PVアクセスランキング にほんブログ村 当サイトはAmazonアソシエイト等各種アフィリエイトプログラムに参加しています。
スポンサーリンク

商業施設内の「一時停止」に効力はあるか?

blog
スポンサーリンク

こちらに関係して読者様から教えてもらった記事があるのですが、

駐車場でのトラブルに道路交通法違反を適用できるか?
読者様からある動画の解説について質問を頂いたのですが、これの件。 三重県警によりますと、警察署勤務の30代の男性巡査部長は2024年3月、県内の駐車場で捜査車両から降りようとした際、隣に停まっていた車にドアをぶつけてそのまま立ち去っていまし...
商業施設の駐車場の「とまれ」で停止せず走り抜けた車…!道路交通法違反になる?(ファイナンシャルフィールド) - Yahoo!ニュース
ショッピングモールやスーパーなどの商業施設にある駐車場では、「止まれ」の文字や停止線をよく見かけます。 しかし、一時停止しないでそのまま進んでしまうドライバーがいます。なかには、そのような車にぶ

細かい話をすると、一時停止規制の問題と「道路」と認められるかは全く違う話。
一時停止規制は公安委員会が標識を立てて意思決定()しないと効力がなく、私有地が道路と認められるかは別問題。

スポンサーリンク

法定外一時停止

商業施設内にある「一時停止」については、理屈の上では公安委員会の規制ではないので、一時停止しなかったとしても道路交通法違反にはなりません。

 

しかし、しかしですよ。
一時停止すべき注意義務」はあるので、一時停止せずに事故を起こせば過失。
公安委員会の規制なのかどうかは一部の道路交通法マニア以外には関係ない話ですし、違反になるかならないかの結果論より事故防止のために一時停止したほうがいいよね。

 

公安委員会以外が書いた「止まれ」についても同じく一時停止義務はないのですが、自転車については民事でバグる原因になるから要注意。

 

判例は東京地裁 平成6年10月18日。
まずは事故の概要。

赤自転車は「止まれ」の任意表示に従わず進行。
青自転車は逆走。

右検討の結果によれば、本件事故は、原告が交差点の手前で減速して本件交差点に進入し、曲がり切つた後ペダルを踏み込んだ時に原告自転車の前輪が被告自転車の前輪右側に衝突し、その結果、原告が前かがみで被告自転車の前輪を覆うようにして倒れた結果生じたものであると認めるのが相当である。なお、本件事故時の被告の行動は、大袋駅からの道路の右側を減速しながら通行し、原告を発見して直ちにブレーキをかけ、被告自転車が停止した途端に原告自転車と衝突したものであると認めるのが相当である。そして、被告は、本人尋問において「大袋駅方面から道路の左側を自転車で通行し、本件交差点で停止した上で右折して恩間方面に向かう方法をとれば、交差点での停止時に後続の自転車による追突を受けるので、内回りのほうが行い易い」と供述していることから、本件事故時において、歩行者をよけようとして大袋駅からの道路の右側を通行することになつたものの、右側通行を自ら容認して走行したものと推認される。右認定に反する原被告の各供述は前示検討の結果に照らして採用しない。

 

そうすると、本件事故は、被告が大袋駅からの道路を通行するに当たり、左側を走行すべきところを右側を走行し、本件交差点も右側から進入したことのため、原告自転車との衝突を招来したものであつて、被告の右義務違反による過失責任は免れない。

 

他方、原告も、直線道路に進入するに当たり、「止まれ」と大きく書かれた看板にもかかわらず、減速をしたのみで本件交差点に進入し、その後、前方の道路事情の確認を不十分のままペダルを踏み込んだものと言わざるを得ず、このような停止義務違反、前方注視義務違反も本件事故の原因となつていることは明らかである。

 

そして、被告の過失と原告の過失の双方を対比して勘案し、また、前認定の本件交差点付近の自転車や歩行者の通行状況も斟酌すると、被告は明示で主張はしていないが、本件事故で原告の被つた損害については、その75パーセントを過失相殺によつて減ずるのが相当である。

東京地裁 平成6年10月18日

過失割合はこう。

赤自転車 青自転車
違反の有無 逆走
過失割合 75 25

逆走自転車よりも、法定外一時停止を遵守しなかったほうが過失が大きくなる不思議w
商業施設内の「止まれ」についても道路交通法上は一時停止義務がないにせよ、注意義務は免れない。

過失論がメインの日本では

日本では違反か否かより過失(注意義務違反)のほうが優位。
ちょっと前に挙げたこちら。

日本と海外における「過失」の考え方の違い。
ちょっと興味深い記事がありました。 内容をざっくりまとめるとこう。 ・事故現場は公園内 ・公園内には制限速度20マイル(約32キロ)が指定されているが、自転車には適用されない ・加害者(自転車)は25~39マイル(40~62キロ)で公園内を...

読者様が調べてくれたのですが、イギリスにはそもそも日本でいう過失致死傷罪に相当するような、自転車の「過失」によって死傷に至らしめた犯罪を処罰する法律がないらしい。
日本では道路交通法違反がなくても過失(予見可能/回避可能)と致死傷に因果関係があれば有罪になりますが、国によって考え方はだいぶ違う。

 

話を戻しますが、日本の法律上、道路交通法違反がなくても注意義務違反によって他人を死傷させたら過失(運転)致死傷罪が成立する。
道路交通法違反にならない注意義務については事故を起こさない限り問題にはならないけど、事故を起こしてから「やっぱりあのとき止まっておけば…」なんて言っても遅い。
なので道路交通法の義務じゃないから…というのはナンセンスかと。

過失(運転)致死傷の注意義務の話

それこそ以前取り上げた広島高裁判決。

 

事故概要。

道路外のガソリンスタンドから進出する際に、歩道左側には高さ2.5mの壁があり左側が見えないにもかかわらず、徐行進行した。
そこに歩道通行する自転車(時速39.6キロ)が衝突した事故になります。

 

道路交通法の義務でいうと、歩道を横切る前に一時停止(17条2項)。
一審は「一時停止を怠った過失」として有罪にしてますが、広島高裁は一審判決を「是認できない」として破棄します。
破棄した理由は、こちら。

原判決は,その説示に照らし,本位的訴因の内容を⑴で当裁判所が理解したのと同様の趣旨で捉えた上でこれを是認し,そのとおりの犯罪事実を認定したものといえる。しかしながら,以下の理由からこの判断は是認することができない。

 

ア 被告人車両の進路に沿って本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出しようとする場合,左方の見通しが不良であったことは原判決も説示するところである。4のとおり,本件においては,高さ2.5mの壁が本件ガソリンスタンド敷地の西端に南北方向に設けられ,本件ガソリンスタンド敷地と本件歩道との境界線上まで及んでいるのみならず,その北端付近には看板等も設置されている。加えて,被告人車両においては,車両先端からルームミラーまでの距離が約120cm,同じく運転席の背もたれまでの距離がおおよそ160cmであるから,本件歩道手前の地点に被告人車両を停止させた状態では,運転者である被告人は,本件歩道と本件ガソリンスタンドの境界線から1m以上手前(南側)の地点にいることになる。記録によれば,同地点からは,上記壁等遮へい物の存在により,本件歩道上の左方の状況については,視認することが困難な状況にあったものと認められる。
そうすると,被告人が仮に本件歩道手前の地点で一時停止をしても,左方から来るA自転車について視認することは困難であるから,本件歩道手前の地点で一時停止をして左右等の安全確認を行ったとしても,左方から来るA自転車を発見,視認して衝突回避措置を執ることはできなかったことになる。
したがって,本位的訴因において本件過失の根拠となる注意義務として行うべきとされた本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認措置は,本件事故の回避を可能ならしめる有効な措置とはいえず,本位的訴因における上記注意義務及びその違反は,被告人に過失責任を問うことのできないものであったといわざるを得ない。
原判決は,このような過失責任を問うことのできない注意義務を設定した本位的訴因をそのまま是認した点において,その事実認定は,論理則,経験則等に違反した不合理なものといわざるを得ない。

イ また,原判決は,本位的訴因における過失行為と本件結果との因果関係を肯定し,本件結果を本位的訴因における注意義務違反,つまり,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認の各義務違反に帰責しているが,この判断についても是認することはできない。
すなわち,本件においては,上記のとおり,被告人には,本位的訴因に係る本件歩道手前の地点での一時停止義務及び安全確認義務を課すことはできず,本位的訴因における被告人の行為に,本件結果を帰責することは許されない。
また,仮に,被告人が,本位的訴因における本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認の各措置を執ったとしても,A自転車が左方から進行して来ることに気付くことができず,ひいては,本件結果を回避することができる有効な措置を執ることができなかったものと認められ,原判決は,当該各措置を履行したとしても,予見することも有効な回避措置を執ることもできないまま発生した結果を被告人に帰責するものであって是認することができない。
この点,原判決は,被告人が本件歩道手前の地点で一時停止をしていれば,被告人車両が本件衝突地点に到達する前にA自転車が同地点を通過し終えていることになるため,本件事故は発生しなかったことを指摘し,これを主たる根拠として,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認義務違反と本件結果との因果関係を肯定している
しかしながら,上記のような理屈によって,本件において,被告人が本件歩道手前の地点に到達した時点で一時停止をしていたら,その分だけ本件衝突地点への到達が遅れ,本件結果を回避することができたとはいえるとしても,それゆえに,被告人に対し,本件歩道手前の地点での一時停止義務を課し,同義務違反と本件結果との間の因果関係を肯定することは許されない。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

一時停止しても左側の壁によって視認できないのだから回避できないよね、としている。
しかも一時停止したら偶然事故を回避できたにしても、一時停止義務は安全確認のために課しているのだから、偶然事故を回避できるかなんて話じゃないだろとする。

 

そりゃそうですよね。
じゃあ無罪なのかというと、広島高裁は新たに注意義務違反を認定して有罪。

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

一審 二審
本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失 本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失

見える範囲が狭いのだから、

一時停止しても安全確認できない。
死角に歩行者がいるかもしれないし、ジョギングしている人がいるかもしれないけど、どちらにせよ見えない。

なので、一時停止後にわずかに進行して一時停止するなど小刻みに発進と停止を繰り返す注意義務がある。

そりゃ歩道を時速39.6キロで走る自転車もどうかと思うけど、道路交通法の義務は一時停止(17条2項)。
一時停止義務は安全確認のために課しているのだから、一時停止しても歩道の安全が十分確認できないならそれ以外に「注意義務」として「一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして」安全を確認することになる。

 

これにしても、道路交通法上は一時停止し歩行者の妨害をしなければ違反にはならない。
しかし道路交通法の義務以上の注意義務を求めているのが日本の法律。
商業施設内の「止まれ」にしても、止まらずに事故を起こすと有罪なので、一般人目線では分けて考える必要がないのよね。

 

さらにいえば、たまたま自転車は被害者になっているけど、たまたま歩行者が路外から出てきたなら加害者になるわけで、徐行義務違反は軽視できない。
どっちが悪いか?ではなく、それぞれやることをすべき。

 

ちなみに「一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして安全を確認する注意義務」を認定した判例は最近ちらほら見かけますが、結構厳しいのよ。
古い判例だと「死角があるなら通行人に誘導を求めるべきだった」として有罪にした判例もありますが、道路交通法の義務と過失(運転)致死傷の注意義務は別。
予見可能なら回避せよ、が日本の過失論です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました