まあまあどうでもいい話ですが、ちょっと前に「逆走自転車と順走自転車が衝突した際の過失割合が50:50なんておかしい!」みたいな声をみました。
50:50は「生活道路の」「基本過失割合」です。
赤い本(日弁連)では生活道路以外の基本過失割合は記載されてないはず。
そして「基本過失割合」から修正が入るのが一般的ですが、そもそもなぜ生活道路の基本過失割合が50:50なのかはこの判例に理由が書いてあります。
足踏み式自転車においては、左側通行が徹底されているとはいえない現状であること、足踏み式自転車においては通常速度がそれほど速くないことから、自己の進路上に対向する足踏み式自転車が存在したとしても、停止や回避の措置により衝突を回避することは極めて容易であることなどを考慮すると、本件道路のような狭路で自転車が正面衝突した場合、過失割合は、基本的には五分五分と考えるべきである。
大阪地裁 平成28年9月16日
違反割合ではなく過失割合なので、予見可能性と回避可能性の問題。
いくつか判例を確認してみましょう。
逆走自転車と衝突した判例
いくつか実例を挙げます。
判例 | 順走 | 逆走 | 備考 |
横浜地H17.1.31 | 100 | 0 | 歩車道の区別がある片側一車線道路 |
大阪地H28.9.16 | 40 | 60 | 河川敷、逆走自転車は12歳・無灯火・2人乗り・友人と並走 |
東京地H6.10.18 | 75 | 25 | 生活道路 |
大阪地H30.11.16 | 40 | 60 | 狭い自転車道 |
東京地H20.6.5 | 50 | 50 | 片側二車線の幹線道路、逆走自転車は歩道から車道にノールック降臨 |
大阪地R1.9.12 | 0 | 100 | 幹線道路、順走側は原付 |
大阪地H14.6.11 | 0 | 100 |
これらからいえるのは、個別に状況を判断しているので逆走自転車の過失は0~100%まであるし、順走自転車の過失も同様です。
一つずつ見ていきます。
○横浜地裁 平成17年1月31日
事故現場はこちら。
本判決は、A(順走)は、前方不注視で、スピードを出しており(時速約25キロ)、B車(逆走)を避けようとしたがモノレールの支柱に衝突して前方に飛び出したのに対して、Bは既に停止していたことを考慮して100:0とした。
自転車事故過失相殺の分析、財団法人 日弁連交通事故相談センター著、株式会社ぎょうせい、p371
逆走自転車が既に停止して事故を回避しようとしていたのに対し、順走自転車は前方不注視のまま漠然進行した点を重視。
○東京地裁 平成6年10月18日
「止まれ」は公安委員会が立てた標識ではなく、行政が書いた注意喚起。
原告(赤、一時不停止) | 被告(青、逆走) |
75 | 25 |
右検討の結果によれば、本件事故は、原告が交差点の手前で減速して本件交差点に進入し、曲がり切つた後ペダルを踏み込んだ時に原告自転車の前輪が被告自転車の前輪右側に衝突し、その結果、原告が前かがみで被告自転車の前輪を覆うようにして倒れた結果生じたものであると認めるのが相当である。なお、本件事故時の被告の行動は、大袋駅からの道路の右側を減速しながら通行し、原告を発見して直ちにブレーキをかけ、被告自転車が停止した途端に原告自転車と衝突したものであると認めるのが相当である。そして、被告は、本人尋問において「大袋駅方面から道路の左側を自転車で通行し、本件交差点で停止した上で右折して恩間方面に向かう方法をとれば、交差点での停止時に後続の自転車による追突を受けるので、内回りのほうが行い易い」と供述していることから、本件事故時において、歩行者をよけようとして大袋駅からの道路の右側を通行することになつたものの、右側通行を自ら容認して走行したものと推認される。右認定に反する原被告の各供述は前示検討の結果に照らして採用しない。
そうすると、本件事故は、被告が大袋駅からの道路を通行するに当たり、左側を走行すべきところを右側を走行し、本件交差点も右側から進入したことのため、原告自転車との衝突を招来したものであつて、被告の右義務違反による過失責任は免れない。
他方、原告も、直線道路に進入するに当たり、「止まれ」と大きく書かれた看板にもかかわらず、減速をしたのみで本件交差点に進入し、その後、前方の道路事情の確認を不十分のままペダルを踏み込んだものと言わざるを得ず、このような停止義務違反、前方注視義務違反も本件事故の原因となつていることは明らかである。
そして、被告の過失と原告の過失の双方を対比して勘案し、また、前認定の本件交差点付近の自転車や歩行者の通行状況も斟酌すると、被告は明示で主張はしていないが、本件事故で原告の被つた損害については、その75パーセントを過失相殺によつて減ずるのが相当である。
東京地裁 平成6年10月18日
○大阪地裁 平成14年6月11日
青自転車(順走、一時不停止) | 赤自転車(逆走、下り坂高速度、2人乗り) |
0 | 100 |
下り坂高速度逆走を重過失と見なした形。
○東京地裁 平成20年6月5日
過失割合は50:50ですが、争点がややこしいのでこちらをどうぞ。
順走自転車に50%つけた理由は、車道走行自転車が横断歩道/自転車横断帯を通過した際に当該歩行者用信号が青になったものと考えられ、得意の「予見可能」が発動。
○大阪地裁 令和元年9月12日
路外から車道に進出した原付は0%としてます。
本件道路は中央分離帯によって区分された南北に延びる道路であり、本件道路の南行き車線を走行する車両は北から南へと進行すべきところ、原告は、X車を運転して同車線を南から北へと逆走したのであるから、この点に過失があるのは言うまでもなく、また、進行方向の前方の注視を怠った過失があることも認められる。
他方、被告は、スロープの南側植込みの西側に本件駐車車両があったことから、第2車線を走行しようと考え、Y1車にまたがり、エンジンをかけずに足で漕ぎながら、第1車線と第2車線の間くらいまで前進したことが認められるところ、このような事実関係の下においては、被告が同前進の際に進行方向(南側)の前方注視義務を負っていたこと自体は必ずしも否定するところではない。
しかし、本件道路の南行き車線の南から北へと車両が進行(逆走)することは本来的に想定されていない事態であること、しかも、X車は、南行き車線の第1車線に駐車車両があるところでは第1車線と第2車線の間付近(中央線付近)を逆走していたこと、本件事故直前のX車の速度は時速約15ないし20キロメートルであり、少なくとも原告がY1車に気が付いてブレーキを掛けるまでの間に減速した形跡は窺われないこと、本件事故直前のY1車の一連の動静について、各種交通法規に照らし特段の問題があったことを認めるには足りないこと、本件事故当時、被告は、Y1車にまたがった状態ではあるが、エンジンをかけずに停止していたことなどからすれば、本件事故の主たる原因は、被告の一連の動作にあるというよりもむしろ、原告が本件道路の南行き車線を逆走し、駐車車両があるところで第1車線と第2車線の間付近を走行するときも何ら徐行することなく、進行方向の安全確認を疎かにし、ブレーキやハンドル等の操作を適切にしなかったことなどにあるというべきであり、原告のこれらの過失の程度は甚だしいといわざるを得ない。他方、被告がX車を発見した時点での各車両の位置関係、互いの距離、X車の速度等に照らせば、被告が進行方向前方(南側)を注視していたとしても、被告において迫り来るX車との衝突を回避することは著しく困難であったものと認められる。
大阪地裁 令和元年9月12日
要は逆走自転車と衝突した事故といっても個別に判断されるので、東京地裁平成20年判決は理不尽ですがわりと法則性がない。
その他、路側帯逆走自転車(当時は違法ではない、平成25年改正以前)と車道左側通行自転車の接触事故につき車道左側通行自転車を70%にしたものもある。
ビックリすることに、車道左側通行自転車は重過失致傷罪で有罪(略式)になっているとも書いてある。
どちらかというと刑事事件のほうが深刻
これも以前挙げた判例ですが、数ヶ月間に2回逆走自転車と衝突した順走自転車が、「安全運転義務違反(道路交通法70条)」、「重過失致傷罪」で書類送検されたことについて、書類送検が違法だとして国家賠償請求訴訟を提起したものがあります。
この事件は3つの点が争点。
①原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が道路交通法70条違反(安全運転義務違反)の容疑で書類送検。
刑事処分はこちらですが、安全運転義務違反として書類送検したことを違法だと主張。
原告 | 逆走自転車 | |
書類送検容疑 | 70条違反(安全運転義務違反) | 17条4項違反(左側通行義務違反) |
処分 | 不起訴(起訴猶予) |
②1ヶ月半後、原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が重過失致傷の容疑で書類送検。
重過失致傷の容疑で書類送検したことを違法だと主張。
刑事処分はこちら。
原告 | 逆走自転車 | |
書類送検容疑 | 刑法211条後段(重過失傷害) | 刑法211条後段(重過失傷害) |
処分 | 罪名を過失傷害(刑法209条)に変更の上、不起訴(親告罪の告訴欠如) | 不起訴(起訴猶予) |
※重過失傷害罪は非親告罪ですが過失傷害罪は親告罪のため、相手方から刑事告訴がないと公訴提起できません。
③これら二つの事故について、東京都公安委員会は原告に自転車違反者講習の通知を送付。
自転車違反者講習の通知をしたのも違法だと主張し国家賠償請求した事件です。
とりあえず①のみ裁判所の判断はこちら。
原告は、本件交差点を自転車に乗車して左折進行するに際し、進行方向前方の状況を確認すべき義務を負っていたにもかかわらず、本件交差点を左折進行するに際し、前方の状況の確認を怠り、速度を保ったまま左折進行した結果、対向して進行してきた訴外Bが運転する自転車と正面衝突したことが認められ、その際、衝突回避措置も取られていなかったことが認められる。
そうすると、第1事故について、警察官が原告について安全運転義務違反(道路交通法70条)の嫌疑があるとして事件を検察官に送致した判断に誤りがあるとは認められない。
東京地裁 令和3年7月2日
書類送検は違反確定ではなく被疑者なので、嫌疑があるなら問題はない。
この判例ってたぶん、原告は代理人弁護士を立てずに本人訴訟をしてます。
気持ちはわかる。
しかし国家賠償請求訴訟は難しい。
逆走自転車と衝突した後に、双方ともに書類送検された話は他にも聞いたことがありますが、これがニッポンの現状。
だから逆走自転車が迫ってきたら、左側に寄せて停止してやり過ごしたほうがマシ。
過失割合が50:50になったり、書類送検されて検察官からお呼ばれして取り調べを受けるので、逆走自転車と関わらないようにしたほうがマシなのよ。
停止してから、好きなだけ罵倒すればよい。
先に停止していたなら無過失の主張も可能ですから。
なお、順走自転車を30%(逆走自転車70%)にした判例も見たことがありますが、わりと困るのは自転車が全損したときには得意の「減価償却」も発動すること。
減価償却が発動し、基本過失割合が50:50スタートだとかなり笑えない。
過失って予見可能性と回避可能性の問題ですが、自転車が逆走しているのは日常茶飯事なので「予見可能」なのよね。
ちなみに、自転車の速度が時速30キロ以上だったなら過失が加算されます。
原付相当に変わる。
そういや以前読者様のお子さんがサイクリングロードで対向自転車と衝突した際も50:50だったらしい。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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