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「限界旋回速度」と「進行制御困難高速度」は必ずしも一致しない。

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以前書いた件ですが、

危険運転致死と「進行を制御することが困難な高速度」。
危険運転致死の「進行を制御することが困難な高速度」とは、道路のコースに沿って進行できるか?が判断になるとされますが、コーナーの限界旋回速度を越えていたかどうかが判断の分かれ目とも言われます。高速度制御不能限界旋回速度以下でも、限界旋回速度に...

危険運転致死傷の進行制御困難高速度については、カーブの場合「限界旋回速度」(カーブを曲がりきれるギリギリのスピード)を上回っていたか?が争点になることが多い。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

※分かりにくいけど「進行を制御」とは「コースから逸脱しないこと」を意味します。
つまり、他の車両など流動的なものを避け得たか?ではなく、コースから逸脱せずに走れたか?の問題。

 

ただし、限界旋回速度を20キロ下回っていても危険運転致死傷罪の成立を認めた判例もあります。

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限界旋回速度と進行制御困難高速度は別の概念

※事故現場とは無関係

 

判例は東京高裁 令和4年4月18日。
事故の概要ですが、指定最高速度50キロの右カーブを時速約91キロないし97キロで進行中、対向車線上に自車をはみ出させた上、左前方に逸走させて路外のガードパイプ及び石塀に衝突させ、さらに前転させるなどした(2名死亡、2名負傷)。

 

ちょっと複雑な経緯を経て判決が確定しています。

年月日 判決
一審 宇都宮地裁H30.2.16 危険運転致死傷(有罪)
二審 東京高裁H30.12.18 一審手続きの違法で差戻し
差戻し後一審 宇都宮地裁R3.3.22 過失運転致死傷(有罪)
差戻し後二審 東京高裁R4.4.18 危険運転致死傷(有罪)
上告審 R4.10.7 上告棄却(決定)

限界旋回速度は時速111.4~118.4キロ。
被告人車は時速91~97キロで右カーブを通行したわけで、限界旋回速度より20キロ下回っている。
差戻し後の宇都宮地裁は危険運転致死傷罪の成立を認めず、過失運転致死傷罪で有罪ですが、二審は危険運転致死傷罪の成立を認めています。
二審の東京高裁の判断はこちら。

限界旋回速度と「進行を制御することが困難な高速度」は異なる概念

従来、限界旋回速度を越えていたかどうか?が争点になっていて、限界旋回速度より下でも「限界旋回速度に近かった」として有罪にした判例もありましたが、東京高裁R4.4.18はそもそも進行制御困難高速度と限界旋回速度は別の概念だとしている。
そして危険運転致死傷罪は故意犯なので「進行制御困難な高速度」であった認識が必要になりますが以下の説示。

原判決は、被告人車両の速度が本件右カーブの限界旋回速度よりも下回っていたことを指摘するが、限界旋回速度と「進行を制御することが困難な高速度」とは異なる概念であり、限界旋回速度よりも低い速度であっても、道路の状況やわずかな操作ミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることは十分あり得るから、限界旋回速度を下回っているからといって、直ちに「進行を制御することが困難な高速度」に当たらないとはいえない。
被告人車両の速度は、最高速度を時速40km以上も上回っており、事故現場の道路状況(片側1車線の一般道で、最高速度が時速50kmであり、右カーブの最もきつい曲線部の曲線半径は124.75m)に照らすと、この速度で走行するに当たっては、進路に沿うのみでも相当難しいハンドル操作が求められ、わずかでも誤りがあれば、路外又は対向車線に逸脱させるおそれがあったといえる。そして、実際に、被告人車両は、本件右カーブの曲線の最もきつい箇所を通過した後、約100m走行する間に、自車の走行車線を維持することができず、センターラインを越えて対向車線に進出し、また、その時点までに、遠心力の影響により車体後部がふらつき、被告人もハンドルを左右に切って車体の方向を保とうとしたものの、制御不能な状態となり、横滑りを起こしているのであって、これにより、車体後部を右に振りながら斜め左方向に滑走して、本件事故に至ったことが認められる。
そうすると、この速度が「進行を制御することが困難な高速度」に該当することは明らかである。

「進行を制御することが困難な高速度」とは、法的評価を要する規範的構成要件要素であるから、運転者において、このような評価を基礎付ける事実、すなわち、道路の状況及び「進行を制御することが困難な高速度」に該当する速度で走行していることの認識があれば、進行を制御することが困難であるとの認識がなくても、同号の罪の故意犯としての非難が可能である(その評価を誤ったとしても、故意は阻却されないというべきである。)。また、「進行を制御することが困難な高速度」に該当する速度で走行している認識があるというために、その速度について具体的な数値の認識まで必要とするものではないことは当然であり、自車の走行状況を概括的に認識していることをもって足りる。

東京高裁 令和4年4月18日

 

限界旋回速度より20キロ下回っていても進行制御困難な高速度と認定し、進行を制御困難な高速度だと認識していれば、進行を制御困難だと認識していなくても故意が成立するとしている。

 

限界旋回速度は危険運転致死傷の1つの目安にはなるだろうけど、そもそも「進行制御困難高速度」と「限界旋回速度」は違う概念なのだから、限界旋回速度より上か下かは必ずしも問題ではないのかと。

そもそも分かりにくい

進行制御困難高速度類型は「コースから逸脱するような高速度」の話なので、条文だけ見てもよくわからないのよね。
いろいろ批判が多いのが危険運転致死傷罪ですが、進行制御困難高速度類型については最高裁が判断を出したことはないはず。

 

ところで、進行制御困難高速度類型の場合「限界旋回速度より上だったか?下だったか?」が争点になるケースが多いけど、東京高裁が指摘したように本来は限界旋回速度とは別の概念。
曲がりきれる限界速度より下なら「進行制御困難な高速度ではない」とは言えないわけですが、差戻し前の一審が平成30年2月、最高裁が上告を棄却したのが令和4年10月と危険運転致死傷罪は裁くのに時間がかかりすぎる。

 

このケースは破棄差戻しと裁判員裁判が時間がかかった原因ですが…
運転するスピードを出しすぎていいことなんて、何もないんですよね。

さらに被告人の危険運転行為についての故意の存否についてみると,危険運転致死罪は故意犯であるから,被告人に,「進行を制御することが困難な高速度」であることの認識が必要であるが,その内容は,客観的に速度が速すぎるため道路の状況に応じて車両を進行させることが困難であると判断されるような高速度で走行していることの認識をもって足り,その速度が進行制御が困難な高速度と判断されることの認識までは要しないと解すべきである

函館地裁 平成14年9月17日

コメント

  1. ゆき より:

    限界旋回速度は計算によって求められる物理源においての理論上の速度。
    進行を制御することが困難な高速度は、現実における路面状況の斑(限界旋回速度が下がりそうならそれを考慮)やら、ドライバーのスキル等を加味した速度。

    といった事ですかね。

    車の支援でレースドライバーじゃなくても限界旋回速度に近づけるけど、現実には路上のゴミやら操作のエラーが有って限界旋回速度を下回ると。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      おそらくですが、計算上算出される限界旋回速度って、運転者からするとわかるわけがないのだと思います。
      要は自分のスキルなども含めて、「その人にとって」大丈夫そうな速度/ダメな速度の認識が変わる。
      なので運転者にダメそうな速度という認識があり、客観的にも高速度なら成立すると考えられますが、従来の判例では計算上の限界旋回速度に固執しすぎです。その意味では東京高裁の判例はちょっと前進したのかと。

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