さてさて、例のこれ。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
「できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない」の意味を勘違いする人が多い気がする。
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「できる限り」の意味
「できる限り」の意味を誤解する人が多い気がするけど、一番分かりやすいのは駐停車の規定。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
停車 | 駐車 |
できる限り左側端 | 左側端 |
駐車は「左側端」、停車は「できる限り左側端」としてますが、なぜそのように規定したかについては当時警察庁で道路交通法を作った宮崎氏が解説してます。
停車の説明
なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車の説明
本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車と停車では「駐車」のほうが長い時間に渡り止まっていることは明らかですが、「できる限り」とついていない駐車については問答無用に左側端になる。
一方、「できる限り」とついている停車については、「道路工事その他障害物のためやむを得ない場合」には左側端に寄れなくてもしょうがないよね?という意味になる。
要は新設される18条4項の「できる限り左側端に寄って」とは、「左側端に寄って、ただし道路工事その他障害物や路面の荒れなどのため左側端に寄ることが不可能な場合は除外」という意味。
つまり18条1項と同じです。
18条1項にも「但し書き」としてやむを得ない場合が除外されてますが、それと同じこと。
「できる限り」とは、道路や交通の状況等に鑑み支障のない範囲における可能な限度を意味する。
木宮高彦、詳解道路交通法、有斐閣ブックス、1977、p90
実例を。
①道路に陥没
左側端に陥没がある場合、「できる限り左側端に寄って」なので陥没を避けて安全な範囲で左側端に寄ればいい。
仮に「できる限り」とついてない場合には、陥没だろうと左側端を通行するしかないことになってしまう。
②側溝上
左側端が側溝だとしても、側溝上は安全な走行には適さない。
「できる限り左側端に寄って」なので側溝上を避けて安全な範囲で左側端に寄ればいい。
③マンホール
二輪車がマンホール上で滑りやすいのはよく知られた事実ですが、「できる限り左側端に寄って」なのでマンホールを避けて安全な範囲で左側端に寄ればいい。
④コンクリートブロック
左側端がコンクリートブロックの場合、コンクリートブロック上は通行には適さない。
なのでコンクリートブロック上を通行する必要もない。
もし「できる限り」とついていなかった場合にはコンクリートブロック上が左側端と解釈しうるのですが、「できる限り左側端に寄って」なので安全な範囲で左側端に寄ればいい。
「残さず食べなければならない」と「できる限り残さず食べなければならない」だと、前者は有無を言わさず完食する義務があり、後者は無理な場合なら仕方ないというスタンスですよね。
「確定申告は3月15日までにしなければならない」と「確定申告はできる限り3月15日までにしなければならない」では、後者のほうが条件を緩和してますよね。
「法定速度の60キロ以下で通行しなければならない」と「できる限り法定速度の60キロ以下で通行しなければならない」では、後者は場合によって60キロ以上になることがあってもかまわないことになりますよね。
「横断しようとする歩行者がいるときは一時停止しなければならない」が「横断しようとする歩行者がいるときは、できる限り一時停止しなければならない」と規定されたら大変なことになります笑。
単にそれだけのこと。
なかなか不思議な
「できる限りだから好き勝手にやるぜ!」みたいな拡大解釈に繋がらないように「できる限り」には客観性を求めている。
できる限りとは道路や交通の状況等をかんがみ支障のない範囲における可能な限度を意味すると解され、単に運転者の主観において可能な限度を持って足りると解すべきではない
名古屋簡裁 昭和46年9月14日
何でもそうですが、話をすり替えて拡大解釈したがる人がいるからこうなりますが、
通行に適さない危険を排除する意味で「できる限り左側端に寄って」としているだけのこと。
無理難題を強いる意味合いでもないし、もちろん意味としては「安全な範囲で」となります。
左折前に「左側端に寄って」ではなく「できる限り左側端に寄って」としている理由は、左側端に寄ると左折不可能になる大型車がいたりするからに過ぎない。
「左側端に寄って」だと必ずこうしないと違法になるけど、大型車は左折不可能に陥る。
「できる限り左側端に寄って」だと、可能な範囲で左側端に寄ればいいことになる。
要は「できない場合を除外」するために「できる限り」としているだけですが、こちらにも書いたように18条3項は「安全な速度で進行しなければならない」とする一方、追い越し時安全運転義務の28条4項は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」としている。
18条3項 | 28条4項 |
安全な速度で進行しなければならない | できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない |
この趣旨からすれば、18条3項は警察庁なりに違反として検挙しやすいように「できる限り」とつけなかったのではないかとも思えるのですが、安全側方間隔を義務付けしてない分をカバーしているのかもしれません。
要は18条3項は、十分な側方間隔がないときに客観的安全性がない速度と認めれば即座に違反として検挙可能とも取れる。
実はここにポイントがあるのかもしれません。
あえて18条3項に「できる限り」を付けてないのではないかとすら思えますが、日本語って難しいですよね笑。
英訳するとビミョーにニュアンスが変わるし。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
こんにちは。
道路交通法でいう「できる限り」とは「そのときの状況を考え、客観的にみて可能ならば」のような意味合いにとらえてもよいでしょうか?
よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
ニュアンスとしてはそのような感じです。
ただし「できる限り」を使っている条文の趣旨も考えての話になるかと。
ご回答ありがとうございます。
場合なのか程度なのかよく考えるようにしたいと思います。
コメントありがとうございます。
客観的な限度もあるから「できる限り」としているので、なかなか難しいですよね。