こちらについて「左折前に左側端に寄せないルールは、やっぱり危険だと思う」とご意見を頂いたのですが、

たぶんなんだけど、「左側端に寄せるのは2輪車の巻き込み防止が目的」という考えが強すぎるんじゃないかな。
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立法者が意図したこと
34条1項では「あらかじめできる限り左側端に寄って」としてますが(ただし昭和46年以前は「左側端」ではなく「左側」)、立法者の宮崎氏(警察庁)によると、左側端に寄せる意図をこのように説明している。
左折しようとする車両があらかじめ道路の左側によることとしているのは、その車両が左折しようとするものであることを他の車両や歩行者に十分認識させ、それによって交通の危険を防止し、交通の円滑を図るためである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
裁判所もこのように述べている。
道路交通法34条1項が交差点における左折車に所謂左寄せ義務を課した所以は、原判決の説示するとおりで、その車両が左折しようとするものであることを同法53条で命ぜられた左折の合図をするだけでなく、その車両の準備的な行動自体により他の車両等に一層よく認識させようとするためであることは明らかなところ
福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日
これが34条1項の立法趣旨。
ところがこのような判例もある。
道路交通法によれば、車輛が左折しようとするときは、燈火等によりその合図をするとともに、あらかじめできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行しなければならない旨規定し(道路交通法34条、53条)ているのは合図によるだけで、当該車輛と道路左側との間隔が大きいと、その中間に他の車輛が入りこみ、左折する車輛とその後続車輛とが衝突する恐れがあることを考慮し、できるだけあらかじめ左側に寄ることを要求していることがうかゞえるのである
大阪高裁 昭和43年1月26日
これらをどう考えるかですが、立法者の意図は「合図のみならず左折意思を他の通行車に示すこと」なんだけど、左側端に寄せた場合には2輪車の通行余地がなくなるのだから、結果的に2輪車の巻き込み防止措置になりうる。
ところが、34条1項は「できる限り」としているわけで、
「できる限り道路の左側端に寄り」とは
(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
大型車なんかは左側端に寄せたら物理的に左折不可能なのだから、「できる限り」とすることで左側端に寄せることが不可能な状態を緩和している。
場合によっては、右に寄ることが「できる限り左側端に寄って」になり得ます。

このように「できる限り左側端に寄った」ときに、2輪車の巻き込み防止措置にはなり得ないのでして。
つまり同条項が意図した「あらかじめできる限り左側端に寄って」は、2輪車の巻き込み防止を意図したわけではなく、合図のみならず左折意思を他の通行者に示すことにあると考えられますが、一方では左側端に寄せた場合には2輪車の通行余地がなくなるのだから結果的に2輪車の巻き込み防止措置になりうる。
指定通行区分の意図

指定通行区分が規定されたのは昭和45年改正ですが、
2 車両は、交差点で直進し、左折し、又は右折しようとする場合において、その通行している道路について前項の規定により通行の区分が指定されているときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該通行の区分に従い当該車両通行帯を通行しなければならない。ただし、第四十条の規定に従うため、又は道路の損壊、道路工事その他の障害のためやむを得ないときは、この限りでない。
立法趣旨と解釈はこのように説明されている。
現在も交通量が多い交差点では、道路に右折、左折、直進などが矢印で書かれてありますが、強制力がありませんでした。それを、右折しようと思ったら右側に寄れ、左折は左側へというように通行区分や右折・左折の方法を指定し、また、進路の変更禁止を義務づけました。
道路交通法改正の主眼点をめぐって(警察庁交通企画課長 藤森俊郎)、全日本交通安全協会、人と車、1970年6月
公安委員会は、車両通行帯について、車両が交差点で進行方向による通行区分を指定できることとした(第34条の2第1項)
この通行区分の指定は、軽車両以外の車両について適用される。
公安委員会が道路の通行区分を指定したときは、緊急自動車に進路を譲るため又は道路の損壊、道路工事その他の障害のためやむを得ない場合を除き、左折又は右折方法の一般原則(第34条第1項、第2項及び第4項)によらず、当該通行の区分に従い当該車両通行帯を通行しなければならない(第34条の2第2項、関係罰則は第120条第1項第3号、同条第2項)。「道路交通法の一部を改正する法律」(浜邦久、法務省刑事局付検事)、警察学論集、1970年9月、立花書房
34条1項で「あらかじめできる限り左側端に寄って」とした立法趣旨が「合図のみならず左折意思を行動で示すこと」にあるとすれば、左折レーンにいれば左折意思は明らかなのだから、合図+左折レーンにいることで他の通行者に左折意思は示していることになる。
そして指定通行区分を立法した趣旨は、左折車、直進車、右折車の通行位置を明確にして危険防止と円滑を図ることにあるのだから、左折レーンがあるのに左折レーンから逸脱して左折したら本末転倒に思えるのですが…
○間違い

○正解

○正解

○間違い

左折レーンの有無で変わります。
・自転車専用通行帯を通行する自転車と左折自動車を分離するため、交差点流入部で自転車専用通行帯(第一通行帯)と第二通行帯との間に規制標示「進路変更禁止(102の2)」の規制を実施するものとする。この場合の道路標示は、30m程度の区間に設置するものとする。ただし、進行方向別通行区分の規制が実施されている場合、車両はその車線内を通行しなければならないため、必ずしも進路変更禁止規制の実施の必要はないが、利用者にルールを分かりやすく伝えるために進路変更禁止規制を実施しているものである。
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kisei/bicycle/kentoiinkai2/04/jitenshakojo_04_02-2.pdf
前回も挙げたように、あえて交差点手前で自転車通行帯を打ち切り、混在させるデザインも警察庁が提案してますが、

交差点ごとにどちらがいいか見極めて規制している。
どちらにしても、左側端寄せの法意は「合図のみならず左折意思を行動で示す」にあると考えられ、左側端に寄せて2輪車の通行余地がなくなればたまたま巻き込み防止措置になるというだけなんじゃないですかね。
そして単に交錯ポイントが変わるだけで、左後方の巻き込み確認は必要なのだから、
先に左側端に寄せる場合と、

左側端に寄せない場合では、

直進自転車との交錯ポイントが変わるだけの話でして。
先に確認して寄せるか、後で確認して左折開始するかの差でしかないのだから、危険性はどちらも変わらないと思うし、「左側端寄せ=2輪車巻き込み防止措置」という固定観念が強すぎるのかも。
まあ、指定通行区分の有無で左折方法が変わるのに、

デマを流すYouTuberもどうかと思うけど。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



コメント
ウィンカーちゃんとだしてるなら、ぶっちゃけ巻き込まれる二輪車が悪いとは思うですけどね。ちょっとでも速度緩めたら抜きにかかるのが多過ぎるんじゃないですかね。
まあ、左折するのと同時にウィンカー点け始めるのは論外ですが。
コメントありがとうございます。
たぶん、実際にはウインカー遅れは多いと思われます。