本当に悲しい事故、ご冥福を。
きょう夕方、千葉県八千代市の県道で自転車に乗っていた小学生くらいの男の子が別の自転車とぶつかり、車道にはじき出され、トラックにひかれる事故がありました。男の子はその場で死亡が確認されました。
午後4時すぎ、八千代市大和田新田の県道で「トラックと歩行者の事故」と119番通報がありました。
警察によりますと、小学生くらいの男の子が自転車で走行中に別の自転車とぶつかり、その衝撃で車道に倒れ込んだところ、トラックにひかれたということです。
男の子は自転車で歩道を走行していたとみられ、ぶつかった自転車に乗っていたのは高校生だということです。
現場は片側1車線の県道で、警察は事故の詳しいいきさつを調べています。
小学生くらいの男児がトラックにひかれ死亡 別の自転車とぶつかったはずみで車道に倒れ込みひかれたか 千葉・八千代市 | TBS NEWS DIG (1ページ)きょう夕方、千葉県八千代市の県道で自転車に乗っていた小学生くらいの男の子が別の自転車とぶつかり、車道にはじき出され、トラックにひかれる事故がありました。男の子はその場で死亡が確認されました。午後4時… (1ページ)
歩道上で対向関係にある高校生と小学生の自転車が衝突し、小学生が歩道から車道に転落したところ、トラックに轢かれたと。
なお、当初の報道では高校生と小学生の自転車は非接触のすれ違いに思える報道になってましたが、「ぶつかった」とする報道がチラホラ出てきたので衝突したものと考えられる。
歩道幅員は狭い。
自転車同士がすれ違うには双方減速している必要があり、小学生が対向してきたら一時停止する必要もあるでしょう。
で。
たぶん一番気になるポイントは、トラック運転者からしたら避けようがなかったのではないか?そのような状況で刑事責任や民事責任を負うのか?だと思う。
一つ参考になるのは下記判例。
東京地裁 令和2年6月23日判決(民事)
判例は東京地裁 令和2年6月23日。
まずは事故の態様から。
・車道の制限速度は40キロ。
・歩道を自転車に乗って通行していた自転車(原告)は、上りを終えて右足を地面に着こうとしたところ、踏み外して車道に転倒。
・車道を時速38キロで通行していた普通自動車(被告)の側面に原告が接触衝突。

両者の距離が13.8mに接近した際に、自転車が右足を僅かに出したのが確認できる(ドラレコ)。

両者の距離が4.3mに迫ったときに、自転車が右に傾いた。


では裁判所の判断を。
被告は、本件事故発生の数秒前に、本件歩道上を走行する原告自転車を認めることができた。しかし、原告自転車は、本件車道と縁石で区画された本件歩道上を走行しており、原告自転車に本件車道への進入等をうかがわせる動きはなかった。したがって、本件車道を制限速度内の時速約38キロで走行していた被告において、原告自転車を認めた時点で、原告自転車の車道側への進入等を予見して速度を落として走行すべき注意義務はなかったといえる。
原告が原告自転車から右足を出して本件車道との段差に足を踏み外したのは、被告車両との衝突の約1.3秒前である。しかし、被告において、原告が僅かに右足を出したのみで本件車道に倒れ込むことまでを予見することは非常に困難であり、その時点で右にハンドルを切るべきであったということはできない。仮に、原告が原告自転車から僅かに右足を出した時点で何らかの危険を予見することができたとしても、同時点で、被告車両は衝突地点まで13.8mの位置を時速38キロで走行しており、その制動距離は、空走時間を平均的な0.75秒、摩擦係数を乾燥アスファルト路面の0.7で計算すると、16.0mである。したがって、被告が直ちに急制動の措置を講じていたとしても、本件事故を回避することは不可能であったというべきである。
被告は、衝突の0.4秒前には原告が明らかに右に傾いた様子を確認することができたと認められる。しかし、運転者が、その危険を理解して方向転換等の措置をとるまでに要する反応時間(運転者が突然出現した危険の性質を理解してから方向転換等の措置をとるまでに時間が経過することは明らかである。)を考慮すると、原告との衝突前にハンドルを右に切ることができたとはいえない。また、被告車両の走行車線は幅員3.7mで、対向車線上には断続的に走行する対向車があったことからすると、被告において左右90度程度の急ハンドルを行うことは非常に危険な行為であったといわざるを得ない。
したがって、被告において、右にハンドルを切ることにより原告との衝突を回避すべきであったとはいえない。
東京地裁 令和2年6月23日
裁判所はクルマの「無過失の立証」(自賠法3条但し書き)を認めている。
さて。
民事責任を考える上では、歩道上にいた小学生が歩道から車道に進出することが予見可能な状態だったかが問題になる。
狭い歩道で対向関係にある自転車がいた場合(もちろんトラック運転者からそれらを視認できる場合)、民事責任上は「自転車が車道に進出することが予見可能」と判断される場合があり、
予見可能であるなら、「車道側への進入等を予見して速度を落として走行すべき注意義務」があったことになる。
しかしこの予見が否定されたとすると、実際に被害者が車道に進出した際の両者の距離次第になってしまう。

上記東京地裁判決では、被害者が歩道から車道に転落した時点でクルマとの距離が至近距離に迫っており、急ブレーキでは回避不可能だし、対向車がいたことからハンドル操作による回避も出来ない。
従ってクルマは無過失という判断。
しかし、歩道上にいた小学生と高校生の自転車が衝突しかねない(つまり車道に転落)することが有料可能であれば、トラックの過失は「歩道上の自転車が車道に転落することが予見可能なので、予め減速して警戒すべきだった」という点が過失になる。
このあたりは捜査が進まないと全くわからないのでして、トラックと被害者の関係だけでみれば、トラックの過失は0%~80%程度まで想定されることになる。
なお刑事責任を考える上では、被害者が歩道から車道に転落した時点での両者の距離がわからないと不明です。
制限速度を遵守して前方注視していれば、急ブレーキで回避可能な距離だったなら有罪になりますが、報道から見えるイメージはそういう雰囲気でもない。
しかしややこしいのは「高校生との衝突」

問題なのは、被害者が車道に転落した原因が「高校生の自転車との衝突」にある点。
こちらについては高校生が重過失致死罪(刑法211条後段)に問われる可能性がある上に、民事賠償責任は免れないでしょう。
重過失致死罪における重過失とは、結果が重大なことではなく、過失が重大なこと(わずかな注意で衝突を回避できた場合)を指す。
刑法209条、210条が通常の過失により死傷の結果を発生させた場合の規定であるのに対し、同法211条後段は重大な過失により右と同じ死傷の結果を発生させた場合に前2条に比し刑を加重する規定であり、右にいう重大な過失とは、注意義務違反の程度が著しい場合、すなわち、わずかな注意を払うことにより結果の発生を容易に回避しえたのに、これを怠つて結果を発生させた場合をいい、その要件として、発生した結果が重大であることあるいは結果の発生すべき可能性が大であつたことは必ずしも必要としないと解するのが相当である。
東京高裁 昭和57年8月10日
狭い歩道上で小学生が自転車に乗って対向してきたなら、小学生の未熟さを考慮すると一時停止するなどして安全を確保する注意義務があった可能性がある(もちろん道路交通法63条の4第2項により歩道通行時には徐行義務があるが、道路交通法の義務と刑法の過失は別問題なのだからそれ以上の注意義務が課されることがある)。
高校生が一時停止してやり過ごしていたところで衝突したというならともかくとして、そうではないなら重過失が肯定される可能性がある。
民事賠償責任上は、歩道上の対向関係なので50:50が基本過失割合になり、小学生は児童修正で5~10%程度小学生有利に修正される。
高校生の挙動次第になるため、このあたりがはっきりしないとわからない。
ところで
現実問題として、狭い歩道で小学生が自転車に乗って対向してきた場合、一時停止するなどして安全を確保する必要があるでしょう。
ところでこのような事故について、ヘルメットの有無に言及する報道の姿勢には疑問を感じる。
ヘルメットをかぶっていたとして結果が変わるようには思えないのよ。
そして事故を防ぐという点では、狭い歩道上ですれ違う際には一時停止するなどして安全を確保する注意義務があると考えられますが、高校生の挙動とトラックとの位置関係次第では、責任の大半は高校生になることもあるので、狭い歩道を通行するときは注意が必要なのよね。
なお、歩道通行自体の是非については、63条の4第1項3号「車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」がある以上、それが問題になることはないかと。
歩道には逆走という概念もありませんし。
「かもしれない運転」という言葉がありますが、要はかもしれない運転って予見可能性のこと。
法律上、予見可能な事故は回避する義務がありますが、「狭い歩道上ですれ違いしたら衝突するかもしれない」→「一時停止しよう」だし、「狭い歩道上ですれ違いしようとする自転車が転倒し車道に転落するかもしれない」→「減速して警戒しよう」になる。
道路交通法上の義務以上にかもしれない運転が重視される理由は、法律がそうなっているからなのですが、かもしれない運転にも限界はある。
その限界を決めるのが信頼の原則。
そして注意しすぎるに越したことはないですが、この事故については詳しい位置関係がわからない限り、トラックに回避可能性があったのかは全くわかりません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



コメント
偏見かも知れませんが、学生とか平気で車道に飛び出してくるので、柵などが無ければ、ついつい歩道からは距離を置いてしまいますね。
コメントありがとうございます。
その感覚が必要なんですよ。
無駄に信用していいことはない。