読者様から、「これ、合ってますかね?」と質問を頂いたのですが、
引用元:運転レベル向上委員会
シンプルに間違ってます。
これは進行方向別通行区分(指定通行区分)の有無で話が変わりますが、動画中では指定通行区分(左折レーン)が存在する場合の説明なので誤り。
正解はこれ。
○間違い
○正解
○正解
○間違い
「警察に確認した」と言っている分だけ厄介ですが、警察本部が道路交通法の解釈を間違えるのはもはやお約束みたいなもの。
先に警察庁の説明を引用しておきます。
・自転車専用通行帯を通行する自転車と左折自動車を分離するため、交差点流入部で自転車専用通行帯(第一通行帯)と第二通行帯との間に規制標示「進路変更禁止(102の2)」の規制を実施するものとする。この場合の道路標示は、30m程度の区間に設置するものとする。ただし、進行方向別通行区分の規制が実施されている場合、車両はその車線内を通行しなければならないため、必ずしも進路変更禁止規制の実施の必要はないが、利用者にルールを分かりやすく伝えるために進路変更禁止規制を実施しているものである。
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kisei/bicycle/kentoiinkai2/04/jitenshakojo_04_02-2.pdf
分かりにくいので進路変更禁止(イエローライン)を併用することが推奨されてます。
なぜ?左折レーンがあるときに自転車レーンに入ったら違反になる理由
まず、34条1項と35条1項を確認しましょう。
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。
左折するときは「あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り」が34条1項。
そして指定通行区分(左折レーンや右折レーン)があるときは35条1項。
第三十五条 車両(特定小型原動機付自転車等及び右折につき一般原動機付自転車が前条第五項本文の規定によることとされる交差点において左折又は右折をする一般原動機付自転車を除く。)は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により交差点で進行する方向に関する通行の区分が指定されているときは、同条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該通行の区分に従い当該車両通行帯を通行しなければならない。ただし、第四十条の規定に従うため、又は道路の損壊、道路工事その他の障害のためやむを得ないときは、この限りでない。
「同条第一項」とは34条1項を指します(前半で「前条」としているので、前条と同じ条という意味)。
なので35条1項は、こういう意味。
○指定通行区分(左折レーン)がある場合(35条1項)
・間違い(指定通行区分違反)
・正解
○指定通行区分(左折レーン)がない場合(34条1項)
・正解
・間違い(できる限り左側端に寄っていない)
※ただし大型車など左側端に寄れない車両は別。「できる限り左側端に」なので。
「できる限り道路の左側端に寄り」とは
(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
なので結論はこうなります。
②左折レーンがないときは、大型車など左側端に寄れない車両等を除き、自転車レーンに入り左折する義務がある(34条1項)。
「しなければならない(Must)」なので、「どちらでもいい」なんて解釈は取れないはずですが…
左折する位置を一定にするために左折レーンを指定しているわけだし。
間違いポイント
動画の説明にはいくつか間違いがありますね。
まず、34条1項の道路標識等と35条1項の道路標識等を混同している点。
動画中の説明ではこれを左折レーンの矢印だとしていますが、34条1項の道路標示は「右左折の方法」(111)。
道路標示 | 意味 |
右左折の方法(111) | 交通法第三十四条第一項、第二項又は第四項の道路標示により、車両(特定小型原動機付自転車、軽車両及び右折につき一般原動機付自転車が交通法第三十四条第五項本文の規定によることとされる交差点において右折をする一般原動機付自転車を除く。以下この項において同じ。)が交差点において右折又は左折するときに通行すべき部分を指定すること。 |
右左折の方法(111)のうち、左折に関わるのはこれ。
交差点内の通行位置~交差点通過後通行位置指定の指定で、交差点「前」の話ではない。
指定通行区分(左折レーンや右折レーン)については、35条1項の道路標示だと規定されてます。
35条1項の道路標示だと規定されてます。
おそらく、これらの整合性を確認しないまま質問し、警察も間違った説明をしたか、聞き間違えたのかは知りませんが、警察本部が間違った説明をするのは日常茶飯事なので鵜呑みにしないほうがよい。
「自転車の二段階右折は任意」とか、「歩道の逆走違反で検挙」などの珍事が横行しています。
よく、イエローのセンターラインを30条と勘違いする人がいますが、道路交通法と標識令は照応関係にあることを見逃すと間違いやすい。
それと同じで、34条の道路標識等が何なのか確認しないまま動画にしちゃったのかな。
ただしややこしいのは
以前も書いたけど、民事の注意義務としては「左折レーンがあるときでも自転車レーンに進入すべき」みたいな謎判例があること。
民事の注意義務は道路交通法と必ずしも関係しないとはいえ、本当にややこしい。
このように「義務ではない注意義務」まで考慮して警察が「どっちでもいい」と回答したのか、警察官の勘違い/質問の仕方が悪いのかはわかりませんが、仮に間違えたとして可罰的違法性はないと捉えているのかもしれませんね。
個人的には分かりにくいルールが悪い気がしますが…
けどこういう間違い解釈の横行で何が困るかというと、自転車に乗って自転車レーンを通行中、クルマがどのような動きをするか予想しにくい点。
この方のように間違った解釈を正しいと思い込む人は普通にいるので、自転車に乗る立場からすると
他人に期待しないほうがいいよね。
しかし左折方法すらわからないドライバーがいるとなると、そりゃ事故が起きても不思議ではない。
自転車に乗る人からすれば「どっちでもいい」なんて斬新な解釈を披露されるとなかなかツラい。
法律解釈は多数の解説書から整合性を確認するようにし、都道府県警察本部に聞くのはやめた方がいいのよね。
実際のところ、警察庁の解説とは異なる内容になっているし。
この件は著名な解説書なら書いてあるはずですが、解説書を見ない人なのだろうか。
解釈の正しさと、取締りをするかどうかは別問題なのでなおさらややこしい。
なのでまとめ。
②左折レーン(指定通行区分)がないときは、自転車レーンに進入して「できる限り左側端に寄って」左折する義務がある。
解釈に悩むときは、専門書や警察庁の解説を確認しましょう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
三十五条は「指定通行区分を通行するときは、その通行帯の矢印の方向にしか進行できない」と解釈すべきです。その解釈に従うと自転車通行帯には矢印がないのだから、三十四条に従ってできる限り左側端に寄る目的で自転車通行帯に入った車両は、矢印がない以上自由に進行できます。あなたが取り上げた警察庁の資料は自転車通行帯に矢印がある場合の解説で、自転車通行帯に矢印がない場合の解説はしていない。
運転レベル向上委員会さんは間違っていません。
コメントありがとうございます。
独自見解過ぎて話にならないのと、「34条1項にかかわらず」と条文に書いてあるのに無視されても…