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無断でクルマを使われたときに、所有者は運行供用者責任を負うか?自賠責保険は支払われるか?

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自賠法による賠償責任は時として複雑になりますが、自賠法では「運行供用者」に対し「他人」を死傷させたときに賠償責任があるとする。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

無断で使われた車両の場合を判例から検討してみます。

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借りたクルマが無断で使われた

事案はちょっと複雑ですが、登場人物はこちら。

 

・父親B(クルマの所有者)
・父親の娘(上告人)
・娘の友達のホストA

 

事案の概要はこう。

(1) A(昭和57年7月生)は,平成14年2月19日午前5時ころ,愛知県一宮市内において,自己の運転する普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を,赤信号で停止していた普通貨物自動車に追突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。上告人(昭和57年3月生)は,本件事故当時,本件自動車に同乗しており,本件事故により顔面に傷害を負った。

(2) 本件自動車は,上告人の父親であるBが所有しており,同人の経営する会社の仕事等に利用されていた。
上告人は,本件事故当時,一宮市内で独り住まいをし,キャバクラ等に勤務していたが,仕事が休みのときには,同市内にある実家に戻り,Bが経営する会社の仕事を手伝うことがあった。Bは,上告人が上記仕事を手伝う際などに本件自動車を運転することを認めていた
Aは,岐阜市内に居住し,ホストクラブに勤務していた。同人は,自動車を運転する能力はあったが,自動車の運転免許は有していなかった。
被上告人は,本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である。

(3) 上告人とAは,平成13年9月ころ,Aが上告人の勤務していたキャバクラに客として訪れたのを機に知り合い,その後,上告人は,Aの勤務するホストクラブに客として通うようになり,互いに携帯電話の番号を教え合う仲になった。Aが自動車の運転免許を有していないことは,上告人も知っていた。Bは,Aと面識がなく,Aという人物が存在することすら認識していなかった

(4) Aは,平成14年2月18日午後10時ころ,実家にいた上告人に電話をして,尾張一宮駅に来るように誘い,上告人は,これに応じて,本件自動車を運転して同駅まで赴いた。上告人は,Aを同乗させて名古屋市内のバーに向かい,翌19日午前0時ころ到着して,Aと共にカウンター席で飲酒を始めた。上告人は,酔いがさめたころに自ら本件自動車を運転して帰宅するつもりであったが,そのうちに泥酔して寝込んでしまった。Aは,同日午前4時ころ,上告人を起こして帰宅しようとしたが,上告人が目を覚まさなかったため,カウンターの上に置かれていた本件自動車のキーを使用して,上告人をその助手席に運び込んだ上で本件自動車を運転し,岐阜市内の自宅に向かった。Aは,自宅に到着してから上告人を起こして,本件自動車で帰ってもらうつもりであった。上告人は,Aが本件自動車を運転している間,泥酔して寝込んでおり,同人に対して本件自動車の運転を指示したことはなかった。Aは,その帰宅途上で本件事故を起こした。

2 本件は,本件自動車に同乗していた際に本件事故に遭い,傷害を負った上告人が,本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である被上告人に対し,Bが自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)2条3項所定の保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して,法16条に基づき損害賠償額の支払を求める事案である。

要は娘は父親のクルマを運転して、ホストAの誘いに応じて飲みに行ったところ、酔い潰れた。
そこでホストA(無免許)は酔い潰れた娘をクルマに乗せて運転したところ、事故を起こし娘が負傷。

 

これに対し負傷した娘が自賠法を根拠に自賠責保険会社に支払いを求めた事案です。

 

自賠法11条によれば、自賠法3条による「保有者に賠償責任が生じた場合」に自賠責保険を支払うとする。

(責任保険及び責任共済の契約)
第十一条 責任保険の契約は、第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。

つまりこの事案については、クルマの所有者である父親が「運行供用者」として認められ、かつ、娘が「他人」だと認定された場合に自賠責保険が支払われることになる。
ところが今回の件については、父親からすれば知らない奴が知らぬ間に事故を起こした事案。

 

まず最高裁は、父親を運行供用者と認定。

これらの事実によれば,上告人は,Bから本件自動車を運転することを認められていたところ,深夜,その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから,その運行はBの容認するところであったと解することができ,また,上告人による上記運行の後,飲酒した上告人が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして,上告人は,電車やバスが運行されていない時間帯に,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,Aが帰宅するために,あるいは上告人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて,上告人の容認があったというべきである。そうすると,BはAと面識がなく,Aという人物の存在すら認識していなかったとしても,本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり,Bは,客観的外形的に見て,本件運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。

最高裁判所第二小法廷 平成20年9月12日

父親からすれば知らない奴が知らぬ間に運転した事案ですが、娘が運転することを容認していたとし、飲酒した娘が誰かに運転を託すことを容認していたと捉えた。
終電もない時間にキーをカウンターに置いといたのだから、娘はAが運転することを容認していたともいえ、父親を運行供用者として認定。

 

ただし判決は差し戻し。
娘を「他人」と言えるか審理を尽くす必要があるとして原審で再審理することを命じた。
父親が運行供用者責任を負うとしても、それは「他人」との関係がなければならない。

 

そして名古屋高裁の判断はこちら。
※被控訴人=娘

前記の認定事実によれば,本件自動車は被控訴人の父親であるBが所有するものであるが,被控訴人(本件事故当時19歳)は実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと,被控訴人は,親しい関係にあったA(本件事故当時19歳)から誘われて,午後10時ころ,実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き,電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと,被控訴人は,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて,Aと共にカウンター席で飲酒を始め,そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと,Aは,午前4時ころ,被控訴人を起こして帰宅しようとしたが,被控訴人が目を覚まさないため,本件自動車に被控訴人を運び込み,上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと,Bは,Aと面識がなく,Aという人物が存在することすら認識していなかったこと,以上の事実が明らかである。

このように被控訴人は,Aが運転免許を有さずかつ飲酒をしていることを知ってはいたが,電車やバスが運行されていない上記のような時間帯に,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて,酔いが醒めてから自らが本件自動車を運転してバーから帰るつもりでいることをAに話すことなく,泥酔して寝込んでいたのであるから,Aが帰宅するために,あるいは被控訴人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転する可能性があることは認識し,つ,これを容認していた,すなわち,Aに本件自動車の運転を黙示的にゆだねたとみるのが相当であり,被控訴人が,Aが本件自動車を運転している間,泥酔して寝込んでいて同人に対して本件自動車の運転を指示したことはなかったとしても,被控訴人は,本件事故当時,本件自動車の運行を自ら支配し,この利益を享受していたといえ,本件運行について運行供用者に当たるというべきである。

イ 一方,前記の事実によれば,Aによる本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られるから,Bも,本件運行について運行供用者に当たるとはいえるが,Bによる本件運行(Aによる本件自動車の運転)に対する支配は,あくまで被控訴人によるAに対する本件自動車の使用の容認・許諾を介するものであって,間接的,潜在的,抽象的であるといわざるを得ない。
これに対し,被控訴人によるそれは,Aの本件自動車の運転を容認することによって同人に同車の運転をゆだねたと評価できるものであるから,Bによるそれと比較して,より直接的,顕在的,具体的であったといえる。
このような本件自動車の具体的な運行に対する支配の程度・態様に照らせば,被控訴人は,運行供用者に該当し,かつ,同じく運行供用者に該当するBよりも,運行支配の程度態様がより直接的,顕在的,具体的であったから,Bに対する関係において法3条にいう「他人」に当たらないと解するのが相当である。

名古屋高裁 平成21年3月19日

娘はこの状況では共同運行供用者にあたり、父親よりめ運行支配が直接的、顕在的、具体的だとし「他人」には当たらないとした。

 

以上から娘は自賠責保険の対象にならないことになったわけです。

若干の補足

これって結局のところ、所有者である父親からすれば「知らないうちに事故を起こされた」になりますが、普段から娘が運転することを容認していたことから今回の娘の運転についても「容認」と捉えた。
そして娘が酔い潰れたとしても、終電もない時間帯、キーをカウンターに置いといた状況からすると他人が運転することを娘が容認していたこととなる。

 

※容認とは積極的に認めていたことを指すのではない。

 

けどこの事実関係において、娘は共同運行供用者になるわけで、父親の運行支配よりも直接的、顕在的、具体的である以上、自賠法3条でいう「他人」には当たらない。
従って自賠責保険の対象にはならない。

 

以前「無責事故」の解説をした際に、「他人」に該当しないと判断された数字も挙げてますが、

逆走事故(センターラインはみ出し)の時に、順走車側の自賠責保険から支払われるか?
最近、クルマの逆走(センターライン越え)の事故報道がいくつかありましたが、一般的には逆走車の過失が100%です。けど「逆走車過失が100%でも自賠責保険は支払われる」という謎解説を見たので、正しい解説をしようと思う。自賠責保険の無責事故あま...

死亡事故で数十件、傷害事故で1000件ちょっとが「他人」に該当しないとして自賠責保険の支払いが拒絶されている。
今回の事案は「飲みに行くならクルマでいくなよ」でしかないのですが、無断で持ち出されたクルマの事故のような場合でも運行供用者責任が肯定され、他人に該当する場合なら運行供用者責任を負う。

 

これが何を意味するかというと、無断で持ち出されたクルマによって全く関係ない通行人が負傷した場合には運行供用者責任として賠償責任が生じる可能性がある。
しかし自損事故のような場合には、当該負傷者が「他人」と言えるか?の問題になるわけ。

 

そして一方、このような判例もある。

○上告理由1について

原審が適法に確定したところによれば、被上告人は、肩書住所地において、四四台の営業車と九〇余名の従業員を使用してタクシー業を営む会社であり、本件自動車も被上告人の所有に属していたものであるが、昭和四二年八月二二日本件自動車は、その当番乗務員が無断欠勤したのに、朝からドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだまま、原判示のような状況にある被上告人の車庫の第一審判決別紙見取図表示の地点に駐車されていたところ、訴外Dは、被上告人とは雇傭関係等の人的関係をなんら有しないにもかかわらず、被上告人の車を窃取してタクシー営業をし、そのうえで乗り捨てようと企て、同日午後一一時頃扉が開いていた車庫の裏門から侵入したうえ本件自動車に乗り込んで盗み出し、大阪市内においてタクシー営業を営むうち、翌二三日午前一時五分頃大阪市a区b町c丁目d番地附近を進行中、市電安全地帯に本件自動車を接触させ、その衝撃によつて客として同乗していた上告人に傷害を負わせた、というのである。
右事実関係のもとにおいては、本件事故の原因となつた本件自動車の運行は、訴外Dが支配していたものであり、被上告人はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかであるから、本件事故につき被上告人が自動車損害賠償保障法三条所定の運行供用者責任を負うものでないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

○上告理由2について

おもうに、自動車の所有者が駐車場に自動車を駐車させる場合、右駐車場が、客
観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあると認めうるときには、たとえ当該自動車にエンジンキーを差し込んだままの状態で駐車させても、このことのために、通常、右自動車が第三者によつて窃取され、かつ、この第三者よつて交通事故が惹起されるものとはいえないから、自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させたことと当該自動車を窃取した第三者が惹起した交通事故による損害との間には、相当因果関係があると認めることはできない。
前示のように、本件自動車は、原判示の状況にある被上告人の車庫に駐車されていたものであり、右車庫は、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められるから、被上告人が本件自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させていたことと上告人が本件交通事故によつて被つた損害との間に、相当因果関係があるものということはできない。そして、この判断は、本件において、次のような事実、すなわち、被上告人は、本件自動車が窃取された約二〇日前である昭和四二年八月一日午前二時頃にも、エンジンキーを差し込んだまま本件自動車の駐車地点とほぼ同じ場所に駐車しておいたタクシー車が窃取されたうえ乗り捨てられたという事実があつたが、盗難防止のための具体的対策を講じなかつたこと、被上告人の営業課長Eは、本件自動車が窃取される前、すでに、エンジンキーが差し込まれたままの状態にあつたことを知つていたが、そのまま放置していたこと、また、被上告人の当直者のだれもが本件自動車が窃取されたことに気付かなかつたこと等の事実が存し、被上告人の本件自動車の管理にはいささか適切さを欠く点のあつたことが認められることを考慮しても、左右されるものとはいえない。

最高裁判所第一小法廷 昭和48年12月20日

上告理由1が運行供用者責任(自賠法)、上告理由2が使用者責任(民法715条)ですがいずれも否定。

 

原審の説示の一部はこちら。

結局自動車についてはそれが道路上に、あたかも、運転資格を問うことなく、一般通行人の運転を許容するかのように、一般通行人の誰でもが極めて容易に運転できる状況に自動車を放置したため、運転無資格者や泥酔者が運転し、所有者がこれらの者に運転を許容したのと同視できるような故意に近い重過失のある特殊な場合はさておき、少くとも本件のように、周囲をブロック塀で囲んだ営業所の構内に保管されていた自動車が盗み出された場合には、保管上の手落ち自体をとらえて、運転自体の過失から生じた事故との相当因果関係を肯定し、これを以て、保管上の過失による事故としての不法行為とすることはできない。

大阪高裁 昭和46年11月18日

ところで、2つの最高裁判決を対比させたときに、両者に共通するのは「持ち主が知らないところで事故を起こされた」。
平成20年最高裁判決は持ち主が運行供用者であると認定した上で、「他人」には当たらないとする(他人性の判断は差し戻し後の高裁)。
昭和48年最高裁判決は運行供用者責任自体を否定する。

 

ちょっとの事実関係の差異により判断に差が出ますが、自動車窃取等の報道については、細かい事実が不明だと判断しようがないということでもある。

 

結局のところこれらから言えるのは「他人に運転させないようにキーの保管は厳重に」としか言えないわけで、平成20年最高裁判決の事案にしても普段から娘が運転することを容認していた事実がないと話は変わりうる。

 

こういう事案は似たような判例をいくつか挙げて対比させると理解しやすくなると言えますが、

 

民事はかなり複雑なので、起きた結果に対する処理はプロの弁護士に一任すべきなのよね。
一般人ができるのは、キーの厳重管理まで。

 

というのも最近、全然理解してないまま間違った解説をする事案をやたらみかけますが、世間に誤解を与えかねない解説をして何をしたいのだろうと疑問に思ってしまう。

コメント

  1. 山中和彦 より:

    この件は、キーをバーのカウンターに置いていたから、他人が運転するのを容認した、と捉えられているとすれば、キーをポケットに入れていれば良かった、ということになるのでしょうかね。
    判決なので、たられば、の話は分からないですけど。
    (いやしかし、飲む店のカウンターに、車のキーを放り出したら、全く知らない人が糧に持ち出しても、同様の責任を問われそうです)

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      キーの管理については、その可能性が高いです。

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