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自転車の妨害運転罪で懲役1年。意味があるかは謎。

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こちらの件。

ひょっこり男「体重を移動しただけだ」←??
自転車ひょっこり男として有名な成島明彦被告ですが、なんと「体重移動しただけ」とか「反対側の歩道に渡ろうとしただけ」などと述べ妨害運転を否認した模様。自転車で車の前に飛び出す妨害行為を繰り返し、「ひょっこり男」と呼ばれた男が裁判で「反対車線の...

6月26日に行われた判決公判で、千葉地裁松戸支部は道路交通法違反(妨害運転罪)の成立を認め懲役1年の実刑判決を言い渡したそうですが、そもそもこの人は過去に同様の妨害運転罪で実刑判決を受けている(さいたま地裁 令和3年5月17日)。

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

前回は懲役8月+罰金20万(妨害運転罪+暴行罪)、今回は懲役1年。
刑罰の目的が更生にあると考えたときに、結局更生せず同様の妨害運転を繰り返した被告人に再度似たような刑罰を課すことが本当に意味があるのだろうか?
一部報道によると、今回のひょっこり運転は40件以上とも言われてますが。。。

 

この人はある種の「ひょっこり依存」みたいなもんなんじゃないかと思ってみていたのですが、依存症改善プログラムみたいなもんが必要なのではなかろうか。

 

自転車による妨害運転事案はこの人だけではなくて、こちらの人も再犯なのですが、

[逮捕]自転車に乗り足蹴りする人は、逆走妨害運転罪の人だった!
ちょっと前に、幹線道路を逆走して妨害運転罪で逮捕された人がいましたが、なんとビックリ!自転車で道路左側のど真ん中を通行し、足蹴りするような動きをしていた人と同一人物だった模様。道路交通法違反容疑今回の容疑は道路交通法違反となっていますが、警...

道路交通法違反(妨害運転罪)で罰金刑になっていても、さらに妨害運転をしてしまう。
もちろん、刑罰によって更生することもあるわけで一概には言えないけど、ひょっこり運転については前回の件と今回の件を合わせたらかなりの数になると思われる(起訴したのはその一部のみと考えられる)。

 

あと若干疑問なのは、前回の妨害運転は「安全運転義務違反(70条)の妨害運転罪」としている点。
安全運転義務違反は他の具体的条文ではまかないきれない部分を補完する目的で創設され、他の条文とは法条競合の関係にあることを考えると通行区分違反(逆走、17条4項)の妨害運転罪を適用したほうがスマートな気がしますが、はみ出し方がわずか(もしくはギリギリはみ出してない)ことから通行区分違反が困難という意味なのだろうか?

 

今回の件、被告人が妨害意思を否認していたことから公判がわりと長引いていたわけですが、妨害運転罪について積極的に争った事例はほとんどなくて、そもそも妨害運転罪で起訴した事例が少ないという問題があります。
そもそも妨害運転罪は検挙事例が少ないのには理由があって、構成要件にある「妨害目的」の行政的解釈は「積極的、執拗性」。
危険運転致死傷罪の通行妨害目的については、「人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当」とした大阪高裁判決があります。

「通行妨害目的」って、結局のところ統一見解はない。
こちらの補足です。通行妨害目的まずは前回のおさらい。……………妨害運転罪(道路交通法117条の2の2第1項8号)はこのように規定しています。第百十七条の二の二八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車...

ア 本件罪の立法経過等に鑑みると,本件罪が「走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し」たこと(以下「危険接近行為」という。)に加えて,主観的要素として,通行妨害目的を必要としたのは,従前,業務上過失致死傷罪等で処断されていた行為のうち,極めて危険かつ悪質で,過失犯の枠組みで処罰することが相当でないものについて,故意犯と構成することによって,その法定刑を大幅に引き上げる一方,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じ,これを避けるために,危険接近行為に及んだ場合など,悪質とまでいい難いものについては,本件罪の成立を認めないとすることにより,処罰範囲の適正化を図ったものと解される。
そうすると,本件罪にいう通行妨害目的の解釈は,上記のような立法趣旨に沿うものである必要があると考えられるところ,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられる。したがって,そのような場合もまた,通行妨害目的をもって危険接近行為をしたに当たると解するのが合目的的である。
ところで,本件罪は目的犯とされているから,通行妨害目的の解釈も,目的犯における目的の解釈として合理的なものである必要があるところ,目的犯における目的の概念は多様であり,各種薬物犯罪における「営利の目的」のように積極的動因を必要とすると解されているものもあれば,爆発物取締罰則1条の「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスル目的」のように未必的認識で足りると解されているものもあり,さらに,背任罪における図利加害目的のように,本人の利益を図る目的がなかったことを裏から示すものという解釈が有力なものもある。これを本件罪についてみると,本件罪において通行妨害目的が必要とされたのは,外形的には同様の危険かつ悪質な行為でありながら,危険回避等のためやむなくされたものを除外するためなのであるから,目的犯の構造としては,背任罪における図利加害目的の場合に類似するところが多いように思われる。そうすると,本件罪にいう通行妨害目的は,目的犯の目的の解釈という観点からも,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することのほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解することに,十分な理由があるものと考えられる。
以上のとおり,本件罪にいう通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合をも含むと解するのが,立法趣旨に沿うものであり,かつ,目的犯の目的の解釈としても,理由のあるものと考えられるから,結局,本件罪の通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。
イ 原判決は,本件罪にいう通行妨害目的は,運転の主たる目的が人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも,自分の運転によって上記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解するとして,東京高等裁判所平成25年2月22日判決・高刑集66巻1号3頁を援用しているから,同判決同様,そのような認識で当該行為に及んだ場合,自己の運転行為の危険性に関する認識は通行の妨害を主たる目的とした場合と異なることがないことを,上記のような解釈を採る理由としているものと解されるが,認識の程度が同じであればなぜ目的があるといえるのか不明であるし,なにより,そのような解釈を採ると,自分の運転行為によって通行の妨害を来すことが確実であることを認識していれば,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じこれを避けるためやむなく危険接近行為に及んだ場合であっても本件罪が成立することになり,立法趣旨に沿わないものと考えられる。また,原判決がいう「確実であることを認識して」とは,結局のところ,確定的認識をいうものと解されるが,確定的認識と未必的認識は,認識という点では同一であり,ただその程度に違いがあるにとどまるに過ぎない上,その判定は,確定的認識について信用できる自白がある場合や,犯行の性質からこれを肯定できる場合はともかく,当時の状況等から認識自体を推認しなければならない場合には,甚だ微妙なものにならざるを得ないから,そのような認識の程度の違いによって犯罪の成否を区別することが相当とも思われない。
検察官は,目的犯における「目的」の意義は多様であり,外国国章損壊(刑法92条)等のように,その目的が,構成要件的行為自体,または,その付随現象から,おのずと実現されるため,客観的構成要件該当事実を認識していれば,同時に,目的を有しているとも見られる犯罪類型にあっては,未必的認識で目的が充足されるとすると,故意とは別に目的を要求した意味がなくなり,そのため,このような場合の目的としては,目的の実現に対する未必的認識では足りず,目的が実現することを確実なものと認識することが必要であると解すべきであるとした上で,通行妨害目的は,まさにこのような場合であるから,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることが確実であることを認識することが必要であり,このような認識がありながら,あえて危険接近行為に及ぶような場合には積極的な意図がある場合と同視し得るとして,通行妨害目的についての原判決の解釈に誤りはないというが,認識があることを前提としながら,その認識の程度によって犯罪の成否を区別するのが相当でないことは前記のとおりである。なお,検察官のように,「通行妨害目的」を肯定するためには通行妨害について確定的認識が必要と言い切ってしまうと,嫌がらせ目的で危険接近行為をしたが,通行妨害についての認識は未必的であったという場合,本件罪は成立しないことになりそうであるが,それが妥当であるかも疑問である。
一方,弁護人は,本件罪の立法過程では,行為者の主観的事情として,人の死傷に対する認識認容を求めないものとしたために,処罰範囲の拡大が懸念され,暴行や傷害等に準じた重い刑罰に見合った「極めて危険かつ悪質なもの」に処罰範囲を限定し,かつ,その範囲を明確にするために目的犯とされ,この点について,立法担当者が,「妨害する目的で著しく接近し」とは,「相手方が自車との衝突を避けるために急な回避措置を余儀なくされる」ことを「積極的に意図して自車を相手方の直近に移動させること」をいう旨明らかにしているから,本件罪では,客観的行為態様に加えて,主観をも考慮に入れて行為の危険性を判断しなければならないのであり,通行妨害目的が認められるためには,確実な認識が必要であるとともに,積極的意図も必要である旨主張する。
しかし,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に極めて危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられることは,前記のとおりである。
ウ 以上の次第で,本件罪の通行妨害目的には,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。

 

大阪高裁  平成28年12月13日

妨害運転罪の目的は危険運転致死傷罪の「通行妨害目的」の事故未発生バージョンみたいな側面があるのだし、同様に捉えて問題ない気がしますが、ひょっこりさんのように積極的に争う人がいないと裁判所も説示しないのよね。
その意味では争う人がいることで今後の解釈に影響するとも言えるけど、そのうち判決文が公開されるだろうからそれはまた今度。

 

ところで、今回のように実刑事案が出たことで社会に対する犯罪抑止効果が大きいのか?というと、そもそもこんな運転をする人自体がごく僅かなのでして、あんまり関係ないと思う。
控訴するんじゃないかという疑問もありますが、高裁判例として残したほうがいいんじゃないかという気もする。


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