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38条2項の警察庁解釈、「対向車に適用できない」と書いてありますが…

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先日の件。

38条2項の「警察庁解釈」と、思わぬトラップ。気を付けないと違反切符!?
もう2年以上前に、38条2項の解釈は散々やってきたので今さら感しかありませんが、にわかに信じがたいですが、警察庁的には対向車の停止状態も38条2項の対象と捉えているとか。その解釈をするとだいぶ珍事が起きることも解説済みですが、改めて警察庁解...

38条2項の解釈問題は2年前に散々やってまして、

道路交通法38条2項と判例の話。
以前の続き。道路交通法38条2項は横断歩道手前に停止車両があるときには、前に出る前に一時停止するルール。Aに対してBに対してCに対して38条2項(一時停止)38条1項前段(最徐行)特になし対向車(B)も含むのでは?と疑問が晴れない方もいます...

以下を総合判断すると、対向車を含まないと捉えるのが妥当だと考えてました。

・立法趣旨(昭和42年警察庁交通企画課、警察学論集)
・札幌高裁(S45.8.20)、東京高裁(S46.5.31)、大阪高裁(S54.11.22)など刑事判例の内容
・昭和46年道路交通法改正(44条1号の改正)と、当時の改正趣旨(月刊交通)
・条文整合性(他条との兼ね合い)
・国会答弁
・民事判例での取り扱い

これらを総合的にみると、対向車を含みようがないとすら考えますが、読者様から警察庁の質疑回答を教えてもらいました。

 

警察庁が主催している「運転技能試験官専科教養」の座学において質疑回答があり、その回答をまとめた物を千葉県警察本部交通部運転免許本部運転教育課が各自動車学校に配布したもの。

(問7)
横断歩道又はその手前直近の対向車線上に停止している車両等がある場合に、一時停止せず又は一時停止しようとしないとき〔歩行者保護(停車)〕を適用すべきか。複数車線の場合はどうか(平成28年)

(答)
図で示す状態にある対向車線の車両については、「歩行者を横断させるために停止しているものでないことが明らか」と認められることから、〔歩行者保護(停車)〕については、適用できない。ただし、横断歩道に接近する速度を観察し、〔横断者保護(直前速度)〕(38条1)の適用が妥当であれば適用されたい。複数車線の場合においても、道路の幅員に応じて、横断しようとする歩行者等がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止できるような速度で当該横断歩道に接近するものである。

技能試験関係質疑回答集、令和4年、千葉県警本部

け、警察庁…
警察庁主催の「運転技能試験官専科教養」であった質疑を参考にまとめたとあるぞ…
つまり実質的に警察庁の回答になるはず。

 

なお、警察庁が出した「運転免許技能試験に係る採点基準の運用の標準について(通達)」にはこのように書いてある。

歩行者保護不停止等[歩行者保護]

5 横断歩道等又その手前の直近で停止している車両等がある場合に、その側方を通過して前方に出る前に一時停止せず又は一時停止しようとしないとき。ただし、信号機の表示等により歩行者等の横断が禁止されている場合又は歩行者等を横断させるために停止しているものでないことが明らかな車両等の側方を通過する場合には適用しない。[停車](38)

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20230330_44.pdf

そもそもなぜ警察庁が「歩行者等を横断させるために停止しているものでないことが明らかな車両等の側方を通過する場合には適用しない」としているか?については、立法趣旨が「横断歩道手前は駐停車禁止なんだから、停止している車両がいたら横断歩行者優先中だとわかるはずなのに、空気読めないバカが横行した」ことから一時停止にしたものだからです。

2項と3項が新設された昭和42年の警察庁の説明がこちら。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

次に、第38条第3項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない」こととしている。

横断歩道における歩行者の保護を図るため従来からも横断歩道の手前の側端から前に30メートル以内の道路の部分は、第30条第3号の規定によって追越し禁止場所とされていたが、この規定によって禁止されていたのは、横断歩道の手前の側端から前に30メートル以内の部分において、進路を変更し、かつ、前車の前方に出る行為であって、進路を変更しないで前方に出るいわゆる追抜きや、この部分よりさらに手前の部分で進路を変更してこの部分で前車の前方に出る追越しは、第30条第3号の規定による禁止の対象となっていなかった。しかしながら、これらの行為も、横断歩道を通行する歩行者の発見を遅れさせることになる危険な行為であると考えられたので、今回の改正において禁止されたのである。

(注2)追越しとは、「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう」こととされている(第2条第21号)。したがって、進路を変えないで追いついた車両等の側方を通過してその前方に出るいわゆる追抜きは、追越しではないことになる。また、追越し禁止場所で追越し行為の為一部が行われたに過ぎない場合は、違反にならないこととされている。

警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律」、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

立法の段階で、「故障車の場合は一時停止しなくてよい?」と疑義が出てますが、横断歩行者優先中か故障車か見分けが困難としている。

第55回国会 参議院 地方行政委員会 第24号 昭和42年7月18日

○原田立君 今度は車を運転する者のほうの側で一応いろいろ考えるわけですけれども、いまお聞きしているのは、具体的な問題になるとどういうことになるのですか。ちょっとこれは愚問かと思いますけれども、横断歩道の直前で、しかも、歩行者もなくて、故障のために停止している車両があると、当然、常識上三十メートル以内であってものけていってもいいんじゃないか、こう思うんですがね。実際問題どうなりますか。

○政府委員(鈴木光一君) 今度新たにこの規定を設けましたのは、横断歩道の直前で停止している車の陰に隠れて歩行者が見えないということがありまして、そのために事故が起こるというケースが非常に多うございましたので、横断歩道の直前でとまっている車があった場合には、一時停止して、歩行者の有無を確認するという意味で一時停止しなさいということになっておるのでございまして、したがいまして、かりに横断歩道の直前で故障している場合でも、やはりとまることを期待しております。

○原田立君 そうなると、そこいら辺が、たとえば後続車がずっと続いているような場合ですね、たいへん混乱するんじゃないですか、交通関係で。

○説明員(片岡誠君) 故障車の場合は、私そうケースが多いとも思いませんし、いま局長が申しましたように、故障車でありましても、やはり横断歩道を歩行者が渡っているかどうか、故障車の陰になって、ちょうど死角になりましてわからない。危険性においては全く同じではないだろうか。したがいまして、故障車であろうと、横断歩道の手前に車がとまっておった場合には、とりあえず一時とまって、歩行者が横断しているかどうかを確認していくというやり方が合理性があるんではなかろうか。先生おっしゃいましたように、故障車が非常にたくさん横断歩道の手前にある場合には、若干円滑を阻害する問題もあろうかと思いますが、実態として故障車が横断歩道の手前にとまっているということはそう多くないのではなかろうか、そのように思っております。

同一進行方向の駐停車車両が「横断歩行者優先中」か「違法駐停車」か見分けが困難なのはわかりますが、対向車については既に横断歩道を通過した車両は「横断歩行者優先中」なワケがないですからねぇ…

 

警察学論集で浅野氏(警察庁交通企画課)が説明し、国会答弁した内容も含めてまとめたのが札幌高裁判決。

右規定の新設された立法の趣旨、目的は、従前、横断歩道の直前で他の車両等が停止している場合に、その側方を通過して前方へ出たため前車のかげになつていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で事故を惹起する車両が少なくなかつた道路交通の実情にかんがみ、とくに歩行者の保護を徹底する趣旨で設けられたものである。すなわち、右規定は、本来駐停車禁止区域である横断歩道直前において車両等が停止しているのは、多くの場合、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものであり、また、具体的場合に、当該車両等が歩行者の横断待ちのため一時停止しているのかそうでないかが、必ずしもその外観のみからは、一見して明らかでないことが多い等の理由から、いやしくも横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解されるのである。(浅野信二郎・警察研究38巻10号34頁。なお弁護人の論旨は、右「停止」中の車両の中には「駐車」中の車両が含まれないとの趣旨の主張をしているが、法2条18号、19号によれば、「停止」とは「駐車」と「停車」の双方を含む概念であることが明らかであるから、右の主張にはにわかに賛同できない。)

 

昭和45年8月20日 札幌高裁

そもそも2項はメイン部分について改正されてないし、警察庁主催の質疑回答の説明も「対向車を含まない」。
誰かが強引に解釈を変えてますね。

 

しかし、日本の「法律」なのに都道府県ごとに解釈が違うなんて凄まじいなぁ…日本から独立してしまった都道府県もあるのかもしれません。
ぶっちゃけた話、某県警本部は回答者次第で解釈が違いますw

 

以前挙げた件も含め総合的に見るなら「対向車は含まない」でいいかと。
ところで、現実にはこういうタイプの事故判例はまあまあ見かけます。

横断歩道を横断した自転車と、優先道路の判例。
以前こちらで挙げた福岡高裁の判例ですが、横断歩道を横断した自転車を優先道路の進行妨害(36条2項)としています。一応、似たような判例はあります。横断歩道と優先道路判例は大阪地裁、平成25年6月27日。イメージ図です(正確性は保証しません)。...

この事故は被害者が自転車ですが、

対向車の渋滞停止によって横断歩道右側が視認できない以上、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」と言えないので減速接近義務(38条1項前段)を免れない。
しかし指定最高速度を越えたスピードで突っ走る人がいる。

 

対向車の渋滞停止の場合には「最徐行」だと東京高裁 昭和42年2月10日判決(業務上過失致傷)で示されてますが、最徐行のタイミングなのに時速50キロで通過する人がいることが問題。
減速接近義務(38条1項前段)の徹底をきちんとすれば、「対向車に2項の適用があるか?」なんて議論は不要ですし、減速接近義務(38条1項前段)の周知徹底と取締りが大事なのではないでしょうか?

 

そして警察庁はなぜ解釈を変えたのか不思議です。
ただし若干疑問があるのは、警察庁に直接聞いたとする内容が不明なので警察庁がどのように回答したかは明らかではない。
対向車の渋滞停止については、下記判例(ただし昭和42年改正以前の判例)で十分だと思いますが…

本件交通事故現場は前記のとおり交通整理の行われていない交差点で左右の見通しのきかないところであるから、道路交通法42条により徐行すべきことももとよりであるが、この点は公訴事実に鑑み論外とするも、この交差点の東側に接して横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し、更に対向自動車が連続して渋滞停車しその一部が横断歩道にもかかっていたという特殊な状況に加えて、それらの車両の間に完全に姿を没する程小柄な児童が、車両の間から小走りで突如現われたという状況のもとにおいても、一方において、道路交通法13条1項は歩行者に対し、車両等の直前又は直後で横断するという極めて危険発生の虞が多い横断方法すら、横断歩道による限りは容認しているのに対し、他方において、運転者には道路交通法71条3号により、右歩行者のために横断歩道の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにすべきことになっているのであるから、たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず、もとより右の如き渋滞車両の間隙から突然に飛び出すような歩行者の横断方法が不注意として咎められることのあるのはいうまでもないが、歩行者に責められるべき過失があることを故に、運転者に右注意義務が免ぜられるものでないことは勿論である。
しからば、被告人は本件横断歩道を通過する際に、右側に渋滞して停車していた自動車の間から横断歩道によって突然にでも被告人の進路前方に現われるやもはかり難い歩行者のありうることを思に致して前方左右を注視すると共に、かかる場合に備えて横断歩道の直前において一時停止することができる程度に減速徐行すべき注意義務があることは多言を要しないところであって、原判決がこのような最徐行を義務付けることは過当であるとしたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな根本的且つ重大な事実誤認であって、この点において既に論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

 

昭和42年2月10日 東京高裁

しかし、昭和42年に新設したルールの解釈についていまだに不明だとしたら大問題だし、ましてや都道府県ごとに違っていたら大問題ですが、

38条2項は対向車の停止でも義務があるか?と警察に聞いてみたら意外過ぎる結果に陥る。
道路交通法38条2項は、横断歩道手前に停止車両があるときには、歩行者の有無に関わらず一時停止する規定。2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止...

以前から一部の都道府県の解釈がおかしいことを知っていたので、個人的には今さらなんですよね。
とりあえず「警察庁主催」で行われた質疑回答を千葉県警がまとめた資料によると「対向車は含まない」としています。
実質的に警察庁の回答とみなして問題ない気がしますが、個人的には「一時停止義務があるか?」の議論に矛先が向いた結果、減速接近義務(38条1項前段)が蔑ろにされているように感じるので、減速接近義務に話を戻したほうがいいと思う。


コメント

  1. きゃばりーのらんぱんて より:

    こんな記事がありました。

    https://news.webike.net/bikenews/382689/

    関東圏で東京だけが違反となるらしいですが、ホントかな?

    対向車線が渋滞していたらしいですが、その真偽も怪しい気がする。

    38条2項は、みんな忘れてますから(警察官含む)

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      38条2項は「当該停止している車両の前方に出る前に一時停止」です。
      頂いた記事の内容は「横断歩道の前方に出る前に一時停止」と誤認しているので、根本的に間違っているのかと。

      「前方に出る前に」とは、歩行者等保護の本項の趣旨から考えると停止している車両等の先端線とほぼ同一の位置の側方を厳格に解することがよいであろう。

      警察庁交通企画課、道路交通法ハンドブック

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