ちょっと前になんかおかしな記事が配信されていたのですが…
自転車に乗ったまま横断歩道を渡ることは、必ずしも違反ではありませんが、状況によっては違反になるケースがあります。違反になるケースとならないケースを解説します。
■自転車横断帯がない場合
まず、横断歩道に自転車横断帯がない場合を解説します。この場合、横断歩道の歩行者の通行を妨害するおそれがなければ、自転車に乗ったまま横断歩道を通行できます。しかし、歩行者の通行を妨害するおそれがあるときは、自転車を降りなければなりません。■自転車横断帯がある場合
次に自転車横断帯がある場合を解説します。自転車横断帯があり自転車に乗った状態では、横断歩道ではなく自転車横断帯を渡らなければなりません。自転車を降りて押しているときは、横断歩道を利用して渡ります。自転車に乗った状態と降りた状態では何が違う?
なぜ、状況によって自転車を降りる必要があるのでしょうか。それは、自転車に乗った状態と降りた状態では、道路交通法での扱いが変わるからです。自転車に乗った状態は「軽車両」で、車の一種という扱いになります。一方で、自転車を降りて押している状態は「歩行者」扱いです。
横断歩道は「歩道」の一種で歩行者のためのものです。一方で、自転車などの軽車両は基本的に車道を走る義務があります。ただし、例外的に以下のケースでは歩道を走ることが許されています。
●道路標識や道路標示により許可されている
●運転者が児童、幼児、70歳以上の者、車道通行に支障のある身体障害者
●交通状況などから歩道通行がやむを得ない場合そして、歩道を走る際は「歩行者の通行を妨げる場合は一時停止しなければならない」とあります。そのため、自転車に乗ったまま「軽車両」として横断歩道を利用する際に、歩行者の通行を妨害するおそれがあるときは、妨害しないように降りて押す必要があるのです。
街中で警察官が「横断歩道」で自転車を降りて渡っているのを目撃! 実は「乗ったまま渡る」のはNG? 横断歩道は自転車を降りて渡るべきなの?“違反になる・ならない”ケースを解説(ファイナンシャルフィールド) - Yahoo!ニュース自転車に乗っているときに横断歩道をどのように渡っていますか? 普通に乗ったまま横断歩道を渡る人がほとんどではないでしょうか。しかし、警察官が横断歩道を渡る際には自転車から降りて押しているのを見たこと
要は交通の方法に関する教則の解釈。
この記事の筆者は、教則に書いてある内容を考察するにあたり、「横断歩道は歩道」→「歩道の通行ルール(63条の4)が適用」と解釈してますが、シンプルに間違いなのよね。
歩道の定義はこれ。
道路標示で示した部分は歩道ではないと規定しているので、横断歩道は道路交通法上「歩道」ではない。
じゃあ教則の記述の根拠は何なのかというと、
25条の2第1項(横断等の禁止)と2条3項1号(みなし歩行者)。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
横断歩道は歩道ではなく道路の部分。
歩道と車道の区別がある道路なら現実的には車道にしかない。
あくまでも「車両としての」道路の横断である以上、25条の2第1項(横断等の禁止)により規制されますが、25条の2第1項は「車両は」なのよ。
自転車を押して歩く者は歩行者だと2条3項1号に規定しているので、車両としては「正常な交通を妨害するおそれがあれば横断禁止」だけど、降りて歩行者化すれば25条の2第1項の適用がない。
警察庁も25条の2第1項が根拠としているし、
判例も25条の2第1項としているわけで…
認定の事実のもとでは、被害者に本件事故に関する過失が存したと断定することは困難といわざるをえない。第一審被告が被害者と衝突する前その存在を認識し、これとの衝突を回避しようと努力したのにこれを果さなかつたという場合であるならば、被害者が本件横断歩道上を自転車に乗つたまま通行していたこと(道路交通法は自転車に乗つたまま横断歩道を横断することを予想していないが、同法25条の2の1項などに抵触しない限り、直接的にこれを禁止する規定はない。もつとも、同法38条1項所定の「横断しようとする歩行者」には当らない。)、あるいはその速度がややはや目であつたことが事故の発生ないしは受傷の程度に関係したと考える余地があるけれども、第一審被告は、前記の如く、前方を全く注視せず、被害者の存在を認識せず、その轢過後に始めてこれに気付いたのであるから、被害者が自転車を降りて通行していたなら、あるいはその速度がやや遅かつたなら、その危害を免れ得た、あるいはその程度が軽くすんだとは必ずしもいい難い。かように断定できる的確な証拠はない。
したがつて、この点の第一審被告らの主張は失当である。広島高裁 昭和59年6月29日
車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する自転車等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があるところ(道路交通法36条4項)、被告は、本件交差点に直進進入するに当たり、本件交差点又はその直近で道路を横断する自転車等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があり、また、最高速度である時速40キロを遵守する義務があったにもかかわらず、これらの義務を怠り、注意を欠いたまま、制限速度を約20キロも超過した時速約60キロの速度で進行し、本件交差点の約15m手前でようやく原告車を発見したものであり、過失が認められる。
また、原告は、自転車に乗って本件横断歩道上を横断するに当たり、左右を確認し、南北道路を通行する車両の有無、動静に注意して横断すべきだった(同法25条の2第1項)にもかかわらず、これを怠り、左方への注意及び安全確認が不十分なまま本件横断歩道上を横断したものであり、過失が認められる。
名古屋地裁 平成21年12月15日
話をややこしくしているのは、民事過失相殺の基本過失割合を考える上では、25条の2第1項について考慮することが少ないこと。
例えば民事では優先道路を横切る横断歩道上での事故については、基本過失割合は優先道路対非優先道路をベースにするため、横断歩道を進行した自転車は「優先道路の進行妨害」扱いになる。
民事は別なのよ。
控訴人らは、Aが本件横断歩道手前で一度自転車から降りた後、再び自転車に乗って横断しているところ、自転車に乗らずにそのまま自転車を押して横断した場合(横断歩道を横断中の歩行者と扱われる。)とではわずかな差しかなく、また、被控訴人は、横断歩道の手前で大幅に減速する義務及び一時停止すべき義務(道路交通法38条1項)があるにもかかわらず、減速せずに進行していること、本件事故現場が商店街の道路であること等に照らせば、Aの過失は0パーセントと評価すべきである旨主張する。
しかし道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えている(同法2条3項)のに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず、むしろ、本件の場合、Aは、優先道路である本件道路進行車両の進行妨害禁止義務を負う(同法36条2項)ことからすると、過失相殺の判断にあたっては、原判決判示のとおり、自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当である。
さらに、一般に、交差道路の車両の通行量が多いことにより交差点を通過する車両の注意義務が加重されるとは解されないことからすると、本件事故現場が商店街の道路で横断自転車の通行量が多かったとしても、それにより被控訴人の注意義務が加重されると解するのは疑問である。この点を措くとしても、本件道路は、車道の両側に約2メートル幅の歩道(一部は路側帯)が整備された全幅が12メートルを超える片側1車線(一部は2車線)の県道であり、車両の交通量も比較的多いこと等を考えると、幹線道路に近い道路であるというべきであって、通常の信号機による交通整理の行われていない交差点における交差道路からの進入車両等に対する注意以上に、特に横断自転車等の動向に注意して自動車を運転すべき商店街の道路とはいえない。福岡高裁 平成30年1月18日
逆に優先道路に沿った横断歩道であれば、民事過失割合の基本パターンは自転車が優先道路として扱う。
本件事故は、優先道路に併設された歩道を走行し、本件交差点を直進しようとした原告自転車と非優先道路から優先道路に左折進入するために本件交差点に進入しようとした被告車両との接触事故であるところ、双方に前方、左右の不注視等の過失が認められる。
そして、以上に加え、原告自転車が右側通行であり、被告車両から見て左方から本件交差点に進入してきたこと等に照らせば、本件事故の過失割合につき、原告15%、被告85%と認めるのが相当である。名古屋地裁 平成30年9月5日
これらは民事過失割合の基本パターンでしかないけど、道路交通法を厳格に解釈して25条の2を適用することが必ずしも実情に合わないのよ。
ただし対歩行者という点では、あくまでも25条の2から考える問題。
以前から書いているように、民事はそもそも別なのよ。
話を戻すと、教則の根拠は25条の2第1項。
そもそも勘違いしている人が多いけど、警察庁や裁判所は「車両(クルマも含む)が横断歩道を通行することは禁止してない」という立場。
道路交通法上、車両の横断歩道通行を直接に禁止する規定はない
「小児用の車の意義について」(警察庁交通局交通企画課 中澤見山)、月刊交通1979年7月(昭和54年)、東京法令出版
直接的に禁止する規定はないけど、正常な交通を妨害するおそれがあれば横断禁止。
昭和53年の国会でも、なぜ横断歩道を通行禁止にしなかったか?が問われた。
第84回国会 衆議院 地方行政委員会運輸委員会交通安全対策特別委員会連合審査会 第1号 昭和53年4月26日
○水平委員 それから、自転車の横断帯の新設によって、自転車は一応乗ったまま横断できますね。ところが、歩行者の横断道では必ず下車をして、自転車を引いて渡らなければならぬという配慮が必要だと思うのですが、この道交法の中にはそうした法的根拠といいますか、法的に明確にされていないですね。そこらあたり、なぜ明確にそういうことをうたわれなかったかということについてお答え願いたいと思います。
○杉原政府委員 従来必ずしも徹底をしないきらいがございましたが、基本的には横断歩道で歩行者の妨害になるときには、押して歩行者と同じ立場で歩いてもらうということでございます。今度も、歩道の自転車の通行を法律上認めることにしたわけでございますが、この場合も、歩行者の通行を妨害するときには一時停止をしろ、基本的に徐行を義務づけております。いつでも、どういう状態のもとでもとまれるスピードで走ってくれという形にしておるわけであります。基本的にそういう考え方で対処してまいりたいというふうに思っております。
○水平委員 自転車の通行が認められるようになった歩道の上においては、いまおっしゃったような一時停止だとか、徐行の配慮、これはいいのです。私の言うのは、歩行者の横断帯も自転車が渡ることができるでしょう、そうした場合に、一時停止も徐行の配慮も必要でありますが、横断帯という歩行者の保護、安全を図る意味からも、自転車も同時にそれはおりて引いていくべきではないか、そういうことが法的になぜ明確に確認をされておかなかったか、こういうことなんです。
○杉原政府委員 一応、いま歩行者がおってそれの通行の妨害になるときには、おりて押して歩いてもらうということになっておりますが、徹底を欠くきらいがございますので、これは教則その他できちっと指導するようにいたしたいと思います。
横断歩道を歩道と解釈した時点で、すべてが間違いなのよね。
で。
横断歩道を「歩道」と解釈して歩道のルール(63条の4)を適用しようとすることには問題があって、その考え方だと非普通自転車は横断歩道を通行できないなどおかしくなるのよ。
道路外の施設から横断歩道を使って横断するケースもあるし、ワケわからん解釈をしだすと他にしわ寄せがきておかしくなるので、こうした誤認識はきちんと改めないと。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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