速度内で通行する義務があると解釈しているのが判例の立場

判例 内容
東京高裁S42.4.3 自動車の運転者は、前照灯の照射範囲を考え、適宜減速して進行すべき注意義務がある。
東京高裁S51.7.16 自車の前照灯を下向きにして進行する場合、前方30mを超える距離にある障害物を確認できないことを前提として、自車の速度を調節すべき注意義務を負っていたものと解するのが相当である。(中略)スチールラジアルタイヤを装着すれば、運転者が危険を感じてから停止するまで約29mを要するのであるから、運転者が前方注視を厳にし、障害物を約30m前方に発見して直ちに制動の措置を講ずれば、その直前において停止し、これとの衝突を回避することが不可能であるとはいえない。しかしながら、運転者は絶えず前方注視義務を十分に果すことが理想であっても、長い運転時間中に一瞬前方注視を怠ることもありえないとは言えず、あるいは前方注視義務を十分に果していても急制動の措置を講ずることに一瞬の遅れを生ずることもないわけではなく、さらに運転者がその注意義務を果そうとしても外部的事情により義務の履行が困難となることがありうることを考えると、運転者としては、車両の性能と義務の履行につき限界すれすれの条件を設定して行動すべきではなく、若干の余裕を見て不測の事態にも対処できるような状況の下で運転をすべき業務上の注意義務があるといわなければならない
東京高裁S42.12.26 対向車の前照灯にげん惑されて見通しが困難に陥ったときは、停車または徐行の義務がある。
東京高裁S55.8.6 被害車両と離合しようとするに際し、原判示のとおりの注意義務を怠り、同車と前方約108mに対向接近するに至るまで前照灯を下向きにせず、道路中央線寄りを指定制限速度毎時50キロを上廻る高速で進行した点で、被告人に本件事故発生の過失責任がある
名古屋高裁S34.4.6 暗い道路上を自転車を運転してきた者が、急に前方からくる自動車の明るい前照灯の光にさらされると、これに眩(げん)惑されて、自己の運転操作を誤り、ふらふらと自動車の進路上に進出するようなことは往々にしてありがちなものであるから、自動車の運転者としては、このような場合に備え、たとえ、相手方が道路交通規則に違反して、道路右側を通行していたとしても、まず自己の運転する自動車の前照灯を適宜減光するとともに、たえず相手方の行動を注視し、もし相手方において適当な機会に左側通行に転移せず、依然として規則違反の右側通行を続けるような場合には、当時附近の国道上には、前認定のごとく被害者の自転車以外に他に進行するものはなかつたのであるから、臨機の措置として、自己の進路を道路の中央ないし右側に転じ、できるだけ相手の自転車との間隔をとつて進行すべき
大阪地裁H7.2.13(差戻しによる三度目の一審) 自動車運転者としては、衝突等を回避するため、前照灯下向きの照射距離の範囲内でも停止できるように適宜減速するか、前照灯を上向きにして視認可能な範囲を広く採って、自車及び対向自転車の制動距離等の外で対向自転車を発見できるようにするか、いずれかの措置をとるべきであった
札幌高裁H20.7.24 A車はこれに加えて前照灯をすれ違い用の状態で進行しているのであり,時速80キロメートルの停止距離が約57メートル(空走時間1秒の場合)であること、すれ違い用前照灯の照射範囲が約40メートルであることなどを考慮すると,これは進路前方に障害物が現れた場合に衝突を避けられない危険が相当に大きい運転態様である

少なくとも制限速度である時速60キロメートル以下に速度を落とすか,前照灯を走行用に切り替えるか,その両方を行うかによって,進路前方の安全を確認するべきである

ロービームで通行するならロービームの照射範囲内で停止できる速度を求めていると言えるし、理屈の上では法定最高速度以下でも、速度超過罪(22条)ではなく安全運転義務違反(70条)にはなりうると思うのですが、安全運転義務違反は濫用禁止の経緯もあるため難しいのかもしれません。

 

まあ、見える範囲内で停止できる速度で通行する注意義務があるというのが裁判所の立場ですが、道路交通法上で明確に規定されていない注意義務については事故が起きたとき以外は問題にされないという…
道路交通法を遵守していても過失があれば過失運転致死傷罪には問われますが、道路交通法上明確にした方がいいのか、注意義務止まりで十分なのかは悩ましい。


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