チラホラ逆走事故の報道がありますが、ちょっと疑問。
きょう午前2時50分ごろ岡山市北区牟佐の県道で軽乗用車と大型トラックが正面衝突しました。
この事故で、軽乗用車に乗っていた岡山県赤磐市桜が丘の介護士、木原由貴さん(24)が病院に搬送されましたが、頭を強く打っていて、午前4時20分、搬送先の病院で死亡が確認されました。
また、この車を運転していたとみられる赤磐市の介護士の女性(24)が意識不明の重体です。
警察によりますと、軽乗用車は中央線を越えて大型トラックと衝突していて大型トラックの女性運転手(54)にけがはありませんでした。
現場は片側1車線の直線道路で周囲に街灯はなく、当時は雨が降っていたということです。
24歳の介護士の女性が死亡 軽乗用車と大型トラックが正面衝突 軽乗用車を運転していたとみられる女性(24)は意識不明の重体【岡山】(RSK山陽放送) - Yahoo!ニュースきょう(11日)未明、岡山市北区で、軽乗用車と大型トラックが正面衝突しました。軽乗用車に乗っていた1人が死亡、1人が意識不明の重体となっています。 きょう午前2時50分ごろ岡山市北区牟佐の県道で軽
一応、順走していた大型トラックも事故当事者になりますので、過失があれば過失運転致死傷罪に問われることもありますが、片側一車線の道路だと大型トラックは左車線をほとんど占拠しているわけで、それ以上左側に避ける余地は通常ありません。
そんな状況で順走していた車両に回避可能性があるのか?という問題があります。
(民事は通常、逆走車が100%です)
いくつか判例を挙げてみます。
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最高裁判所第二小法廷 平成4年7月10日
まずは最高裁平成4年7月10日から。
事故の概要です。
被告人は、昭和59年10月10日午後8時15分ころ、業務として普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)を運転し、沖縄県沖縄市ab番地先国道三二九号線(直線の四車線道路)の左側部分第二通行帯をc方面(北方)からd交差点方面(南方)に向かい時速約40キロメートルで進行中、被告人車が進行中の右第二通行帯を無灯火のまま対向進行して来たA(当時29歳)運転の普通乗用自動車(以下「A車」という。)を前方約7.9メートルに迫って初めて発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、同車右前部に自車右前部を衝突させ、その結果、同日午後10時ころ同人を胸腔内大量出血に基づく呼吸循環不全により死亡させた
被告人は4車線道路の第二通行帯を時速40キロで走行していたところ、無灯火のまま逆走してきた被害車両(時速35キロ)と衝突。
一審及び二審は、以下の理由から順走していた被告人を有罪に(業務上過失致死)。
(1)被告人は、第一通行帯への進路変更を予定して左前方に気を奪われ、前方注視を欠いていた。
(2)A車は衝突地点から約40.1メートル南方の地点で既に中央線を越えて被告人車が進行中の右第二通行帯を進行しており、被告人が前方を注視していれば、少なくとも被告人車の前方約24.5メートルない
し30メートルの地点にA車を発見できた。
(3)A車の速度を、被告人に最も有利に、時速35キロメートルとし、被告人車の速度を時速40キロメートル、被告人がハンドルを進行方向左方に切って衝突を回避するのに必要な時間を0.9秒とすると、被告人がA車を確認して同車との衝突を避けるためには、両車両の間に少なくとも18.74メートルの距離が必要である。
(4)衝突時、A車はその進行方向に対しやや左方に向いていた上、事故当時現場付近の被告人車の進路左側の第一通行帯には走行中の車両や駐車車両がなかったことは被告人の自認するところであるから、被告人において前方を注視していたならば、A車が被告人車の前方18.74メートルに接近するまでにこれを発見し、進行方向左方へハンドルを切ることにより、A車との衝突を回避できたことは明らかである。
被告人は無灯火の逆走車を7.9mの距離で発見したものの、
ちゃんと前をみていれば逆走車を24.5~30mの距離に発見できるし、第一通行帯に走行車両がいなかったのだから、反応時間0.9秒とすれば衝突を回避できたとする。
まあ、だいぶ無理筋感はありますが、最高裁は原判決を破棄して無罪に。
右のとおり、原判決は、被告人が、18.74メートルに接近するまでにA車を発見することができ、同車を発見した後進行方向左方へハンドルを切ることにより本件事故を回避できたとするが、進行方向左方へハンドルを切ることにより回避が可能であるというためには、被告人において回避措置を採るべき時点で、A車がそのまま直進するのかあるいは左右いずれかに進路を変更し回避の措置を講ずるのかなど、同車の進路を予測することが可能でなければならない。しかしながら、本件においては、A車は、衝突の直前に至るまで、前照灯を点灯して進行中の被告人車に気付いた様子もなく、被告人車の進行車線を無灯火で逆行するという異常な行動を採っているため、対向車の運転者としては、A車がいつどのような行動に出るかを判断できず、Aが衝突の危険を察知した場合にろうばいの余りかえって危険な行動に出る可能性すら懸念されるところである。しかも、原判決が判示するように、被告人車の時速は40キロメートル、A車の時速は35キロメートル、視認可能距離は約24.5メートルないし30メートルであったとするならば、視認可能となった時点から衝突までは約1.2秒ないし1.4秒しかなく、警音器を吹鳴するなどしてAの注意を喚起する時間的余裕のなかったことも明らかであって、結局、被告人において原判決が視認可能とする地点で直ちにA車を発見し、これを注視していたとしても、同車のその後の進路を予測することは困難であるというほかはない。まして、夜間、無灯火で自車の進行車線を逆行して来る車両があるなどということは通常の予測を超える異常事想であって、突如自車の進路上に対向車を発見した運転者の驚がく、ろうばいを考慮すれば、到底、右約1.2秒ないし1.4秒の間に回避が可能であるなどといえないことも、経験則上明らかである。もっとも、被告人車及びA車と同車種の車両を使用した原審鑑定人Bの実験結果によれば約59.9メートルの距離で対向車をはっきり視認できたというのであるが、その場合でも右速度で進行した場合の衝突までの時間は約2.9秒にすぎず、記録によればAは当時血液1ミリリットル当たり1.73ミリグラムという相当多量のアルコールを身体に保有していたことが認められ、同人に状況に応じた適切な措置を期待し難いことをも考慮すると、右距離でA車を発見してその動向を注視するとともに、警音器を吹鳴するなどAの注意を喚起する措置を併せて講じたとしても、必ずしもA車の進路の予測が可能となったとはいえず、被告人において本件事故を確実に回避することができたとはいえない。
以上のとおり、被告人において前方注視を怠っていなければ本件事故を回避することが可能であったとはいえず、また、他に被告人に注意義務違反があったとも認められないから、本件事故につき被告人に過失があったとはいえない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告人に前記過失があるとした第一審判決及びこれを是認した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反ないし重大な事実誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。最高裁判所第二小法廷 平成4年7月10日
原判決は視認可能な距離と衝突までの時間1.2~1.4秒あるのだから、反応時間0.9秒で被告人がハンドルを切れば回避可能だったとして有罪にしましたが、最高裁は「被告人において回避措置を採るべき時点で、A車がそのまま直進するのかあるいは左右いずれかに進路を変更し回避の措置を講ずるのかなど、同車の進路を予測することが可能でなければならない」とする。
それらを考えると被告人が確実に回避できたとは言えず、過失は認められないとして無罪に。
まあ、順走していた被告人に刑事責任を負わせようとするのは理解し難い裁判ですが、逆走車がどのような進路を取るのか予測できないと確実に回避できたとは言えないのは当然。
名古屋高裁 昭和52年2月16日
事故の態様です。
・被告人は長さ7.8m、幅2.25mの大型バスを時速30キロで運転
・被告人は被害原付が前方50~60mに、帽子をかぶり雨を避けるようにうつ向いた姿勢で、他の自動車が通行した轍の跡など路面に土砂の少い部分を選んで走行してくるのに気が付いたので、徐々に減速しながら自車を道路左寄りに進行
・被害原付は時速約30キロで進行してきたが、被告人車の前方約34m付近に接近した際、水溜りを避けるように進路を道路右側から中央寄りに変え、同所を通過した後そのままの速度で道路左側(被告人車の進路)に進出
検察官は警音器を吹鳴すべき業務上の注意義務違反として起訴しましたが、無罪。
被告人が5、60m先に被害車両を認めた時点における注意義務としては、それまでに被告人が認識した事情に徴すると、減速徐行し、被害車両が自車の右側を十分通行できるよう、できるだけ道路左側端に(可能であれば拡幅予定地まで)寄せて進行すれば足り、さらに被害者に警告を与えるため警音器を吹鳴する義務まではないと解するのが相当である。なるほど本件の場合において、被告人が予め警音器を吹鳴し、被害者の注意を喚起しておれば、或は本件事故は避けられたかもしれないとは考えられるが、本件の場合の如く、危険の発生を予知することが困難であり警音器を吹鳴しなくても、徐行し道路左側端へ寄るなどの方法により危険を防止することが可能であると認め得られる場合には、自動車運転者に警音器吹鳴の義務まで認めることはできないと解する。
名古屋高裁 昭和52年2月16日
最高裁判所第一小法廷 昭和42年3月16日
この判例は原判決(仙台高裁昭和41年10月21日)詳細が不明な点がありますが、最高裁決定の内容はこちら。
なお、本件のように、対向車が、被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずるおそれがあることが予見できるのであるから、自動車運転者としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端を進行するか、一時停車して対向車の通過を待つて進行するなど、臨機の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき任意義務があるものといわなければならない。しかるに、原判決の是認した第一審判決認定の事実によると、被告人は、わずかに減速しただけで、右のような措置に出なかつたのみでなく、対向車と十数メートルの距離に接近した際、ハンドルを右にきつて対向車の前に進出したというのであるから、被告人に過失があるものとしたのは相当である。
最高裁判所第一小法廷 昭和42年3月16日
この判例ですが、被告人が同乗者を乗せて未舗装路を原付二種で通行していたところ、小型貨物自動車が時速55キロで右側通行してきたもの。
被告人は時速30キロから25キロに減速したものの、対向車と衝突し同乗者が死亡。
同乗者を死亡させたとして業務上過失致死罪に問われたもの。
弁護人の上告趣意の一部はこちら。
第一 上告理由の基礎となる事実の概要
(1)本件事故の発生した場所は、交通量の極めて少い非舗装の田舎道である。時刻は夜間であり行交う車輛が殆どない状況であった。(2)本件事故の相手方たるAは小型貨物自動車を運転し時速55キロ以上のスピードで(本件記録中の略式命令に併記せられているAに対する略式命令、及同人の司法警察官に対する供述調書によるー事実はこれ以上のスピードであったことは衝突後の走行距離殊にオートバイを引ずって走ったその距離等により推認せられるが55キロとしても非舗装道路では相当早いスピードである)道路の右側(進行方向に向かって、以下同じ)を進行して来、これに対し被告人は第二種原動機付自転車に乗り時速30キロ(後25キロに減速)で道路の左側を進行し、右両車輛は対向して進行していたものである。
(3)本件の如き交通量の少い非舗装の田舎道では自動車は道路の比較的平坦な側を求め、且つ運転者の座席が車輛の右側にあり右側を進行したほうが路端を安全に運行し易い等の関係もあり往々にして右側を運行していることがあり、その場合は相手方車輛に近づくと共に正規の左側に移ることを常としているものであるが、被告人は本件の場合も相手方車輛がそのように左側に進路を転ずるものと期待し、25キロに減速しつつ道路の左端を進行していった処予期に反し相手方が進路を転ぜず面もいささかも減速しない猛烈なスピードで突っ込んで来、あっという間に衝突し被告人は大怪我をし気を失い、オートバイの後部座席に同乗していた者は相手方車輛にひかれ即死したというのが本件事案である。
(4)これに対し第一審判決及原判決は被告人に過失があり本件事故の責任を負うべきだと言うのである。
即ち原判決によると、
イ 被告人が警音器を吹鳴して対向車に対し避譲を促すべきなのにこれをしないこと。
ロ 道路の左側端によって一時停車し対向車が通過し終わってから再び運転を再開するか、又は道路の左側端に寄ることが危険だと考えたならば或は法規に違反してでも右側に寄るかする義務がありこれをしなかったのは過失である。と言うにある。
ちなみに相手方車両は400m手前から被告人オートバイに気付いていたともあります。
最高裁は警音器吹鳴&減速&左側端寄せ、又は一時停止「等」の回避行動を取らなかっただけでなく、右側にハンドルを切った被告人に過失無しとは言えないと判断。
①警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端を進行する
②一時停車して対向車の通過を待つて進行する
③など、臨機の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき任意義務がある
要は何らかの方法で衝突を回避すべき注意義務があるのに何もしなかった上、右にハンドルを切って対向車の前に進出したのだから過失があるとしたわけ。
イメージ
原判決の詳細はわかりませんが、説示内容からするとオートバイが左側端に寄れば衝突を回避できた事案なんだろうなと。
福岡高裁 昭和48年2月28日
事故態様はこちら。
・幅員5.2m、センターライン無し
・被告人車は軽四輪乗用自動車(車幅1.3m)、対向車は普通貨物自動車(車幅1.995m)
・被告人は道路左側を時速30キロで進し、少なくとも進路の約40メートル以上前方の地点を対向進行してくる普通貨物自動車を発見
検察官は安全運転義務違反(道路交通法70条後段)として起訴し一審は有罪ですが、二審は無罪。
被告人の右認定の運転方法が他人に危害を及ぼすようなものであつたか否かを検討するに、車両は、法定の除外事由がない限り道路の左側部分を通行しなければならないことは道路交通法の明定するところである(当時施行の道路交通法17条3、4項参照。)。そして、前記認定のとおり本件事故現場の道路の幅員は約5.2mであるから、その片側の車両の通行区分の幅員は約2.6mであり、一方前記被害車の車幅は1.995m、その車長は5.7m程度であつたのであるから、右道路が前記の如くカーブしていたとはいえ、この場合は被害車にとつて、同条4項2号にいう道路の左側部分の幅員が当該車両の通行のため十分なものではないときに該当しないことは明らかであるし、更に被害車にとつて、現場は右カーブであり、しかも前記認定の如く左側にはこれと高さを同じくする幅約80センチメートルの空地すらあつたのであるから、道路の左側部分を通行することが困難であつたとは認められず、事実右被害者自身も、原審および当審における各証言において、自身が道路の左側部分を通行し難い特段の事情があつたことについては、なんら述べていないのである。しかして、車両の左側通行の原則は、自動車運転者にとつて最も基本的な義務であるから、前記の如く道路の左側部分を進行していた被告人が、対向進行してくる右被害車を認めた際、同車が自車の通行区分に若干入つているのを認めたものとしても、警笛を吹鳴して自車の存在につき同車の注意を喚起していることでもあり、右に述べた道路および被害車の状況等から、同車と離合するまでの間に、同車が道路の右側部分に戻り、同車と安全に離合しうるものと信じたことは無理からぬことであり、且つこのような信頼を相当としないような異常な動静が右被害車にあつたことを窺わしめる証拠はない。そして、このような場合、自動車運転者としては、被害車が道路交通法規に従い、自車との離合前にその通行区分内に戻るであろうことを信頼して進行すれば足り、同車が右法規に違反してその通行区分内に戻らないような場合まで予想して、更に左側に待避すべき注意義務はないものというべく、従つて、被告人が右被害車と離合するに際し、道路の中央から約15センチメートル左側を進行していたことをもつて、他人に危害を及ぼすような運転方法であると認めることは到底できない。
福岡高裁 昭和48年2月28日
いくつか判例を挙げましたが
冒頭の事故はどの地点で被害車両がセンターラインを割ったのかも不明で、順走していた大型トラックからみてどの地点で視認可能だったのかもわかりませんが、事故現場をみると大型トラックがさらに左側に避譲する余地があるとは思えないので、クラクションを鳴らしたとしても被害車両が自ら進路を戻さない限りは回避不能だったのかと。
これら判例をみるとわかりますが、「その行動をすれば確実に回避可能だった」みたいなケースでは順走車が刑事責任を問われることもあります。
逆にクラクションを鳴らしたとしても回避不可能な場合には関係ありません。
なぜ被害者がセンターラインを割ったのかは謎ですが、逆走車が迫ってきたら回避困難、回避不可能なこともあるし、回避可能なケースでは回避しないと有罪になることも。
相手方が違法だから衝突していい理屈はないので、頑張って避けるしかないけど、法は不可能なことを要求しているわけではないのよね。
ちなみにですが、「クラクションを鳴らさなかったから有罪」みたいな雑な判断にはならないので勘違いしないよう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
解説ありがとうございます。
警音器を鳴らさないと違反になるのだと解説している動画をみて、それは違うのではないかと思ってました。54条は「危険を防止するためやむを得ない場合は鳴らしてもよい」であって、「危険を防止するためやむを得ない場合は鳴らさないといけない」ではないはず。
コメントありがとうございます。
おっしゃる通りです。
そもそも「警音器吹鳴義務違反」を認定した業務上過失致死傷(過失運転致死傷)判例はいくつもありますが、道路交通法違反と過失は別概念なんだと理解してないと、意味を取り違えます。