運転レベル向上委員会が、専門書とは異なる独自の過失相殺論を展開してますが、
https://youtu.be/ZrN5BgtX4dk?si=rPxsU4M9w0u9jRUV
優先道路 対 非優先道路(一時停止規制あり)の考え方や法律の解釈、過失修正の適用が専門書とは異なる独自見解になっている。

おかしな解釈を鵜呑みにすると、事故に巻き込まれたときに相手方保険会社の主張を正当だと勘違いして不利益を被るリスクがあるので、正しく解説しようと思う。
一時停止規制は過失修正要素にはならない

優先道路 対 非優先道路の基本過失割合を10:90と説明し、非優先道路側の一時不停止を「著しい過失」として修正すると解説してますが、優先道路 対 非優先道路の態様では非優先道路側に一時停止規制があるかないか、一時停止したかしてないかは過失修正要素にはなっていない。
これの理由ですが、優先道路 対 非優先道路態様では10:90という赤信号無視に近い一方的とも言える基本過失割合が設定されており、一時停止の有無は基本過失割合に内包されていることと、事故直接の過失は「優先道路の進行妨害(36条2項)」であり一時停止したかしてないかが問題ではなく、優先道路の進行妨害をしたかしてないかが問題だから。
なお運転レベル向上委員会は条文を読み間違えているが、43条後段(交差道路の進行妨害禁止)は「36条2項のほか」として36条2項(優先道路の進行妨害禁止)に該当するときには43条後段を適用せず36条2項を適用するとしている。
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
進行妨害禁止がダブル(43条後段と36条2項)で課されるわけではない(執務資料道路交通法解説等を参照)。
これも優先道路 対 非優先道路態様で一時停止の有無が修正されない理由と言えるでしょう。
なお、優先道路態様ではない場合には一時停止「したこと」を一時停止規制側有利に修正するが、優先道路態様ではこれも修正要素ではない。
要は、非優先道路の一時停止規制の有無、一時停止したかしてないかは全く考慮されない。
必ず交差点安全進行義務(36条4項)の過失がつくわけではない
運転レベル向上委員会は優先道路側に基本過失割合が10%設定されていることから、必ず交差点安全進行義務違反(36条4項)がつくと解説してますがこれは判例タイムズ等の解説とは異なる。
優先道路側に10%の基本過失割合を設定している理由は、この事故態様では優先道路側にも軽度の前方不注視や速度超過など何らかの過失が認められる事例が多いことから、優先道路側に過失がある前提で基本過失割合を設定している。
逆にいえば、優先道路側に過失がない場合は基本過失割合の適用がない非典型例扱いなのでして。
↓
控訴人車は、優先道路を進行していたのであるから、本件交差点を進行するに当たり徐行義務(道路交通法36条3項,42条)は課されておらず、問題となるのは前方注視義務(同法36条4項)違反である。前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等・・・に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい。すなわち、交通整理の行われていない交差点(本件交差点もこれに当たる。)において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(同法36条2項)、控訴人は、被控訴人車が控訴人車の進行妨害をする方法で本件交差点に進入してこないことを前提として進行してよく、前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。そうすると、優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。本件においては、前示の事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。
名古屋高裁 平成22年3月31日
優先道路通行車は徐行義務が免除されているので(42条1号カッコ書き)、交差点安全進行義務を考える上では徐行義務がない前提で考える。
要は優先道路通行車は徐行義務がないにせよ、非優先道路からの進入を認めた時点で回避可能な事故を回避しろという話でしかない。
判例タイムズ等には「なぜ優先道路通行車に10%の基本過失割合を設定しているか」の理由が書いてありますが、「事故が起きたら交差点安全進行義務違反」なのではなく、「この事故態様では多くの場合、優先道路通行車にも過失が認められるから、過失がある前提を典型例にしただけ」なのである。
運転レベル向上委員会の解説と専門書の解説は全く違うのでして、なぜ独自見解に走るのか疑問。
「明らかな先入」は意味が違う

非優先道路側に有利に修正するものが「明らかな先入」ですが、これを文字通りに解釈してはいけない。
民事過失修正要素の「明らかな先入」とはなにか?
優先道路通行車の通常の速度(制限速度内)を基準として、優先車が、非優先道路通行車の交差点進入時に、直ちに制動又は方向転換の措置をとれば容易に衝突を回避することができる関係にある場合
優先道路通行車目線で「容易に事故の回避が可能な場合」を「明らかな先入」と呼ぶのであって、修正要素の定義を理解してないのよね。
原告は、少なくとも被告車両を発見した時点でハンドル・ブレーキを的確に操作すれば被告車両との衝突を回避できたという点で、過失があると認められる。
しかし、上記(1)の諸事情、殊に、原告進行車線が被告車両との関係では優先道路であること、本件事故当時における被告車両の走行態様、被告車両が本件交差点に進入してから本件事故発生までの時間的間隔等に照らすと、原告が被告車両に気付いた地点や被告車両との衝突の危険を感じた地点から衝突地点までの各距離等のほか、前掲証拠で指摘された諸点を十分考慮したとしても、原告が被告車両との衝突を容易に回避できる状況にあったとまではいえないから、原告に著しい前方不注視や著しく不適切な運転方法といった「著しい過失」があるとまでは認められず、被告らの上記主張は採用できない。福岡地裁 平成26年1月30日
「少なくとも被告車両を発見した時点でハンドル・ブレーキを的確に操作すれば被告車両との衝突を回避できたという点で、過失がある」という点は、優先道路通行車の基本過失割合10%で既に評価されている。
「明らかな先入」は基本過失割合に内包されていない重過失の評価だから、「容易に」事故を回避できた場合のみが修正要素になる。
運転レベル向上委員会は、非優先道路通行車が交差点の大半を越えてから衝突した場合に「明らかな先入」を適用するとしてますが、民事過失修正要素の「明らかな先入」は、

非優先道路通行車が交差点に進入した際の「両者の距離」のことなので、文字通りに解釈してはダメなのよ…
ところで、運転レベル向上委員会が解説する事故については、非優先道路通行車が交差点に進入した時点での両者の距離はわからない。
つまり基本過失割合を適用する事案なのかすらわからない。
そして過失修正要素の解説は専門書や実務とは関係ない独自見解としか言いようがなく、保険会社が素人相手に主張するレベルと変わらない。
けど、きちんと理解してないといざというときには保険会社の言い分を認めて誤った過失割合で示談することにすらなりうるのでして、こういうガセネタを動画にするのはいかがなものかと言わざるを得ない。
というのも、これらは判例タイムズ等の専門書をみればわかること。
なぜ専門書を読まないまま独自見解ばかり発表するのか謎過ぎる。
ところで、交差点安全進行義務を読み間違える人はわりと多い気がする。
この規定は「交差点の状況に応じ」とわざわざ付けているのだから、優先道路通行中は徐行義務がない前提で前方注視(36条4項前段)をし、徐行義務がない前提で事故回避義務(同後段)を課したものと解釈されている。
「できる限り」とは「可能な範囲で」という意味なのは明らかなところ、

優先道路通行車に徐行義務がないとはいえ、前方注視義務や事故回避義務まで免除するわけがないのだから、それをわざわざ規定したに過ぎない。
なぜか読み間違える人は「交差点の状況に応じ」をすっ飛ばす。

交通法規に違反する車両を予見して安全な速度と方法を求めているのではなく、交通法規に違反した車両が交差点に進入してきた場合でも、「できる限り」事故を回避しろという規定です。
「優先道路除外とは書いてありません」などと見当違いな解説をしてますが、交通法規に違反して交差点に進入してくる車両があることを予見する注意義務はないのは、「信頼の原則」で確立している。
要は交差点安全進行義務とは、信頼の原則が適用されない事例、つまり回避可能性があるのに回避しなかったことを問題にする。
同法36条4項の規定は、同項で規定している「特に注意」しなければならない対象とされている車両等と横断歩行者とに対する関係でのみ「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ことを定めているに過ぎないと解釈すべきものではなく、以上の車両等や横断歩行者以外の交通関与者すなわち先行右折車や本件での被害車のような先行直進車に対する関係においても、交差点に入ろうとする車両は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ということを規定していると解すべきものである。けだし、同法36条4項は、昭和46年法律第98号道路交通法の一部を改正する法律により新設されたものであるが、同項の文言、同項制定の経緯(交差点及びその付近における交通事故が年々増え一向に減少の傾向を示していなかつたという当時の社会的情勢を背景とし同法70条から独立させる形で制定されたという経緯)、道路交通法における関連諸規定との関係をも加えて考察すると、同項は、交通上特に危険性の高い場所である交差点(その付近を含む。)における事故防止という見地、目的から、交差点を通行する車両等に対し、一般道路とは異なる特別の注意義務を規定したものであつて、同項は、交通整理の有無、優先道路か否か、道路の幅員の広狭、直進、右折、左折等の如何にかかわらず、(該行為が道路交通法上具体的義務を規定した各条に該当しその適用により右行為の可罰性が評価し尽くされる場合を除き)交差点における車両等のすべてに適用されるものと解され、この意味で、同項は交差点における車両等の一般的注意義務を規定したものということができ、かかる趣旨に照らすと、同項は、交差点における事故防止という見地から、右車両等の運転者に対し、同項に定めるすべての義務の遵守を要求していると解するのが相当であつて、その一つに違反するときは、同項違反の罪(故意犯に限る。)が成立するのであり、また、同項後段は、一見甚だ抽象的ではあるけれども、前説示の同項制定の経緯、目的などに照らすと、広く車両又は歩行者の通行状況などを含む当該交差点のさまざまな状況に応じて、できる限り車両又は歩行者との事故に結び付くおそれのない速度と方法により進行することを義務づけたものと解するのが相当であり、同項前段がその対象を限定しているからといつて、交差点のさまざまな状況に対応して具体化する同項後段の義務が同項前段で規定する対象との関係でのみ課せられていると結論することは狭きに失し相当でない。補足すると、同項前段は、交差点におけるさまざまな状況のうち、運転者に(その進路前方に出てくる可能性が強いため)特に注意を要求する必要がある(すなわち、事故に結び付き易い)という見地から対象を限定したものであるところ、本件交差点のように信号機による交通整理(横断歩行者もこれに従わなければならないことはいうまでもない。)が行われている交差点で、かつ、南北道路が北方から南方へ向けての一方通行道路であるときには、同交差点を西方から東方に向け右信号機の青信号に従いつつ直進通過する(又は、しようとする)車両の運転者が同法36条4項の「特に注意」しなければならない対象は(信号無視の歩行者及び車両並びに一方通行規制違反の対向右折車を除く限り。なお、かかる交通法規違反者ないし違反車両に対しても法が「特に注意」しなければならないと命じているとは到底考えられない。)全くないことになるし、一方、本件交差点を含むすべての交差点において、先行右折車が交差点出口の横断歩行者や対向直進車をやり過ごすべく交差点内で一時停止を余儀なくされているため右の先行右折車やこれに続く先行右折車又は先行直進車が交差点内で立往生しているという光景は日常随所に見受けられる現象で、かかる車両の安全を確保するためにも、これらの車両に対する関係で「できる限り安全な速度と方法で」、後続右折車や後続直進車が(交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ)進行しなければならないとするのでなければ同法36条4項の規定の新設の趣旨が没却されてしまうことになる道理である。したがつて同項は、前段で
A 車両等は交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意しなければならない(この場合には、これらの車両等及び横断歩行者に対する関係で、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないことになるのは理の当然で、あえて明文を設けるまでもない。)という規定を掲げ、後段で、
B 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ(すべての交通関与者に対する関係で)、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないという規定を掲げ、
以上の2個の規定を一個の文章で設定しているものと解するのが相当であり、被告人の原判示第2の所為は、この後者の規定の違反となるような行為に当たるというべきである。補足すると、被告人が被告人車の進路前方(本件交差点内における)被害車を認めながらその動静に注意を払わずこれを同交差点内で進行中の車両であると即断し、その後もその動静確認をすることなく約50キロメートル毎時の速さで交差点に進入しようとしたのであるから、この行為すなわち同項(後段)違反の基礎となる行為については、その故意に欠けるところはない。次に、道路交通法36条4項と同法70条との関係についてみると、右70条が道路を通行する車両等の一般的注意義務についての規定であるのに対し、同項は交通上危険性の高い場所である交差点を通行するに際しての車両等の特別の注意義務を規定したものであるから、両者はいわゆる法条競合の関係にあり、同項違反の罪が成立するときは、同時に70条違反の罪の構成要件に該当していても、同罪の成立はないものと解するのが相当であつて、このことは所論が指摘するとおりである。
名古屋高裁 昭和59年10月31日
交通法規違反する車両に「特に注意」する規定ではないのは「交差点の状況に応じ」とわざわざ付している点からもわかりますが、要は優先道路通行車に求められる交差点安全進行義務と、優先道路以外の場合は前提が違うのよね。
優先道路通行車は徐行義務がないにせよ、非優先道路からの進入を認めた時点で事故回避義務があるのは言うまでもない。
それを規定したのが36条4項ですが、執務資料道路交通法解説や判例タイムズ等の専門書を読まずに独自見解ばかり語る意味が全くわからない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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