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優先道路通行車両が有罪になるケースと無罪になるケースの境目。

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優先道路を通行する車両は左右の見通しがきかない交差点での徐行義務が免除されてますが(42条1号カッコ書き)、優先道路を通行中に非優先道路から進行してきた車両と衝突する事案は度々起きている。

優先道路とは交差点内にセンターラインがある道路(36条2項参照)

優先道路がないなら左右の見通しがきかない交差点で徐行義務がありますが、

優先道路通行車が非優先道路通行車と衝突してケガさせた場合に、優先道路通行車両が有罪になるか無罪になるかの問題がある。
2つの事例をみていきます。

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東京高裁 昭和61年2月24日(無罪)

事案の概要ですが、被告人は時速40キロで左右の見通しがきかない交差点(優先道路)に進入。
非優先道路(右方)から一時停止を怠り進入してきた被害者と衝突。

被告人(優先道路)の速度 約40キロ
指定最高速度 40キロ
被害者(非優先道路)の速度 時速25キロ
被告人が被害者を視認できた位置 衝突地点の6m手前

一審は優先道路を進行していた被告人に対し速度調節義務と左右確認義務を怠ったとして有罪。

同交差点は左右の見とおしが悪く、交差道路から車両等が不用意に進入することがあることを被告人において認識していたのであるから、適宜速度を調節し、見とおしの悪い右方道路から進入する車両の有無・安全を確認して進行すべき業務上の注意義務がある

東京高裁は原判決を破棄し無罪に。
まず、一審では「交差道路から車両等が不用意に進入することがあることを被告人において認識していた」としている点からすると、信頼の原則を否定する「特別な事情」を認定したかのようにみえますが、東京高裁は特別な事情に当たらないとする。

信頼の原則を否定するには「特別な事情」が必要だというのは最高裁が示した通り。

原判決は、本件交差点は交通整理の行われていない、かつ左右の見通しの悪い交差点であつて、とりわけ右方道路から直進車両が一時停止することなく、本件交差点に進入してくることがあることを認識していた被告人としては、これとの衝突を未然に防止するため、相当程度の速度に減速し、右方道路から進入してくる車両の有無、安全を十分に確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのに、時速約40キロメートルという制限速度いつぱいの速度で、しかも左方道路の安全に気をとられ、右方道路から進入してくる車両の有無、安全を確認しないで進行したため、本件事故を惹起するに至つたもので、被告人には前記認定の業務上の注意義務を怠つた過失がある、としているので、その当否について検討するに、被告人に右の速度調節義務違反及び安全確認義務違反が認められるのは、被告人が右方道路から一時停止することなく不用意に直進してくる車両のあることを予見し得る特別事情があり、しかも被告人が安全確認義務を尽してさえいれば右方道路から進入してくる車両を事故回避措置の可能な地点において発見し得た場合でなければならない。

まずは「信頼の原則を否定する特別な事情」に当たらないとした部分。

右の特別事情が存したか否かについて検討すると、原審記録並びに当審事実取調の結果によれば、被告人は、右方道路からの直進車両が所定の停止線手前では一旦停止せずに左右道路を見通すことができる地点まで進出してくるのを経験したことがあつたというにとどまり、それ以上に被告人車の進路である東西道路を通行する車両の進行を妨害するほど不用意に交差点に進入してくる車両のあることまで知悉していたとする証拠も、ほかに事故発生の危険を予想し得るような具体的事情が存在したとの証拠もない

予見可能性については否定。
次に回避可能性があったかですが、被告人が被害車両を視認できた地点は衝突地点の6m手前と認定。

被告人車の時速が約40キロメートル、A車の時速が25キロメートルを下回つていなかつたとの前示認定をもとに、被告人がA車を発見することの可能な地点における相互の位置関係を考察すれば、A車がほぼ前示の地点(A車がこの地点に達するまでは被告人の側からA車を発見することは不可能である。)すなわち、衝突地点まで約6mの地点で、そのときの被告人車の位置は衝突地点の前方10m以内であつたというほかはない。

回避可能性もなく、無罪。

東京高裁 昭和55年3月4日

事案の概要ですが、被告人は時速70キロ(指定最高速度40キロ)で優先道路の交差点に進入。
非優先道路から進行してきた被害車両と衝突した事故。

被告人(優先道路)の速度 約70キロ
指定最高速度 40キロ
被害者(非優先道路)の速度 20~30キロ
被告人が被害者を視認できた位置 衝突地点の27.4m手前

東京高裁は被告人が速度調節義務と前方注視を怠ったとして有罪。

たしかに、本件における被告人車両の進行道路は道路交通法上の優先道路であり、その一方、相手方車両の進行してきた交差道路には交差点入口手前に一時停止の道路標識が設けられ、かつ、一時停止線が標示されているものであるから、通常このような場合、優先道路上の車両の運転者としては、相手方車両が交差点入口付近で一時停止し、かつ自車の進行を妨害するような行動に出ることはないと予想するのが自然であろう。しかし右はあくまで通常の場合においてである。例外的に、相手方が一時停止することなく交差点へ進入してくる明らかな気配の窺われる場合等であつて、両車両がそのまま進行を続けるにおいては衝突の危険必至であるというような特別の事情があるときには、右の予想乃至期待の前提は既に失われており、優先道路の進行車両といえども危険を察知し、すすんでは臨機の措置にでて結果を回避すべき義務を負うものである。

まずは予見可能性について。

被告人が相手方車両を認めた時点においては、それは既に交差点入口に4m足らずまで、しかも時速2、30キロメートルのまま接近進行してきており、かりに相手方がそこで急停止を試みたとしてももはや交差点内への進入を避けがたいという走行状況を客観的に示していたことに外ならず、加えるに、時刻は恰も午前6時15分ころ、現場は交通整理の行われていない閑散とした市街地外れの交差点であつて、経験上公知であるように、一時不停止、速度超過等の道路交通法違反が比較的生じ易い条件下にあつたものである。
このような特別の事情が存する本件においては、前記<2>点付近の時点で既に、平均的運転者に対し相手方車両の一時停止と自車の進行不妨害とを予期させるべき前提事実は、客観的に存しなくなつていたものと認めざるを得ない。

被害車両は交差点の4m手前でも時速20~30キロだったことから、そのまま交差点に進入する車両が明らかな状況、つまり信頼の原則を否定する状況だったことになる。
次に回避可能性。

結果回避可能性とその義務についてみると、本件において被告人車両がもし時速40キロメートルで走行していたならば、その反応・空走距離に推定滑走距離を加えた合計、即ち約17.4mの所要距離をもつて急停止しえていたという所論の算式はこれを是認できるところ、前記<2>点から現実の衝突点までは約27.4m、<2>点を過ぎて<3>点にいたる半ばの地点からさえ約21mだというものであるから、被告人において前述予見義務を尽くし、つまり制限速度を遵守して前方注視を怠らず<2>点付近において危険を察知していたならば、例えば急制動を講ずることによつて本件衝突は十分回避しえていたということになるものである。

過失運転致死傷罪は予見可能性と回避可能性の問題なので、被告人が制限速度を遵守していても急ブレーキで回避不可能なら無罪になりますが、この事例では被告人が被害車両を視認できた地点は27.4m手前。
制限速度を遵守していた場合の停止距離が17.4mなので、制限速度を遵守して前方注視していれば事故の回避は可能だったという判断になる。

回避可能か?を争うわけで

過失運転致死傷罪を勘違いする人がわりといるけど、死傷させたことについて「予見可能か?回避可能か?」が問われるもの。
どっちが優先か?ではないし、どっちが悪いか?でもない。

 

これらから言えるのは、優先道路通行車には徐行義務がない以上、制限速度を遵守して前方注視していても防げなかった事故なら無罪だし、制限速度を遵守して前方注視していれば回避可能な事故なら有罪。

 

優先道路を通行する車両は、特別な事情がない限りは、非優先道路通行車両が交通法規を遵守して優先道路の進行妨害をしないことを期待していいわけですが、前方注視義務や制限速度遵守義務を免除するわけではないのよね。

 

こういう判例について考える際には、このように事実認定がどうだったかがわからないと判断しようがない。

コメント

  1. shtakah より:

    2番目の判決を「東京高裁昭和55年3月5日」とされていますが,「東京高裁昭和55年3月4日」ではないでしょうか(刑事裁判月報12巻3号69頁等ご参照。)。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      その通りでした。ありがとうございます。

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