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盗まれたクルマで起こした事故の賠償責任は、「クルマの持ち主」になるか?

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ちょっと前に埼玉栄高校のグラウンドで、グラウンド整備用のクルマを高校生が勝手に運転して事故を起こしてましたが、

高校のグラウンドで無免許運転の末、横転死亡事故。
ご冥福を。16日夜遅く、さいたま市西区にある高校のグラウンドで、この学校に通う高校2年の生徒が同級生2人を乗せて運転していた車が横転し、助手席にいた1人が死亡しました。運転していた生徒は運転免許が取得できない16歳で、警察が詳しい状況を調べ...

これを民事の賠償責任としてみたときに、賠償責任を負うのは誰になるのでしょうか?

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盗まれたクルマと事故の賠償責任

形式上、運転していた高校生が賠償責任を負うことになりますが(民法の不法行為責任)、一方で自賠法3条では人身損害について「運行供用者」に賠償責任があるとする。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者はその運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

運行供用者については、クルマの持ち主が含まれると判断されることが多い。

 

ところで埼玉栄高校の事故は、いわば「クルマを盗んで」事故ったのと同じ。
盗まれたクルマで事故を起こされた場合に、持ち主の賠償責任がどうなるか判例をみていきましょう。

 

判例は最高裁判所第二小法廷 昭和57年4月2日。
事案の概要はこう。

 

・自動車修理業を営む会社の従業員が、代車用のクルマを使用後に「社長がいつも通りクルマに乗って帰るだろう」と考え、無施錠のままクルマを駐車。
・シンナーを吸う16歳の少年2名が、無施錠のクルマを発見、窃取。
・少年2名がクルマに乗っていたところ、電柱に激突し助手席にいた少年が死亡
・クルマの持ち主は自賠法3条による賠償責任を負うか?

まず原審の判断はこちら。
(Fが運転者、Eが助手席)

Eは前示のとおりシンナー遊びをしていたことから正常な判断ができる状態ではなく、本件乗用車の助手席に着席したときは、「ビニール袋を持つてグターとしていた(乙第16号証)」のであるが、なお前示のように自から本件乗用車の助手席ドアを開けてこれに乗り込み、Fが運転操作に移る際差し出したシンナー入りビニール袋を手に取り預つたことから考えると、Fが本件乗用車を動かすことを認識できたものと認められるのにかかわらずこれを制止しようとした形跡はない。そして、本件乗用車に乗込んでから後にはEとFの間に会話らしい会話がなされたことはなかつたが、前示両者の親密な関係に照らせば、両者の間に以心伝心による意思の疏通は十分可能であつたと考えられるので、Eは、Fと意を通じFが本件乗用車を盗み出し運転を開始することを容認していたものと推認される

以上認定の事実によると、本件乗用車の所有者である訴外会社の従業員及び社長がエンジンキーをつけたままドアに施錠することなくこれを公道上に駐車したことが、Fの本件事故に至る運転を誘発したということができる。このことと本件事故がFの運転開始後瞬時にして発生したことを併せ考えると、訴外会社が当時本件乗用車の運行を直接的、具体的に指示制御すべき立場になく、その運行利益が直接的、具体的には訴外会社に帰属しなくても本件事故当時訴外会社はなお本件乗用車の運行供用者であつたと認めざるを得ない(したがつて、本件乗用車による事故の被害者が全く第三者の通行人である場合には訴外会社は運行供用者として損害賠償責任を負う。)。しかしながら、本件事故は、Fが同人らの自宅まで乗つて帰るために本件乗用車を窃取して運転中に生じたものであり、同乗者であるEもFと意を通じこれを容認していたのであつて、右両名が本件事故の原因となつた本件乗用車の運行を支配し、その運行利益も右両名に帰属していたものであるから、右両名も本件乗用車の共同運行供用者であつたと認めるのが相当である。もつとも、前叙のとおり、右両名による本件乗用車の運行は所有者である訴外会社の運行支配を全面的に排除してされたとは解されないが、そうだからといつて右両名の運行支配者たる地位が否定される理由はない。却つて訴外会社による運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し右両名のそれははるかに直接的、顕在的、具体的であるということができる。

そうすると、自賠法3条にいう「他人」とは自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうのであるところ、本件事故の被害者であるEは他面本件事故当時本件乗用車の共同運行供用者の一人であつたのであるから、Eの両親である被控訴人ら(このことは成立に争いのない乙第8号証によつて認められる。)は、Eが自賠法3条の「他人」であることを主張して訴外会社に対し同条による損害賠償を請求できないといわなければならない。

名古屋高裁 昭和56年7月16日

自賠法では運行供用者が「他人」に対し賠償責任があるとしてますが、同乗者XはYと一緒に窃取したわけだし、共同運行供用者に当たり「他人」ではないとして持ち主の賠償責任を否定。
ただし「本件乗用車による事故の被害者が全く第三者の通行人である場合には訴外会社は運行供用者として損害賠償責任を負う」としているように、無関係な第三者がケガした場合には持ち主が賠償責任を負うとしている。

右事実関係のもとにおいて、本件事故当時の訴外D株式会社による本件普通乗用自動車の運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対して、訴外亡E及び訴外Fは共同運行供用者であり、しかも右両名による運行支配は、はるかに直接的、顕在的、具体的であるから、訴外亡Eは自動車損害賠償保障法三条にいう「他人」であることを主張しえないとしたうえ、同人が右「他人」である旨の主張を前提とする同法一六条の規定に基づく本訴請求を棄却した原審の判断は、正当として是認することができる。

最高裁判所第二小法廷 昭和57年4月2日

自賠法の賠償責任はこうだとしても、民法の賠償責任はまた別。
一例として青森地裁 平成14年7月31日。

 

事案ですが、Xが親の目を盗んで借りたクルマを無免許で運転し事故を起こし、同乗者Aが死亡
Aの両親がXとY(Xの親)に対し民法709条により損害賠償請求を、さらにクルマの所有者Zに対し自賠法3条により損害賠償請求したもの。

人物 内容 裁判の立場
Z クルマの所有者で、Yにクルマを貸していた 被告(自賠3)
Y 無免許運転したXの親で、クルマの管理をしていた 被告(民709)
X(16歳) 親の目を盗んでクルマを借り無免許運転して自損事故を起こした 被告(民709)
A(16歳) 無免許運転したXの助手席に座り、自損事故により死亡した 親が原告

自賠責保険から3000万の支払いを受けてます。

 

まず、クルマの所有者Zは自賠法でいう運行供用者になりますが、裁判所は運行供用者責任を否定。

前記認定事実によれば、被告Zは、本件車両の保有者として、自賠法3条の運行供用者と認められる余地がある。
ところが、前記事実関係によれば、亡Aは、本件事故当時、中学時代の同級生である被告達の誘いに応じて、無免許である同被告の運転する車両に同乗したのみならず、本件車両の持ち出しの際には運転席に乗り込んでこれを容易にしたり、石持漁港からは自らも無免許で本件車両を運転し、その後、自己の携帯電話に電話がかかってきたことから、再び被告達に運転を替わってもらったのである。このような事情からすれば、亡Aは、被告達とともに、本件車両の共同運行供用者の地位にあったものと認められる。
一方、証拠によれば、被告Zは、平成12年5月に本件車両を被告Yに預けて以降はこれを使用することもなく、被告Yにその管理に委ねていたものと認められる。

このような事実関係からすると、被告Zが本件車両の運行供用者にあたるとしても、同被告の本件車両の運行に対する支配は、間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、亡Aの運行支配は、はるかに直接的、顕在的、具体的であり、このような場合、亡Aやその相続人である原告らが、被告Zに対し、自賠法3条の他人であることを主張して同条による損害賠償を請求することは許されないというべきである。

青森地裁 平成14年7月31日

クルマの所有者Zについては、自賠法3条による損害賠償請求を棄却。
次に親の監督責任。

被告Yは、平成12年5月以降、被告Zから本件車両をその鍵とともに預かり保管していたものである。

そして、被告Yは、被告達の親権者として、同被告に対する一般的な監督義務を負っているが、前記認定事実のとおりの本件事故直前の被告達の無職徒遊の状況のほか、証拠によれば、被告達は、中学三年生時である平成11年5月に学校内で乱暴をして補導されたり、翌12年2月には他校の生徒とけんかをしたことによる傷害の非行歴がある上、同年5月には、原動機付自転車を無免許で運転していた疑いにより、警察から注意を受け、被告Yもこの件で交番に呼ばれていたことが認められるのであるから、このような事実関係からすれば、被告Yとしては、自宅横の空き地に保管していた本件車両を被告達が持ち出して運転することのないよう、被告達に対する監督を強化するとともに、その鍵の保管には格別の注意を払うべき義務があったものであるところ、本件車両の鍵を自宅居間の食器棚に保管していたというのみでは、この義務を尽くしたとはいえない。

したがって、被告Yには、被告達に対する監督義務違反が認められ、被告達の前記のとおりの行状や運転免許を有していないことなどをも考慮すると、この義務違反と本件事故の発生との間には相当因果関係がある。
したがって、被告Yには、民法709条により、本件事故により原告らが被った損害を賠償する義務がある。

青森地裁 平成14年7月31日

自賠法でいう持ち主(運行供用者)の責任については、死亡したAは共同運行供用者であり「他人」ではないとして持ち主の賠償責任を否定。
しかし鍵の管理責任については、鍵を管理していた親の責任を肯定し賠償責任があるとしている。
なお、青森地裁の事案については死亡したAにも責任があるとして4割の過失相殺をしている。

亡Aは、被告達による無免許運転行為に積極的に加担して危険の発生に寄与し、また、同被告による無謀で危険な運転を容認していたものといわざるを得ず、本件事故の発生については相当の帰責性があるといわなければならない。したがって、過失相殺の規定を類推し、原告らに生じた損害からその4割を減額するのが相当である。

青森地裁 平成14年7月31日

鍵の管理責任

埼玉栄高校の事案については高校が会見で「学校が悪い」と散々述べてますし、争うまでもなく学校が賠償するだろうと思われますが、死亡した高校生にも非があると考えられるので過失相殺はするのかと。

 

鍵の管理責任はかなり大きいのですが、民事の責任は自賠法と民法の絡みからまあまあややこしい。
まあ勝手に乗り回す人が一番悪いのですが、民事は被害者の救済を目的にするから「誰が一番悪いか?」という発想ではないのよね。

 

ちなみに自転車は自賠法の適用がありませんが、仮に自賠法の範疇に入れた場合、盗まれて事故を起こされたら自賠法3条により持ち主に賠償責任が生じる可能性も出てくるので…なかなかややこしいのよ。

コメント

  1. カモがネギしょってる より:

    居酒屋でテーブルに車の鍵を置いてトイレに行ったら、鍵を盗まれ、その車で飲酒運転で事故を起こされて、管理責任を問われた裁判は、所有者の責任割合が結構大きかった記憶があります。
    気になるのが、緊急時に車を離れるときは鍵を刺しっぱなしにすることが義務ですが、それで事故を起こされて緊急時とまでは言えないと判断されたらどうなるのでしょうか?

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      うーん、ちょっと調べてみますがよくわかりません。
      たぶん責任は免れない気がしますが…

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