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歩道から横断しても優先道路/非優先道路になるか?

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こちらについて質問を頂いたのですが、

小学生が乗る自転車が、横断歩道で事故に遭う。
搬送時には意識があったようなので軽症だといいのですが… 茨城県守谷市の横断歩道で車が小学5年生の男の子が乗った自転車をはねる事故がありました。男の子はヘリコプターで千葉県内の病院に搬送されました。 20日午後3時ごろ、守谷市百合ケ丘で「車と...
読者様
読者様
歩道から横断して優先道路/非優先道路になるというところがよくわからないのですが、もう少し解説を…

要はこのような態様なら優先道路通行車と非優先道路通行車の事故だとわかりますが、

歩道から横断したのに、優先道路通行車と非優先道路通行車の事故とみなす根拠ですよね。

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優先道路通行車と非優先道路通行車(民事)

これを優先道路通行車と非優先道路通行車の事故とみなす根拠ですが、

要は民事の基本過失パターンって、道路交通法を厳格に解釈して運用しているわけじゃないからかと。
一応、横断歩道を使って横断した自転車を優先道路の進行妨害(36条2項)として扱った判例をいくつか確認しましたが、歩道から横断歩道に進行した場合も優先道路通行車/非優先道路通行車として扱っている。

 

一例。
○大阪地裁 平成25年6月27日

自転車は小学生、クルマは指定最高速度40キロのところ、遅くても50キロ以上でかっ飛ばした。
しかも対向車が渋滞停止していて横断歩道右側が視認できないにもかかわらず

 

判決文をみると、優先道路通行車と非優先道路通行車の事故態様を基本過失パターンにしてます。

認定事実によれば、本件事故の主要な原因は、被告が、本件交差点を通過する際に、本件横断歩道が設置されていたにもかかわらず、減速、徐行等を行わず、指定最高速度を越える速度で進行したこと、進路前方、左右の安全を十分に確認しなかったことにあるというべきである。

 

しかし、他方、被害者は、自転車を運転して、優先道路である東西道路を横断するにあたって、東西道路の西行車線のみならず、東行車線を走行してくる車両の有無及びその安全を確認して横断すべきであったといえるところ、本件事故の態様からして、被害者が、東行車線に進入する前に同車線上の接近車両の有無等の安全確認をしなかったものと推認されるのであり、しかも、西行車線が渋滞し、本件交差点内まで車両が連続して停止しているため、東行車線走行車両からの見通しがよくない状況にあったものであり、加えて、被害者は、自転車を運転して、歩行者の歩行速度よりも速い速度で横断したものと解されるのであって、これらの点は、本件事故における、被害者の落ち度と評価できる。この点は、被告車の車高如何によって、左右されるものとは解されない。

大阪地裁 平成25年6月27日

判決文では具体的には書いてませんが、推測するとこうなのかと。

加害者 被害者
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
小学生修正 +10 -10
重過失 +20 -20
85 15

○東京地裁 平成28年11月1日

被告は、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点には横断歩道が設けられていたのであるから、適宜速度を調節し、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道上を右方から左方に向かい横断してきた原告車に衝突直前まで気づかず、ブレーキペダルを踏むべきところを誤ってアクセルペダルを踏み込んで原告車に被告車前部を衝突させて原告車もろとも原告を路上に転倒させ、原告に傷害を負わせた。

 

他方、原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。
そこで過失相殺について検討すると、原告が横断歩道上を進行していたこと、本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし、双方の過失の内容、程度を考慮すれば、原告の過失割合については30%と認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成28年11月1日

一般的に判決文には「○✕修正で加算」みたいな話は書いてありませんが、過失割合は70:30。
推測するとこうなる。

加害者 被害者
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
夜間修正 0 0
踏み間違え +15 -15
70 30

横断歩道を横断した自転車を優先道路の進行妨害とし(基本過失割合)、

①原告が横断歩道上を進行していたこと(横断歩道修正)
②本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと(夜間修正なし)
③被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだこと(踏み間違え加算)

これらを考慮している。
報道にあった事故現場もこうなので、

基本過失パターンは優先道路通行車と非優先道路通行車でしょうね。
ただまあ、優先道路態様をベースにすると、被害者過失が大きくなるので揉める。
上で挙げた大阪地裁判決や、優先道路態様を適用した福岡高裁H30.1.18にしても、被害自転車を「歩行者と同視すべき」と主張しているけど認められていない。

原告らは、本件事故当時、横断歩道上に歩行者がいなかったから、被害者は、横断歩道上を自転車で走行することが法的に許されていた、自転車で横断歩道上を通行することは日常よく見かけられる光景であることなどから、被害者が横断歩道上を歩行していたのと同様に評価すべき旨主張する。確かに、道路交通法施行令2条では、信号機による人の形の記号を有する灯火がある場合には、それによって、横断歩道を進行する普通自転車を対象とする趣旨の規定がある。しかし、本件交差点では、前記認定のとおり、信号機による交通整理は行われていないのであって、事案を異にするものであるし、これをもって、自転車を歩行者と同視すべきことには、直ちにつながらないというべきである。

 

道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらないものというべきである。従って、自転車運転者としては、付近に自転車横断帯のない横断歩道上を横断する際には、自転車を降りて横断するのでない限り、横断歩道を通過しようとする車両に対して、歩行者と同様の絶対的な保護が法的に認められているとはいえない。また、自転車で横断歩道上を通行するという光景は日常よく見かけられるものであるとしても、それをもって、落ち度と評価することが妨げられるものとはいえない。

 

大阪地裁 平成25年6月27日

大阪地裁判決の場合、見通しが著しく悪い横断歩道に「遅くても50キロ以上」でかっ飛ばした点を加害者の重過失と捉えていますが、

小学生修正と重過失修正を入れても85:15。
歩道から横断歩道に進行しても、優先道路/非優先道路の交差点に付属した横断歩道であれば優先道路態様をベースにしている。

逆パターンも

道路交通法上、「優先道路」とは歩車道の区別があるなら車道のみを指しますが、このような民事判例もある。

優先道路に付属した歩道を進行していた自転車と、非優先道路から優先道路に出ようとしたクルマの事故。
これも優先道路/非優先道路態様をベースにしている。
(書き忘れたけど事故は横断歩道上で、クルマは一時停止後に進行)

本件事故は、優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ、双方に前方、左右の不注視等の過失が認められる。
そして、以上に加え、原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと等に照らせば、本件事故の過失割合につき、原告15%、被告85%と認めるのが相当である。

名古屋地裁 平成30年9月5日

民事過失上、右側歩道を通行して左側から進入した場合に過失修正されることがあります。
あくまでも優先道路/非優先道路態様をベースにしているのでおそらくこんなイメージかと。

加害者 被害者
基本過失割合 90 10
横断歩道修正 +5 -5
右側通行 -10 +10
85 15

道路交通法を厳格に解釈してしまうと、歩道を通行していた自転車は優先道路ではない。
あくまでも「横断」になりますが、横断態様を適用すると実情に合わないと思う。

 

優先道路(しかも片側二車線の広路)に付属した歩道と、小道から進入する車両のどっちが優先なのかは感覚的には前者。
歩道通行だからという理由で「優先道路ではない!」とするのは実情に合わない。

 

なので民事って道路交通法を厳格に適用するわけじゃないんだと考えたほうが理解しやすいのかと。
違反割合ではなく過失割合ですし。

 

そして過失割合が何%になろうと、

義務を減じるわけじゃないのよね。
優先道路/非優先道路態様を適用して50:50にした判例もありますが、横断歩道に対する注意が50%という意味になるわけもない。
過失割合なんて結果論なので、事故防止の観点でいえばあんまり関係ないような。

 

刑事/行政/民事がそれぞれ違う観点から検討されることは以前も書いたけど、

横断歩道での自転車事故、刑事、民事、行政の視点。
こちらで書いた件ですが、 これ、書いたように双方の義務違反はこうなります。 クルマの義務違反 自転車の義務違反 法条 38条1項前段(減速接近義務違反) 25条の2第1項(横断禁止) 具体的内容 対向車の停止により見通しが悪い横断歩道だから...

例えば大阪地裁の事例。

刑事責任(加害者)は、38条1項前段の減速接近義務を怠った過失として有罪になる。
行政処分については、安全運転義務違反(70条)を適用しているのか、最高速度遵守義務違反を適用しているのかわかりません。
民事責任は優先道路/非優先道路態様をベースにする。

 

全然違う観点から検討されるので、このあたりの整理がつかないと支離滅裂な解説になるのよね…
刑事/行政/民事がそれぞれ違う観点から検討されることを理解してないと、話が噛み合わない。
けど、運転者が遵守すべきだったのは38条1項前段の減速接近義務であることには違いないし、結局はこのように著しく見通しが悪いなら最徐行して進行するしかない。

ちなみに対向車も38条2項の対象…みたいな話が湧いてますが、刑事も民事も長年そんな扱いはしてこなかったので、それも含めバカなんじゃないかと心配になる。
どちらにせよ警察の見解は裁判所の判断を拘束しないので、警察の見解が民事には関わらないのですが。

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