過失運転致死傷罪の公判請求が1%程度であることから、「示談すれば不起訴」みたいな誤った解説をみかけますが、

以前も書いたように過失運転致死の起訴率はむしろ高めです。
過失運転致傷のうち「軽症」については5条但し書きによる刑の免除になるから不起訴にしますが(ただし酒気帯び運転や無免許、ひき逃げを伴う場合は起訴)、過失運転致死については検察官向けの解説書には「原則起訴」とある。
過失運転「致死傷」という括りにすれば、交通事故の圧倒的多数は「致傷(軽症)」なのだから不起訴率が高いように見えるのは当たり前。
単なる数字のマジックですが、現実の起訴率はどの程度なのでしょうか?
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過失運転致死の起訴率
「最高検、高検及び地検管内別 自動車による過失致死傷等被疑事件の受理、既済及び未済の人員」という検察庁の統計から過失運転致死の起訴率をみていきます。
2023年のデータです。
数 | 備考 | |
総数 | 4416 | 前年未決約500含む |
起訴合計 | 2001 | |
公判請求 | 1266 | |
略式命令 | 735 | |
不起訴合計 | 993 | |
起訴猶予 | 176 | |
嫌疑不十分 | 752 | |
その他 | 65 | |
中止 | 16 | |
他の検察庁に送致 | 934 | |
家栽送致 | 46 | |
未済 | 501 |
未済事件や中止(おそらく被疑者死亡等)を省いて考えると、過失運転致死は起訴が2001件に対し、不起訴が993件。
両者の合計から割合を出すと、過失運転致死の起訴率は約67%です。
わりと興味深いのは、不起訴理由。
起訴猶予は情状酌量的な意味が強く、「本来は起訴する事案だけど今回は見送った」になりますが、不起訴993件のうち起訴猶予は176件(17.7%)。
嫌疑不十分が752件(75.7%)。
嫌疑不十分は、過失の立証が困難な場合を意味する。
「示談すれば情状酌量で不起訴」なんてことはほとんどなく、不起訴理由の大半は証拠不十分などにより過失の立証が困難なケースなんだとわかる。
次に過失運転致傷をみていきます。
数 | 備考 | |
総数 | 391017 | 前年未決約3000含む |
起訴合計 | 42064 | |
公判請求 | 2876 | |
略式命令 | 39188 | |
不起訴合計 | 314666 | |
起訴猶予 | 305221 | |
嫌疑不十分 | 8727 | |
その他 | 718 | |
中止 | 83 | |
他の検察庁に送致 | 20833 | |
家栽送致 | 9591 | |
未済 | 3558 |
過失運転致傷は起訴が42064件に対して不起訴が314666件なので、ほとんどが不起訴です。
不起訴理由は305221件(96.9%)が「起訴猶予」つまり情状酌量的な意味合い。
こちらは自動車運転処罰法5条但し書きによる問題だと理解できる。
これらから言えるのは
死亡事故を起こした場合には約67%が起訴されており、不起訴になる場合の不起訴理由は「嫌疑不十分」がほとんど。
過失の立証ができない場合が嫌疑不十分なのだから、予見不可能/回避不可能な事故も嫌疑不十分として扱われていると考えられる。
ケガを負わせたにとどまる場合は、軽症事案であれば不起訴濃厚(ただし酒気帯び運転、無免許、ひき逃げ等の悪質な道路交通法違反を伴う場合は別)。
重症事案は基本的に起訴です。
なお勘違いしやすい点として、刑事事件の結果が無罪又は不起訴であっても、民事過失は別問題です。
むしろ関係ないと言ってもよい。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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