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小学生の横断事故と、運転者が負う注意義務。

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小学生は周りが見えてないからなあ…

春の交通安全運動中に事故相次ぐ石川 金沢で横断中の小3男児はねられ意識不明の重体|テレ金NEWS NNN
春の全国交通安全運動が繰り広げられる中、石川県内では車と歩行者の事故が相次いでいます。9日夕方、金沢市内で道路を渡っていた8歳の小学生が車にはねられ意識不明の重体となっています。

片側一車線の見通しがいい道路にて、母親が待つ公園に向かって横断したところ、はねられたと。

 

で、この事故の詳細はわからないので推測になってしまいますが、

 

①路外もしくは交差道路(運転者からみて死角)から一気に飛び出した
②歩道上で被害者が車道に向かって佇立していたところから飛び出した

 

①と②では運転者が負う注意義務に差がある。
ここが不明な状態でアレコレ言ってもしょうがないのですが、①であれば飛び出しが視認できた時点で急ブレーキを掛けたときに回避可能性があったか?ですよね。
もちろんこの場合の回避可能性は、制限速度を遵守していたことを前提にした回避可能性。

 

ところが②の場合。

 

小学生が車道に相対して佇立していたところからノールック横断したのであれば、運転者の注意義務は変わる。
これですよね…

幼児等通行妨害禁止義務への理解。
こちらの件。関係ない部分を省略します。(運転者の遵守事項)第七十一条二 監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。たぶん、下記のように分解したほうが理解しや...

小学生は注意能力が劣ることから、運転者には予め徐行義務を課している。

(運転者の遵守事項)
第七十一条
二 監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。

下記のように分解したほうが理解しやすいかと。

(運転者の遵守事項)
第七十一条
二 監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。

又は

(運転者の遵守事項)
第七十一条
二 監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。

なので「飛び出し」と一口に片付けるのはあまり意味がなくて、飛び出しに至る前に被害者がどのような状態だったかによってだいぶ話が違うのよね。
なお、飛び出しを容認擁護する話ではないので誤解しないよう。

例えば小学生が車道に相対して佇立していた事案であればこういう刑事判例がある。

事故の概要。

被告人は昭和42年9月13日午後2時5分頃、普通乗用自動車を運転して、原判示国道171号線の東行車道を東進中高槻市若葉町の交差点の手前にさしかかつた際同交差点の対面信号が黄色の表示を示していたため、同所の横断歩道の手前で一たん停車し、一般の通行人と、下校中の学童数名が右横断歩道を左から右に渡り、かつ、対面信号が青色に変るのを待つて、発進し、右東行車道の中央より稍々右寄りの箇所を時速約30キロメートルで東進し、徐々に加速進行し、約30m進行した頃、約20m左前方の車道に接して歩道上に設けられた幅員約90センチメートルのグリーンベルトの樹木の蔭に、ランドセルを背負い、黄色い帽子をかぶつた下校途上の被害者(当時6才)が一歩踏み出せば直ちに車道に降りられるほどの右端に立つており、被告人の自動車の接近にも気付かぬ様子で対向の西行車道の方を見ているのを発見したが、被告人は、同被害者が自己の進路前方を横断するようなことはあるまいと考えて、警音器を吹鳴して警告を与えるようなこともせずまた特別その動静を注視することなく、その儘加速進行し、時速約38キロメートルに加速された頃、被害者が道路を右側に横断しようとして右斜めに走り出して来ているのをその左方直前にはじめて発見し、危険を感じ急遽ハンドルを稍々右に切つて衝突を避けようとしたが及ばず被害者に自車左前部を接触させ、約7m左前方に跳ね飛ばし、因つて同日午後7時45分大阪医大病院で腰部打撲に基づく骨盤骨折に因り死亡するに至らしめたことが認められる。

 

大阪高裁 昭和45年8月21日

小学生が歩道上に立ち、車道を見ていた。
被告人は20m手前で小学生の様子を発見したが、時速38キロで進行したところに小学生がノールック横断したようなイメージ。

 

さて、この件の注意義務をどう捉えるか?

 

裁判所の判断です。

被告人は、原判示国道を時速約30キロメートルで進行中左前方約20メートルのグリーンベルトの右端に一歩踏み出せば車道に降りられる位置に満6才の被害者が被告人の自動車の接近にも気付かぬ様子で対向車道の方を向いて佇立しているのを認め、しかも被告人自身被害者が下校途上の低学年の児童であることも認識していたのであるが、このような場合、自動車運転者としては、被害者が成人であればともかく、右のような学童はその年令から考えて、いつ、不測の行動に出るかも知れないことを慮り、警音器を吹鳴して警告を与える等その挙動に周到な注意を払うとともに、いつでも停車できるように減速、徐行し以て事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものというべきである。

(中略)

そして右の各事情を考え合わせると、成人の場合には、恐らく身の危険を冒して道路を横断することは一般的に予見し難いものと考えられるけれども、本件のように満6才の低学年の学童の場合は、成人と同一に論ずることはできないのである。すなわち、このような児童は、原判決も説示するように老人、酩酊者などと同様、事物に対する正確な認識、判断をする能力に乏しく、したがつて、これらの者に適切な行動を期待することができないのが通例であつて、そのため、これらの者は自動車の接近に気付かず、あるいは気付いたとしても危険を無視し、またはこれを察知しないで横断をする等の不測の行動に出るかも知れないことは容易に予見し得るところといわなければならない。本件の場合被害者は満6才に過ぎない学童であるばかりかさきに認定したように歩道を歩行中に突然走り出して来たというのではなくグリーンベルトの右端で一歩踏み出せば車道に降りられる地点に立つという異常な態度を示していたばかりでなく対向車道の方を向いて、被告人の自動車の接近にも気付かない様子であつたのであるから、右の不測の行動に出る危険はむしろ予見可能な状態にあつたものといえるのであつて、このことは被告人が事故直前、学童数名が前記横断歩道を正規に渡つて行つたことを現認していたことによつて結論を左右されるものではない。したがつて、右の危険は予見不可能であつたとの所論は採用できない。そしてもし被告人において前記注意義務ことに警笛を吹鳴して警告を与えることに欠くるところがなければ被告人が被害者を発見した際における被害者との距離、被告人の自動車の速度、被告人の後続車両の比較的少なかつたこと等に照らし、被害者との衝突は回避できないことはないと思われるのである。所論は前記危険が予見可能であつたとし、前記注意義務を尽したとしても衝突は不可避であつたと主張するけれども、さきに認定したように被告人が被害者を発見した際における彼我の距離が約20mあり被告人の自動車の速度が時速約38キロメートルであり、かつ被害者は被告人の自動車の接近に気付いていない様子であつたのであるから直ちに警笛を吹鳴して警告を与えることにより被害者の横断を防止することができた思われるばかりでなく、右の彼我の距離、自動車の速度から勘案してなお制動距離外にあつたと考えられるから仮令急停車までの措置を採らないまでも、直ちに減速徐行することにより衝突は回避できないことはなかつたと思われるのである。すなわち自動車運転者としては危険が予見されかつその危険が回避できる場合においては、可能なかぎり危険回避のための措置を採るべき義務があるものというべきである。したがつて、本件の場合衝突は不可避であり前記注意義務もないとの前記所論も採用することはできない。

大阪高裁 昭和45年8月21日

「学童はその年令から考えて、いつ、不測の行動に出るかも知れないことを慮り、警音器を吹鳴して警告を与える等その挙動に周到な注意を払うとともに、いつでも停車できるように減速、徐行し以て事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある」とする。
要は幼児等通行妨害禁止義務(交通法71条2号)相当の注意義務があり、警告するとともに直ちに減速徐行していれば事故は回避可能だったとする。

 

なお被告人側は信頼の原則を主張してますが、このように歩道上で車道を見ていた小学生が不注意で横断開始することは一般的に予見可能なわけで、信頼の原則は適用しないとしている。

次に所論は、本件は、まさにいわゆる信頼の原則の適用せらるべき場合であると主張する。いわゆる信頼の原則は、歩行者をも含めて、交通関与者相互の間において、互いに一方の者が他方の者の交通法規を遵守した行動に出るであろうことを信頼することが社会的に相当と認められる場合にはじめてその適用が認められるものであつて、そのためこの原則を適用するに当つては、当然、事故当時の道路、交通事情等の具体的状況を個別的に分析、検討することを必要とし、他の交通関与者の交通法規を遵守した行動に出ることを信頼したことが果して社会的に相当と認められるか否かを厳格かつ慎重に判断しなければならないのである。したがつて、事故発生の予見可能性があり、かつ、結果回避の可能性のある場合は、よし他の交通関与者の事故原因に連なる交通法規違反の行為があり、一方の交通関与者が交通法規にしたがつた行動をとつたとしてもただそれだけで常に必ずこの原則の適用が許されるものと解すべきではない。そしてこの原則は運転免許の取得が義務づけられ、交通法規に精通していることが十分期待できる車両の運転者に対する場合は格別歩行者に対する場合にはむしろ適用されないのが通例であろうと考えられる。けだし、現在のわが国の歩行者に対する交通教育の実情、歩行者の交通道徳の程度、自動車専用道路及び歩行者専用道路が極めて少なく殆どの道路は歩車道の区別のある場合でも両者共用であるのが実情であること等にかんがみると、歩行者に多くを期待することはできないからである。ことに歩行者のうちでも、それが幼児、児童、老人、酩酊者のような場合であつて、車両の運転者が予め、これらの者を認識し、または容易に認識し得べかりし場合であるが、これらの者が危険な行動に出ることを予見し得べき状況があつた場合においてはむしろ右の期待(信頼といつてもよい)をすることはそのこと自体が不相当であり、信頼の原則は適用されないものと解すべきである。

 

大阪高裁 昭和45年8月21日

で。
今回の事故については被害者が「飛び出し」したことはわかるけど、飛び出し以前の様子はわからない。
なのでこれら「被害者が横断開始する以前に、直ちに減速徐行すべき注意義務」を負っていたかについては全くわかりません。

 

とはいえ、こういう事故についても学べる点があるわけでして、法は不可能を強いるわけではないのだから、死角からノールック横断したなら残念ながら運転者には回避可能性がない(注、民事責任は別として)。
ところが状況次第では予め減速徐行する注意義務があった可能性もあるわけで、そういうことも頭に入れておかないといけないのよね。

 

ちなみにですが、道路交通法の義務と、過失運転致死傷罪の注意義務は別。
仮に71条2号の義務がなくても、状況次第では減速徐行すべき注意義務があるので。

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