右直事故はまあまあ多く見られる事故ですが、右直事故の基本過失割合はこう。
直進車 | 右折車 |
20 | 80 |
道路交通法上は直進車が優先(37条)になりますが、基本過失割合で直進車を20%としている理由は、多くの右直事故では直進車にも前方不注視など何らかの過失(違反ではなく過失)が認められることから、直進車にも20%としている。
逆にいえば、直進車に過失がなければ直進車が無過失になることもあります。
右直事故で直進車が無過失になった事例
判例は大阪地裁 平成24年1月27日。
事故の概要です。
原告は片側二車線の第一車線を直進、被告は右折。
指定最高速度は40キロになっており、信号交差点で双方に信号無視はない。
原告は第二車線を通行する訴外Bとほぼ並走状態ですが、訴外B車の先端より1m程度後方に位置していました。
衝突部位は原告単車の前部と被告単車の左側面のガソリンタンク付近で、原告が右に転倒し負傷。
原告が被告に対し、人身損害と物損の損害賠償を求め、被告は物損の損害賠償を求め反訴した事件です。
まずは双方の言い分。
原告 | 被告 |
本件交差点を直進しようとしたところ、その直前に被告単車が対向車線から右折の合図もせずに高速で急転把して右折してきた。被告は、原告単車とその右隣の車線を併走していた車両の運転者が恐怖を覚えたようなタイミング及び態様で右折をしたものであり、原告にとって本件事故を回避するのは不可能であった。以上の事故態様によれば、本件事故は被告の一方的過失により生じたものであり、原告に過失はない。 | 本件交差点の手前で右折の合図をして減速したところ、対向して直進してくる原告単車を認識したが、十分な距離があったため先に右折できると判断し、徐行して右折した。すると、右折がもう少しで完了するという被告単車に原告単車が衝突してきた。以上の事故態様によれば、原告の道路交通法50条違反の交差点進入、著しい前方不注視及び著しい速度違反並びに被告の既右折という事情があるから、本件事故に関する過失割合は原告6割対被告4割とすべきである。 |
原告は「直前右折、無合図」を理由に回避不可能だから無過失にすべきと主張。
被告は「合図して徐行して安全確認したのに、原告が著しい速度超過で突っ込んできたから原告60%とすべき」と主張。
それぞれの意味については後述。
まるで言っている内容が違うので、まず事実が何なのかを確定する必要がある。
まず、原告単車の速度と右折開始時の双方の距離。
事故後の実況見分においては、被告は「右折開始時の距離は約22.2m」と指示説明している。
しかし保険屋には「60m」と説明し、裁判での本人尋問では「70m」と説明する。
これについて裁判所は、被告の説明に矛盾があるとしている。
被告は、対向して直進してくる原告単車との間に十分な距離があったので右折したが、原告単車が著しい高速で走行してきたために衝突した旨主張し、被告本人はこれに沿う供述をする。
しかしながら、被告は、右折の前に原告単車を確認した時点で原告単車が衝突地点からどの程度向こうにいたかについて、事故直後に被告立会いの下に行われた警察の実況見分においては約22.2mと説明していたのに、その後、調査会社に対しては50ないし60mと説明し(甲26)、被告本人尋問では約70mと供述し、供述を変遷させている。そして、調査会社に対して説明した距離を前提とすると原告単車の速度は時速約132キロと算定され(甲26)、被告本人尋問で供述した距離を前提とするとこれが更に速くなるのであって、このような速度は、原告単車が衝突後に停止した地点(衝突地点から約4.1m、甲2)や、原告及び被告の傷害がさほど重いものではなかったことに明らかに整合しない。他方、原告単車とB車は概ね並走していたと認められるところ、証人Bと原告本人は、いずれも時速40キロ程度で走行していた旨供述している。以上によれば、被告の上記主張及び被告本人の上記供述は、採用することができない。
大阪地裁 平成24年1月27日
被告が主張する「ちゃんと確認した!」、「だいぶ遠くにいたから右折したのに原告が著しい高速度で突っ込んできた!」は辻褄が合わないとして採用されず。
原告単車が衝突後に約4.1mで停止していることや、仮に高速度であったならケガの程度がおかしいし、訴外B車の供述とも整合しない。
したがって事実認定としては、被告が直前右折した態様だと認定。
裁判所が認定した事実。
ア 原告単車は、南北道路の南行二車線の左側の車線(以下「第1車線」という。)を時速40キロ程度で走行していた。原告単車の右隣の車線(以下「第2車線」という。)には、B運転のミニバン(日産エルグランド、以下「B車」という。)がほぼ並んで走行していた。
原告単車は、その先頭がB車の先頭より1m程度後方にある状態で、B車と並走して本件交差点に進入したところ、対向車線から右折してきた被告単車と衝突した。
原告は、対面の青色信号に従い、本件交差点に入ろうとしたときに、クラクションの音を聞き、それとほぼ同時にB車の陰から目の前にバイクが現れ、回避動作をとる間もなく衝突したと感じた。イ 被告単車は、南北道路の右側の車線を北進して本件交差点に差し掛かり、対面の青色信号を見た上、停止せずに対向車線の状況を見たところ、直進してくる原告単車及びB車の存在を認識したが、先に右折することができると考え、徐行せずに右折したところ、原告単車と衝突した。
ウ 衝突部位は、原告単車の前部と、被告単車の左側面のガソリンタンク付近であり、原告は、原告単車ごと右側を下に転倒した。
これら事実認定の下、裁判所が判断した過失割合はこちら。
原告(直進) | 被告(右折) |
0 | 100 |
被告は、右ウィンカーを点滅させ、減速して本件交差点に進入して一旦停止し、対向して走行してくる原告単車との間に十分な距離があることを確認した後、歩くのと同程度の速度で右折を開始したところ、右折をほぼ完了するところで原告単車に衝突された旨主張し、被告本人はこれに沿う供述をする。
しかしながら、証人B及び原告本人は、被告が非常に危険なタイミングで、徐行せずに右折してB車と原告単車の直前を横切ろうとしてきた旨概ね一致して供述している。原告単車の速度がそれほど速くなかったとの前記認定を前提とすると、これらの供述は、本件事故の発生経緯を合理的に説明するものといえるのに対し、被告本人の供述では、なぜ本件事故が発生したのかが合理的に説明されない。
よって、被告の上記主張及び被告本人の上記供述は、採用することができない。そして、上記事故態様によれば、被告単車が既右折の状態であり、原告X1に著しい前方不注視があった旨の被告の主張も採用することができず、むしろ、被告単車は、対向して直進してきた原告単車が直近に迫っていたのに、徐行せずに右折したものといえる。また、証人Bが、被告単車は右ウィンカーを点滅させていなかったと思う旨供述していること及び被告本人の前記供述の信用性が低いことからは、被告単車が右折に先立ち右ウィンカーを点滅させていなかった可能性も高いといえる。
(3) 過失の有無、割合について
被告は、本件交差点を右折する際には、徐行しなければならず、また対向車線を直進してくる車両の有無、速度及びその車両との距離を十分確認し、その進路を妨害してはならない注意義務を負っていたというべきであるが(道路交通法34条2項、37条参照)、これらをいずれも怠り、原告単車が直近に迫っているのに、徐行することなく右折を開始して進行した過失があるというべきである。
原告は、時速約40キロで本件交差点を直進しようとしたが、対向してきた被告単車が徐行せずに右折してきて原告単車のすぐ前を横切ろうとしたため、これを避け切れずに衝突したものであって、原告に過失があったとは解されない。
よって、本件事故は専ら被告の過失により生じたものといえる。
なお、被告単車は右ウィンカーを点滅させずに右折した可能性は高いが、仮にこれを点滅させていたとしても、被告の過失は重く、原告に過失があるとはいえない。大阪地裁 平成24年1月27日
徐行なし、既右折
右直事故の過失修正要素に「右折車の徐行なし」と「既右折」がありますが、「徐行なし」は右折車不利に修正し、「既右折」は右折車有利に修正するもの。
民事でいう「右折車の徐行なし」は、道路交通法でいう徐行とは違う意味合いなのは以前も解説してますが、
通常右折車に見られる右折速度より速いものを民事過失修正要素では「徐行なし」と呼んでいて、道路交通法でいう「直ちに停止できる速度」とは異なる概念。
次に「既右折」ですが「既に右折を完了しているか、それに近い状態」を意味する。
これの元ネタは昭和46年改正以前の旧37条2項と考えられますが、右折を完了している、又は右折がほぼ完了している状態であれば直進車側にも衝突回避の余地があり、それを怠ったとして直進不利/右折有利に修正するもの。
この衝突具合だと「ほぼ右折が完了している」とみなせそうにも思えますが、そもそも直前右折して直進車側は回避不可能な状況を作ったのだから既右折は適用されない。
過失がなければ過失はつかない
右直事故の基本過失割合は「直進20%」としてますが、基本過失割合は直進車にも何らかの過失が認められることを前提にしているので、過失がなければ過失はつかない。
「オレ無過失!」「いや60%だ!」では示談交渉がまとまるわけもないけど、結局のところ事実認定次第で変わってしまうのできちんと立証しないと不利になるのよね。
裁判は裁判官が法廷に提出された証拠と主張のみで判断されるけど、要はどちらの主張のほうが納得できるか?なのであって、矛盾がある主張をすれば不信感を持つのは当たり前。
まあ、訴外Bが「いや、僕は120キロでしたね」なんて供述を始めたら大混乱に陥りますが…訴外Bの供述のみで判断したわけではないことからすると、訴外Bの供述はあくまで「他の証拠の信用性をアシストした」的な話なのかもしれません。
「事故ったら安全運転義務違反になる」みたいな根拠がない意見も散見されますが、基本過失割合として直進過失がある理由は「多くの場合、直進車にも前方不注視など何らかの過失が認められるから」。
何も過失がなければ過失はつかないので(それは法律上当たり前のこと)、結局はやることをやりましょうとしか言えないのよね。
やるべき注意を払っていても事故るときは事故る。
なお、「違反」と「過失」は別です。
ここを理解してない人も多い。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント