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人身傷害特約は、裁判基準では支払われない。

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人身傷害特約保険に加入しておけば、裁判基準での過失相殺無しの保険金が支払われると解説するYouTuberがいますが、

運転レベル向上委員会より引用

これは明らかな誤りで、人身傷害特約の保険金は人傷基準という「裁判基準より2割程度低い額」が支払われます。
これは保険の約款に書いてあることなので具体的な額は約款に決められた額からは動きません。

 

ただし、一部の状況では裁判基準での満額(過失相殺無し)を請求できる可能性があります。

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裁判基準差額説

ケーススタディしてみましょう。

裁判基準での損害賠償額が1億、被害者過失10%という事例を考えます。
この場合、過失相殺後の損害賠償額は9000万(1億×90%)になりますが、人身傷害特約から先行して8000万の支給を受けたとする(人傷基準による過失相殺無しの額が8000万と仮定する)。

 

この場合、人身傷害特約から出た8000万は「どっち」を補填するものなのでしょうか?(人傷保険は本来なら加害者が支払うべきものを補填して支払うようなもの)

 

①人傷保険金が「裁判基準での被害者過失10%(1000万)」をまず補填すると考えると、人身傷害特約から8000万の支給を受けた後にも、加害者に対し2000万「9000-(8000-1000)」の請求権が残る。
つまり人傷保険の8000万は、まず「裁判基準での被害者過失1000万」に補填され、残り7000万は加害者過失9000万のうち7000万分に補填される考え方。

 

②人傷保険金が「裁判基準での過失相殺後の賠償額」をまず補填すると考えると、支払い済み人傷保険金8000万は「過失相殺後の9000万」を補填することになり、加害者に対し残り1000万の請求権が残る。

 

①だと人身傷害特約から8000万の支給を受けた後もなお加害者に対し2000万の請求権が残り、②だと1000万の請求権が残る。

①の考え方 ②の考え方
裁判基準賠償総額 1億 1億
被害者過失分 1000万←人傷保険8000万はまずここを補填する 1000万
加害者過失分 9000万 9000万←人傷保険8000万はまずここを補填する
人傷保険支給後に加害者に請求可能な額 9000-7000=2000万 9000-8000=1000万

つまり①だとすれば「裁判基準での満額(1億)を得る可能性がある」けど、②だと「裁判基準での過失相殺後の額(9000万)」になってしまう。

 

最高裁は①と捉えた。
ただしこの話には注意点があり、「人身傷害特約が先行的に支払われること」が条件な上、残り分は加害者との示談交渉ではなく訴訟提起が必要です(約款にもよる)。

 

間違っても加害者との示談交渉が先行して示談が成立した後には、このロジックは使えない。
そして人傷基準での支払い後にさらに加害者に請求するには、事実上訴訟提起が必須になるため、素人にはムリがある。

 

以前ちょっと書いたんだけど、

人身傷害特約で「裁判所基準」の損害賠償額を確保しうるか?
読者様からご意見を頂いたのですが、うーん…これはある状況下では正しいとも言えるし、違う状況下では不正確ともいえる。参考までにある裁判の判決文によると、裁判所基準による算定では被害者の損害額は7828万2219円、被害者過失が10%なので過失...

そもそも上で書いたロジックは、当てはまらないケースもある。
なので一般化しようとすると誤解を生みかねないし、個別の事案については民事に詳しい弁護士に一任すべきなのでして。
ちょっと話が変わると、人身傷害特約と加害者への損害賠償請求の扱いは変わるんですね。

ガセネタも程々に

人身傷害特約自体は裁判基準ではなく、裁判基準より2割程度低い「人傷基準」で支払われます。
確かに一部のケースにおいては、人身傷害特約での支払いを受けた後に加害者に損害賠償請求訴訟を提起すれば、「裁判基準での満額」を受けとれる可能性はある(ただし人傷保険は物損部分を補填しないため、厳密には満額にならない)。

 

けどちょっとの違いで話が変わりうるし、無知なYouTuberがガセネタで解説するのは理解し難い。
訴訟提起するという話にしても、人身傷害特約は物損部分をカバーしないのだから、厳密な意味での満額はムリです。
それと訴訟提起するのに弁護士費用がかかることをお忘れなく。

 

この人の話はデマが多すぎるけど、デマばかり流布して何をしたいのかわからないのよね。
この人の話を真に受けたら、人傷保険金=裁判基準の満額と勘違いして取りっぱぐれすら起きますが、

 

民事は本当に難しいのでして、請求方法、請求順序を間違えただけでも受けとる額は変わります。
個別具体的な事情に応じて考えるのが弁護士なのだから、プロに任せるのが一番なのよね。

 

そして一般人は「事故った後の賠償総額の増やし方」を知るよりも、事故らないために注意を払うべきなのでして。
人傷特約が一部のケースにおいて被害者の利益を最大化しうるのは確かですが、「裁判基準で支払われる」というのは誇張し過ぎだし、何より事故に遭わない/起こさないことが最大の利益なのよね。

コメント

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