ツールド北海道事故はほぼ風化したな、と思ってしまうのですが、以前何かで見た件について疑問がありまして。
主催者を擁護する意図は全くなく、単なる法律解釈の話としてお読みください。
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道路使用許可条件違反
ツールド北海道の件では、道路使用許可について「条件」が警察署長からついていて、対向車を止めることが許可条件だったらしい。
で、このようにスルーパス状態だったわけですよね。
ガードマンの方がいらっしゃいまして、なんか、なんかされてるみたいなんですよね。ちょっと止まって声を掛けまして、これ行けるんですか?ったら「行けるよ」って言うからそのまま、登ってきました。そうしましたらちょうどツールド北海道23ていう自転車競技が開催されていたみたいで、上の方からものすごいスピードで自転車が降りてまいりました。交通規制はですね、片側だけの交通規制ということで、まあ、こっちのほうは、山に登って行くほうは解放されて自由に走れると。まあ下りのほうは規制されているということでした。
これについて「道路使用許可条件違反」(77条3項)だから道路交通法違反として処罰すべきという意見もある。
この理屈の意味がよくわからない。
というのも、仮に道路使用許可条件違反になるとしたら、「ガードマンが」道路使用許可条件に違反して止めなかった扱いにしかならないのでは?
違反行為者が誰なのかというと、止めなかった人が行為者ですよね。
ガードマンを処罰せよ、という話…なの???
第三者委員会の議事要旨を見る限り、主催者→幹事警備会社→各警備会社→現場の警備員という流れできちんと警備体制が徹底されていたようには思えない。
仮に現場のガードマンが「対向車を絶対に止めること」と指示されていたのにスルーさせたなら、「現場のガードマンが」許可条件違反になりうる。
現場のガードマンまできちんと指示が行き届いていなかった場合には、罪には問えない。
現場のガードマンが「許可条件を知らなかった」場合、知らなかった許可条件を守れと言われてもね。
そもそも、現場の警備員に刑事責任を負わせてなんの意味があるのか不思議に思ってまして。
責任を負うのは主催者であるべき。
そして話が飛びますが、道路使用許可条件違反には両罰規定として法人を処罰する123条もあるのですが、両罰規定なのよ。
つまり現場のガードマンに許可条件違反があったときに、現場のガードマンだけでなく法人も処罰しましょうというのが両罰規定。
原則としては現場のガードマンに違反が成立した上での話。
これらを適用することが困難だから、業務上「過失」致死容疑で捜査していたのだと思うのですが…
なんか不思議な法律解釈に思えていたけど、ガードマンに責任を負わせたら責任の所在が余計ウヤムヤになるだけなんじゃないのかな。
結局うやむやに
気持ち悪いなと思うのは、結局のところ警備員に対する指示が行き届いてなかったとなっているけど、主催者が現場(幹事警備会社を通じて)に対してどのような指示をしていたかのかも明らかになっていないこと。
大元の主催者の指示がそもそもダメダメだったのか、主催者→幹事警備会社→各警備会社→現場の警備員というある種の伝言ゲームの段階でうやむやになっていたのかすらよくわからない。
そして、主催者の責任とやらも結局何なのかウヤムヤですが、それでいいんですかね。
ちなみに以前書いたけど、道路使用許可を得て通行禁止にしていても道路交通法は適用されます。
実際にそのような判例があるので(東京高裁 昭和42年5月31日)。
じゃあなぜ、レース中の選手が並走しても違反にならないんだ!という話になりそうですが、それはレースとして使用許可を出したからです。
本来禁止されている行為について道路使用許可を出したのだから、レースとしての範囲であればわざわざ道路交通法の具体的規制を適用する理由がない。
けど例えばテレビの中継車が無免許運転したとか、飲酒運転したとかであれば、それはレースとして許可した範囲から逸脱するので道路交通法違反を適用できる。
レースとして許可を出したのに「並走だ!」と発狂して取り締まる理由がないから適用しないだけの話。
箱根駅伝として使用許可を出したのに、「選手は歩行者だから車道通行したら通行区分違反だ!」なんてバカな話にはならない。
道路交通法が適用されないエリアになるわけではなくて、駅伝として使用許可を出したのだから選手に適用する理由がないだけなのよね。
道路使用許可条件違反を適用すべき!と主張する人は、ガードマンに刑事責任を負わせたいという意味になるはず。
ガードマンに責任を負わせて何の意味があるのかわからないのですが(主催者がザルだったのが問題ですよね?)、そもそもこのガードマン対し主催者はどのような指示をしていたのかも明らかではないという…
あともうひとつ。
そもそも私人に過ぎないガードマンは、一般車両に対して「進まないで」とお願いすることは出来ても、「進むな」と強制する権限はない。
私人に交通規制(道路交通法上の交通規制)をする権限はないからそうなる。
そうするとそもそも、「対向車線を止める」という使用許可条件自体があまり意味がないものになるわけで、なおさら使用許可条件違反に問うことは困難と思いますが、どちらにせよガードマンに責任を負わせてもしょうがなくて主催者責任の問題だと思うのですが…
ガードマンが適切に動くように指示、監督、連絡体制構築などを怠っていた点が問題。
けど結局の話、片側のみの交通規制でレースをする計画自体にムリがあったのだから、なおさらガードマンに責任を負わせてもしょうがないと思うのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
有識者会議でやるべきことは、警察との取り決めが警備員に伝わるまでの認識の差がどこで生まれたかを、ハッキリさせることだと思うのですが、議論されているのだろうか?
コメントありがとうございます。
理由はわかりませんが、事故の調査はせずに一般論に終始する方針みたいなんです。
主催者→幹事警備会社→各警備会社→警備員と伝達される段階のどこに問題があったか次第で変わるように思いますが、その原因部分の追及はせずに、「ちゃんとやろう!」みたいな話になるだけです。
なので有識者会議も形骸化しています。