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横断歩道を使って横断する自転車に優先権はあるか?

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こちらについてコメントを頂きました。

横断歩道で停止車両に追突し、横断自転車に乗る小学生が死亡。
痛ましい事故が起きてしまったようですが、5日午後2時半ごろ、静岡県伊東市玖須美元和田の国道で、軽バン2台と自転車の多重事故があった。自転車に乗っていた小学生、川口類さん(8)=同市岡=が胸を強く打ち搬送先の病院で死亡が確認された。県警伊東署...
読者様
読者様
文中に「横断歩道で自転車に優先権がない」とありますが・・・

某Youtuber弁護士さんが最近「道交法38条の歩行者等には自転車も含まれるので自転車がいても止まれ」と言う旨の動画を公開しました

確かに道交法38条には「歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)」と言う記述がありましたが
私のような素人には条文を正しく読み解くことができませんでした

機会がありましたら解説をお願いしたいです

結論はこちら。

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。横断歩道と自転車の関係をメインにします。○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。○横断歩道を横断しようとする自転車には3...

自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。

法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。

 

道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい

道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えている(同法2条3項)のに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず

平成30年1月18日 福岡高裁

さて。
そもそも38条1項(旧71条3号)は、昭和53年以前は「自転車」「自転車横断帯」の文言がない。
昭和53年に自転車横断帯を新設した際に現行規定になりましたが、旧71条3号はこちら。

 

○昭和38年

(運転者の遵守事項)
第七十一条
三 歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにすること

 

この規定を作った理由は立法者の宮崎氏が解説している。

第3号(※現38条1項は当時71条3号)は、法第12条第2項の規定に対応するものである。すなわち「横断歩道」とは、元来、歩行者の横断の安全を図るための施設であり、また、それゆえにこそ、歩行者は、右の第12条第2項により、横断歩道のある附近においては、その横断歩道について道路を横断すべきことが義務づけられているわけであるから、これに対しては、車両等の運転者に対しても、歩行者が横断歩道により道路の左側を横断し、または横断しようとしているときには、その通行を妨げてはならぬ義務を課しておかないと、横断歩道を設置したことの意味が失われてしまうことになる。

 

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961

歩行者に「付近に横断歩道があれば横断歩道を使え」と命令したのに、横断歩道で優先権がなければわざわざ横断歩道には行かないでしょ。

歩行者に横断歩道を使ってもらうために「優先権」を与えて「集客」したのが元々の考え方です。

 

昭和53年に自転車横断帯を新設し、付近に自転車横断帯があるときには自転車横断帯を使って横断する義務を定めた(63条の6、7)。
なので旧71条3号を新設した理由に合わせて、自転車横断帯の通行義務を遵守する自転車を保護する規定なんですね。

道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらない

 

大阪地裁 平成25年6月27日

さて、ここからがややこしい話。
横断歩道を横断しようとする自転車がいたときに一時停止しなくても「道路交通法38条1項の違反」にはならない。
じゃあ事故を起こしたら無罪なのか?

 

過失運転致死傷罪は「予見可能なものに注意せず、回避しなかった場合」に犯罪が成立する。
道路交通法違反とは関係がない。

 

具体例を挙げます。

◯東京高裁 昭和56年6月10日(刑事)

この判例は赤信号で停止していた状態から、先行自転車と後続車が左折進行。
自転車が左折進行と同時に右に進路を変えて横断歩道を横断した結果、事故に至った事例(業務上過失傷害罪)。

道路交通法12条1項は横断歩道がある場所での横断歩道による歩行者の横断を、また、同法63条の6は自転車横断帯がある場所での自転車横断帯による自転車の横断義務をそれぞれ定めているので、横断者が右の義務を守り、かつ青色信号に従って横断する限り、接近してくる車両に対し優先権が認められることになるのであるが(道路交通法38条1項)、本件のように附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていないのであるから、本件被害者としては横断歩道を横断するにあたっては自転車から降りてこれを押して歩いて渡るのでない限り、接近する車両に対し道交法上当然に優先権を主張できる立場にはないわけであり、従って、自転車を運転したままの速度で横断歩道を横断していた被害者にも落度があったことは否定できないところであり、被害者としては接近して来る被告車に対して十分な配慮を欠いたうらみがあるといわなければならない。しかしながら自転車に乗って交差点を左折して来た者が自転車を運転したまま青色信号に従って横断歩道を横断することは日常しばしば行われているところであって、この場合が、信号を守り正しい横断の仕方に従って自転車から降りてこれを押して横断歩道上を横断する場合や横断歩道の側端に寄って道路を左から右に横切って自転車を運転したまま通行する場合に比べて、横断歩道に接近する車両にとって特段に横断者の発見に困難を来すわけのものではないのであるから、自動車の運転者としては右のいずれの場合においても、事故の発生を未然に防ぐためには、ひとしく横断者の動静に注意をはらうべきことは当然であるのみならず、自転車の進路についてもどの方向に進行するかはにわかに速断することは許されないのであるから、被告人としては、被害者の自転車が同交差点の左側端に添いその出口に設けられた横断歩道附近まで進行したからといって、そのまま左折進行を続けて◯✕方向に進んでいくものと軽信することなく、同所横断歩道を信号に従い左から右に横断に転ずる場合のあることをも予測して、その動静を注視するとともに、自車の死角の関係からその姿を視認できなくなった場合には右横断歩道の直前で徐行又は一時停止して右自転車の安全を確認すべき注意義務があるものといわなければならない。

 

昭和56年6月10日 東京高裁

業務上過失致死傷や過失運転致死傷は、予見可能な結果を回避せずに事故を起こした場合に成立します。
この判例では、横断歩道を横断する自転車には38条の優先権がないものの、横断歩道を横断する自転車は予見可能として有罪。

 

◯東京高裁 平成22年5月25日(刑事)

こちらの判例は横断歩道を横断した自転車と車が衝突した事故です。
被告人は過失運転致死傷に問われています。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない

 

東京高裁 平成22年5月25日

要は「歩行者に向けた注意義務(横断しようとする歩行者が明らかにいないと言えない限りは、減速して警戒する義務)」を果たしていれば容易に衝突を回避できたとして有罪。

 

こちらではかなりの判例を挙げましたが、

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。横断歩道と自転車の関係をメインにします。○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。○横断歩道を横断しようとする自転車には3...

全てリンクするのでして。
横断歩道を横断しようとする自転車がいた場合に一時停止義務はなくても、横断歩道を使って横断する自転車は「予見可能」。
だから過失運転致死傷罪の注意義務を考える上では、「対歩行者」と「対自転車」を分ける必要がなく、どちらも減速接近義務を怠った過失になる。

 

「横断自転車に優先権はない」だけだと勘違いする人もいますが、優先権の話と事故回避義務は別なのよね。

 

そうすると、38条違反にならなくても「一時停止すべき」という帰結になる。
間違いやすいポイントは、「道路交通法の義務と、過失運転致死傷罪の注意義務は別」という点。
優先権がないなら衝突していい、ではない。

 

弁護士YouTuberの解説は、道路交通法の解釈としては誤り。
ただしややこしいのは、過失運転致死傷罪における注意義務を考えると「横断自転車であっても止まるべき」になる。

 

以前の記事では刑事、民事の判例を挙げましたが、これらは道路交通法違反の判例ではない。
現実には過失論を中心に動くのだから、過失(注意義務違反)とは何なのかを考えないと意味がない。

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