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川口の時速125キロ逆走事故について、危険運転致死を視野に補充捜査をした理由。

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ちょっと前になりますが、川口で時速125キロで一方通行道路を逆走した事故がありましたよね。

この件、一方通行道路に「二輪を除く」の補助標識があったことから、自動車運転処罰法2条8号の「通行禁止道路」に該当しなくなるという問題があり、過失運転致死で起訴したわけですが

埼玉・川口の逆走死亡事故で実況見分 危険運転致死罪に訴因変更視野:朝日新聞
埼玉県川口市で昨年9月にあった、一方通行の市道を時速約125キロで逆走した中国籍の少年(19)=自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)などの罪で起訴=による死亡事故で、さいたま地検と埼玉県警が、よ…

ここにきて危険運転致死へ訴因変更を視野に補充捜査をしたそうな。
危険運転致死の中でも「進行制御困難高速度」を視野にしたもの。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

これ、時速194キロで直進した右直事故の大分地裁判決を意識したものなのよ。

 

進行制御困難高速度でいう「進行制御困難」とは、コースからの逸脱を指す。
典型的事例は、カープを曲がりきれないような高速度によりコースを逸脱するような事故で、従来の判例は「カープの限界旋回速度を越えていたか?」が争点になっていた。

 

そして「あまりの高速度で動的車両を避けられなかったこと」については、危険運転致死罪の「進行制御困難高速度」の射程範囲ではない。

 

大分地裁判決は、「あまりの高速度で右折車両を避けられなかったから」危険運転致死罪を認めたわけではない。
あくまでも路面の荒れや異常な高速度による視野狭窄を理由に、「時速194キロではコースから逸脱するリスクが高い高速度」だとして危険運転致死を認めたわけです。

2 本件道路の平たん性
関係証拠によれば、本件道路のような一般道路のアスファルト舗装の耐用年数は、およそ10年といわれており、特に、制動加重がかかる交差点手前や橋の前後、交通量(とりわけ貨物車の通行)が多い道路は、わだち割れ(車両のわだち部分の凹凸)が生じやすく、傷みやすいところ、本件道路のうち被告人車両が本件事故直前に進行した本件交差点までの区間は、平成16年以降改修舗装歴がなかったこと、もっとも、10年経過すれば必ず補修を要するわけではなく、ポットホールと呼ばれるアスファルト舗装の凹みや穴がいくつもできたり、車のハンドルがとられるような凹凸ができたりしない限り、大規模な補修は行われない実情にあること、道路を造る際のアスファルト舗装の平たん性の基準については、表層の凹凸が一般道路では2.4mm以下、高速道路では1.3mm以下とされており、サーキット場では更に厳しい条件が付されることが認められる。
こうした事情に照らすと、本件事故当時の本件道路には、補修を要しない程度のわだち割れが本件交差点付近等に存在していたと推認でき、本件事故の6日後に撮影された本件交差点付近(被告人車両が本件事故直前に進行した区間)の写真に停止線の歪みや水たまりが写っていることも、この評価を支えるものといえる。なお、警察官が本件事故の約1か月後に作成した実況見分調書には、本件道路の路面が平たんであるとの記載があるが、これは、特段の異状がなかったことを意味するにすぎないと考えられるから、前記の評価を左右しない。

3 自動車の走行場所及び速度と自動車の揺れの強さ及びハンドル操作回数の関係性
関係証拠によれば、捜査機関は、令和6年5月20日、捜査用車両を使用し、警察官2名に、本件道路において時速60kmで走行させた上、サーキット場において時速60km及び時速140ないし150kmで走行させて、車両の揺れ及びハンドルの操舵角を計測する実験を実施したところ、同じ速度(時速60km)で本件道路及びサーキット場を走行した場合、一定角度を超えるハンドル操作の回数は本件道路の方が多く、同じ場所(サーキット場)で走行した場合、速度が上がれば(時速60kmと時速140ないし150km)、車両の揺れが大きくなり、一定角度を超えるハンドル操作の時間当たりの回数が多くなるという結果が得られたことが認められる。

この点、弁護人が主張するとおり、本件道路における走行実験は、本件事故から3年以上経過した後に実施されたものであり、路面の状況が本件事故当時と同一であるとはいえないこと、使用車両が被告人車両と同種ではないことなどを考慮すると、前記の実験結果は、本件事故当時の被告人車両の揺れの有無・程度や被告人のハンドル操作状況を具体的に推認し得るものではないが、一般的に、自動車は、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向があるという限度では、その証拠価値を肯定できる。

4 自動車の速度及び夜間運転と視力・視野の関係性
証人B(C大学D学部E専攻准教授)は、「自動車の速度が速くなると、運転者の視力が下がり、視野が狭くなる。その理由は、オプティカルフロー(視野内の画像情報の流れのようなもの)が速くなり、画像のぶれが生じ、明暗比が低くなる、見えにくくなったものなどに注意資源が割かれる、動体視力が低下するためである。
また、自動車を夜間に運転する場合も、視野が狭くなる。その理由は、視細胞のうち、視力や奥行き知覚、動体視力等に関係する錐体細胞の働きが弱くなる、光を取り込もうとして瞳孔径が大きくなり、角膜や水晶体の収差が増加することによって映像がぼやけるためである。もちろん、視力・視野への影響の程度は個人差があるが、速度が速くなったり暗くなったりすると視機能が下がることは、万人共通の生理的なメカニズムである」旨の所見を示しており
、同証人の視能検査学者としての専門性に疑いはなく、これを採用し得ない合理的な事情は認められない。
この所見によれば、一般的に、自動車の速度が速くなる、あるいは、自動車を夜間に運転すると、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があることが認められる。

ここまでが認定された事実。
では裁判所の判断はこちら。

第3 検討
1 法2条2号の罪の成否
法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることを意味し、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の状況や車両の構造・性能、貨物の積載の状況等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為をいい、この概念は、物理的に進路から逸脱することなく進行できない場合のみならず、操作ミスがなければ進路から逸脱することなく進行できる場合も含まれることを前提としていると解するのが相当である(東京高裁令和3年(う)第820号同4年4月18日判決参照)。なお、本罪が捉える進行制御困難性は、他の車両や歩行者との関係で安全に衝突を回避することが著しく困難となる、すなわち、道路や交通の状況に応じて、人の生命又は身体に対する危険を回避するための対処をすることが著しく困難となるという危険(対処困難性)とは質的に異なる危険性であることに留意する必要がある。
そこで検討すると、① 本件道路は、高速道路ほどの平たん性が元々要求されていない一般道路である上、被告人車両が進行した区間は15年以上改修舗装歴がなく、特段の異状と目されず、補修を要しない程度であるとはいえ、わだち割れが本件交差点付近等に存在していたと推認できること(前記第2の2)、② 被告人車両が進行した第2車両通行帯の幅員は3.4mであるのに対し、被告人車両の幅は177cmであり、左右の余裕は81.5cmずつしかなかった上、同車両通行帯の右側は外側線・側帯がなく、中央分離帯の縁石に直接接していたこと(前記第2の1⑵⑷)、③ 一般的に、自動車は、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向があり、かつ、自動車の速度が速くなる、あるいは、自動車を夜間に運転すると、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があるところ、被告人は、夜間であり、付近がやや暗い本件道路において、法定最高速度の3倍以上の高速度で被告人車両を走行させたこと(前記第2の1⑴⑵、3、4)、④ 本件道路は、一般道路であり、道路構造・交通特性上、高速道路のような一定速度での円滑・連続的な通行を予定していない上、住宅街・工場地帯に所在し、右折・横断・転回車両や横断歩行者(自転車)、先行車両の減速・停止があり得る信号交差点、車道と直接接する歩道等が存在していたところ、本件当時、本件道路の中央分離帯より北側の車道を東進していた車両が被害者車両以外にも複数台存在したこと(前記第2の1⑴⑶)などを考慮すれば、被告人が前記のような高速度での被告人車両の走行を続ける場合、直線道路である本件道路であっても、路面状況から車体に大きな揺れが生じたり、見るべき対象物の見落としや発見の遅れ等が生じたりし、道路の形状や構造等も相まって、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスが起こり得ることは否定できない。
その上で、前記の諸事情、特に、①②のような本件道路の状況、③のような被告人車両の速度に加え、被告人車両の最高速度が時速250kmであることは、エンジンの性能上当該速度を出すことが可能であることを意味するにすぎず、その走行安定性が格別高かったことを疑わせる事情が見当たらないことも併せ考慮すると、被告人が前記のような高速度での被告人車両の走行を続ける中、ひとたび前記のようなハンドルやブレーキの操作ミスが起これば、例えば、被告人車両が第2車両通行帯から瞬時に逸脱し、立て直しが困難となって蛇行・スピンするなどした結果、本件交差点を対向右折進行してきた車両に衝突するなどの事故が発生する事態が容易に想定できる。この点、プロレーサーとして活躍した経歴があり、現在はサーキット場のインストラクター等を務めている証人Fも、高速度走行の豊富な経験やプロレーサーとしての知識を踏まえ、被告人車両と同種の車両が本件道路を時速約194.1kmで走行している際にハンドルやブレーキの操作ミスが起こったことを仮定した場合の当該車両の動き等について、前記のような想定と同旨の供述をしており、前記の評価を支えるものとして首肯できる。
これに対し、弁護人は、被告人車両は本件道路に沿って直進走行できていた旨主張し、被告人は、本件道路を含めた一般道路を時速170ないし180kmで走行したことが複数回あるが、その際、自動車が進路から逸脱したことも、ハンドルやブレーキの操作に支障が生じたことも、危険な思いをしたこともなかった旨供述する。しかし、現実には自車を進路から逸脱させることなく進行できた場合であっても、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度での走行である限り、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当することは、前記のとおりであるし、被告人の供述は、それまで一般道路において高速度走行をした際にハンドルやブレーキの操作ミスをしたことがなかった旨をいうものにすぎず、前記の評価を左右しない。
以上によれば、被告人が時速約194.1kmの速度で被告人車両を走行させて本件交差点に進入した行為は、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為といえるから、法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を運転する行為」に該当する。
⑵ そして、本件の事実関係に照らすと、被告人が法定最高速度を遵守した適切な運転行為をしていれば、本件事故の発生を確実に回避することができたと認められるところ、被告人において、前記危険運転行為の後、更に別個の交通法規違反行為が介在したという事情はなく、他方、被告人車両の速度超過の程度に照らし、被害者車両の右折進行態様が不適切・不相当であったともいえないから、本件事故は、被告人の運転行為の危険性が現実化したものであり、被告人の運転行為と本件事故との間には因果関係があるといえるし、被告人は、本件道路の状況や、被告人車両が著しく速い速度で走行していることといった進行の制御の困難性を基礎付ける事実を認識しながら、前記危険運転行為に及んだものと認められるから、法2条2号の罪の故意に欠けるところはない。

大分地裁 令和6年11月28日

そして今回の川口逆走暴走事件。

県警の捜査員らはこの日正午から約3時間、少年が逆走した市道で実況見分を実施。少年が運転していた車両と同型の乗用車を用意して市道を低速で逆走させたり、車を様々な位置で止めて写真撮影したりしていた。捜査員が道路にはいつくばってカメラを構え、路面の凹凸について調べている様子もみられた。そのほか、警察官2人が車の両脇に立ち、車や市道の端にある電柱との距離を計測していた。

埼玉・川口の逆走死亡事故で実況見分 危険運転致死罪に訴因変更視野:朝日新聞
埼玉県川口市で昨年9月にあった、一方通行の市道を時速約125キロで逆走した中国籍の少年(19)=自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)などの罪で起訴=による死亡事故で、さいたま地検と埼玉県警が、よ…

大分地裁判決は、実際にコースから逸脱してなくても路面の荒れなどから「時速194キロでは進行制御困難」と認定してますが、それを意識して路面の凹凸を調べたり、「このような狭路で125キロでは電柱との距離を考えると進行制御困難」というシナリオを描いているのかと。

 

だいぶ前に指摘してますが、進行制御困難高速度危険運転は東京高裁判決で潮目が変わったと思っていて、

「限界旋回速度」と「進行制御困難高速度」は必ずしも一致しない。
以前書いた件ですが、危険運転致死傷の進行制御困難高速度については、カーブの場合「限界旋回速度」(カーブを曲がりきれるギリギリのスピード)を上回っていたか?が争点になることが多い。(危険運転致死傷)第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負...

大分地裁判決も、この東京高裁判決を応用したものになっている。
東京高裁令和3年(う)第820号同4年4月18日判決参照となっていることからも伺えますが、東京高裁判決は限界旋回速度より20キロ下でも危険運転致死の成立を認めた。
この判例では限界旋回速度と進行制御困難高速度は異なる概念だと指摘してますが、さらに応用した大分地裁判決は現実にコースから逸脱がなくても進行制御困難高速度を認定したので、今回の補充捜査も大分地裁判決を受けてのこと。

 

おそらく最高検や高検から、大分地裁判決を受けての指示があったと思われますが、検察庁についてはやっと進行制御困難高速度の呪縛から解けて、勝負し始めた。
裁判所が認めるかはまだ不安定ですが、勝負を避けていた検察庁が向き合い始めただけでも大分地裁判決の影響は大きいと思う。

 

別件になりますが、38条1項前段でいう「停止できるような速度」についても、きちんと捜査方法を確立したほうがいいと思ってまして、

38条1項前段(減速接近義務)の取締り要領なるものを見つけたのですが…それでいいのか?
以前書いたように、横断歩行者妨害(及び事故)の対策は減速接近義務違反の調査と取締りが大事で、一時停止率調査よりも減速接近義務違反調査をすべきだと思っていますが、その理由は、一時停止率調査と横断歩行者事故の件数に相関性がみられないから。長野県...

昭和の捜査マニュアルとは言え、立証困難だと認めた内容になっているのよね。
減速接近義務違反で検挙された人なんて聞いたことがないけど、要は一時停止義務違反は立証容易なのに対し、減速接近義務違反は立証困難だから取り締まりしてないのではなかろうか?

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