条文に書いてなくても限定される「左折しようとする車両」。

ちょっと前にこんな記事を書きましたが、

こちらに書いた内容について質問を頂いたのですが、これはわりと陥りがちなミスというか、法律の読み方の問題なんです。 37条の読み方第三十七条　車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があ...

結構不思議なのは、「条文に書いてないだろ！」みたいな話をする人がちらほらいるところ。
では37条について、

第三十七条　車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。

右折車は「左折しようとする車両」の進行妨害禁止ですが、「条文に書いてない」のでこれも当てはまるのでしょうか？

二段階「右折」する自転車と、「左折しようとする」車両の関係ですね。

Contents

1 「条文に書いてない！」
2 直進しようとする車両

「条文に書いてない！」

条文に書いてある通りに読めば、「左折しようとする車両」に何らの限定がないので当てはまるかのように思ってしまう。
しかし道路交通法を制定した警察庁の宮崎氏によると、解釈はこうなる。

「当該交差点において直進しようとする車両等」とは、右折しようとする車両等が右折点まで進行してきた道路を、その車両のそれまでの進行方向と同じ方向へ直進する車両、その道路の反対方向から直進する車両等およびこれと交差する他の道路を左右いずれかに直進する車両等のすべてを含む。また、「左折しようとする車両等」とは、右折しようとする車両等がそれまで進行して来た道路を反対方向から進行してきて交差点において左折しようとする車両等のことである。

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)

なので37条の解釈上、「左折しようとする車両等」とはこれを意味し

こっちは無関係。

「条文に書いてないだろ！」という人は条文に書いてある通りに「どの左折車か限定してない」というのかもしれませんが、法律ってそうは解釈しないのよね…

ところで、なぜ「左折しようとする車両等」を対向左折車のみに限定して解釈するかわかります？
宮崎氏はこのようにも書いている。

なお、本項の規定は、すべての車両が右折する場合に適用されることになるわけであるが、実際には、右小回りをすべき車両について適用されることになろう。

宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966

これは1961年の条解道路交通法にも書いてある。
さて、なぜ「条文に書いてない」のに「左折しようとする車両等」を対向左折車と解釈するのか、そしてなぜ「小回り右折する車両に適用」とし二段階右折する軽車両に適用しないかのように書いているか。

これを考えると、そもそも左折しようとする車両は「左側端に寄って」、右折しようとする車両は「道路中央に寄って」なので他条に従う限り同一進行方向から交差点に入る左折車/右折車は干渉する要素がないからなのかと。
そして立法者の意図として対向左折車の話だとしている以上、

本来的には二段階右折する軽車両と、対向左折車は干渉する要素がないに等しい。
なのでこういう記述なんだろうなと推測しますが、どちらにせよ37条でいう「左折しようとする車両等」とは条文に書いてないけど対向左折車を意味する。

直進しようとする車両

直進しようとする車両は全ての方向から直進しようとする車両になりますが、

道路交通法37条1項にいう「当該交差点において直進し………ようとする車両等」とは、右折しようとする車両等が右折開始まで進行して来た道路の進行方向、その反対方向およびこれと交差する道路の左右いずれかの方向へ直進する車両等をいうものと解すべきであるから、本件のトの字型の三叉路交差点を右折しようとする被告人運転の自動車と、それが進行して来た直路と交差する道路を、被告人運転の自動車が右折後に進行すべき方向と同一の方向へ交差点を直進すようとするＡ運転の自動車との間に、同条項の適用があり、Ａ運転の自動車の進行を妨げた被告人に同条項違反の罪が成立するとした原判断は、正当である。

最高裁判所第三小法廷　昭和46年7月20日

「信号無視した場合なんて条文に書いてない！」という人は、信号無視して左/右から直進する車両と衝突したら自分も違反だと思うのだろうか。
わりと心配ですが、当たり前にこういう判断になる。