こちらの続き。
優先道路がある交差点に付属した横断歩道を通行した自転車の事故では、民事責任上、優先道路態様から5%修正することが基本。
たまにこのような珍説をみてビックリするのですが、
これ、道路交通法上はクソデマです。
歩行者がノールックで横断してもいい根拠はこれですが、
第十三条 歩行者等は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道によつて道路を横断するとき、又は信号機の表示する信号若しくは警察官等の手信号等に従つて道路を横断するときは、この限りでない。
自転車の横断にはこの規定はありません。
自転車が横断する際は、むしろちゃんと確認してから横断しろと書いてある通り。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
ところで、民事責任上は優先道路態様として扱われる場合について掘り下げます。
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優先道路/非優先道路として扱う場合
25条の2だろうと、36条2項だろうと自転車が横断歩道を通行する際は劣後するとはいえ、実情からすれば車道を通行する車両にも事故回避義務がある。
けど、優先道路/非優先道路態様は自転車過失が大きくなるので揉めます。
判例は福岡高裁 平成30年1月18日。
イメージはこう。
原告(自転車)の主張は、無過失。
被告(加害者)の主張は、「自転車35%、加害者65%」。
加害者の主張根拠は、あくまでも優先道路/非優先道路態様なわけです。
クルマ | 自転車 | |
基本過失割合(優先道路/非優先道路) | 50 | 50 |
横断歩道修正 | +5 | -5 |
高齢者修正 | +10 | -10 |
計 | 65 | 35 |
過失0%を主張する原告と、35%を主張する被告なので示談交渉はまとまらず。
一審は優先道路/非優先道路態様をベースに、被害者有利に修正して加害者:被害者=70:30に。
原告は一審判決に不満があり控訴してますが、過失割合は変わらず。
控訴人らは、Aが本件横断歩道手前で一度自転車から降りた後、再び自転車に乗って横断しているところ、自転車に乗らずにそのまま自転車を押して横断した場合(横断歩道を横断中の歩行者と扱われる。)とではわずかな差しかなく、また、被控訴人は、横断歩道の手前で大幅に減速する義務及び一時停止すべき義務(道路交通法38条1項)があるにもかかわらず、減速せずに進行していること、本件事故現場が商店街の道路であること等に照らせば、Aの過失は0パーセントと評価すべきである旨主張する。
しかし道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えている(同法2条3項)のに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず、むしろ、本件の場合、Aは、優先道路である本件道路進行車両の進行妨害禁止義務を負う(同法36条2項)ことからすると、過失相殺の判断にあたっては、原判決判示のとおり、自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当である。
さらに、一般に、交差道路の車両の通行量が多いことにより交差点を通過する車両の注意義務が加重されるとは解されないことからすると、本件事故現場が商店街の道路で横断自転車の通行量が多かったとしても、それにより被控訴人の注意義務が加重されると解するのは疑問である。この点を措くとしても、本件道路は、車道の両側に約2メートル幅の歩道(一部は路側帯)が整備された全幅が12メートルを超える片側1車線(一部は2車線)の県道であり、車両の交通量も比較的多いこと等を考えると、幹線道路に近い道路であるというべきであって、通常の信号機による交通整理の行われていない交差点における交差道路からの進入車両等に対する注意以上に、特に横断自転車等の動向に注意して自動車を運転すべき商店街の道路とはいえない。
福岡高裁 平成30年1月18日
あくまでも民事責任上の考え方は、優先道路の進行妨害(36条2項)なのよ。
もちろん優先道路のある交差点だからこうなるわけで、優先道路がない交差点や右左折巻き込みは全然違う基本過失割合になる。
とはいえ
確かこの事故、刑事責任上は過失運転致死で有罪になっていると書いてあった気がするけど、民事責任が70%であることと刑事責任には何の関係もない。
ちなみに民事一審で確定した事実はこれ。
(1)認定事実
ア 本件事故現場について
(ア)本件事故現場周辺の本件道路は、中央線により上下線が区分された片側1車線の道路であり、その指定最高速度は時速40キロメートルである。
(イ)本件事故現場には、本件横断歩道が設けられており、同横断歩道には、自転車横断帯は設置されていない。
本件事故現場には、前方左右の視認を妨げる障害物はなく、本件横断歩道付近の見通しは良好であった。
(ウ)本件横断歩道南西側(△△方面側)には、本件道路と道幅5.8メートルの市道とが交差するT字路交差点(以下、「本件交差点」という。)があり、本件道路は同市道に対する優先道路である。
また、本件横断歩道北東側(〇〇方面側)には、本件道路と道幅3.3メートルの市道とが交差するT字路交差点があり、本件道路は同市道に対する優先道路である。
前記のいずれの交差点とも信号機による交通整理はされていない。
イ 本件事故発生について
(ア)本件事故発生前、Aは、本件横断歩道北端付近において、自転車を降りて佇立し、その後、自転車に乗り、◎◎方面に向かって本件横断歩道の横断を開始した。
(イ)本件事故発生前、被告は、被告車両を運転し、時速30ないし35キロメートルで本件道路を〇〇方面から△△方面へ走行していた。
本件交差点に進入する前、被告は、前方を走行する車両に気をとられつつ、進行方向左側の確認を行ったものの、進行方向右側の確認は行わなかった。
そして、本件車両が本件横断歩道にさしかかる頃、被告は、前方を向かって右側から左側に走行する原告を初めて認め、急制動を講じたが間に合わず、被告車両を原告に衝突させた。
福岡地裁 平成29年5月31日
刑事事件で減速接近の過失を認定したのか、右方不注視の過失を認定したのかはわかりませんが、過失割合が何%だろうとやることは変わらないのよね。
事故処理上、過失割合を決めるだけの話。
ただまあ、横断歩道の自転車事故では右左折巻き込み態様が0~10%程度なことから、それくらいになるのが普通だと勘違いしている人がまあまあいる。
右左折巻き込み態様と、優先道路/非優先道路態様は基本過失割合が全然違うのよね。
50:50から横断歩道修正して55:45、夜間修正して結局50:50にした判例もありますが、せいぜい10%程度だと思っていたらそりゃビックリするわな。
過失割合が何%だろうとやることは何も変わらないとはいえ、「自転車はノールックで横断してよい!」みたいなクソデマを語る人もどうなのかと。
YouTubeとかで過失割合を説明している人も、全然違う態様をベースに解説していたりするから笑えない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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